第 5 章 細胞内 Ca 2+ 振動における STIM/Orai 系の関与
5.2 方法
であることも示唆されている(Mohri et al., 2001).受精卵でのCa2+振動時に 実際に SOCE が活性化されるのか,また活性化されるとして SOCE を介した Ca2+流入がCa2+振動の維持のために有意に寄与しているのかどうかは,現時点 では不明である.
本研究課題は,マウス受精卵においてSOCEがCa2+振動の維持に寄与してい るかを検証することを目的とした.そのためにSOCEを阻害することが知られ ているGd3+,La3+,SKF-96365,2-aminoethoxydiphenyl borate(2-APB)と いったチャネル阻害剤が受精時の Ca2+振動に与える影響について調べた.さら に,卵に内在するSTIM1とOrai1の相互作用を阻害するSTIM1やOrai1由来 のタンパク質フラグメントや,Orai1を直接活性化する効果を持つペプチドが受 精時のCa2+振動に及ぼす影響についても検証した.
させることでも,SOCE が阻害されることも報告されている(Takahashi et al., 2007).STIM1によるOrai1の活性化は,それぞれのC末端,N末端領域にあ る coiled-coil 領域同士の相互作用によるものと考えられている(Wang et al., 2009). Kawasakiらは,STIM1のC末端領域のcoiled-coil領域を含むペプチ ド(STIM1-CCb9)がOrai1を介したCa2+流入を活性化することを報告してい る(Kawasaki et al., 2009).これらの報告を参考に,本研究では,マウス卵に 内在するSTIM1とOrai1の相互作用を阻害するために,マウスSTIM1のC末 端部位(STIM1-CT)とマウスOrai1のN末端部位(Orai1-NT)を,また内在
性Orai1を内在性STIM1非依存的に活性化させるためにマウスSTIM1-CCb9
を用いることとした(図5.2).
STIM1とOrai1のcDNAについては,C57BL/6J 系マウス(日本SLC)の 脳から採取したmRNAから逆転写酵素(SuperScript III,インビトロジェン)
により逆転写して,タンパク質コード領域全長をクローニングした.STIM1-CT,
STIM1-CCb9,Orai1-NT に 相 当 す る 部 分 の cDNA は ,PrimeStar DNA
polymerase(タカラバイオ)を使用して,それぞれ表5.1に示したプライマー
を用いて増幅し,pGLS/(A)21x8ベクターにサブクローニングした.なお,それ
ぞれのcDNAの3’末端には蛍光タンパク質VenusのcDNAを連結し,卵での
発現量を Venus の蛍光強度により評価できるようにした.RNA 合成は,4.2.1
と同様の手順で行った.
5.2.2 成熟卵および精子の採取
成熟卵および精子の採取および前処理は2.2.1と同様の手順で行った.
P/A TM1 TM2 TM3 TM4 CC Orai1 P/AP/A TM1TM1 TM2TM2 TM3TM3 TM4TM4 CCCC Orai1
P/A Venus
Orai1-NT VenusVenus P/AP/A Orai1-NT
N C
N C
STIM1-CCb9 Venus CC2CC2CC2
STIM1-CCb9 VenusVenus CC2CC2CC2CC2CC2CC2CC2CC2CC2
STIM1-CT Venus CC1 CC2 P K
STIM1-CT VenusVenus CC1CC1CC1 CC2CC2CC2 PP KK SAM
EF TM CC1 CC2 P K
STIM1 EFEF SAMSAM TMTM CC1CC1 CC2CC2 PP KK STIM1
N C
N C
図5.2 Orai1とSTIM1およびOrai1-NT , STIM1-CT, STIM1-CCb9の模式図 P/A:プロリンリッチ領域, TM:膜貫通領域, CC:coiled-coil 領域,EF:
EF-hand ドメイン, SAM:SAM ドメイン,P:プロリンリッチ領域,K:リ
シンリッチ領域,Venus:蛍光タンパク質
表5. 1 STIM1/Orai1断片のcDNA合成に用いたプライマー
塩基配列
STIM1-CT forward AACTCGAGAAGGAGCACATGAAGAAAATG reverse TTGCGGCCGCCTACTTCTTAAGAGGCTTCTTAA STIM1 CCb9 forward AACTCGAGAGCTCATGGTATGCTCCTG
reverse TTGCGGCCGCCTAGTTATTGACAATCTGGAAACCG Orai1-NT forward AACTCGAGATGCATCCGGAGCCTGCC
reverse TTGCGGCCGCCTTAAGCTTTGAGCTTGGCGC
5.2.3 卵細胞へのRNA注入
成熟卵への RNA 注入は,基本的には未成熟卵への注入(4.2.3)と同様に行った.
STIM1-CT, Orai1-NT,またはSTIM1-CCb9のRNAを150 mM KClで適当な濃度に 希釈し,ガラス微小ピペットを用いて成熟卵の細胞質に約5 pL注入し,5% CO2,37°C のインキュベーター内で4時間培養して発現させた.
5.2.4 Ca2+イメージングおよびMn2+消光法
Ca2+イメージングは2.2.2と同様の光学系および測定条件で行った. Mn2+消光法に ついては,3.2.2と同様の手順により行った.
GdCl3とLaCl3は超純水で100 mMになるように溶解したものをストック溶液とし た.SKF-96365,2-APBはDMSOでそれぞれ50 mM, 100 mMになるように溶解し,
それらをストック溶液とした. 受精時の Ca2+振動の途中で,それぞれ最終濃度の 2 倍濃度になるようにM2 培地で希釈したものを,測定中のM2 培地のドロップに等量
(200 µL)を投与した.