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社会分野における消費者権利意識の未確立

第 3 章 食品安全管理における消費者サイドからの視点

第 5 節 社会分野における消費者権利意識の未確立

食品の生産・流通活動に従事している人も、家庭では消費者である。この社会 で生活する人はすべて消費者としての側面を持っている 295。したがって、消費者 保護はすべての人と深いかかわりのある重大な問題である。食品安全の管理は、

社会において最も重要なものとして位置づけられるべきである。前述したように、

中国の食品安全管理体制は、実際に企業・業者寄りに偏っているだけではなく、

消費者を保護する視点が欠如している。

日々深刻化してきた食品安全問題に対して、中国の消費者も食品安全に対する 関心を高めている。法整備・行政の改善を待たずに、中国の消費者たちもさまざ まな行動を起こし、自ら食品安全問題にかかわってくるようになった。

1.

消費者協会の役割と限界

「大量生産・大量販売・大量消費」の大衆消費者社会が到来して、消費者は選 択権を行使するようになった。消費生活水準の高まりのなかで、企業の利益本位 のもとに生産され、取り扱われている商品・サービスに、消費者は批判的な眼を 向けはじめた。

2

次世界大戦の後、アメリカでは消費者運動やコンシューマリズムが大きく

293 中国紡績網HP 2007810日記事「温州鞋业20年大事记及标志性事件记录」

http://info.texnet.com.cn/content/2007-08-10/117582.html 20181212日アクセス)

294 中国網HP 20121121日記事「行业协会应学会清理门户」

http://opinion.china.com.cn/opinion_35_59735.html 20181212日アクセス)

295 石川和男『基礎からの商業と流通(第4版)』中央経済社、2018年、225頁。

125

高まり、欧州や日本などの先進諸国でも、それに追随する形で、さまざまな法制 度が整備され、消費者関連機関が設立された 296。今なお企業利益を優先し、食品 衛生法をないがしろにするような食品安全を危やかす事件は後を絶たないが、こ のような企業に対して、社会の目は厳しさを増している。

他方、中国の消費者保護の行政・法整備や消費者運動は、世界先進諸国よりだ いぶ遅れている。中国では、改革開放において、公平・公正より経済発展と効率 を優先する政策を取り入れた結果、消費者権利を軽視することになった。その結 果、

1980

年代以降、消費者権利が侵害される問題が多発し、深刻化してきた。

1981

年、中国政府は、国連のアジア太平洋経済社会理事会(

ESCAP

)が主催す る「消費者を保護する協議会」(タイのバンコクで開催)に初めて参加し、これを 契機に、消費者権利や消費者保護の必要性と重要性が中国でも認識されるようにな った。

1984

12

月、中国消費者協会が中国初の社会公益性の消費者組織として国 務院の許可を得て、工商部局の傘下に設立された。その後、消費者保護をめぐる行 政と法の整備が進んだ。

2016

9

月までに、省レベルの消費者協会

31

個、市レベ ルの協会

351

個、県レベルの協会

2852

個が成立している 297。これらの消費者協会 は、「駆け込み寺」のような存在として、商品・サービスなどの問題に悩まされる消 費者が真っ先に苦情やクレームを持ち込む行政機関の

1

つになっている。

『消費者権益保護法』の第

37

条は、消費者協会と他の消費者組織が行う公益的 職責について、事前予防と事後救済という二種類

8

項目の内容を規定している。

事前予防:①消費者に対して消費情報及び相談サービスを提供し、消費者が自 身の合法的権益を保護する能力を高め、文化的で健康な資源節約及び環境保護の 消費方式に導く。②消費者権益に関連する法律、法規、規則及び商品の強制基準 の制定に参加する。③商品とサービスに対する関係行政部門の監督、検査に参加 する。④消費者の合法的権益に関する問題について、関係部門に対し意見を伝え、

照会を行い、提案する。

事後救済:⑤消費者のクレームを受理するとともに、クレーム事項に対する調 査、調停を行う。⑥クレーム事項が商品とサービスの品質問題にかかわる場合、

資格を備えた鑑定人に鑑定を委託することができ、鑑定人は鑑定意見を告知しな ければならない。⑦消費者の合法的権益を侵害する行為について、損害を被った 消費者による訴訟提起を支援する。または本法に基づいて訴訟を提起する。⑧消 費者の合法的権益を侵害する行為について、マスメディアを通じて、それを公表 し批判する。

中国で消費者協会が設立されて以来、食品安全分野において、積極的な役割を果 たしてきた。例えば、

1985

9

月、消費者協会は、北京市市場からヨーグルト

10

296 同上。

297 中国消費者協会HPhttp://www.cca.org.cn/ 2018826日アクセス)

126

種類のサンプルを購入検査した結果、

90

%のヨーグルトの品質不合格が判明し、そ の検査結果を公表した。それを受けて、北京市の管理部門はヨーグルト生産の品質 向上に取り組んできた。また、この事件が引き金になり、中国初の商品検査・比較 実験制度が確立された 298。その他にも、

