図 14 NMR装置概要
出典: (理化学研究所NMR施設 2018)
このほかに電磁石の超伝導状態を作り出す液体ヘリウムを液化して施設内 に循環させるインフラ施設であるヘリウム液化機を有し、一般的な理化学機器 と比較すればかなり大掛かりな装置から構成されている。
また、測定に際しても試料の調製をはじめ適切なプローブ・測定法の選択、
実際の測定、測定データの分析など装置に習熟していないものが一回ですべて 行うことはほぼ不可能であり、施設側と綿密な打ち合わせを経なければ、論文や 製品開発につなげるデータを得ることは難しい。このようにその操作や維持管 理、分析においては高度な技術を要することから、メーカーにおいても専門分析 会社でも一部が整備されるのみとなっている。装置自体はメーカーから市販さ れているが、その価格は数千万~数億円と非常に高価な装置である。950MHz が 世界最高性能レベルとして市販されているが、1台 10億円を超える高額装置で あり、現時点での日本の研究機関では横浜市大と大阪大学にしか存在していな い(ここで、950MHzとは水素原子核の NMR計測でやり取りする電磁波の周波数 を示す。磁場強度に比例しているので、周波数が大きい程、強い磁場を発生する ことのできる磁石が必要となる)。
・施設の概要(理研)
神奈川県横浜市に設置する理研のNMR施設(図 15及び図 16)の開設経緯と しては、国家プロジェクトとしてのヒトゲノム解読プロジェクトに続く形で 2002年より始まったタンパク質の基本構造を 3,000種構造解析することを目的 として開始されたライフサイエンス関連の新たな国家プロジェクトである「タ
ンパク 3000」プロジェクトの遂行のために整備されたものである(福島 2017;
伊倉 2008)。プログラム自体は 5 年で終了し、その後いくつかのプロジェクト を経たが、運転予算は減少の一途をたどり、現在では図 17及び図 18に示す通 り当初整備された約40台から比較して、10台(NMR 900MHz3台、800MHz2台、
700MHz3台、600MHz2台)まで減少したが、それでも全国でも最大の規模の施設
として知られている。プログラム開始当初は、プロジェクト遂行のために理研内 部のみで利用されていたが、上記国家プロジェクト終了後の2007年度以降外部 共用を開始することとなった。
図 15 理研NMR施設空撮図 出典:(理化学研究所NMR施設 2018)
図 16 NMRが設置されている中央NMR棟 出典:(理化学研究所NMR施設 2018)
図 17 施設におけるNMR配置図 出典:(理化学研究所NMR施設 2018)
・施設の構成と日常
施設を構成する人員は約 15 名ほどである。施設を構成する人員は、大きく 分けると
(A)施設を高度化する技術者
(B)施設を利用して論文を書く研究者
(C)外部利用者が施設の共用を円滑に行うためのコーディネータ
(D)施設の維持管理担当
から構成される。これらの分類は明確に分かれているわけではなく、同一人 物でも「AおよびB」「BおよびC」というように一部重複することがある。この ほかに、国内外の研究機関やメーカーなどからの共同研究員や研修生が10名程 度存在する。
図 18 理研施設に設置されている900MHzNMR 出典:(理化学研究所NMR施設 2018)
日常的な保守と日常点検としては、
・装置を冷却するための液体ヘリウム・窒素の充填
・ヘリウム残量チェック
・蒸発ヘリウムのガス流量チェック
などを行っている。また、保守契約対象外の装置のメンテナンス対応や保守 停電対応も行っている(図 19)。
施設は研究所の内部の利用者のために設置されている。内部の研究者が装置 を利用する際には、利用目的、測定内容を記載して施設に登録し、2週間に一度、
事前に連絡した承認期間のものを施設長が承認するフローで利用されている。
他の利用者と重なっている場合は施設長に優先度を決めてもらい、ユーザーに 状況確認ならびに利用期間を変更してもらうよう調整する。また、急なトラブル でのメンテナンスの際にはユーザーとの調整実施の上マシンタイムを確保する。
NMR施設の装置は各人のデータを守るため、アカウントで管理を実施。測定デー タに関しては毎日定時にバックアップを実施している。
図 19 液体ヘリウムの充填作業 出典:(理化学研究所NMR施設 2018)
・NMRの操作
装置の操作に習熟していないユーザーにとって、NMRは簡便な操作で行うこと ができる。試料を装置にセットし、操作卓で試料を測定プローブ内に挿入する。
挿入するのは空気圧により行う。磁場の中央に試料がセッティングされるよう に微調整を行うことができるがこれはマニュアル操作で行う。試料がいったん セットされれば、あとはソフトウェアによって自動化されたプロトコルにより、
データが自動的に測定される。複雑な測定であるタンパク質の 3 次元構造であ れば、数日かかるものもあるが、簡単な構造であれば数分でデータは取れる(図 20・図 21)。
