第 4 章 細胞内 Ca 2+ ストア再充填に対する Ca 2+ 流入の影響
4.2 方法
4.2.1 RNA合成
pcDNA3.1ベクターにのったcameleon D1ERのcDNAはカルフォルニア大 学のR. Y. Tsien教授より提供して頂いた. D1ERのcDNAを制限酵素で切り 出し,in vitro RNA 合成用ベクターpGLS/(A)21x8 にサブクローニングした.
pGLS/(A)21x8 は,pTNT ベクター(プロメガ)のマルチプルクローニングサイ トの下流(3’非翻訳領域)にある30塩基のオリゴアデニル配列(oligo(A))を,
21塩基のoligo(A)が6塩基の連結配列を挟んで 8回反復した配列と入れ替えた
ものである.哺乳類未受精卵では DNAから RNA への転写が抑制されており,
細胞内にcDNAを導入してもタンパク質は発現しない.従って外来タンパク質
A
CFP
CRT CFP CaM M13 Citrine KDEL CRT CFP CaM M13 Citrine KDEL
CRT CaM M13 Citrine KDEL
N C
B
CFP citrine
CFP
citrine
480 nm
450 nm
535 nm FRET
+4Ca
2+( ) ー Ca
2+CaM M13
CaM
CFP
CFP citrine
CFP CFP
citrine
480 nm
450 nm
535 nm FRET
+4Ca
2+( )
+4Ca
2+( ) ー Ca
2+CaM M13
CaM
図4.1 D1ERの構造と測定原理
(A)D1ERの構造. CFP:青色蛍光タンパク質, CaM:カルモジュリン, M13:
ミオシン軽鎖キナーゼの CaM 結合部位, citrine:黄色蛍光タンパク質,CRT:
calreticulin小胞体移行配列,KDEL:小胞体残留シグナル
(B)D1ERのCa2+濃度測定の原理.CaMにCa2+が結合するとCFPとcitrineが 接近してFRETがおこる.(Miyazawaki et al., 1997より改変)
を発現させるには,目的のタンパク質をコードしているcDNAからin vitroで 合成したRNAを細胞内に導入する必要がある.十分な発現効率を得るため,従 来は一般的なクローニングベクターから合成した RNA に対して in vitro で poly(A)鎖を付加していたが(Aida et al., 2001),pGLS/(A)21x8から合成した RNAは,そのまま用いても従来法以上の発現効率が得られることが確かめられ ている(Shirakawa et al., 2010).D1ERのcDNAコンストラクトは制限酵素
BamHI(タカラバイオ)により直鎖化し,MinElute Cleanup Kit(キアゲン)
を用いて精製した.これをテンプレートとして,T7 mMESSAGE mMACHINE Kit(アンビオン)を用いて,製品添付のプロトコルに従ってRNAを合成した.
生成物はRNeasy MinElute Cleanup Kit(キアゲン)を用いて精製し,1 U/L
RNasin(プロメガ)を含む細胞内注入用バッファ(150 mM KCl, 5 mM
Tris-KOH, pH 7.0)で1.0 g/Lに希釈し,–80°Cで保存した.
4.2.2 未成熟卵および精子の採取
本実験では,ddY(日本 SLC)のメスマウス(6 週齢以上)とオスマウスを 用いた.未成熟卵採取の48時間前にメスマウスに血清性性腺刺激ホルモン(ピ ーメックス,三共エール薬品,5 U)を腹腔内注射し,過排卵処理をした.卵巣 の卵胞から完全に成長した卵核胞期の未成熟卵を採取した. M2 培地中で,未 成熟卵を覆っている卵丘細胞をガラスピペットによるピペッティングにより機 械的に除去した.
精子の採取および受精能獲得のための前培養は,2.2.1同様の手順で行った.
4.2.3 卵細胞へのRNA注入および体外成熟培養
D1ERのRNAは,85°Cで3分間過熱することで分子内あるいは分子間結合 による凝集構造を解消した.150 mM KClで250 ng/Lに希釈したのち,ガラ ス製の注入用マイクロピペットに充填した.採取した未成熟卵を蛍光顕微鏡の ステージ上の M2 培地に移し,ホールディングピペットで固定しつつ注入用ピ ペットを刺入し,加圧によりRNAを約10 pL注入した.注入後の卵は速やかに M16培地に移し,5% CO2,37°Cのインキュベーター内で16時間培養し,in vitro で成熟させるとともにD1ERタンパク質を発現させた.
4.2.4 D1ERの細胞内局在の観察
RNA を注入して成熟させた卵での D1ER の細胞内局在を共焦点レーザー顕 微鏡(CSU-10,横河電機)によって観察した.対物レンズには 63 倍水浸レン ズ(ACHROPLAN, NA0.95,カールツァイス)を用いた.励起にはAr-Krレー
ザーの488 nmのラインを用い,蛍光は525 ± 15 nmのバリアフィルタを通し
て ICCD カメラ(ICCF-350F, ビデオスコープ)によって記録して,デジタル 画像としてパソコンに取り込んだ.
4.2.5 細胞質Ca2+と小胞体内Ca2+の同時測定
RNA注入後in vitroで成熟させた卵のうち,第一極体を放出して第二減数分
裂中期で細胞周期が停止している正常な成熟卵のみを以後の実験に供した.卵
を 2.2.2 と同様の手順で fura-2 で染色し,酸性タイロードにより透明帯を除去
したのち,顕微鏡ステージ上のM2培地のドロップ(200 µL)の中に置いて媒 精した.fura-2とD1ERによる [Ca2+]cytと[Ca2+]ER変化の同時測定は,以下の 様に行った.励起光源として Xe ランプを用い,対物レンズには 20 倍レンズ
(FLUAR, NA 0.75,カールツァイス)を用いた.fura-2は340 ± 5 nm と380
± 5 nmのフィルターを通した2波長の励起光で励起し,535 ± 12 nmのフィル
ターを通してICCDカメラで蛍光像を取得した.一方D1ERは,450 ± 5 nmの フィルターを通した励起光によりCFPを励起し,CFPからの蛍光を480 ± 15 nmのフィルターを通して,またFRETによりYFPから発せられた蛍光を535
± 12 nmのフィルターを通して,それぞれICCDカメラで蛍光像として取得し
た.fura-2とD1ERの計4波長条件での蛍光画像を1セットとしてパソコンに 取り込み,これを12秒または30秒の時間間隔で繰り返した.fura-2の340 nm と 380 nm での励起による蛍光強度(F340, F380)を卵ごとに測定し,その比
(F340/F380)を[Ca2+]cytの指標とした.一方,D1ERの480 nmと535 nmでの 蛍光強度(C, Y)の比(Y/C)を[Ca2+]ERの指標とした.
[Ca2+]oの影響を調べる実験においては,受精による Ca2+振動が安定した後,
目的の[Ca2+]oになるように適当なCa2+濃度のM2培地をM2ドロップと等容量 加えた.具体的には,[Ca2+]oを1.7 mM から0.85 mM, 3.4 mMに変化させる 場合には,それぞれ0 mM Ca2+,5.1 mM Ca2+を含むM2培地を200 µL加えた.