アンケート調査 2 や、ヒアリング調査では、当該指示に関わった者以外で当該指示 を聞いた者は確認されなかった。
6 事故時運転操作手順書に基づく対応 (1) 事実の考察
定義が約5年間も明らかにならなかった要因は、調査により確認された以下の事実か ら、技術委員会対応者の間で事故当時の原子力災害対策マニュアルに「炉心溶融」の 定義・判断基準が存在したことが長期にわたって認識されなかったものと推定され る。
① 事故当時に原災法第15条「炉心溶融」の判定基準を知っていた者(179名)は技術 委員会の対応に関わっていなかった。この中で判定基準を口外しないよう指示を受 けた者は確認されなかった
② 原子力災害対策マニュアル担当部署や事故当時通報班に所属した社員の中で技術 委員会の対応に関わった者も別テーマを担当していたため、 「炉心溶融」議論の詳 細を把握していなかった
③ 原災法第15条事象の改定(炉心溶融→炉心損傷)に伴う原子力災害対策マニュアル 改訂(H25)の際、本社マニュアル所管部署と各発電所所管部署の協議で進められ、
意見募集を実施しなかったことやイントラ周知のみであったことから、広く改訂内 容が浸透しなかった可能性がある
④ 同様の「炉心溶融」判定基準を採用していた他電力等からも情報提供はなかった
(2) 今後の教訓
各社員が業務上の課題や問題意識を積極的に報連相する姿勢と、組織としてこれらの 情報を積極的に収集し受け止める仕組みの充実が求められる(言い出す仕組みの充 実) 。
重要なマニュアル改訂の際には、イントラ周知にとどめず、説明会の開催や次回訓練 シナリオへの反映等により関係社員へ広く浸透するような取組みが望まれる。
6 事故時運転操作手順書に基づく対応 (1) 事実の考察
特になし(調査結果の通り)
(2) 今後の教訓
福島第一事故事象や更なる過酷事象の想定も含めた安全対策と事故時対応手順等の
整備とそれらの手順に基づく緊急対応訓練の定期的な実施によりPDCAを回し、手順と
緊急対応力の継続的な改善・向上が望まれる。
【小森委員】
添付7-6
小森委員
1 「炉心溶融」等を使わないようにする指示 (1) 事実の考察
①清水社長から武藤副社長への指示
官邸の指示に基づき、社長は官邸や原子力安全・保安院と情報共有をしっかり行うよ うに社内に指示していた。 「炉心溶融」や「メルトダウン」という言葉の使用は共通 認識がないと社会的な混乱を生じると思い、社長自身の判断で記者会見中の副社長に メモを差し入れたという経緯が確認できた。本件に関して社外からの指示は確認でき なかった。
②東京電力社外からの指示、東京電力社内での指示
『炉心溶融』等を使わないようにする指示等について、官邸や原子力安全・保安院か らの社外からの指示や社内指示経路は明確とならなかった。
公表内容の情報共有に関する社長指示もあり、官邸や原子力安全・保安院の動きや指 示に東電は敏感となっていた事や確実な状態がわからない事は言わないという判断 が背景となって、 「炉心溶融」 「メルトダウン」という用語は使用しない方向となった 事が考えられる。
(2) 今後の教訓
用語の定義や使用の可否にこだわることよりも、事態の状況や見通しについて社会に 説明するという組織としての方針を明確にする事及び発生した事実とその意味や解 説を適宜公表していく活動の重要性。
緊急時対応要員の基本動作として、事実や指示の情報源の確認や状況評価に関する情 報共有の場の設定など訓練等を通じて継続的に徹底すること。
2 原子力災害対策特別措置法に基づく対応 (1) 事実の考察
東電は、緊急事態が宣言された以降の原子炉の状況については、原災法第25条に基づ く報告様式で報告する運用としていた。
当時、緊急時活動に従事していた職員で原災法第15条「炉心溶融」の内容と測定され たCAMSの値が判定基準を上回っていることを知っていた者は少なく、班長以上の幹部 と情報共有されたことも確認できなかった。
15条通報が一度行われた以降15条通報事象が発生した場合の運用方法も明確でなく、
そのことの問題意識も低かった事が背景要因になったと考えられる。
(2) 今後の教訓
通報の運用方法を明確にすることに加え、法令上の要件に関わる事態かどうかを確実 にチェックする役割分担を明確にし、訓練等で徹底すること。
加えて、単に通報の的確性を追求するだけではなく、事態の解説や見通しについて組
織的に説明し続けて行く活動の重要性。
【小森委員】
添付7-7
3 「炉心溶融」の根拠 (1) 事実の考察
原災法第15条「炉心溶融」の定義は、緊急事態宣言の発令を判断するという観点から 希ガスの放出率をベースに評価判断指標として定めたことが確認された。
