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イノベーションハブを促進する研究開発マネジメント

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 65-75)

ここでは、研究開発マネジメントの議論のうち、イノベーションハブの担当者 のインセンティブを促進する研究開発マネジメントを検討することとしたい。

これまでの MOT の議論においても、インセンティブを促進するためにアクター の裁量に重きをおくものと、組織に重視するものとでどちらが適切とされるの かについて、大きな議論となっている26

こうした背景を受け、イノベーションハブの担当者のインセンティブを促進 するマネジメントを整理するため、これまでの研究開発マネジメントのうち、ア クター主導型・ユーザー主導型、そしてアクター/ユーザー共存型の三つの型に 注目し先行研究を整理することとしたい。

アクター主導型

研究開発組織において、特に基礎研究を行う研究者に対し、その主体性を発 揮させるためのマネジメントとして、多く議論されているものとして、管理職 等からの管理を徹底させるというよりは、担当者に自由な発想で研究開発を行 ってもらうことを第一義とする、という考え方がある。これについては例え ば、1960年代までの主として米国を初めとした研究開発組織において主流を占 めていた、有能な研究者に自由に研究してもらえれば、画期的な研究成果が輩 出されるというものがある。こうした考え方においては、研究開発部門は事業 部門との信頼関係が構築されていることは問題ではなく、その基本的な方針に ついては「幹部の直感」によって決めればよい、とするものである(丹羽 2006: 168)。

アクター主導型は、基礎研究を行う研究開発にこのモデルがみられることが 多いことが指摘されている。「研究開発組織における研究開発の従事者の」で

26 この点に関して例えば丹羽は「自主性と階層性のジレンマ」に関する議論の中で、研究

開発にはそもそも担当者の創造的で自律的な発想が大きくこれを支えているという現状を 指摘し、そのモチベーションを高めるためには「ボトムアップ的なアプローチ」が重要な 指標となるとする。一方、マネジメントでは「他部門との関係も含めた広い立場からのト ップダウン的な意思決定」が重要な要素になるとして、そもそも研究開発にマネジメント の要素を導入することの難しさについて言及する(丹羽 2006: 223)。彼は研究開発に関 してマネジメントの要素が必要になってきている背景について言及しつつも、研究現場も しくは担当者が知りえる不確定要素や不確実性から「科学技術的な新発見や新発明が起こ る可能性」があることを加味しながらマネジメントを検討すべきであるとの立場をとる

言及した、科学業績の輩出と法人組織での地位向上などのそれぞれの価値観は 別々のベクトルを有しており、双方共に満たすことは基本的にはないとするペ ルツの立場を紹介した。この議論の中でサイエンスオリエンテッド型の動機を 促進するためには、従事者へのコントロールをできる限り少なくし、自由な発 想を尊重することがマネジメントとして重視する必要があるとしている (Pelz 1976: 137–39)。

この型に対する批判としては、例えば沢井は研究部門に所属するアクター は、組織全体の論理とはかけ離れた自身の研究活動に耽溺しがちであり、研究 開発を担当者の主導で任せることのむつかしさを指摘する(沢井 2012: 58)も のや、大林による研究開発組織は基本的にアカデミック志向の価値観に根差し たものであることから、研究開発組織において問題解決型の製品開発志向のプ ログラムが設定されても、従事者の多くがアカデミア志向であり、ピアレビュ ーオリエンテッドな論理に一義に置かれがちであり、プロジェクトが進まない ことを批判する ものもある(大林 2005)。

これに関連して、アクター主導型は、担当者の持っている技術展開にのみ、

重視されがちであり、実用化の観点が希薄であると批判するものもある。バー ジェルマンとセールスは「科学者出身の経営者は、何らかの現象を理解して難 しい技術的問題を解決していく際に、研究サイドから見てもっとも簡単に探求 でき、また評価できるような方向へ応用を図ろうとする点であり、特定の技術 的な解法に固定化する傾向がある点」(Burgelman and Sayles 1986=1987: 64) があることを指摘し、研究開発を主たる業務として行う人々は方法論に固執 し、最終成果物や実用化の観点が薄いことを指摘する。

同様の批判として、バイオテクノロジーの分野で、物質の分子レベルでの画 期的な分離法を確立しても大量生産には向いていないにもかかわらず、その方 法論ありきで検討が進められ実用化に至らなかったことについても同じく言及 する(Burgelman and Sayles 1986=1987: 64-65) 。彼らは、基礎研究を行って いる科学者は実用化をするより技術の開発自身に価値をおくので、自分たちの 開発した技術がいったん実用化されると、それ以上の技術を高度化は意味がな いものとみなされることにネガティブな見解を持つ点なども指摘する

(Burgelman and Sayles 1986=1987: 105)。

このように、アクター主導型は、研究開発の担当者の自主性を尊重すること で、成果の最大化を狙うというものであり、特に研究開発のリニアモデルを支 えた主要な型でもある。一方、このモデルは自主性を重んじるあまり、実用化 やプロジェクト全体との関係が見えにくくなることが指摘されている。

トップダウン型

トップダウン型は、前述したリニアモデルを批判する研究開発マネジメントの議論に 見ることができる。ザイマンは研究開発をトップダウン方式で管理する流れにつ いて、問題解決や社会政策解決のために設置された研究開発はチームやセンタ ーの形態をとることが多く、管理的に運営されることが多い点を指摘する (Ziman 1994=1995: 77)。