1995

年、「王海現象」を大いに宣伝し、

欠陥商品に関する倍額賠償の法令を大衆に周知させたなどの事例が挙げられる。

楊海帆は、

2017

7

月から

12

月にかけて、北京の都市部と農村部、武漢、包 頭の消費者

348

人を対象に、消費者協会が消費者権利の擁護において果たす役割 について、アンケート調査を行なった。消費者協会の役割についての質問に対し、

あまり大きくないと思っている消費者が

7

割を占めた 299。消費者協会の役割と消 費者の期待との間に大きなギャップがあることがわかる。食品安全分野において、

消費者協会が消費者権利の擁護で発揮できる役割は限られている。その理由の第

1

は 、 中 国 の 消 費 者 協 会 は 、 政 府 が 設 立 す る

GONGO

government-organized non-governmental organization

)組織である 300ので、人事・運営資金 301・業務 指導などはすべて上級部門に頼っている。一般の社会団体より、半官半民の組織 としての性格を持っている 302(表

3-15

参照)。政府や業界からの独立性に欠ける ため、消費者協会が業務を遂行する際、政府・業者に籠絡されたり、追随したり するところがある。

理由の第

2

は、すでに第

3

節で述べたように、食品安全管理行政体系において、

消費者行政が下位の従属的な地位に位置づけられているので、消費者協会が上級 の各部局や有力企業に反対・反発したり、上級機関を規制したりするのは難しい。

理由の第

3

は、消費者協会は執行権を有する行政機関ではないから、強制執行 権を有していない。消費者協会は、消費調査、消費評価、消費体験、クレームの 調停、消費警告を主要業務として、違法業者による消費者権利の侵害行為に対し、

是正を督促することしかできない。消費者と他の管理部局との間で調停役の役割 しか果たせない。

柳夢萍によれば、商品の生産技術、加工プロセスの複雑化、縦割り行政管理、

強制執行権の欠如、行政の末端レベルの業務能力の不足などの理由から、消費者 協会は、事前防止で消費者を満足させる役割を果たせていないだけでなく、事後 救済においても、消費者協会には限界があると述べている303。例えば、粗悪粉ミ

298 中国消費者協会編著『中国消費者保護運動3019842014』中国工商出版社、2014年、26 頁。

299 楊海帆「消費者権益保護中的社会力量参与方式研究」首都経済貿易大学2018年修士論文、21頁。

300 戎素雲『消費者権益保護運動的制度分析』中国社会科学出版社、2008年、196頁。

301 2007年以前は政府の割当金と企業の寄付に頼っていた。2007年以後、すべて政府の割当金に

頼っている。

302 「消费者协会何去何从」『光明日報』201382915

http://epaper.gmw.cn/gmrb/html/2013-08/29/nw.D110000gmrb_20130829_1-15.htm?div=-1 2018821日アクセス)

303 柳夢萍「新形勢下基層消協工作探析」『中国工商管理研究』201412月、43頁。

127

ルク事件、三鹿事件、品質不良のワクチンの市場流入事件が起こった後、消費者 協会は被害者に対して実効性のある救済措置を講じることはなかった。

消費者権利を擁護するには、公益訴訟が有効な手段の

1

つとされている。

2012

年から一連の関連法令の改定によって、省レベル以上の消費者協会(または消費 者委員会)は消費者の代理人として公益訴訟を提訴する資格が認めるようになっ た。このことは消費者権益の保護において大きな進歩であるといえる。公開報道 によると、多くの地方の消費者協会(組織)は、検察院から公益訴訟の提訴を勧 められても、現有の専門職員・経費の制約などから調査が難しく、弁護士雇用の 費用増加などもあって、提訴してこなかったとされる。中国消費者協会及び地方 の消費者協会は、

2014

年から

2018

10

月まで、合計

14

件の公益訴訟を提起した304。 食品安全に関する公益訴訟は下記の通りである(表

3-16

参照)305

3-15 消費者協会と一般社会団体との区別

消費者協会 一般の社会団体 組織性格 政府により設置された法定職能履行

の政府機関

会員は自由参加原則に従い結 成された組織団体

運営資金 会員・会費がない すべて政府の資金で賄う

会員の会費、サービス提供の代 金、寄付、海外支援など 運営依拠 関連法令、工商総局の業務指導 組織が規定した規則・規章 サービス対象 全体消費者(中国駐在の外国人消費

者も含む)

加入した会員

遵守規則 『消費者権益法』などの関係法令・

規則

組織団体が規定した組織規則

人員 政府の定員計画 自主雇用

消 費 者 権 利 擁 護 で は 行 政・立法への影響方式

トップ・ダウン ボトム・アップ

違法業者に対する権力 裁決権と処罰権がないので、消費紛 争に対する調停しかできない。

会員に対する自主規制

消費者への救済

業者と消費者との調停 消費者訴訟提起への支持

省(自治区・直轄市)レベルの消費 者協会による公益訴訟提起が可能

行政救済・司法救済の権力はな

どのような社会団体が食品安 全公益訴訟を提起できるかに ついての法令は不明。

弊害または限界 行政化、官僚化 独立性の欠如

外部の環境(NGOに対する管理 体制の制限、合法性、市民から の信頼、業務資源など)と内部 制約(資金・人材・位置づけ、

能力、専門知識、管理、信用な ど)による力がまだ弱く、存続 の維持も困難。

組織資源の出所 政府に頼る 市場、社会、海外などの開放的 な競争世界の動員に頼る

304「3.15特别报道」4年仅提起14例消费类公益诉讼:消协组织如何担当主体?」『界面新聞』2019 315日(https://baijiahao.baidu.com/s?id=1628031034429791330&wfr=spider&for=pc 2019 330日アクセス)

305 中国消費者協会HP 201859日記事「中消协在京召开有关惩罚性赔偿公益诉讼专家论证会 (http://www.cca.org.cn/zxsd/detail/28044.html 20181115日アクセス)