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III. 信用リスク - 内部格付手法

9. 監督当局による LGD および EAD の推計値

506. 上記の LGD および EAD の自行推計に関する要件を満たさない基礎的内部格付手法 を用いる銀行は、適格金融資産担保を認識するために、標準的手法のパートで記載した 最低要件を満たさなくてはならない(セクションⅡ.D『標準的手法 信用リスク削減手 法』に記載のとおり)。それらの銀行は、別の種類の担保を追加的に認識するためには、

次のような追加的最低要件を満たさなくてはならない。

(i) 担保としての CRE および RRE の適格性の定義

507. 事業法人、ソブリン、銀行向けエクスポージャーの担保として適格な CRE および RRE は、以下のとおり定義される。

債務者のリスクが担保となる不動産やプロジェクトの業績に大きく依存せず、他 の源泉による債務者の返済能力に依存する場合の担保。したがって、ファシリテ ィの支払は、担保となっているCRE/RREから創出されるキャッシュ・フローには 大きく依存していない。92

さらに、差し入れられている担保の価値は、債務者の業績に大きく依存するもの であってはならない。この要件は、純粋にマクロ経済上の要因によって担保価値 と債務者の業績の双方が影響を受ける状況を排除するものではない。

508. 上記の一般的な説明および事業法人向けのエクスポージャーの定義に鑑み、SL 資産分類に該当するIPREは、事業法人向けのエクスポージャーの担保としての認識に関 して、特にその対象から外す。93

92 当委員会は、集合住宅が住宅市場の中で重要な地位を占め、特別に設立された公的部門の企業が主要な 住宅供給者となっている場合を含めて、政策的に当該部門を支援している国では、住宅不動産モーゲー ジの担保付貸出のリスク特性は、伝統的な事業法人向けエクスポージャーのリスク特性に類似している、

と認識している。このような場合には、各国監督当局は、集合住宅の不動産モーゲージを、事業法人向 けエクスポージャーに対する適格担保として認めてもよい。

93 脚注 73 に記載したように、十分に整備され、かつ、長期にわたって確立した市場があるという例外的 な場合には、オフィス、および/又は多目的商業施設、および/又は商業用雑居ビルに係るモーゲージは、

事業法人向けエクスポージャーのポートフォリオでは、担保として認められる可能性があるかもしれな い。適用上の適格基準に関する議論については、パラグラフ 74 の脚注 29 を参照されたい。

(ⅱ) 適格 CRE/RRE の運用上の基準

509. 上記の定義に該当することを前提として、CRE および RRE は、以下の運用上の 基準をすべて満たしている場合に限り、事業法人向けエクスポージャーの担保として認 識するうえで適格となる。

法 的 強 制 力 : 差 し 入 れ ら れ た 担 保 は 、 関 係 す る 全 て の 法 域 に お い て (in all relevant jurisdictions)法的強制力があり、加えて、担保物件に対する権利は 速やかに適切な登記をなされなければならない。担保物権は、抵当権の完全化

(perfected lien)を反映していなければならない(すなわち、担保物権の確立 に係るすべての法的要件が満たされていること)。さらに、担保に関する契約お よびその契約を実行するための法的プロセスは、銀行が合理的な期間内に担保価 値を実現し得るようになっていなければならない。

担保の客観的な時価(

Objective market value of collateral)

:担保は、現在 の公正価値以下に評価されなければならない。現在の公正価値とは、評価時点に おいて、自発的な売り手と、売り手とは独立第三者である買い手との間での私的 契約によって、当該物件が売却されると仮定した場合の価格である。

頻繁な再評価:銀行は、頻繁に、少なくとも年に 1 回は、担保価値をモニターす ることが期待されている。市場の状況が著しく変動する場合には、さらに頻繁に モニターすることが推奨される。統計的な評価手法(例、住宅価格インデックス の参照やサンプル調査)は、推計値を更新したり、価値が低下し再評価を必要と する担保を識別するために、用いてもよい。一般の市場相場に比較して担保価値 が著しく落ち込んだことを示す情報がある場合、あるいは、デフォルトのような 信用事由が発生した場合には、有資格の専門家(qualified professional)が当 該資産を評価しなくてはならない。

後順位の抵当権(Junior liens):加盟国の中には、貸し手が資産に対して第一 順位の抵当権を有している場合に適格担保が限定されてしまう国がある。94抵当 権の実行が法的な強制力を有しており、それが信用リスク削減効果を有すること に疑いの余地がない場合には、後順位の抵当権(Junior liens)を勘案しても差 し支えない。後順位の抵当権(junior liens)を認める場合には、先順位の担保 権(senior liens)に対して利用されるC*およびC**の境界値(C*/C** threshold)

を利用して、取り扱われる。この場合、C*および C**は、当該後順位担保権およ びその先順位担保権すべての担保価額の合計を勘案して計算する。

510. 担保管理に関する追加的な要件は以下のとおり。

銀行が受け入れることのできる CRE および RRE 担保のタイプ、および、各タイ プの担保を受け入れたときの与信方針(与信レート)が明確に文書化されていな ければならない。

銀行は、担保として受け入れた物件(property)が、損害や劣化から適切に保全 される(adequately insured against damage or deterioration)ことを確保す る措置を取らなければならない。

94 これらの国のうち、未払租税債権(outstanding tax claims)や労働者の賃金(employees’ wages)のよう に、優先的に弁済を受ける債権者(preferential creditors)が優先権(prior right)を有するために、第 一順位抵当権(first liens)が制約を受ける法域もある。

