5. 調査結果
5.4 磐城沖の海洋掘採施設撤去に係る総合的な環境影響評価の検討
5.4.1 磐城沖海洋掘採施設撤去の概要
磐城沖海洋掘採施設は福島県東方沖合い40kmの水深約150mの海域に、天然ガス採取 を目的として昭和58年(1983年)に設置された施設である(図5.4-1)。この施設は平成 19年(2007年)に生産操業を終了し、平成22年(2010年)に撤去された。
撤去後、施設の一部は設置場所及びその近傍に残留された。
(1) 撤去工事の概要
海洋掘採施設は、上載設備、ジャケット上部、ジャケット下部に区分して撤去が行わ れた。撤去した上載設備は陸上にて処分し、それ以外の部分は当該海域に残留されたが、
撤去工事時の影響評価は事前の計画を元に実施しているため、ここでは、事前計画に基 づいた工事の概要を記載する(図5.4-1)。
1) 上載設備
上載設備は、モジュールサポートフレーム、デッキ、フロアー、設備、装置等から 成る。撤去は、クレーン船を用いて、建設時の搭載順序と逆の順序で行う。これは、
構造体を切断、撤去する場合に、その重量、強度を建設時と同等にして、安全に作業 を実施するためである。この上載設備は陸上に撤去してスクラップ化し、資源として 利用する。
2) ジャケット上部及びパイプラインの一部
ジャケットはスカートパイル最上部近辺(EL.(-)92.5m)の位置で切断し、ジャケ ット上部は撤去後、ジャケット下部に近接して横倒しにして海底面上に残留する。な お、同時にジャケット内部のパイプラインも同様に処置する。撤去工程及び概要は以 下のとおりである。
① レグ、メインパイル及びパイプラインの切断
ROV(Remotely operated Vehicle)及びダイヤモンドワイヤーソー(Diamond
Wire Saw :DWS)等を用い、レグとメインパイル(2重管の状態)を外側から切断
する。
② メインパイルの回収
ジャケット吊り重量の低減を図る為、切断後にメインパイルを回収する。杭長は、
176 100m長に達する為、2分割にて回収する。
メインパイルの回収後、切断されたジャケット上部が下部よりずれないようにズ レ止め短管をレグ内に挿入する。
③ ブレースの切断
ROV及びアブレッシブウォータージェット(Abrasive Water Jet :AWJ)、ダイ ヤモンドワイヤーソー等で切断する。
④ レグ内の排水、エア充填
レグ内水の排出方法は、コンプレッサーを用いた排出方法とする。
⑤ ジャケット吊上げ、仮置き
ジャケットをクレーン船にて吊上げ、横移動して海底の所定の位置にジャケット を仮置きする。
⑥ ジャケットの横倒し
吊りワイヤーをジャケットから取り外し、ジャケットとクレーン船間の横倒し用 のワイヤーを連結調整して、ジャケットをクレーン船のスラスター能力により引っ 張り、横倒しにする
3) ジャケット下部等及びパイプラインの一部
上載設備及びジャケット上部を撤去後、ジャケット下部等及びジャケット下部内の パイプラインはその場所に残留する。
① ジャケット下部等の処理
ジャケット下部等は土中部分も含め切断部から下部をそのままの状態で残留する。
② パイプラインの処理
パイプラインは、管内を洗浄後ジャケットの海底部の出口付近で切断し、ジャケ ット下部内のものはそのまま残留する。パイプライン処理具体的作業は以下のとお りである。
a. 洗浄
パイプラインの管内洗浄は、まず洗剤で洗浄し、その後水洗いをする。洗浄に使 用した洗剤(界面活性剤)およびその後の海水による脱洗剤作業で発生する排水は 陸上で回収し、タンクローリーにて運搬して、産業廃棄物処理を行う。
b. 切断
洗浄後のパイプラインはジャケット上部と同様に切断する。
177 c. 処理
撤去する上載設備の部分に存在するパイプラインは、上載設備とともに撤去して 陸上処分する。ジャケット上部の部分に存在するパイプラインは、ジャケット上部 とともに残留する。同時にジャケット基部の海底面上のパイプラインの一部も撤去 して陸上処分する。ジャケット下部のパイプラインは残留する。
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[海図(W1098 塩屋崎至石巻湾)平成16年 海上保安庁より作成]
図5.4-1 磐城沖海洋掘採施設(海洋掘採施設)位置
磐城沖海洋掘採施設
(プラットフォーム)
北緯37°18’ 00” 東経141°27’ 35”
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[海洋掘採施設の撤去の区分]
撤去して陸上にて処分:上載設備
切断後近傍海域に残留:ジャケット上部(ジャケット上部内のパイプラインを含 む)
切断後その場に残留 :ジャケット下部等(ジャケット下部内のパイプラインを 含む)
図5.4-2 海洋掘採施設の撤去方法の区分
ジャケット
上載設備
EL-92.5m
ジャケット上部
ジャケット下部
メインパイル 及び スカートパイル
撤去して陸上に て処分
切断後残留
切断後残留 パイプライン
180 (2) 海洋掘採施設の残留の概要
海洋掘採施設の撤去工事により上載設備は陸上へ撤去された。他の部分については、
事前の計画どおり、ジャケット部は海底面上62mで切断され、それより上部は近傍海域 に横倒しにされ、ジャケット下部はその場に残置され、海域に残留された。