(2) 今後の教訓
現在、15条の通報は、 「炉心損傷」としてより早期に判断するように定義が見直され ており、根拠も含めて十分理解すること。
炉心状況を推定する技術評価活動と連携すること。
4 新潟県技術委員会に対する東京電力の対応 (1) 事実の考察
技術委員会に対応する担当部門は、メルトダウンの公表問題について議論が行われて いることを特に社内へ広く周知していなかった。
原子力部門のある程度の範囲(14~17%)の人まで対応状況を知っていたことから、
社内周知を徹底していれば問題点を指摘する人が出てきた可能性がある。ただし、
個々人の自主性に期待するだけでは限界があるものと考えられる。
(2) 今後の教訓
重要な案件については、調査範囲や深さについて十分考察し、調査体制や周知方法を 明確にすること。また進捗に応じて調査範囲や方法の妥当性を再確認すること。
社会的な信用に関わる調査については、第三者性の確保など体制に配慮すること。
5 「炉心溶融」の定義が明らかにならなかった原因 (1) 事実の考察
技術委員会の対応者が、原子力災害対策マニュアルの内容や改定作業について知らな かった事が直接的な原因であり、情報共有に課題があることが確認された。
関係者以外に広く問題意識が浸透していなかったことも判定基準の存在を浮き上が らせる事ができなかった要因の一つと考えられる。
(2) 今後の教訓
マニュアルに関する根拠や前提をしっかりと業務知識として残し、多くの人が業務で 容易に活用できる状態としておくこと。
調査に関する教訓は4(2)と同じ。
6 事故時運転操作手順書に基づく対応 (1) 事実の考察
事故時操作基準など既存の手順書を使える範囲ではそれに準拠し、手順書の活用範囲
を超えた状況では臨機応変な対応により原子炉の冷却や格納容器のベントなどの実
現に安全に配慮しながら活動していた。
【小森委員】
添付7-8
(2) 今後の教訓
手順やマニュアルの前提をさらに超えるような事態もありうるということが教訓で あり、手順が使える状態かその範囲を超えて臨機応変な対応を迫られるかという状況 の判断を緊急時組織全体として迅速に共有すること。
また、その節目を技術的によく理解することと、訓練等を通じて練度を上げておくこ
と。
【佐藤委員】
添付7-9
佐藤委員
1 「炉心溶融」等を使わないようにする指示 (1) 事実の考察
①清水社長から武藤副社長への指示
委員会は、清水社長が、曖昧さのある用語で余計な世間の混乱を避けたかったから武 藤副社長に伝言を送ったとの説明を受けた。しかし、なぜ記者会見中という緊迫した 場がそのタイミングでなければならなかったのか、なぜ清水社長が、 「炉心溶融」と いう言葉を特に採り上げ「曖昧な用語」であると確信できたのか、清水社長がイメー ジし懸念した「混乱」が何だったのかは不明である。
世間の混乱を避けたかったとの説明を受入れないわけではないが、それが唯一の理由 だったと納得するのは難しい。
②東京電力社外からの指示、東京電力社内での指示
東京電力社外からの指示、東京電力社内での指示・伝播・拡散の存在を肯定する情報 は、断片的ながら多々確認された。しかし、時期も経路も曖昧で、確定は困難だった。
委員会は、 「炉心溶融」という言葉の使用を抑圧した最上流への追跡を調査範囲外と したが、仮に試みていたとしても成果は期待できなかったと思われる。
(2) 今後の教訓
「余計な混乱を避けたい」という理由が、真実の推測を望む国民への情報提供を拒む 正当性のあるものなのかどうか決着されない限り、形の違った再発の可能性があり、
東京電力に限った問題、原子炉事故に限った問題ではない。
「炉心溶融」という言葉の使用に対する直接的な口止めがなかったとしても、互いに 近い考え方や価値観を共有する社員の間では、無言のうちに「暗黙の統制」が醸成さ れることもあるのではないか。原子力安全文化の視点から、そのような暗黙の統制は、
しばしば有害な背景となる場合があり、東京電力としては、組織的口止めがなかった ことに安心するより、むしろ、そのような雰囲気に対して注意を向けるべきである。
2 原子力災害対策特別措置法に基づく対応 (1) 事実の考察
「炉心溶融」の認否の問題が、原災法第15条の報告を遅らせてはいない。 「炉心溶融」
も含む原災法第15条の報告事項を第15条による報告後はそれぞれ発覚の都度、第25 条の報告として適時行っていた東京電力の運用について、委員会は、これを不適切だ ったとは断定していない。
東京電力は、CAMSの測定データを炉心損傷が判定できる図と共に提出しており、秘匿 する意図がなかったことが確認された。
(2) 今後の教訓