施設の概要
小型中性子源施設RANS(RIKEN Accelerator-driven Neutron Source) は、
理化学研究所光量子工学領域中性子ビーム技術開発チームが取り組む普及型の 小型中性子源システムである。中性子線は金属に対する高い透過能や軽元素に 対する感度の高さなど分析ツールとして注目されているが、一般に中性子を利 用するためには、大型加速器や原子炉を用いた大型の研究施設に利用を申請す る必要がある。こうした背景を受け、RANSでは、小型で可搬可能な中性子源装 置の開発を行うことで、より簡便な中性子利用を目指し現在開発が行われてい る。RANSが想定している利用研究領域として「非破壊観察による構造物の内部 計測から構造物の強度を予測するシミュレーション」や「橋梁などの大型構造 物非破壊検査健全性診断」を行うことを目指しており、施設が完成の折には外 部ユーザーへの共用を検討している(理化学研究所光量子工学研究領域
2017b)。
RANSの大きさは、長さ15m 幅2mで陽子線線形加速器、ターゲットステー ション、ビームライン、検出器の装置類から構成される。図 52に示した、右 側の陽子線線形加速器から加速された陽子線が、中央の青い立法体内のターゲ ットステーションに設置されたベリリウムターゲットに衝突し、そこで生じる 核反応により中性子が発生する。そして、ターゲットより算出された中性子が ビームラインを経由してサンプルボックス内のサンプルに当たり、透過像が検 出器に映し出される。
図 52 小型中性子源施設RANS
出典:(理化学研究所光量子工学研究領域 2017b)
図 53 小型中性子源施設での測定風景
左下:加速器本体 左上:中性子を発しさせるターゲットステーション
右上:ターゲットステーションから測定サンプルである橋梁を型化したコンク リートに照射する 右下:測定サンプルのセッティング
出典:(筆者撮影 2018)
インタビュー調査
小型中性子源施設では装置から検出されたデータを解析するためのソフトウ ェア開発を行っている研究者K1とプロジェクトリーダーである中性子線を利 用した研究を専門とする研究者K2から装置を外部共用するにあたっての課題 と問題点についてインタビュー調査を行った。
・研究者K1
RANSは目下のところ各構成装置の開発途上にあるが、現状において もある程度の中性子ビームを発生させることができるので、そのビー ムを利用した研究を自分たちのみで使用するだけでなく、メーカーを はじめとした産業界ユーザーや大学等研究機関のアカデミアユーザー などに提供したいと考えている。施設側とユーザー側研究者の関係を 考える際に重要なのは、その装置が一体何を目指しているのか。どの
ようなものを、どのような目的のために解析するための装置なのか、
をもっと明確化する必要があると考えている。
たとえば、RANSの開発についても、最終的にメーカーをはじめとした 産業界が自分の研究所でそれぞれ産業利用のために利用できるように するのか、あるいは大学など研究機関などに主として論文を作成する ために整備するのかによって、求められるスペックなどが異なるもの となる。こうした前提次第で、施設側研究者の果たすべき役割も、ユ ーザー研究者が求めるものも随分と異なってくるだろう。傍で見る限 りなので、実際のところはわからないが、一般的な大型研究施設がど のような目的の下に供用されているかについてはっきりした目的は見 えにくい。
現在のところでは、ポスドクに装置の維持管理を任せることはしてい ない。予算がないこともあるが、この業務自体には論文作成とはあま り関係のない部分なので、今のところではやってもらってない。一般 的なレベルでの比較かもしれないが、中性子・放射光施設に関して、
ヨーロッパの施設と日本の施設を比較すると、ヨーロッパ施設のほう が旧式の装置を使っているのにもかかわらず、日本の施設よりも成果 を出している。この背景としては、施設側の研究者の身分が社会的に もアカデミックにも保証されていることが背景としてあるのではない か。
(研究者K1-01: 2015年10月30日実施)
本来ならば運転資金をユーザーから徴収して独立採算して運営するの が装置利用のあるべき姿であり、それを実現するためのプロセスとし て外部共用というものがあると考えてある。しかし、そのようなこと は簡単にはできない。解析装置の維持管理の金をどうやって捻出する かが短期的なレベルでの課題。
直接的な運転資金を調達することが難しければ、競争資的資金を取る か、もしくは共同研究を行っていることが評価の指標になれば良いと 思う。現在は評価の指標が論文をいかに多く掲載されるかにあるの で、装置の外部共用に携わる担当者が本気で業務に携わるのであれば その努力は報われないだろう。
理想を言えば、運転資金に関する予算も調達できて、学術論文もで きればいいのだが、産業界の多くは守秘義務を求めてくるので学術論 文にできるものはそんなに多くないだろう。