残留時の状態は、撤去後に実施されたサイドスキャンソナーによる調査により確認さ れている(図5.4-3)。残留後は海図(W1098 塩屋崎至石巻湾)に「石油開発台撤去跡」
として水深90mの記載がされている(図5.4-4)。
ジャケット上部(横倒し)
図5.4-3 残留の状態
ジャケット下部(その場に残留)
(磐城沖石油開発株式会社の提供による)
(磐城沖石油開発株式会社の提供による)
(事前予想図)
(測量結果)
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(海図「W1098 塩屋崎至石巻湾」 平成24年10月4日刊行)
図5.4-4 残留施設の海図における記載
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5.4.2 磐城沖海域の概要
撤去前の磐城沖海洋掘採施設が位置する磐城沖海域(図5.4-1)の海洋掘採施設周辺の概 況は、既存資料によれば次のとおりである。
(1) 気象
福島県内は奥羽山脈と阿武隈高地の二つの山系によって東西三つの地方に区分され、
その地形により浜通り(太平洋側特有)、会津(日本海側特有)および中通り(前 2 者の中間) の3つの気象変化が基調となる。
過去10年間(1996年~2005年)に発生した台風のうち福島県ないし福島県沿岸を通過
した台風は10件(1件/年)であった。
(2) 海象(水深・流況)
磐城沖海洋掘採施設は、福島県の沿岸から東に約40km沖合いにある。水深は約150m であり、当該海域の等深線の間隔は沿岸部に比べ広く、なだらかな傾斜となっている。
常磐海域ではほぼ年間を通じて犬吠埼近海を東流する黒潮の補流の性質を持つ南下流 が見られ、ごく沿岸域では沖合南下流の反流の北上流が時々見られる。海洋施設周辺の 海面の流れは0.5ノット以下の場合が多い。
(3) 水環境
当該海域の海表面の平均的な水温の年変動は、気温の低下と親潮系冷水の南下により3 月に7℃台の最低水温が、逆に気温の上昇と黒潮系水の北上により8月に22℃台の最高 水温が認められる。春季以降の気温上昇期には表層近くに水温躍層が形成される。
一般的に東北海区(とくに常磐海域)の塩分量は水系の相違により異なり、黒潮系水は高 く、津軽暖流系水がこれに次ぎ、親潮系水は低い。また、当該海域の沿岸域には陸水に 起因する沖合域より低塩分の沿岸水が常に存在する。
海水の密度は、冬季は上下の密度差が見られず、6月頃から10月頃にかけて成層が形 成され40~60mの密度躍層の存在が認められる。
(4) 海底環境
当該海域の水深50m以浅が砂質、水深50m~100m付近までは砂泥質または泥質であ る。磐城沖海洋掘採施設近傍の粒径組成は、粒径200μm程度の粒子の出現頻度が高い。
底質の有機物質の量は、全有機炭素は0.3~0.7%、全硫化物は全て定量下限値(0.01mg/g) 未満であった。
磐城沖海洋掘採施設周辺の周辺4km四方の海底状況は、水深が149m~157mであり、
急斜面がみられないフラットな海底である。周辺1km四方の海底状況では、海洋施設周 辺の水深は154m前後で1m程度しか高低差がなく、周辺はほぼ平らな地形である。
183 (5) 海生生物
福島県海域の遊泳性魚類は漁獲対象のサンマ、マイワシ、マグロ類、カツオなどが分 布する。これらは広域に季節回遊する浮魚であり、周年生息場とする魚種ではない。
海洋掘採施設には脚部に海表面から海底まで各種の生物が付着しており、軟体動物の イガイ類や節足動物のフジツボ類、刺胞動物のイソギンチャク目や海綿動物のカイメン 類などが多くみられる。
水深 150m 付近での主要な底生生物(マクロベントス)はゴカイ類である。大型の底 生生物であるメガベントスは、底生性魚類としてカレイ類、アオメエソ、無脊椎動物とし て棘皮動物のヒトデ類が多い。
(6) 生態系
福島県沿岸にはアラメ、カジメ等の藻場が存在しているが、沿岸部のみであり、海洋 掘採施設周辺には存在しない。また干潟、サンゴ礁も海洋掘採施設周辺には存在しない。
当該海域は海産哺乳類の分布域の一部となっているが、海産哺乳類の分布は広範囲に わたっており、当該海域は一時的な通過海域であると考えられる。
熱水生態系その他の特殊な生態系の存在は確認されていない。
(7) 社会環境等
福島県の沿岸域では海水浴場が多く分布するが、海洋掘採施設周辺は沿岸から約 40km 沖合いであり海水浴場その他の海洋レクリエーションの場としての利用はない。
また、福島県では海岸を含む県立自然公園は磐城海岸、松川浦、そして勿来の 3 地域 あり、海洋掘採施設に最も近いのは磐城海岸県立自然公園である。海洋掘採施設は沿岸 から約 40km 沖合いであり、この海域に海中公園その他の自然環境の保全を目的として 設定された区域はない。
当該海域ではカレイ類、アオメエソ、マダラ等が主要漁獲対象となっている。また、
回遊性魚類はマイワシ、マサバ、サクラマス、シロザケ、ブリ類が季節的に漁獲されて いる。
沿岸域には法律で指定された航路はなく、沖合いに東京湾口~津軽海峡西口航路があ る。海洋掘採施設周辺には海底ケーブルは敷設されていない。海底資源等は磐城沖ガス 田が存在するのみである。