図 20 NMR測定風景1 出典:筆者撮影(2017)
装置横の制御PCで操作
図 21 NMR測定風景2 出典:筆者撮影(2017)
試料管をNMRにセットする
測定の際に重要なのはサンプルの質で、サンプルの質が低いときちんとした データが取れないのでユーザーに対しては質の高いサンプルを準備してもらう よう話している。また、外部共用の際に施設へサンプルを送付して、測定デー タをユーザーに送るだけ、ではなくサンプルのセッティングの一部について は、ユーザーにやってもらうようにしている。自動でサンプルを替えてくれる サンプルチェンジャーがあれば、簡便に行うことができるが、それがなければ 何度も装置と操作卓を行ったり来たりしなければならないので、面倒な作業と なる。
・外部共用について
施設で行う業務の一つにNMR装置を外部ユーザーが利用するための共用のた めのサポートやサービスを行うものがある。施設の外部共用については、図 22
のフローに沿って行わる。
図 22 施設利用のフロー
1 • 事前相談 2 • 誓約事項締結
3 • 解析内容の確認・相談
4 • 利用申請(WEB上で登録可能)
5 • 実施課題の選考(学術性など審査)
6 • 施設の利用
7 • 利用報告書の提出
8 • 利用料金徴収
基本的に、外部ユーザーが施設を利用するためには、
(1)内部ユーザーと共同研究を行うか
(2)外部ユーザーとして施設の(サービスとしての)共用利用を行う の二つの方法がある。前者であれば、利用料金は基本的にはかからない(場 合に応じてユーザーが負担)が、後者であれば、保守費をはじめとした運転のた めに必要な経費を負担する必要がある。また、(2)についてはさらに、
(2-1) 成果占有利用(共用利用によって産出されたデータを外部に公開せ ず独占する)
(2-2) 成果非占有利用(共用利用によって産出されたデータを学術論文な どの形で外部に公開する)
の二つのカテゴリーがある。前者であれば利用時間に比例した運転経費のす べてを負担し、後者であればその一部を負担するのみとなっている。これは、論 文を作成し、成果社会に公開することを前提として、料金の一部を施設が負担す るものである(表 16・表 17)。
施設にとっては外部利用者のために便宜を図っているわけであるが、それに よって施設を利用した成果(論文や開発した製品)が社会に還元される考え方に 基づいている。共用サービスの具体的な内容については、初めてのユーザーであ れば、試料測定のために NMR を使うことが妥当であるか、測定に必要な資料を そろえられるかについてのサービス的な業務から、実際に測定に来たユーザー に対して測定方法や具体的な測定に対する補助や助言、さらには測定されたデ ータをどのように解析するか、いわば一部共同研究的な位置づけとされる業務 も存在する。これらは主として上述したコーディネータが担当し、タンパク質解 析、化合物・天然物解析、材料解析等の分野毎で担当分けをして分担している。
表 16 理研NMR施設の外部共用の利用体系
成果占有利用 成果非占有利用
利用料 徴収 徴収
研究成果の 取り扱い
排他的 非排他的
利用者 誰でも
(インダストリ中心)
誰でも
(アカデミア中心)
出典:(理化学研究所NMR施設 2017)
URL: http://www.ynmr.riken.jp/use/apply.html をもとに筆者作成
また図 23で示すとおり、施設が持つマシンタイム(NMR 装置を実験に使用 することができる時間)のうち約三割が外部共用に供されている。
図 23 理研NMR施設の外部共用の利用形態
(2013~2015年)
出典:(理化学研究所NMR施設 2018) 表 17 理研NMR施設における利用料金
成果占有利用 成果非占有利用
MHz 1週あたり 1日あたり 1時間あたり 1週あたり 1日あたり
600MHz ¥548,000 ¥110,000 ¥13,800 ¥238,000 ¥48,000 700 MHz ¥653,000 ¥131,000 ¥16,400 ¥278,000 ¥56,000 800 MHz ¥759,000 ¥152,000 ¥19,000 ¥316,000 ¥64,000 900 MHz ¥865,000 ¥173,000 ¥21,700 ¥356,000 ¥72,000
出典:(理化学研究所NMR施設 2016b)
URL:http://www.ynmr.riken.jp/apply_inform/fee.html をもとに筆者作成
表 18 理研NMR施設における外部共用リスト
(平成27年度)
No. 利用区分 法人名 課題名
1 トライア
ル利用
LIXIL 技術研究本部 分析・評価センター
機能性添加剤の結合状態の構造解 析
内部利用 トライアル利 58%
用 13%
外部共用 25%
その他 4%