大型中性子源施設であるJ-PARCでは、産業利用のユーザーが一回目 は利用できたとしても、一回目のデータをより実証的なものにするた めに二回目の利用に応募しようとすると「新規性がない」理由で課題 が却下されてしまうことがあるようだ。本施設であれば、そういった ものづくりに関するデータ取りについて大型施設よりも分解能などで は劣るかもしれないが、この積み重ねによって新しいユーザーや共同 研究相手が見つかるのではないかと考えている。
現行の評価の指標の多くが論文をいかに多く書いたかという流れの 中で、どうやって施設や外部共用の担当者を共同研究にむかわせる か、を考えるのは経営者のマネジメントにもよるのかと思う。本来で あれば、ジャーナルコミュニティとしてこうした論文以外の指標が認 められるのがベストであるが、そんな簡単に業界は変わらないので、
少なくとも装置を有する法人が、法人としてこうした共同利用に資す ることのできる装置をどのようにマネージしていくのかを考える必要 があると思う。現行組織では、外部共用は法人全体で取り組むべき問 題よりは、個別のセンター毎で処理すべき問題という整理。
例えば、大型施設において外部共用に係る運転経費等が行政の補助金 によって措置されている例にみられるように、法人内において他の施 設にない装置などについて、インフラ的に面倒を見るような仕組みが あると良いのではないか。
こうした仕組みにおいては、論文以外の要素が評価の対象となり、
中長期的に装置の維持管理や高度化など含めて、新規分野開拓などを できるのではないか。装置だけではなく、解析ソフトウェアをセット にして、興味のあるメーカーなどにコンサルタントや講習会などを研 究会といった形で組織することで、料金などを徴収することができる のではないだろうか。
先日、産業界とのマッチングファンドを掲げる外部資金に応募した際 に、装置の外部共用に言及した際に、審査員から「外部共用をするこ とはものづくりとは関係ないので重要な要素と考えない」といわれた ことがあった。装置の外部共用をしなければ、その装置を使ってもの づくりをすることなどできないので、その審査員は目先の技術展開の みに言及したということで、木を見て森を見ないコメントだと思った が、これが現在業界全体にも通用する常識なのではないか。
(研究者K1-02: 2016年1月20日実施)
・研究者K2
現在の大型研究基盤施設が行っている外部共用で多く見られるものと して、施設とユーザーの関係が決まりきったものがあるかもしれな い。具体的には、施設がユーザーに対して提供するサービスなど、や ることがお定まりのものが決まっていて、ユーザーもそれに決まった とおり指示に従うといったもの。このフレームの中では、施設担当者 は基本ニーズの掘り起こしをしないで、既存の主としてサイエンティ フィックな興味などに基づいた枠組みの中で次なる施設のスペックを 考えているが、それで本当によいのかと疑問に思うときがある。
施設側が装置のスペックから利用用途に至るまですべて考え、ユーザ ーはそれに従う。世界唯一の装置であるから、また、規模も大きいの で仕方ないのかもしれない。しかし、それでは面白い課題はでてこな いし、それは翻って科学業績を主とする装置にとっても良くないこと になるのではないか。
以前、指摘されたものとして、通常の加速器などのプロジェクトは加 速器装置の製作を専門とするグループによって担われるが、この小型 中性子施設についてのプロジェクトには加速器などハードの専門家は いないが、その代りにソフトウェアや中性子の利用についての専門家 がいるので、これまでのプロジェクトと比較して新規ニーズの開拓が しやすいのではないかと指摘されたことがあった。
先日サイエンティフィックな課題を審査する機会があったのだが、そ こで応募された課題を見てみても、新しい領域を生み出すようなもの はあまり見かけなかった。少なくとも、中性子の利用に関する分野で はサイエンティフィックな興味のみ基づいた研究分野の開拓には限界 があるのではないか。
それよりも、既存の施設とユーザーの関係を変えるような、新しいニ ーズの発掘をして新たなユーザーを引き込めるようなそういう体制が 外部共用には求められているのではないか。
その際に重要なのは、既存のユーザーに既存通りの対応をするより は、将来的にユーザーとなる分野や業界の掘り起こしのための努力を すること。これが外部共用において大事な要素となると考えている が、現行体制ではあまり報われない作業だ。こうした試みが評価され る体制を整備する事が求められているのではないか。
科学論文と産業界とのつながりにしても、そうしたところから新しい 領域が生まれることを期待しているし、そうあらねば将来ないとおも う。こうした試みは、現行の論文書くだけでは認められない潜在的な 部分なので、既存の論文第一主義を否定するわけではないが、ニーズ