ラッセルらは、優秀な研究者に自由に研究開発を任せる型を「第一世代の研究開 発マネジメント」としたうえで、研究開発部門で独自の管理をするマネジメントを第二 世代、事業部なども見据えた、管理者・開発者・研究者が一緒となって目標に向かっ ていくマネジメントを第三世代として、組織が主導して研究開発を行う必要性を説く (Roussel, Saad, and Erickson 1991)。彼らは、研究開発を個別に管理するだけでは

「経営計画全体の戦略性は怪しくなる。各事業内のプロジェクトや事業ごとに優先性 をつけるのが至難」(Roussel, Saad, and Erickson 1991, 12–13)となることを指摘し、

「研究開発幹部と各事業部長とがパートナーシップを組んでそれぞれの発想を共有 化ないし、一体化することで意思決定にあたる。コスト、利益、リスク/収益が現実に 即して評価され、こういった各変数が研究開発ポートフォリオの枠組みの中で考慮さ れ、企業全体の目的を達するための最適解が求められる」(Roussel, Saad, and Erickson 1991, 13)として、単に管理するのみならず、中長期的な観点も重視している 点を主張している。

丹羽も、研究開発をトップダウンで行うことの背景について、限られた投資 の中で研究開発の成果の最大限を目指し「プロジェクトの機関や経費、事業イ ンパクト、不確実性、管理方法、実行施策などについて事業部と研究開発部の マネージャーが共同で検討」(丹羽 2006: 168–69)する必要性が、1990年代以 降に促進され、事業部等で行われている研究開発部門が「企業全体の中で孤立 化しないようにし、研究開発と他部門の幹部との間のパートナーシップ精神と 相互信頼の下、研究開発の内容、期間、理由などが共同で議論・決定」すると いうより俯瞰的・大局に立ったマネジメントが見られるようになった事を指摘 する(丹羽 2006: 169)。研究開発部門が独立して主導するというよりは、事業 部の要望に即した研究開発が求められているというものである。

ザイマンによれば、こうした管理の流れは「19世紀末から多数の産業界や政 府の研究組織が、所長、局長、実験室長、グループ長など公的階層構造を伴う 通常の官僚主義的な線にそって設立」されて以来、第二次大戦後も多く見られ るものであるとしながらも、昨今の基礎研究と応用研究の境界線が曖昧になっ ている昨今において特に重点的に取り組まねばらないものとしてトップダウン 型の研究組織を見ている (Ziman 1994=1995: 191)。

近代大学組織を教育社会学の観点から分析している潮木も、こうしたトップダ ウン方式で課題を設定し、研究開発を管理・推進していく考え方が19世紀のド イツでも見られたとされる。彼によれば、19世紀帝政ドイツにおけるヴィルヘルム皇 帝研究所では、まず優れた研究者を探し出し、その人物に全権を委任する研究所を 創設する方式を紹介する(潮木2008:218)。彼はこうしたトップダウン型研究開発組織 の例として、1915年に執筆されたフランス人科学者デュエムによる分析を以下のとお り紹介する。

ドイツの大学の実験室は、巨大な工場に似ている。その中では多くの学生 が、軍隊組織のようなスタイルで働いている。彼らの目的は博士号を取るこ とである。彼らはいずれも正教授が指定した一つの理論を中心にそこから導 き出される、より細かな仮説を受け取る。その仮説を検証することで、博士号 が製造されている。どの学生も規則正しく、几帳面に所長からもらったテーマ を研究している。しかし彼らはそのテーマの内容について討議することはな い。自分の研究の中に、自分なりの独自性を持たせようとすることもない(潮 木2008:220)

ここでは、研究者の独自性・自主性よりも、効率性を目指した管理の側面が19世紀 末にすでに確立された組織となっていることが示されている。

トップダウン型に対する批判としては、研究開発組織にトップダウン的なマ ネジメントを導入することが研究者の創造性を阻害する問題点についての言及 の中で見ることができる。例えば丹羽は研究開発に関して「他部門との関係も 含めた広い立場からのトップダウン的な意思決定」が重要な要素になるとし て、マネジメントの要素が必要になっている背景について言及しつつも、研究 現場もしくは担当者が知りえる不確定要素や不確実性から「科学技術的な新発 見や新発明が起こる可能性」があることを加味しながらマネジメントを検討す べきであるとの立場をとる(丹羽 2006: 177)。

また桑島も同様に、トップダウン型による組織が研究者の活動に介入するこ とが彼らの自由な発想を阻害するとする立場をとる。彼は、例えば新薬開発の 上流にあたる研究開発では偶然や運がその成功に大きく影響しており、こうし た基礎研究にマネジメントは存在しないと説明する。こうした背景の中で、成 功要因は主として成功した当事者の具体的な能力やそれを支援するパトロン的 役割をする上司などの存在、である。彼はこうした観点から具体的に、成功要 因として、「プロダクト・チャンピオンの粘り強い研究姿勢」「スポンサーの 存在と研究の自由度」「積極的なコミュニケーションと情報収集」、そして

「適切な研究ドメインの設定」の存在を挙げている(桑嶋 2006: 52–57)。また 彼は、こうした上流フェーズにおける研究開発のマネジメントを策定すること は難しいと言及する一方で「下流段階でのマネジメントや能力差こそが、研究

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 65-75)