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第8章 【第4研究】外国人社員の「職場における学習」に対応する大学教育

8.1 研究方法

8.6.1 大学教育に関する質問項目の記述統計と相関係数

8.6 「直接相談型」、「観察・模倣型」、「分析・論理型」と大学教育の関連

表 8.17 相関係数行列

目との重回帰分析を行った結果を述べる。分析を行った結果、変数は抽出されなかった。こ のことより、専門科目の講義型授業も演習型授業も影響を与えていないことが示された。最 後に、卒業研究との重回帰分析を行った結果を述べる。分析を行った結果、「卒業研究」が抽 出された。また、ダミー変数である性別、学年、大学、国籍についても抽出されなかった。

したがって、性別、学年、大学、国籍間の違いがないことが示された。以上の分析結果から、

「卒業研究」からの影響を与えていることが明らかとなった。

次に「観察・模倣型」の結果について説明する。大学教育科目と重回帰分析を行った結果

「教養教育科目の演習型授業」と「学年」が抽出された(表8.19)。しかし、調整済みR2は、.167 であり、.200を超えていないことから、この式では十分に説明できないことが示された。ま た、専門科目や卒業研究では抽出されなかった。その他のダミー変数との関係も見られなか った。

最後に「分析・論理型」との重回帰分析を行った結果について説明する(表 8.20)。教養 教育科目との重回帰分析を行った結果、ダミー変数として入れていた「学年」が抽出された。

しかし、調整済み R2が、.154であり、.200 よりも低い数値であったことから十分に説明で きないことが示された。専門科目との重回帰分析を行った結果、変数は抽出されなかった。

卒業研究との重回帰分析を行った結果、変数が抽出されなかった。専門科目と卒業研究の重 回帰分析からは、ダミー変数である性別、学年、大学、国籍についても抽出されなかった。

したがって、大学間の違いがないことが示された。

以上の分析結果から、「観察・模倣型」と「分析・論理型」は大学教育との関連が見られな いこと示された。また、アルバイトの項目が抽出されなかったことから、アルバイトとの関 連も見られないことが示された。

アル バイト 直接相談型 1 .454 ** .538 ** .151 .311 * .254 .296 * .623 * .231 観察・模倣型 .454 ** 1 .374 ** .317 * .444 ** .304 * .325 * .258 .264 分析・論理型 .538 ** .374 ** 1 -.021 .164 -.005 .101 .466 -.122 教養教育

講義型授業 .151 .317 * -.021 1 .254 .515 ** .221 .454 .213 教養教育

演習型授業 .311 * .444 ** .164 .254 1 .171 .639 ** -.015 .150 専門科目

講義型授業 .254 .304 * -.005 .515 ** .171 1 .406 ** .620 * .123 専門科目

演習型授業 .296 * .325 * .101 .221 .639 ** .406 ** 1 .163 -.001

卒業研究 .623 * .258 .466 .454 -.015 .620 * .163 1 -.246

アルバイト .231 .264 -.122 .213 .150 .123 -.001 -.246 1

**p.01 *p.05 直接 相談型

観察・

模倣型

分析・

論理型

教養教育 演習型授業 教養教育

講義型授業 専門科目 卒業研究

演習型授業 専門科目

講義型授業

表8.18 「直接相談型」に影響を与える大学教育

表8.19 「観察・模倣型」に影響を与える大学教育

表8.20 「分析・論理型」に影響を与える大学教育

8.7 考察

外国人社員の「職場における学習」にはどのような学習タイプがあるのかを明らかにする ために、事例研究で明らかになった外国人社員の行動と、同期の日本人社員や日本人上司の 語りより得られた仕事の学び方を質問項目として、日本人と一緒に活動や活動をする時の行 動や対処に関する質問項目を作成し因子分析を行った。その結果、3つの因子が得られ、「直 接相談型」、「観察・模倣型」、「分析・論理型」と命名した。

そして、この3つの学習タイプと大学教育がどのように対応しているかについて分析した。

大学教育の項目は、教養教育(講義型授業と演習型授業)、専門科目(講義型授業と演習型授 業)、卒業研究の5つを使用した。また、仕事と関連が見られるアルバイトを項目に追加した。

その結果、「直接相談型」には卒業研究が影響を与えていることが明らかとなった。また、「観 察・模倣型」と「分析・論理型」に影響を与えるものは確認されなかった。

では、なぜ卒業研究は影響を与える項目として抽出されたのだろうか。「直接相談型」は次 の4つの因子から構成されている。まず1つ目は「日本の文化にストレスを感じたら、活動

説明変数 β 説明変数 β

教養教育 演習型授業 .598** 卒業研究 .598**

R2 .087 R2 .357

Adj. R2 .068 Adj. R2 .304

**p.01 *p.05

N=45 N=14

説明変数 β

教養教育 演習型授業 .382**

学年 .330**

R2 .204

Adj. R2 .167

**p.01 *p.05

N=45

説明変数 β

学年 -.413**

R2 .171

Adj. R2 .154

**p.01 *p.05

N=45

や仕事と関係のない日本人に相談する」であり、2 つ目は「日本の文化にストレスを感じた ら、同じ活動をする日本人に相談する」であり、3 つ目は「日本の文化にストレスを感じた ら、同じ活動をする外国人に相談する」であり、4 つ目は「日本の文化にストレスを感じた ら、異文化が分かる日本人に相談する」であった。このように「直接相談型」は、日本の文 化に対するコンフリクトについて、様々な他者に相談することで適応するという方法が集約 されている。

