• 検索結果がありません。

外部共用における互恵関係構築モデル

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 171-192)

価値 利用料 アカデミックな貢献や国 際連携を深める

施設とユーザーの インタラクション

一方向的 双方向的

経済成長

運転資金の確保 新奇な測定サンプルを獲 得したり、施設の価値を 高めてくれる存在 出典: (Lusch and Vargo 2014) をもとに筆者作成

ここで得られた知見から、筆者らは、外部共用における施設とユーザーと間の 互恵関係のあり方を「サービス活動の補償」、「共同研究へのスクリーニング」、

そして「フレキシブル変更」という3つの型として提示する。

サービス活動の補償型

施設とユーザーがいかに共創関係を構築するのかを分析するため、ここでは 施設側が外部共用活動に関するサービス活動をどのように補てんしているのか を見ていく。まず国内施設を見たうえで、スイス施設の事例を紹介し、これらを 比較とすることで検討を進める。

・共用のインセンティブを補償するもの

共用のインセンティブを補償するものとして、サービス業務としての外部共 用活動を本部や行政からの補助金によって補償する考え方を見ることができ る。この点については、研究者C1に対するインタビューの中にみることがで きる。

阪大蛋白研では、日本における蛋白質研究の一大拠点であった経緯か ら、タンパク質の構造解析を行う主要な手段の一つであるNMR装置に ついては、高性能・高分解能な装置を整備してきており、それに伴って これまでに多くの共用を外部ユーザーに対して行ってきた。その多くは ユーザーが費用経費を負担するのではなく、大学や外部資金が外部ユー ザーが負担する経費を代わりに負担する「共同利用・共同研究拠点」制 度を整備してきた。これにより、学内ユーザーは無償で利用することが できる。

この制度では、大学・高等教育機関の教員、国公立研究機関の研究 員などで、本研究所で実施されている研究に参加を希望する者などを 共同研究員として受け入れ、共同研究を行っている。これらの利用で は、施設は共著者やパテントなどいかなる権利も主張し要求すること はない。なので、例えば理研施設が成果非占有利用などで要求するよ うな成果の主張をユーザーに対して行うことは阪大においては難しい と思う。もしそんなことを主張するのであればユーザーは離れてしま うだろう。(研究者C1-01: 2016年10月7日実施。傍線部、筆者。)

このインタビューのなかで「大学や外部資金が外部ユーザーが負担する経費 を代わりに負担する『共同利用・共同研究拠点制度』」により「ユーザーは無 償」で施設を利用することができ、「これらの利用では、施設は共著者やパテ ントなどいかなる権利も主張し要求することはない」とするものである。

このNMR施設では、外部アカデミアの利用に対しての「共同利用・共同研究 拠点」としての利用が進んでいるが、その予算としては本部が外部共用サービ スに対する対価をサポートする形で保証していた。また、インダストリ利用に ついての保証を本部では行っておらず、別途文科省の委託事業に採択されるこ とで保証を行っていた。つまり、直接的には外部共用は施設の独自の事業や担 当者の直接のインセンティブによって支えられているよりは、追加の本部予算 や外部資金によって保障されているものであった。

同様の見解は理研NMR施設においても見ることができる。研究者A1に対す るインタビューの中で、A1は以下のように述べている。

基本的に施設が行うこれまでの外部共用は、予算上は今年度までは文 科省の補助金によってのみ行っていた。この補助金で外部共用を行う ためのコーディネータを雇用する経費を確保してもらい、基本的には この補助金を使って外部共用を行っていた。この補助金はサービス業 務をおこなう共用活動のみを補助する整理であり、この補助金を使っ て外部共用以外の研究活動を行うことを禁じていた。

(研究者A1-04: 2017年1月5日実施)

このようにサービス業務を補助金によって補償する考え方がある一方、共用 を行うスタッフの装置操作スキルの向上としてみることで、この活動を補償す る考え方も見ることができる。研究者B2は次のように述べている。

施設を共用にすることによって、単にユーザーが施設を使って施設を 開放した担当者側には何の寄与もないのではモチベーションが保てな い。これが現状の施設の共用に関する問題点。こうした問題を解決す るために、施設を外部開放する施設と外部利用者の双方にとって互恵 となる方策を共用に求める必要がある。その一つとして考えているの が、教育を通じた共用である。これまでに装置を使ったことのない外 部利用者を対象とした講習会を開催し、装置の利用になれてもらうこ とと、施設担当者に講師となってもらうことによって教育活動に慣れ てもらうことで、双方にとってメリットとなることを目指している。

