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第4章 【第1研究】人材育成に対する外国人社員のコンフリクトとその対処方法

4.1.1 A 社の企業概要

A社は、人口約3万人の都市である福岡県U市に本社を置く。1948年創業、産業用機械 の製造、販売を行っている。従業員数は約230名であり、本社の従業員の平均年齢は、男性 42歳、女性37歳である。

4.1.2 A社の経営方針と外国人社員の採用

海外市場の開拓のために外国人社員の採用を始めた。中国籍の場合、中国に生産工場があ るため、現場の指揮監督や本社との調整を担当するため採用されている。南アジア、アフリ カ等、ターゲットとしている国や地域の外国人留学生を採用している。外国人留学生が日本 に定住希望なのか、海外へは出張が良いか定住がよいのかというような雇用管理について模 索段階であった。

4.1.3 外国人社員の採用と離職の状況

これまで雇用した外国人社員の累積人数は30名程度である。外国人社員は、製造、管理、

営業などの部門に配属されている。日本国内や海外の現地で採用を行い、新卒採用、中途採 用両方で外国人社員を雇用している。新卒採用として外国人社員を採用した実績は13名で、

その内6名が現在働いている。その内、留学生の新卒採用実績は10名である。10年以上勤 めている外国人社員は、中途採用や現地採用者を含めて在籍していない。

表 4.1は、A社の各年度に採用した外国人社員および日本人社員の人数とその退社人数で ある 15。外国人社員の数値は、現地採用者、本社での新卒採用者、中途採用者の合計人数で ある。日本人社員は新卒採用者と中途採用者の合計人数である。

2010年度には、新卒採用で外国人社員を4名採用しているが、その全員が2013年5月時 点で離職している。一方、同年に採用した日本人社員3名は全員在籍していた。2011年度は、

インド、セネガルの外国人社員を新卒採用し2名とも調査時点において在籍していた。同年 の日本人社員の場合では4名採用し、その内1名が離職している。2012年度は、現地採用と いう方法により中国で3名の外国人社員を採用し、本社では韓国出身の2名とバングラディ シュ出身の1名を新卒で採用した。本社で採用した韓国籍の外国人社員1名が離職し、調査 時点において、韓国とバングラディシュ出身の外国人社員の各1名が在籍していた。一方、

日本人社員は新卒および中途採用を含め14名採用し、そのうち2名が離職し12名が在籍し ている。2013年度には中国籍の外国人社員1名を新卒採用し、日本人社員を3名新卒採用し ている。

表4.1 A社の外国人社員および日本人社員の採用と離職状況

以上のデータから、A社では、2010年度から 2013年度までに外国人社員を13名採用し ており、そのうち6名が離職している。このことから外国人社員の離職率が46.2%であると 言える。一方、日本人社員の場合は24名採用し、そのうち3名が離職していることから、離 職率が12.5%であると言える。したがって、外国人社員の離職率が日本人社員の離職率に比 べて高いことが分かる。

4.2 研究方法

A社では外国人社員の離職率が高いことから、4つの調査を実施した。1つ目の調査は、外 国人社員の上司に対する個別インタビューである。2 つ目の調査は外国人社員への個別イン タビューである。3 つ目の調査は外国人社員と同期の日本人社員への個別インタビューであ る。そして、4 つ目の調査は外国人社員と日本人上司を合わせた合同インタビューである。

調査は2013年4月~9月の期間に実施した。

・調査1 日本人上司への個別インタビュー

・調査2 外国人社員への個別インタビュー

・調査3 外国人社員と同期の日本人社員への個別インタビュー

・調査4 外国人社員と日本人上司を合わせた合同インタビュー

4.2.1 調査の手続き

筆者から各企業の人事課に対して、研究目的、方法、倫理的配慮などを記述した研究計画 書を提出し調査の依頼を行った。その後、人事課および事業戦略部の担当者に直接会い、研 究計画書の他、ガイドラインを渡して調査趣旨の説明を行った。その後、内部で検討しても らい調査協力の承諾を得た。

4.2.2 倫理的配慮

筆者から各企業の人事課に対して調査の趣旨と共に、倫理的配慮に関する説明を行った。

調査実施時には、調査対象者に対して再度、口頭で調査目的やデータの収集目的や使用範囲・

方法について説明し調査の同意を得た。

年度 2010 2011 2012 2013 合計 入社人数 4 2 6 1 13

中国3 インド 中国3 中国 台湾1 セネガル 韓国2

バンクラディシュ1

6 46.2%

入社人数 3 4 14 3 24 3 12.5%

2 0

国籍別 内訳

退社人数 0 1 2 0

外国人 社員

日本人 社員

退社人数 4 0

インタビューで使用するガイドラインは、事業戦略部の担当者を通して事前に対象者へ送 付しインタビュー当日に持参するよう依頼した。回答しにくい点は回答不要であることを伝 えた。