このような学習スタイルに影響を与えている卒業研究とは、自分でテーマを決めて年間を 通して論文を書くという作業であり、そこでは学生の主体性が求められる。ディスカッショ ンや発表など主体性を求められる教育内容はあるものの、1 年を通という長期にわたり主体 的に課題に取り組むことは、大学教育の卒業研究において初めて経験するものと考えられる。

そのため、卒業論文を作成する過程では、多くのコンフリクトが起こるものと考えられる。

具体的には、就職活動や課外活動との両立や卒業論文の執筆に関わる文献調査や指導教員か らの指導などが例として挙げられる。こうした中、指導教員や同じ研究室の友人や先輩等に、

卒業研究に関する悩みやストレスを聞いてもらうことは学生生活において大いに考えられる 行為である。つまり、留学生は卒業論文を作成する過程で発生する作業や困難を通して、周 囲の支援を得るというコンフリクトへの対処力を養っているものと考えられる。特に、卒業 論文を書く作業は、卒業要件に関わるものであり、自己責任の下に執筆が進められるという 特徴を持つ。こうした特徴は、職場で仕事を任されることや、担当業務に責任を持って遂行 する行為とも類似することから、卒業研究という項目が「直接相談型」に影響を与えている ことが推察される。

以上のことを考慮すると、コミュニケーションを要する科目からの影響もあると考えられ るが、なぜ「観察・模倣型」と「分析・論理型」は大学教育のいずれの項目とも対応してい ないのだろうか。その理由については3つのことが考えられる。

まず 1つ目の理由は、異文化に関連した授業が高学年では実施されていない点である。分 析結果ではダミー変数として入れていた「学年」がわずかながら抽出されたことから推察さ れる。「観察・模倣型」の結果では「学年」のβが、.330 であった。このことから学年が上 がるほど、「観察・模倣型」の学習スタイルが強まることが示される。一方、「分析・論理型」

の結果では「学年」のβが、-.413 であった。このことから学年が上がるほど、「分析・論理 型」の学習スタイルに影響しないことが示される。

D大学やE大学の教育カリキュラムを見ると、異文化に関連した授業や自分自身について 考える機会を持つ内容が盛り込まれている授業は主に教養教育の1年次に実施されていた。

具体例には、D大学ではキャリア開発に関する科目が1年次に実施されており、E大学では 新入生ワークショップという演習型の科目がそれに該当する。そして、異文化に直接関連す る科目は、こうした1年次に実施される科目以外の2年次以降のカリキュラムでは見られな かった。つまり、自分自身で考え、コミュニケーションを取りながら学習するという科目が 限られていることが、「観察・模倣型」と「分析・論理型」が大学教育のいずれの項目とも対 応しないことの背景にあるものと推察される。

2 つ目の理由は、滞在期間が長いほど日本社会や大学生活にも慣れ、異文化について考え

る機会が減ることである。「観察・模倣型」は、4 つの因子から構成されている。1 つ目は、

「活動や仕事のやり方は、自分でやりながら覚える」であり、2 つ目は「分からないことは 一緒に考えてもらうよう先輩や上司に頼む」であり、3 つ目は「先輩や上司の行動を見てや り方を学ぶ」であり、4 つ目は「活動や仕事のやり方は、先輩や上司との会話からやり方を 学ぶ」である。これらの行為は、周囲の行動を見て観察し知識として取り入れる行為である と考えられる。大学生活を考慮すると、大学に入学したばかりの時期は日本社会での生活を はじめ、大学生活へ慣れることなど様々なカルチャーショックを受けることが考えられる。

しかし、ある程度滞在年数が長くなると状況に適応するようになる。そのため、滞在年数が 長ければ長いほど「分析・論理型」という行為をする機会や考える機会が少なくなることが 考えられる。また、その社会や生活に適応するということは、その社会にある価値や規範に 対応できるようになる。つまり、その社会に合った行動を取れるようになることから、「観察・

模倣型」のような学習スタイルが身につくようになるものと考えられる。

「分析・論理型」は4つの因子から構成されている。1つ目は、「日本の文化にストレスを 感じたら、異文化が分かる外国人に相談する」であり、2 つ目は「活動や仕事のやり方は、

マニュアルを読んで仕事を覚える」であり、3 つ目は「仕事上の不満は新しい提案や別の方 法で解決する」であり、4 つ目は「日本の文化にストレスを感じたら、活動や仕事と関係の ない外国人に相談する」である。これらの行為はコンフリクトのある状況を分析し論理的に 対応しようとする行為であった。つまり、コンフリクトが起こる状況がないと発生しない行 為である。また、「分析・論理型」を構成する因子は、客観的情報の中から新しい提案を生む と解釈することもでき、こうした行動は研究者の行動とも類似していることが考えられる。

こうした「分析・論理型」が卒業研究と関連が見られなかったことには、調査時期とも関係 していると考えられる。調査を行った6月の段階では、D大学の卒業研究は、まだ全体構成 を検討している段階であった。つまり、「分析・論理型」という行動がまだ養われていない段 階であったと考えられる。