(研究者B2-03: 2016年7月21日実施。傍線部、筆者。)

研究者B2によれば、外部共用とは基本的には「単にユーザーが施設を使って 施設を開放した担当者側には何の寄与もないのではモチベーションが保てな い」活動であるとしたうえで、施設とユーザーが互恵な関係を構築できる考え 方として紹介するのが「スタッフの装置操作スキルの向上」という観点であ る。この活動の中で、施設スタッフはユーザーと施設の操作などで交流を深め ることで、自身の装置操作スキルを向上させる機会を持つことができるという ものである。また、ユーザーとしても施設担当者から直接指導を受けること で、装置の操作に習熟し、慣れ親しむことができる。

阪大と北大のNMR施設に共通してみることができるのは、サービス業務とし ての外部共用活動を補助金や担当者のスキル向上といった観点によって補償す るという考え方である。短期的には、測定データと引き換えに利用料金を受け とる、といった施設にとってあまり益のない活動である外部共用も、中長期的 には施設の運転資金やスタッフのスキル向上のために必要であると考える姿勢 である。こうした考え方を図にしたものが図 57である。

図 57 サービス活動の補償型 出典:筆者作成

・研究施設がサービス業務を継続することのむつかしさ

サービス活動を本部や行政が補償することについては、補償の範囲内ででき る限りのサービスしか行えない可能性を指摘するものがある。これについて例 えば次世代シーケンス施設における調査で、研究者M3が「施設を単なる付属 施設としてしまうと、外部からユーザーを引き込む努力を基本しなくなること がある。ビジネスに興味がなくなってしまう」と述べている。研究者M3はこ れに続けて、共用活動の活性化のための方策として次のように述べる。

ビジネスに興味を持ってもらい、自立して基盤施設を運営すること を志向してもらうことが、研究部門全体の活性化につながる。ここで いう、ビジネスとは、ここで行っている基礎研究の研究活動を継続す るための次の研究プロジェクトを意味する。

これまでは部門に所属する研究者も、基盤施設に外部とのつながり を丸投げするようなことをしてきたが、こうした考え方をあらため て、施設と一緒になってビジネスの志向を持つことが求められる。し

かし、彼らの多くは日々の研究活動で時間がないので、これをサポー トするコーディネータとの連携が必要になるだろう。

(研究者M3-01: 2018年7月5日実施)

本部や行政の補償に頼らない運営のために自立したビジネス志向の外部共用が 求められるとの考えを見ることができる。

また、同じく、次世代シーケンス施設における調査で、研究者M1は異なる 観点からサービス業務を継続することのむつかしさについて言及している。研 究者M1は、図 28に見られるとおり2018年3月までの経営方針としてサー ビス部分を重視したものとしつつ、過度のビジネス志向は、研究活動に支障を きたす恐れがあるとし、アカデミアへの貢献とのバランスが重要であると述 べ、2018年4月以降は図 29にみられるように研究活動とサービス業務の バランスが重要であるとの見解を示している。

・国外施設の例

ここで、スイス施設の議論を紹介することとしたい。スイス放射光施設の構 造生物学ビームラインに所属するスタッフである研究者F1は、外部共用で目 指したいものについての議論で次のように述べている。

自分としては、アカデミックペーパーを書くよりは、お客様の要望を とことん聞いて、その中で新しい技術革新を行っていくことをしてい きたい。SLSは産業界ユーザーの利用料をベースに動いているので、お 客様の要望なくして施設の発展はないと考えている。部門の前のディ レクターは、基本論文以外の指標となる成果を認めていた。ユーザー が測定後に施設に提出するユーザーレポートなどで施設担当者に対す る感想・要望を述べる箇所があり、そこでの評価が人事評価に影響す る。(研究者F1-01: 2017年5月18日実施。傍線部、筆者。)

「アカデミックペーパーを書くよりは、お客様の要望をとことん聞いて、そ の中で新しい技術革新を行っていくことをしていきたい」という発言のなかで は、日本施設にみられる、自分の研究時間を削って外部共用を行わなければな らない、との悲観的な考え方を見ることはない。

スイス施設においては、外部共用を行うスタッフの身分も確立され「基本論 文以外の指標となる成果を認めて」いることからも判明するとおり、日本施設 は異なる様相を呈している。「ユーザーが測定後に施設に提出するユーザーレ ポートなどで施設担当者に対する感想・要望を述べる箇所があり、そこでの評

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 171-192)