合同インタビューでは外国人社員の個別インタビューの語りを資料として使用した。個別 インタビューの内容を資料とする旨は、事前に人事課を通して本人の許可を得た。その後、

資料を本人に調査趣旨に関する説明およびインタビューデータを送付し、確認・修正依頼を 行い、返信をもって同意の意志を確認した。また、合同インタビュー時に、調査趣旨を説明 し、直接本人から許可を得た。配布した資料は調査終了後、調査者が回収しシュレッダーで 裁断した。

4.3 調査内容

4.3.1 調査1:日本人上司に対する個別インタビュー

対象者へは、ガイドラインを使用した半構造化インタビューを行った。筆者から日本人上 司への質問は、「外国人スタッフと一緒に働いてみてどうですか」などのオープンエンドによ る質問を行った。

表4.2のように、日本人上司へのガイドラインは、主に勤務年数、外国人部下を持つ経験 年数、海外渡航や外国人との接触経験、外国人部下の働き方への満足度、外国人社員の定着・

活躍に関する内容であった。外国人部下の働き方への満足度は4段階の回答方式であり、当 てはまるものに丸をつけてもらった。また、外国人社員の定着・活躍に関する質問は、「ご自 身の経験から,日本企業で留学生が定着・活躍していくために日本企業が取り組 んでいくべ きことは何だと思いますか」と質問を記載した。

4.3.2 調査2:外国人社員に対する個別インタビュー

対象者へは、ガイドラインを使用した半構造化インタビューを行った。筆者から外国人社 員への質問は、「日本人スタッフと一緒に働いてみてどうですか」などのオープンエンドによ る質問を行った。

外国人社員へのガイドラインの内容は、年齢、最終学歴、異動の経験、仕事に対する満足

表4.2 外国人社員と日本人上司へ使用したガイドラインの内容

度、外国人社員の定着・活躍に関するものである(表4.2)。仕事に対する満足度は、4段階 の回答方式であった。外国人社員の定着・活躍についての質問は、「ご自身の経験から、日本 企業で留学生が定着・活躍していくために日本企業が取り組んでいくべきことは何だと思い ますか」と質問を記載した。インタビューは日本語を使用し、1名ずつ60分程度行った。

4.3.3 調査3:外国人社員と同期の日本人社員に対する個別インタビュー

インタビューの方法は半構造化インタビューである。インタビューでは、ガイドラインを 使用せず、就職活動の時期から現在までの職場のできごとを時間軸に沿って尋ねた。調査対 象者には自由に発言をしてもらった。調査対象者が体験を語る際には、そのときの職場の状 況や当時の気持ちを尋ねた。インタビューは1名ずつ60分程度行った。

なお、調査対象者である同期の日本人社員には、インタビューの語りに影響を与えること を避けるために、調査趣旨を伝える際、外国人社員が職場のどのようなことに葛藤や困難を 抱いているのか具体的なことは伝えなかった。

4.3.4 調査4:外国人社員とその上司への日本人上司への合同インタビュー

合同インタビューでは、個別インタビューの結果のうち、外国人社員のコンフリクト状況 と日本人上司が考える指導方法が分かる語りを整理したものを資料として使用した。

合同インタビューを開始する際には、調査者からOJTに関してコンフリクト状況があるこ とを説明し、その状況に対して話し合ってもらいたい旨を伝えた。また、インタビュー中で の対話では、相手の意見を批判する発言はしない等、協調的な対話を行うよう依頼した。

調査者は、外国人社員が分からない言葉を簡単な日本語で説明することや、外国人社員の 言葉の不足を補足するなど、対話が円滑になるよう言語上のサポートを行った。また、外国 人社員と日本人上司の会話の中で不明な点を尋ねるなどしたが、会話に入らないように極力 心がけた。

なお、個別インタビュー後に国際営業部の外国人社員が退職したため、合同インタビュー は開発部と部品部の2組で実施した。国際営業部の日本人上司に対しては、外国人社員の葛 藤状況が分かる語りが整理された資料を用いたインタビューを実施した。インタビューの時 間は60分程度である。

質問項目 外国人社員への質問項目 日本人上司への質問項目

・年齢 ・年齢

・性別 ・勤務年数

・最終学歴 ・性別

・勤務年数 ・外国人部下を持つ経験年数

・異動の経験 ・海外渡航や外国人との接触経験

・仕事に対する満足度

(とても満足、どちらかと言えば  満足、どちらかと言えば不満足、

 不満足の4段階回答)

・外国人部下の働き方への満足度

(とても満足、どちらかと言えば  満足、どちらかと言えば不満足、

 不満足の4段階回答)

基本情報の 収集に使用し

た項目

自由応答で 使用した項目

・外国人社員の定着・活躍についての質問

 「ご自身の経験から、日本企業で留学生が定着・活躍するために日本   企業が取り組んでいくべきことは何だと思いますか。」