• 検索結果がありません。

【佐藤委員】

添付7-11

6 事故時運転操作手順書に基づく対応 (1) 事実の考察

福島第一原子力発電所の事故は、既存の手順書が守られなかったことが主因で生じた ものではなかった。また、施設に対する大規模な改善がない限りは、最新の可搬式設 備と手順書だけで対応することも極めて困難なものであった。

自動車のバッテリーを回収して原子炉圧力容器の圧力と水位、および格納容器の圧力 と温度、放射線レベルを監視可能な状況に回復させた一連の対応は、手順書にあった ものではなかったが、それらが実行されたことによって、原子炉事故の回避には役に 立たなかったが、事故の状況把握と緩和措置の方針を検討する上で必要な情報を提供 した。

(2) 今後の教訓

原子炉事故の対応訓練は、消火訓練と同様、定型の事故シナリオに対して反復を続け

るのではなく、常に変則性を加味し、毎回新たな知見を積み重ね、応用力を拡げてい

くことが重要である。

【立石委員】

添付7-12

立石委員

1 「炉心溶融」等を使わないようにする指示 (1) 事実の考察

①清水社長から武藤副社長への指示

【検証の目的:清水社長が会見中の武藤副社長へ「炉心溶融」を使うなと指示した経 緯】については以下の証言が得られた。

情報は官邸との情報共有・共通認識のもとで公開するようにという官邸からの指示 を踏まえ、定義が曖昧な「炉心溶融」という用語の一人歩きによって社会的に混乱を 呼ぶとの判断で社長自身が、会見始まってすぐ、広報担当社員を通じて指示した。そ の際に「官邸からの指示により」という表現が使われたが、それは、 「情報共有をし たうえで」という官邸からの指示という意味である。広報担当社員は直ちに会見場に 向かい、メモを渡すとともに、その旨、耳打ちした。

指示の流れは明らかになったが、その指示に至った背景は明らかにならなかった。

社長が炉心溶融という用語は曖昧だと考えた経緯が不明確であり、14日の会見以前 にその旨を聞いた社員はいない。

②東京電力社外からの指示、東京電力社内での指示

【検証の目的: 『炉心溶融』等を使わないようにする指示が東京電力社外からあった のか】に関する検証結果として、アンケートでは複数の社員から政府あるいは官邸か らの指示があったとする意見もあったが、誰から、 何時とは特定するに至っていない。

【東京電力社内にどのように伝播したのか】についても、①のやりとりをのぞいて、

直接指示した、あるいは指示を受けたとする社員はいない。それでも、事故当時、 「炉 心溶融という用語を用いないように」との指示が流れ、 「使ってはいけない。炉心損 傷に統一するように」という了解が社内に広がったことは事実である。

