第 5 章 細胞内 Ca 2+ 振動における STIM/Orai 系の関与
5.1 目的
親和性が高い. [Ca2+]ERが高く,EF-hand ドメインに Ca2+が結合していると きには,STIMは単量体として存在している.Ca2+遊離に伴って[Ca2+]ERが減少
すると,EF-handドメインからCa2+が解離して,小胞体内腔側に位置するSAM
ドメインや,C末端側の細胞質側部位に含まれる coiled-coil 領域やプロリンリ ッチ領域を介した分子間での相互作用により,STIM はオリゴマーを形成する
(Wu et al., 2006; Takahashi et al., 2007; Wang et al., 2012)(図5.1 B). Oraiは4回膜貫通型の細胞膜上のタンパク質である(図 5.1 A).Oraiには Orai1, Orai2, Orai3の3つのサブタイプが知られている.Oraiはホモまたはヘ テロ4量体を形成してCa2+チャネルとして機能する. [Ca2+]ERの減少に伴って オリゴマーを形成した細胞膜直下の小胞体上の STIM1 と相互作用して,Orai チャネルが活性化されて開口し,Ca2+流入が起こるものと考えられている(図 5.1 B)(Wu et al., 2006; Lewis, 2007).
ある細胞にSOCEが存在するか否かは,小胞体Ca2+ポンプの阻害剤であるタプ シガルギンで処理することにより,小胞体Ca2+ストアを枯渇させた際にCa2+流 入が活性化されるかどうかによってしばしば判定される.マウス卵でも,タプ シ ガ ル ギ ン 処 理 に よ っ て Ca2+流 入 が 増 加 す る (Kline & Kline, 1992;
McGuinness et al., 1996; Mohri et al., 2001).また,マウス卵細胞でもSTIM1
とOrai1 が発現していること,強制発現させた STIM1と Orai1 の細胞内分布
が Ca2+ストアの枯渇に伴って共局在するように変化することも報告されている
(Gómez-Fernández et al., 2009; 2012).これらの結果は,マウス卵でも
STIM/Orai系を介したSOCEの経路が存在することを示唆するものである.一
方で,マウス卵でのSOCEが活性化されるには,大幅な[Ca2+]ERの低下が必要
A
プロリン・アルギニンリッチ領域
coiled-coil領域
Orai
細胞質 細胞膜
膜貫通ドメイン
EF-hand ドメイン セリン-モチーフ coiled-coil領域
プロリンリッチ領域 リシンリッチ領域
STIM
小胞体内腔 小胞体膜
CCb9
CC1
CC2
膜貫通ドメイン
}
B
Ca2+ 小胞体 Ca2+
Ca2+ポンプ Ca2+
Orai
STIM
低[Ca2+]ER
図5.1 STIMおよびOraiの構造とSTIM/Oraiを介したストア作動性Ca2+流入
(A)細胞内でのSTIM, Oraiの構造.
(B)STIM/Oraiを介したSOCEの模式図
であることも示唆されている(Mohri et al., 2001).受精卵でのCa2+振動時に 実際に SOCE が活性化されるのか,また活性化されるとして SOCE を介した Ca2+流入がCa2+振動の維持のために有意に寄与しているのかどうかは,現時点 では不明である.
本研究課題は,マウス受精卵においてSOCEがCa2+振動の維持に寄与してい るかを検証することを目的とした.そのためにSOCEを阻害することが知られ ているGd3+,La3+,SKF-96365,2-aminoethoxydiphenyl borate(2-APB)と いったチャネル阻害剤が受精時の Ca2+振動に与える影響について調べた.さら に,卵に内在するSTIM1とOrai1の相互作用を阻害するSTIM1やOrai1由来 のタンパク質フラグメントや,Orai1を直接活性化する効果を持つペプチドが受 精時のCa2+振動に及ぼす影響についても検証した.