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第3章 先行研究・研究課題・研究方法

3.1 外国人社員の就業に関する先行研究

3.1.1 外国人社員の定着・適応に関する研究

労働政策研究・研修機構(2009)は、日本企業で外国人社員が定着や活躍するために、日 本企業側に必要な取り組みとは何かについて外国人社員の意識調査を実施している。その調 査結果によると、外国人社員から最も回答が多かったのは「日本人社員の異文化理解を高め る」の64.9%であった(図3.1)。また、図3.2のように、同様の調査が日本企業側にも実施 され、日本人の異文化理解を高めることが50.6%で最も高かった。このように、外国人社員 と日本人社員側の双方に日本人側の異文化への理解を高める必要があるという意識があるこ とが示されており、外国人社員と日本人社員とのコミュニケーションに関する課題が定着や 適応の課題になっている。

コミュニケーションに関する研究では、近藤(2007)の研究がある。この研究では、日本 語によるビジネス・コミュニケーションの実態を探るために、量的調査と質的調査の双方を 行うことにより、日本人と外国人のビジネス上の問題点を調査した。量的調査の調査方法は、

関東圏で日本語を使用してビジネス活動に従事している外国人会社員100名に対する質問紙 によるアンケート調査であり、その分析方法は、因子分析である。その結果、ビジネス上の 問題点は「不当な待遇」、「仕事の非効率」、「仕事にまつわる慣行の相違」、「文化習慣の相違」

であることを明らかにした。さらに、文化への違和感は長く滞在しても消えることがなく、

時間が経つことにより顕在化することを示した。これらの結果より、言語そのものの

図3.1 現在の職場への満足度別の定着・活躍するうえで求める施策

独立行政法人労働政策研究・研修機構「日本企業における留学生の就労に関する調査」

(2009; 52)をもとに筆者作成

図3.2 留学生が定着・活躍するうえで企業側が取り組むべき施策

独立行政法人労働政策研究・研修機構「企業における高度外国人材の受入れと活用に関す る調査」(2013; 12)より筆者作成

習得への注目はもとより、その背後にある文化、それも日本の文化のみならず、外国人ビジ ネス関係者の文化の双方に配慮することが求められると指摘した。

さらに近藤(2007)は、日本人の言語行動と心理的側面に着目し、会議の調査を行い、日 本人ビジネス関係者の間では、ある意味自然に営まれている行動が、外国人ビジネス関係者 には理解しくい点を示した。言語行動では外国人ビジネス関係者にとって不明瞭と感じられ る特徴について8点に整理した。また、日本人ビジネス関係者の心理的側面では、心理的に は多文化ストラテジーであっても言語上、同化ストラテジーをとってしまう恐れがあること が示された。そのため、心理的な歩み寄りが言語行動に反映されるには、困難が伴う可能性 があることを明らかとし、日本人ビジネス関係者のコミュニケーションのあり方を再考する ことを提案した。一方で、外国人ビジネス関係者に対しては、歩み寄ろうとする意識が日本 人ビジネス関係にあっても、長年根付いた日本語の言語行動を瞬時に変えることは容易でな いことを理解し、言語行動と非言語行動をよく観察し、異なりとして認め合うことが双方に とって必要であると指摘している。

このように、外国人側が言語以外の問題を抱える背景には日本人側の言語行動に要因があ り、異文化を理解している場合であってもなかなか変えることが難しいことを指摘している。

こうした外国人社員と日本人社員とのコミュニケーションを促進させるための方策について 検討した研究がある。

外国人社員の文化調整行動について検証した菅長・中井(2015)は、留学生が高度人材と して活躍する際にどのような文化的な姿勢や行動が成功要因となっているのかについて調査 している。元国費留学生である外国人社員6名に対してインタビューを実施した結果、留学 中に身につけた「多文化性」があったことを明らかにした。「多文化性」とは、多様な規範が

存在することを認める姿勢であるとしている。こうした「多文化性」は外国人社員のコンフ リクト解消に役立つだけに留まらず、高度人材として活躍する上で要請される能力であると 述べている。このように、留学時代の経験や学びが就職後の就業へ影響を与えていることを 指摘している。

