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第9章 結論

9.2 総合考察

9.2.1 留学生の学習スタイルと外国人社員の「職場における学習」

前述のように、他者支援を得て内省的観察を行うことが外国人社員の「職場における学習」

を促進する要因であり、そうした行動は「直接相談型」、「観察・模倣型」、「分析・論理型」

という3つの学習スタイルに分かれることが示された。こうした留学生の学習スタイルは「直 接相談型」、「観察・模倣型」、「分析・論理型」の3つあることが示されたが、それぞれを構 成する因子項目を見ると「観察・模倣型」は日本人上司や外国人社員と同僚の日本人社員が 取る行動のみで構成されていた。このことから、外国人社員に「観察・模倣型」という学習 スタイルがあるものの、そうした学習スタイルが実際の職場ではあまり使われていないこと が予測される。

では、なぜ「観察・模倣型」の学習スタイルが外国人社員に見られなかったのだろうか。

その理由は2つあると考えられる。まず1点目は、状況に対する認識や解釈が異なることが 考えられる。A 社での事例では、コミュニケーションをベースとした教育方法に対する外国 人社員の認識が実際に企業にある人材育成体制と異なっている状況が示された。つまり、観 察しようとしても状況に対する認識が異なることが起こるため、「観察・模倣型」という学習

スタイルがコンフリクトへの対処方法として取り入れられないものと考えられる。

日本人の行動を模倣して学習するという行為は、本研究においては観察されなかったが、

池田(2015)の調査では観察されている。この調査結果では、外国人社員は同期の日本人社 員とのコミュニケーションを通して同期の日本人社員の振る舞いを学習していることが指摘 されている。この結果から、「観察・模倣型」という学習スタイルにより外国人社員は、日本 人社員が行うコミュニケーション行動を取り入れることが示される。つまり、「観察・模倣型」

という学習スタイルが活用される目的が、仕事のやり方を学び取ることではなく、日本人の コミュニケーション行動を習得するためという目的で用いられていることが考えられる。

2 点目は、外国人社員の職務内容である。外国人社員が採用される理由は、職場のダイバ ーシティを促す他に、企業の海外事業に関する展開がある。A 社の場合は海外への市場拡大 が目的で留学生を採用しており、B 社の場合は日本国内の海外顧客に対する事業展開が目的 であり、C社の場合はC社に入学する留学生へのサービス向上のためであった。このように、

各企業の事業展開は異なるものの、外国人社員を採用する理由は、海外に関する事業の開始 や拡大であり、職務内容は共通して海外に関連するものであった。こうした海外事業に関す る業務は、新しく展開するものが多く、これまでに前例がないものが多い職務内容であった。

開発部で働く外国人社員の場合も、新しいものを生み出すような職務内容であった。このよ うに外国人社員の担当する仕事内容は、必ずしも誰かの真似をして得られるものではなく、

自分の力で構築していくことが望まれる職務内容であることが要因の1つとして考えられる。

留学生を対象とした質問票調査からは「観察・模倣型」という学習スタイルがあるにも関 わらず、外国人社員に「観察・模倣型」の学習スタイルが見られなかったのは、以上のよう な理由があることが考えられる。

9.2.2 「職場における学習」の育成に向けた大学教育における支援・教育とは

次に「直接相談型」、「観察・模倣型」、「分析・論理型」という学習スタイルと大学教育と の関連を検証したところ、「直接相談型」のみ卒業研究との関連が見られ、「観察・模倣型」

と「分析・論理型」という学習スタイルは大学教育との関連は見られなかった。

では、大学教育では日本企業に就職する留学生のために今後、すべての学習スタイルを育 成しなければならないのだろうか。それとも、いずれかの学習スタイルを重点的に育成すれ ば良いのだろうか。

「直接相談型」という学習スタイルは、同じ活動をする日本人や外国人の他、活動に関わ りのない日本人に相談する行為であることから、仕事の関係者やその組織を構成する日本人 から情報を収集しコンフリクトに対処する方法であることが分かる。菅長・中井(2015)は 外国人社員が日本企業で活躍するための鍵は、文化の差異に柔軟に対応し、積極的に文化間 の調整行動を起こすことで相手とつながろうとする外国人社員の行為であると述べている。

「直接相談型」という学習スタイルを照らし合わせると、活動の関係者の他、日本人を中心 に情報を収集する方法は、菅長・中井(2015)が述べるような、文化の差異に柔軟に対応し ようとするために必要な情報を収集する行動であると考えられる。

また、こうした行動は、職場での指導で起こるコンフリクトを解決するための有効な手段

である他に、就職したばかりの時期におこるカルチャーショックを乗り越えるための有効な 方法であるとも考えられる。本研究の事例で取り上げたA社やB社、C社が教育方法の一環 として「いつでも相談できる環境」を設けていた。そして一般的に日本企業ではOJTという 方法により「いつでも相談できる環境」を多いことが示されている(桐村 2005)。つまり、

直接相談するという学習スタイルは、日本企業の教育環境と合致しているため、職場の中に ある教育資源を活用できる手法であると言える。また、教育資源を活用できる外国人社員は、

その指導効果により個人の能力が向上することが見込まれる。

以上のことから、「直接相談型」の学習スタイルは、職場における学習として重要な学習方 法であると考えられる。

「観察・模倣型」の学習スタイルは、先輩や上司の行動や会話から仕事のやり方を得る方 法である。このような学習スタイルをとっていたのはA社の外国人社員と同期の日本人社員 であった。同期の日本人社員は、新入社員研修において、行動や会話から学び、わからない ことは一緒に考えてもらうという「観察・模倣型」の学習スタイルで上司からの指導を得る 方法を習得しており、正式に配属された先での指導で起こるコンフリクトを解消し、職場に 適応していた。前述のように、日本人の行動を模倣して学習するという行為は、上司から仕 事のやり方を学び取るのではなく、日本人のコミュニケーション行動を取り入れることが目 的であることが示された。こうした行動は、日本人と類似のコミュニケーション行動を取る ことからコミュニケーション摩擦が減るものと考えられる。しかしながら、あまりに日本人 と同じような行動を取ってしまうと同化的な行為とも考えられ、日本企業が留学生を採用す る目的の1つである「ダイバーシティー戦略30」とは違うものになってしまうことが予測さ れる。つまり「職場における学習」の定義である、組織の向上に貢献するという点において 合致しないことが示唆される。

「分析・論理型」の学習スタイルは、客観性のある立場からの情報にもとづいて対処や新 しい方法を模索する方法が集約されたものであった。こうした行動は、「職場における学習」

の組織向上と関連するものと考えられる。前述のように、日本企業が外国人社員を採用する 理由の1つに、「国籍に関係なく優秀な人材の確保するため(ダイバーシティー戦略)」とい うものがあり(労働政策研究・研修機構2009)、日本企業が外国人社員を雇用することには、

職場の活性化を図る狙いがあることが示されている。つまり、「分析・論理型」という行動は、

職場が活性化するきっかけとなり組織向上になる行為であることが示唆される。

以上のことを考慮すると、「直接相談型」と「分析・論理型」という学習スタイルを大学教 育において育成することが有効であると考えられる。

では具体的に大学における留学生教育はどのように対応したらよいのだろうか。これまで の留学生の日本企業での就業を見据えた教育のあり方に関する研究では、日本の企業文化、

価値観、雇用慣行に関する研修(経済産業省(2015)や、就業後のための日本的組織の説明・

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