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第3章 先行研究・研究課題・研究方法

3.1 外国人社員の就業に関する先行研究

3.2.1 トランジション(移行)アプローチ

わないことが指摘されている。しかしながら、人材育成という観点からコミュニケーション を捉えた研究は見られない。

日本企業の人材育成は、一般的にOJTとOff-JTに分類される。その中でもOJTは「上司 が部下の職務に必要な能力(知識・技能および態度)の向上・改善を目的として、仕事を通 じて行う、計画的・合目的的・継続的かつ組織的な教育活動(桐村2005;42)」と定義され ている。「合目的的」とは、上司が部下の現状を見て、職務に必要な能力の中でも特に重要な ものについて重点的に開発していくことである(桐村2005)。つまり、OJTとは仕事に即し て能力開発を行うものであるが、上司の計画や現状への評価を通じて継続的に実施されるも のであると言える。すなわち、OJTでは仕事を通じて上司と多くのコミュニケーションが行 われることになる。外国人社員の上司が日本人である場合、OJT でのコミュニケーションは 異文化間のコミュニケーションとなる。

前述のように、日本企業で働く外国人社員には日本人とのコミュニケーションにコンフリ クトがあることが示されたが、外国人社員はOJTの中で行われる異文化間のコミュニケーシ ョンに対してコンフリクトを抱いていることが示唆される。そのため、人材育成という観点 から外国人社員と日本人社員のコミュニケーションを調査する必要があり、外国人社員のコ ンフリクトへの対処方法について明らかにする必要であると考えられる。

3.2 大学教育と仕事の接続に関する先行研究

処療法的にプログラムを実施するのではなく、これまでの正課内活動における育成を見直す、

もしくは正課内活動と連携を図るべきだと主張している。

こうした議論の中、大学時代の人間関係と企業への組織適応の関係を検討した研究がある

(舘野2014)。この研究では、大学時代の人間関係の指標に「大学生活の重点尺度」「大学時 代に自分の成長に影響を与えた人物」を用い、30~499名及び500名以上の従業員がいる会 社を対象とした 25~29歳の 1,000名を対象として調査を行った。この調査結果によると、

大学生活の人間関係で「豊かな人間関係」に重点をおいて過ごしていた人は、「クラブ活動第 一」「趣味第一」「何事もほどほどに」という過ごし方をしている人よりも組織適応で必要な

「政治人間関係の知識」を獲得していることが明らかとなった。また、大学時代の成長に影 響を与えた人と組織適応の関係を見た分析結果からは、同期以外の人間関係から成長を得た 人が、同期から成長を得た人よりも、組織適応に必要な「組織全体の知識」を獲得している ことが明らかとなった。したがって、この研究は大学生活における「異質な他者」との関係 が組織適応に影響を与えることを指摘している。

このように、トランジションアプローチに基づく SWT 研究では移行する学生の早期離職 や組織適応を射程にし、大学教育のあり方について議論している。

しかしながら、こうした就業で起こる問題や就業先での成長と大学の正課内活動との関係 についてはほとんど取り扱われていない。インターンシップや人間関係などの正課外活動へ の言及はあるが、正課外活動まで大学教育が踏み込むことは困難である(木村 2014)。大学 の教育改革によって授業内容や指導内容を改善することができる正課内活動について再考す る必要があると考えられる。

3.2.2 レリバンス(接続)アプローチ

レリバンスとは、二社間の関連性、適合性や妥当性を指す。すなわち、大学教育と職業の レリバンス研究は、大学教育が職業に役立つか否かを論じるものである(小方 2011)。その ため、リバンス研究では、大学教育と職業との関係、大学組織と労働市場との関係、大学の 教育課程ごとに研究対象を分けて分析されている。

看護士という職業に着目した平田・長江(2013)は単科4年制看護大学の4年生を対象に、

就業レディネスと進路決定時期、就職に関する学習状況との関連について検討し職業レディ ネスを高めるための支援について検討した。積極的に学習をするグループは職業レディネス が高いことを明らかにした。看護実践で現実を肯定的にフィードバックし、葛藤や不安を乗 り越えられるよう導く支援、看護職に高い価値観を見出せる教育内容、キャリアデザインを 描けるよう就職先に関する学習を促す支援が必要であると指摘した。

大学組織と労働市場との関係について検討した吉本・米澤(2011)は、国立大学と私立大 学の就職指導について、就職経路、就職指導組織、就職機会と就職指導、就職指導と情報の 流通という側面から分析を行った。日本労働研究機構が1991年に全国の総合大学222校を ある。「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力から構成されてお り、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」である。詳細

対象に実施した「大学就職指導組織調査」について分析を行った結果、次の3点を明らかに した。1 点目は、就職指導のための活動として、企業開拓をする活動があり、国立大学と私 立大学との間にはこの活動への差が大きく就職指導への熱心度に断絶がある点である。2 点 目は、組織的指導を経由した就職が文科系の場合、私立大学に限定している点である。3 点 目は、私立大学では私立大学間での情報の作成や提供のための連携がある点である。同じ大 学でも国立大学と私立大学とでは組織的にまったく異なる展開をしていることを明らかにし た。

このようにレリバンス研究においては、大学教育と職業との関連について検討している。

しかしながら、これらの研究では、大学教育と職業上の要求能力を同一視せずに、大学教育 は職業とどう対応し得るかに着目しており、学問と仕事との間には様々なつながりが想定さ れることを検討していないため、レリバンスのある教育という視点のもと、よりミクロレベ ルにおいてレリバンスを検討する必要があることが主張されるようになった(小杉2007、小 方2011)。