調査結果・検証結果を踏まえれば、官邸や官庁(経産省・安全保安院)から「指示」

が出たものと推察される。また、社内においても、緊急時対策本部やグループミーテ ィングでその旨発話されたものと思われる。

(2) 今後の教訓

技術系社員を始めかなりの社員が溶融していると思っていたにもかかわらず、解析し た上で、という原子力災害の公表のあり方自体、妥当かどうかの検証が必要。

「炉心損傷」と「炉心溶融」の科学的定義を明確にするとともに、その判断基準をよ り厳密にする。

「損傷」と「溶融」では国民一般の受け取り方はかなり異なる。具体的避難行動にお いて、どういう意味があるのか、こうしたことを原子力防災計画に丁寧に書き込み、

周知を図ることが重要。

2 原子力災害対策特別措置法に基づく対応 (1) 事実の考察

【検証の目的: 『炉心溶融』を含む原災法第

15

条事象がなぜ通報されなかったのか】

【立石委員】

添付7-13

についての検証結果として、炉心溶融の判断基準や

CAMS

のデータがそれを上回っ ていることを知るものは福島第

1

原発緊急時対策本部にかなりいたが、通報されな かった。

その背景として、 「15条通報」は一回すれば良いかどうかが曖昧であり、15条該 当事象が確認された際、最初の報告が第

15

情報報告様式を使って行われ、以降は異 常事態連絡様式で報告する手順が運用されていた。

 15

条事象である炉心溶融が報告されなかった背景として、先の指示のもとで、差し 止められた可能性は否定できない。

(2) 今後の教訓

「炉心溶融」以外にも 15 条該当事象が発生していたが、いずれも、運用手続きに沿 って通報されていた。通報のあり方・手順が検討されるべきである。

3 「炉心溶融」の根拠 (1) 事実の考察

【検証の目的: 『炉心溶融』の判断基準を炉心損傷割合

5%とした技術的根拠やその

策定過程を明らかにする】については、通報事象の定義を含む原子力災害対策マニュ アルは、原災法令立案担当者と原子力事業者との協議を経て確定されたものであり、

概ね各電力会社共通の記述なっていることが明らかになった。

(2) 今後の教訓

事故進展の重要な事象である、 「炉心溶融」の科学的・工学的意味が曖昧なまま放置 されてきた事実は重大である。社会的インパクトが大きいと言うならば、それを放置 してきたこと自体が問題である。そこに至ることはないという過信、安全神話のなせ る結果と言わざるを得ない。

4 新潟県技術委員会に対する東京電力の対応 (1) 事実の考察

【検証の目的:東京電力が新潟県技術委員会の対応のために、東京電力社内でどのよ うな調査を行っていたのか、新潟県技術委員会の議論内容は、どの程度東京電力社内 で認識されていたのかを明らかにする】について、県への対応部署が中心になり、社 内の事故調査報告に沿って説明することを基本として対応していた。広く関連部署や 関係者に調査することが不十分であったことが明らかになった。

「炉心溶融」の定義、判断基準がなかったと説明してきたことを知るものは本社を中 心にかなりいたが、定義が存在することを知る者との関連は明らかにならなかった。

(2) 今後の教訓

個々の社員が県への対応状況と自分の職務との関連を絶えず考えるということはで

きないが、少なくとも職務を束ねる役員は職務内容との関連で目をくばる責を負って

いる。それぞれの部署の役割を果たしつつ、一方でセクショナリズムを廃して全体の

動きをみる体制を築くことが求められる。

【立石委員】

添付7-14

5 「炉心溶融」の定義が明らかにならなかった原因 (1) 事実の考察

【検証の目的:東京電力では、一定の社員が『炉心溶融』の定義を認識していたにも かかわらず、なぜ定義が約5年間も明らかにならなかったのか】については、新しい 原災マニュアルがイントラネットに掲載されているが、定義が書き込まれた改訂前の 原子力災害対策マニュアルはその所管部署のみがアクセスできる仕組みになってお り、県への対応を行っていた部署の社員はその存在を昨年 2 月まで知らなかった経緯 が明らかになった。

アンケートではその存在を知るものは技術者の中にかなりいたが、県への対応状況を 知るものは少なかった。

原子力災害対策マニュアルの「炉心溶融」の定義や判断基準策定には多くの技術者が 関わっているが、その科学的・工学的意味合いは必ずしも共有されず、曖昧な点が残 っていることが広く認識されていた。その是正については放置されてきた。

(2) 今後の教訓

2007 年の「当社発電設備に対するデータ改ざん、必要な手続きの不備その他の同様 な問題に関する全社的な再発防止対策」でうたわれた、 「しない風土、させない仕組 み、言い出す仕組み」が有効に機能していなかったことが明らかである。セクショナ リズムを離れて部署の垣根を越えて言い出す仕組み、提案、提言が生かされる体制。

社風をどう築くかが問われる。

6 事故時運転操作手順書に基づく対応 (1) 事実の考察

【検証の目的:福島第一原子力発電所事故の際に、事故時運転操作手順書等に基づく 事故対応がどの程度行われたのかを明らかにする】を踏まえた検証結果として、地震 発生直後から津波襲来までは事故時運転操作手順書に従って対応していたこと、津波 が襲来し、全電源喪失に至った後は事故時運転操作手順書の(徴候ベース)のみなら ず、 (シビアアクシデント)もそのまま対応できる状況になく、代替注水や格納容器 ベントなどの事故時運転操作手順や図書を参考にしつつ、現場職員の手作業で可能な 作業を進めたことが明らかになった。

なお、事故時運転操作手順書の事象ベースから徴候ベース、シビアアクシデントベー スへの移行の判断はいずれも当直長が行うことになっている。

(2) 今後の教訓

シビアアクシデントを想定した手順書が未整備であったこと、臨機応変に対応する力

量の養成、事態の進展を冷静かつ客観的にとらえる人材の養成など、改善するべき点

は多い。いずれにしても、原子力事業者の安全文化が未熟で、原発を扱う能力・資格

が問われたのであり、それをどのように克服するのかが肝要である。