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研究活動に位置付けにくい外部共用

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 164-168)

分析

ここでは、前章で示した事例のデータに基づき、外部共用の担当者が外部共 用活動に付随するサービス業務を自身が行う研究開発活動のなかでどのように 位置づけているのかについての考察を行う。まず、研究基盤施設の担当者が外 部共用についての業務を行う際に、担当者がどのような感情を抱いているのか を、インタビュー調査や参与観察を中心としたエスノグラフィによって分析す る。また、研究基盤施設の担当者が、外部共用活動を自身の活動のインセンテ ィブに位置付けることができない背景や互恵関係をどのように構築しているの かについて分析を行う。

ことと関して直接的な興味を持たない人材でないと務まらないのが実 情なのです。(技師A1-01: 2016年6月27日実施)

もちろん、すべての外部共用が研究活動を半ばあきらめた担当者のみで実施 されているわけではないが、外部共用をめぐる認識的文化を構成する重要な要 素を形成している。

そもそも、外部共用に付随するサービス業務は、施設の当事者が本来行うべ くマシンタイムを奪ってあてがわれるものであるので、外部ユーザーに利用を 供すれば供するほど、施設にとっては大事な時間を奪われると施設側研究者に 認識されている。公的研究機関の多くは基礎研究を行うことを主たる業務とす る研究所であるので、構成員を評価する価値軸の多くは、科学者や研究者が日 常行う基礎研究を評価する仕組みが大勢を占めている。他方、外部共用をはじ めとしたサービス業務を評価する仕組みは十全に整備されていない。こうした ことから、本部をはじめとした経営者が先導して導入した外部共用事業は、施 設の担当者の多くにとって魅力的な事業ではない。

今回調査した研究施設の担当者に対するインタビュー調査で明らかになった ことは、研究施設の外部共用が行うサービス業務と彼らが目的とするアカデミ ックな目的との間の葛藤が見られたことである。たとえば、北大のNMR施設で は、施設を外部共用にすることで内部ユーザーが使用できるマシンタイムが減 ってしまうことから、現在に至るまで外部共用に対する学内のコンセンサスが 取り切れていないといった例に示されている。

また、同じく北大の同位体顕微鏡システムにおいても、外部施設の共用業務 は、基本的には日々のメンテナンスを行う技術者が付加的におこなうもの・手 弁当として行うものと認識され、その業務自体においてはインセンティブは発 生しない。技師が行っている外部共用は論文としての成果にはなっていないこ とも外部共用それ自体に魅力がないことを示している。放射光施設で行ったイ ンタビュー調査で研究者D1は次のように答えている。

研究基盤施設の採用の際に表面化されるものとして技師と研究者の 評価についての問題がある。例えば、研究職として採用されるために は、どんなに技術やマネジメントが秀でていても、アカデミックペー パーでファーストオーサーがないと評価されない現状がある。施設の メンバーで研究職にふさわしいと推薦しても、技師から研究者に転身 することは現状では難しい。研究者から測定を依頼されたことでセカ ンドオーサーやアクノレッジが何百とあっても、いざ研究者としての 評価がどうかというと、評価の対象外となってしまう。

だから、ここの施設では独自で研究で評価される評価軸とは異なる評 価軸やインセンティブを設けている。しかし、こうした基準はあくま でここの施設内だけに認められるものであり、体外的には公式に認め られていないのがつらいところ。よく、技師と研究者は対等という が、暗黙的に研究者が上位に位置するヒエラルキーが存在する。たと えば、どんなに技術があって研究のセンスがある人でも、こうした人 間を採用するに際して、研究者を交えた人々で構成される採用審査委 員会で審議すると「研究職として採用するのではなく、技師でいいの では?」みたいな議論となってしまう。そんな議論が出てくること自 体差別的な環境があることを明示している。

(研究者D1-01: 2016年6月1日実施。傍線部、筆者。)