銀行は、担保物件に関して許された先順位となりうる債権(租税等)の範囲を

(the extent of any permissible prior claims)継続的にモニターしなければ ならない。

銀行は、有毒な物質が担保物件に含まれている場合等、担保物件に起因する環境 保全責任が発生するリスクを適切にモニターしなければならない。

(ⅲ) 売掛債権の認識のための要件 適格売掛債権の定義

511. 適格売掛債権は、当初の残存期間が 1 年以内(an original maturity of less than or equal to one year)であり、借り手(borrower)の原資産に関連する商業上または 財務上のキャッシュ・フローにより支払が行われる債権である。適格売掛債権には、商 業取引に関連して財やサービスの販売から生じる換金可能な債務(self-liquidating debt)、および、商業取引には関連しないものの、買い手、納入業者、賃借人、中央政 府、地方政府またはその他の非関連当事者(other non-affiliated parties)に対する 一般の債務(general amounts)が含まれる。適格売掛債権には、証券化、サブ・パーテ ィシペーション(sub-participations)、またはクレジット・デリバティブに関連する 売掛債権を含まない。

運用上の要件 法的確実性

512. 担保が提供される法的仕組みは、堅固なものであるとともに、担保からの対価

(the proceeds from the collateral)に関して貸し手が明確な権利を有していること を確保しなくてはならない。

513. 銀行は、担保権を登記機関に登記するなど、担保権の実効性に関して、その法域 での要件を満たすために必要な措置をすべて講じなくてはならない。潜在的な貸し手

(potential lender)であっても、担保に関して完全な対抗要件を備えた第一順位の担 保権(perfected first priority claim over the collateral)を有することを認める ような枠組みが存在すべきである。

514. 担保付取引に関する全ての文書は、全当事者に対して拘束力を有するものであり、

また全ての関係法域(all relevant jurisdictions)における法的強制力を持たなくては ならない。銀行はこの点を確認するために十分な法律面のレビューを行い、この結論に 至るために十分な法的裏付けを持たなければならない。また、継続的な強制力を確保す るために、必要であれば、さらにこのようなレビューを行わなければならない。

515. 担保の差入(collateral arrangements)は、担保からの対価を速やかに回収す るために、明確で確固とした手続によって、適切に文書化されていなくてはならない。

銀行の手続は、顧客のデフォルトの宣言および担保の速やかな回収に必要な全ての法的 要件の監視を確実にするものでなければならない。借り手の財務状況が悪化したり、デ フォルトとなった場合、銀行は、売掛債権の債務者の同意なく、第三者に売掛債権を売 却または譲渡する法的な権限を有しているべきである。

リスク管理

516. 銀行は売掛債権の信用リスクを判断するうえで、健全なプロセスを備えなくては ならない。このプロセスには、債務者の事業、業界(例、景気変動の影響)、ならびに

債務者が取引を行っている顧客の種類に関する分析が含まれるべきである。銀行が債務 者の取引相手の信用リスクを確かめるうえで債務者に頼っている場合には、銀行は、債 務者の信用供与方針を、その健全性および信頼性を確かめるため、検証しなくてはなら ない。

517. エクスポージャーの額と売掛債権の価値との差額には、回収費用、個々の借り手 によって担保提供された売掛金債権のプール内の与信集中度、銀行のエクスポージャー 全体の中の潜在的な与信集中度などの適切な要因をすべて、織り込まなければならない。

518. 銀行は、リスク削減手段として用いる担保に帰せられる特定のエクスポージャー

(直接的または偶発的なものであっても)に対する継続的監視プロセスを維持しなくて はならない。このプロセスは、とりわけ、少数の大口の売掛金を担保として取得した場 合には、適切かつ関係ある範囲で、期限超過の報告(ageing reports)、取引書類の管 理 ( control of trade documents ) 、 借 入 に 関 連 す る 証 明 書 類 ( borrowing base certificates)、担保に関する頻繁な監査、残高確認、口座からの支払金員管理、ダイ リューション(売掛金の原債務者に対する借り手の与信)の分析、借入人および売掛金 の原債務者の双方に対する定期的な財務分析を含みうる。銀行全体の与信集中限度に関 する遵守状況も監視すべきである。さらに、融資約款(loan covenants)、環境保全上 の制限(environmental restrictions)、およびその他の法的要件の遵守状況も定期的 に検証すべきである。

519. 借り手が担保として提供した売掛債権は分散しているべきであり、過度に借り手 との相関が高くならないようにすべきである。相関が高い場合、例えば、売掛金債権の 原債務者の存続(viability)が借り手に依存しており、または、借り手と原債務者が同 じ業界に属している場合には、担保となるプール全体に対する余裕幅(margins)の設定 にあたって、付随するリスク(attendant risk)を織り込むべきである。借り手の関連 会社(affiliates)(子会社、従業員を含む)からの売掛債権は、リスク削減手段とし ては認めない。

520. 銀行は、逼迫した状況(distressed situations)における売掛金債権の回収の ためのプロセスを、文書化すべきである。通常、銀行が回収のために借り手を当てにす る場合にも、必要な回収手段(requisite facilities for collection)を用意しておく べきである。

その他の担保を認識するための要件(Requirements for recognition of other collateral)

521. 監督当局は、特定のその他の物的担保について、信用リスク削減効果を認めても よい。各国監督当局はその場合、どのような担保がその法域において、次の 2 つの基準 を満たしているかを判断する。

迅速、かつ経済的に効率的な方法で、担保を処分するための流動性のある市場が 存在すること。

担保について、十分に確立され公開された市場価格が存在すること。監督当局は、

銀行が担保を処分して得た金額が、その市場価格と著しく乖離しないことの確認 を求める。