この他に、前章において紹介した、外国人社員の適応・定着と上司の支援との関係を調査 した島田・中原(2014)がある。

以上のように、外国人社員と日本人社員の双方が文化の異なりに対して理解すること、外 国人社員が文化調整力を持つこと、上司から支援を受けることが、外国人社員の定着や適応 の要因であることが示されている。しかしながら、これらの研究では、雇用管理という枠組 みの中で外国人社員と日本人社員とのコミュニケーションを捉えていないため、外国人社員 にコンフリクトが起こるコミュニケーションがどのような雇用管理と関わるのかについては 明らかにされていない。

3.1.2 外国人社員の雇用管理に関する研究

白木(2008)は、日本企業が留学生を採用する目的を「高度技術人材の確保」「ビジネス の国際展開」「企業内ダイバーシティの促進」「ビジネスの特性上の理由」の4つに分類した。

そして海外の日系企業で行われている諸施策に着目し、日本国内の留学生の雇用管理におい ても企業と留学生の間に存在するミスマッチ問題があることを指摘し、留学生が定着するよ うな工夫を行うべきであるとした。その方策として(1)採用の枠組みの拡大とキャリアの多様 性の構築に対する企業の努力、(2)意思疎通の改善と仕事の進め方における企業と留学生の双 方の努力、(3)留学生の離職率が高いという先入観の排除と離職率を下げるための適切な施策 を打ち出すことの3点を示している。

留学生の雇用に着目した守屋(2009)は、独立行政法人労働政策・研究機構が実施した「外 国人留学生の採用に関する調査」の概観と留学生を積極的に採用している1企業を分析対象 とし、日本の留学生の採用・雇用管理のあり方の問題点と課題について検討した。その結果、

企業の雇用管理の課題として、「キャリアの問題」、「労働慣行の違い」、「コミュニケーション の問題」、「生活面の問題」の4つがあることを示した。

外国人社員のキャリア形成に着目した研究では塚崎(2008)がある。この研究では、海外 高度人材の就業実態を調査し、職業キャリアを阻害する要因を明らかにした。調査方法は文 献調査、インタビュー調査、アンケート調査である。その結果、日本の実態について、日本 は高度人材と呼ばれる、専門的・技術分野の外国人の獲得について、国際的な競争に大きく 遅れを取っていること、企業の実態では、企業と専門的外国人の状況から需給が、かみ合っ ていないことを明らかにした。働く外国人のキャリア視点から考察した結果からは、働く外 国人の「日本人化」が余儀なくされているだけではなく、日本の組織は、昇進や組織化に対 して壁があることを示した。それらには、企業が外国人ならではの能力の活用を重視する一 方で、専門的外国人の能力を活用していることに対しての格別の評価をしていないこと、そ してその影響には、企業の就労環境が関わっていることを示唆した。

このように日本企業側の労働慣行や評価制度等の雇用管理が外国人社員のキャリア観と合

わないことが指摘されている。しかしながら、人材育成という観点からコミュニケーション を捉えた研究は見られない。

日本企業の人材育成は、一般的にOJTとOff-JTに分類される。その中でもOJTは「上司 が部下の職務に必要な能力(知識・技能および態度)の向上・改善を目的として、仕事を通 じて行う、計画的・合目的的・継続的かつ組織的な教育活動(桐村2005;42)」と定義され ている。「合目的的」とは、上司が部下の現状を見て、職務に必要な能力の中でも特に重要な ものについて重点的に開発していくことである(桐村2005)。つまり、OJTとは仕事に即し て能力開発を行うものであるが、上司の計画や現状への評価を通じて継続的に実施されるも のであると言える。すなわち、OJTでは仕事を通じて上司と多くのコミュニケーションが行 われることになる。外国人社員の上司が日本人である場合、OJT でのコミュニケーションは 異文化間のコミュニケーションとなる。

前述のように、日本企業で働く外国人社員には日本人とのコミュニケーションにコンフリ クトがあることが示されたが、外国人社員はOJTの中で行われる異文化間のコミュニケーシ ョンに対してコンフリクトを抱いていることが示唆される。そのため、人材育成という観点 から外国人社員と日本人社員のコミュニケーションを調査する必要があり、外国人社員のコ ンフリクトへの対処方法について明らかにする必要であると考えられる。

3.2 大学教育と仕事の接続に関する先行研究