この議論が示しているのは、技師が日常的に行っている外部共用活動は研究 者が行う研究活動とは異なるものとして位置付けられていることから、どんな にユーザーに資するデータを提供しても、研究活動としては評価されない、と いうものである。こうした状況が「研究者上位、外部共用担当者下位」の見え ざるヒエラルキーや評価体系を作るようになったとしている。外部共用を行う ことが施設の主たるミッションとなっているにもかかわらず、国内放射光施設 では外部共用業務自体が評価の対象としてみられることはなく、ファーストオ ーサーのある学術論文を執筆しないと評価の対象とならない現状がある。こう した現状においては、測定技術やマネジメントの技能は評価の対象外となって しまう。「技師と研究者は対等というが、暗黙的に研究者が上位に位置するヒ エラルキー」文化が存在することも、こうした背景から帰結されている。

外部共用は、現場研究者のインセンティブをあげない活動であることを指摘 したが、直接研究活動に関係しないサービス業務であることのメリットも存在 している。シーケンサー施設の研究者M2に対するインタビューの中で、施設 がサービスに徹している背景について「施設が研究開発ではなくサービスに徹 することで、施設が成果を主張することがないので、利用者が安心してサンプ ルを預けることができる」(研究者M2-02: 2017年9月30日実施)と指摘 し、施設がサービスに徹することの利点を挙げている。通常、分析会社に分析 を外注した際に分析会社が成果を主張することはないが、仮に、公的研究機関 の施設が外部共用による研究成果をそれぞれで主張することになれば、ユーザ ーは研究成果を施設に奪われかねない、ことが生じることを意味している。

また、研究基盤施設に所属するスタッフが特定の研究分野のみで構成されて おり、外部共用により異なる分野の資料の測定に対応することができない点を

指摘するものもある。同位体顕微鏡施設に所属する研究者I1がこの点につい て下記のように述べている。

外部共用の担当者は、基本は専門を天然物化学としたコア研究を主に 行っている。けれど、装置自体は天然物化学以外の他の研究分野にも利用 できるので、本部は運転経費を稼ぐために多くの研究分野の研究者に使っ てほしいと考えている。しかし、この施設には、限定された研究分野とし てのコア研究者しか施設にいないので、他の研究分野になかなか広がらな いのが課題。

(研究者I1-01: 2017年3月22日実施、傍線部筆者。)

同位体顕微鏡施設自体は、海底から採取した「コア」の構成成分を分析する天 然物化学を主たる研究分野としているので、病院から依頼された骨の分析や材 料会社から依頼された新規材料などの分析は、施設にとって専門外の研究分野 の分析であり、外部共用を他分野に広げる意思がありつつも、そもそもノウハ ウがないためなかなか広げていけない現状がある。

また、この問題と関連して、外部共用の業務では、様々な分野からの依頼に 対応する必要があるが、そもそも研究者として求める素養として、特定分野を 狭く深く極めることが求められる背景がある。NMR施設に所属する研究者A2は この点に関して次のように述べている。

外部共用でユーザーから要求されている分野は医薬分野をはじめ、無 機材料分野など多岐にわたる。一般的に大学で研究者になるためのト レーニングとしては、特定の分野に絞って研究するのが通例である。

一方、外部共用で来るユーザーに対応するためには特定の分野にとど まらず多岐にわたる分野に対応できる人材が求められる。アカデミア では、こうした幅広い分野に対応できることに慣れておらず、またこ うした考え方を軽視する流れにある。なので、公的機関が行う外部共 用についてはなかなかいい人材が集まらない背景がある。

(研究者A2-02: 2016年11月22日実施、傍線部筆者。)

外部共用の担当者に求められる素養は、幅広い研究分野からの相談にいかに的 確に対応できるか、というものである。しかし、アカデミア研究者として求め られるのは、深く狭い専門知識である。外部共用の担当者が受けるトレーニン グも後者なので、前者の対応をすることに慣れていない。また、アカデミア全 般における認識的文化として、外部共用の担当者に求められるいわば広く浅い

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 164-168)