近年では、大学教育と仕事との関係を繋げる新たなものとして、個人の「エンプロイアビ リティ」が注目されつつある。「エンプロイアビリティ」とは、「雇用される能力」と一般的 に訳される(山本 2014)。エンプロイアビリティは、労働者は企業への依存心を捨て、自ら の責任において職業に関するマインドとパワーを身につけ、企業は社会的役割の履行という 観点からも可能な限り従業員の雇用保証に尽力することが必要である趣旨と理解されている

(梅澤2001:148)。

こうしたエンプロイアビリティに着目する実証研究では、大学生のエンプロイアビリティ について検討した研究(寿山2012)や経済産業省が2006年に提唱した「社会人基礎力」と 大学教育について検討した研究(木村2014)がある。

寿山(2012)は、大学生のエンプロイアビリティを「学生が卒業後、その適性・能力にふ さわしく、持続可能で満足し得るような雇用を獲得するための能力を中心とした特性」(須山

2012:34)と定義し、経済産業省の社会人基礎力と関連させた大学生のエンプロイアビリティ

の尺度を作成した。日本労働研究機構(2003)9の72項目、経済産業省(2006)10社会人基 礎力に含まれるストレスコントロール、厚生労働省(2004)11で上位項目であるビジネスマ ナーや就業意識、労働観、体力に関する項目、浦上(1995)12の進路選択に対する自己効力 尺度を使用し、因子分析を行い、その結果と経済産業省の社会人基礎力の要素「前に踏み出 す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)との比較を行った。

そして社会人基礎力の構成に対応した大学生の企業就職能力尺度を作成した。

また、個人の能力に注目するようになったのは企業側にも見られるとした小杉(2007)は、

「人柄」に対する意識が高い学生ほど内定を獲得していることを明らかにし、「人柄」に対す

9 日本労働研究機構(2003)『組織の診断と活性化のための基盤的尺度の研究開発―HRMチ ェックリストの開発と利用・活用』調査研究報告書,No.161.

10 経済産業省(2006)社会人基礎力に関する研究会「中間とりまとめ」

11 厚生労働省(2004)『若年者の就職能力に関する実態調査結果』

12 浦上昌則(1993)「進路選択に対する自己効力と進路成熟の関連」『教育心理学研究』第

る企業の評価が高いことを示した。そして、正課外活動に頼るところが多い「人柄」の育成 を、教育プログラムに取り込むことを提案している。

このような個人の能力が、大学教育の中でどのように育成されているのかについて検討を 行った研究(木村2014)がある。この研究では、大学教育における正課内活動や正課外活動 に視点を当て、これらがどのような社会人基礎力を育成するのかについて調査した。社会人 基礎力との関連については、自己を成長させた正課内活動において身についた能力を尋ねた 回答を分析した。その結果、正課内活動の全般において、社会人基礎力が身についているこ とを明らかにした。また正課外活動も社会人基礎力が獲得されており、正課内活動よりも正 課外活動で多く獲得されていることが明らかとなった。こうした結果を受け、正課外の様々 な活動に取り組むなかで、主体的に学ぶ態度を身につけることができるよう支援することが キャリア教育として効果的であること、正課内活動は正課外活動での学習に目も向け、正課 外活動での学習姿勢を促すような授業方法や授業内容に改善することを指摘している。

このように、レリバンスアプローチによる SWT 研究は、職業や労働市場との対応のあり 方がどのようになっているのかを検討する研究の他、大学教育が職業に直接役立つべきとい う風潮や政府の方針により、レリバンスのある教育の在り方について議論されるようになっ た。そして、大学と職業を繋ぐ新たな個人の能力が注目され、大学の正課内活動や正課外活 動とどのような関連があるのかを検討することで、具体的な大学の教育プログラムのあり方 について言及されている。

以上、SWT研究についてトランジションアプローチとレリバンスアプローチについて概観 した。トランジションアプローチでは、実際に現場で起こっている就業課題から大学教育へ 提言を行っている。実践的課題について明確にしているものの大学教育とどのように対応し ているのかは検討をしていなかった。一方、レリバンスアプローチでは、正課内活動や正課 外活動といった具体的な大学教育と職業や社会人基礎力との関連を検討しているが、就職先 で起こる就業課題との関連は検討されていなかった。

つまり、就職先で起こる就業に関する課題に基づいて教育現場へ求められる教育内容が、

大学教育とどのような対応関係があるのかについて検討されていないことが示される。

3.2.3 異文化アプローチ

前節において、外国人社員の就業に関する研究について概観したが、日本人社員と外国人 社員の間に文化の相違によるコンフリクトがあることは、多数指摘されている(矢島 2006、 近藤2007、則定他2010)。田崎他(2011)は、職場での異文化コミュニケーション摩擦が起 こる状況に対して、文化間移動によって生ずる文化的摩擦や、対立、葛藤等を自己中心的な 解釈にとどめることなく、他者との相互作用を通して捉えられるようにする教育的支援が求 められると指摘している。

留学生を対象とした SWT 研究は、日本企業への就職後の就業課題に着目した研究が多く なされている。外国人社員の就業課題を明らかにすることにより送り出す側である大学の教 育に還元する議論が進められている。

就職後における就業に関する大規模な調査と教育開発が2006年から2011年にかけて経済