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III. 信用リスク - 内部格付手法

11. 株式エクスポージャーに対する所要自己資本の計算 (i) 内部モデルによるマーケット・ベース方式

525. 内部モデルによるマーケット・ベース方式を採用する資格を得るためには、銀行 は、当初およびその後継続的に、一定の定量的および定性的最低要件を満たすことを監 督当局に示さなくてはならない。継続的に最低要件を遵守していることを示すことがで きない銀行は、遵守している状態に迅速に復帰するための計画を立案し、監督当局から 当該計画の承認を得て、合理的期間内にその計画を実施しなくてはならない。それまで は、銀行は簡便手法を用いて自己資本の賦課額を計算することを期待される。

526. 当委員会は、市場、計測法、株式投資および管理実務の差によって、銀行および 監督当局が運用手続を独自にカスタマイズしなくてはならないことを認識している。銀 行のバンキング勘定にある保有株式のリスクマネジメントの方針および計測手法の実務 の形式および運用の詳細を指図することは、当委員会の本意ではない。ただし、いくつ かの最低要件が特定されている。各国監督当局は、銀行のリスク計測システムおよび経 営による管理方法が、内部モデル方式の基礎として十分役立つように、詳細な検証手続 を制定する。

(ⅱ) 所要自己資本とリスクの計量化(Capital charge and risk quantification)

527. 内部モデル方式によって最低所要自己資本を計算するにあたり、次の最低限の定 量的基準が適用される。

(a) 自己資本の賦課額は、長期的なサンプル期間にわたって計算された(computed over a long-term sample period)四半期の収益(quarterly returns)と適切 なリスクフリー・レート(appropriate risk-free rate)との差の片側 99%信 頼区間に相当する想定上の瞬間的ショックから生ずる、当該銀行の株式ポートフ ォリオの潜在的損失に等しい。

(b) 損失見込額は、当該金融機関固有の保有株式の長期的リスク特性との関連で不利 となる市場の動きに対して耐えられるものであるべきである。収益率分布を示す ために用いるデータは、その銀行固有の保有株式のリスク特性を示すための入手 可能かつ意味のあるデータがある最も長期のサンプル期間を反映すべきである。

使用するデータは、単に主観的あるいは恣意的判断に基づくのではなく、保守的 で統計的に信頼でき、かつ確たる(robust)損失見込値を出すのに十分なもので あるべきである。金融機関は、使用したショックの内容が、関連のある長期的な 市場サイクルまたは景気サイクルにわたって、潜在的な損失を保守的に見積もっ ていることを、監督当局に証明しなくてはならない。当該銀行の保有株式に関連 する株式の相場が合理的な範囲で激しく下落するような期間を含んだ、長期実績 値の現実的な期間をカバーしていないようなデータを用いて推定したモデルは、

当該モデルに適切な調整措置(adjustment)を組み込んだという信頼できる証拠 がない限り、楽観的な結果を出すものと想定される。このような組み込まれた調 整措置がない場合には、銀行は適切に現実性と保守性を踏まえた結果をモデルが

出すように、種々のファクターに基づく調整を入手可能なデータの実証分析に加 えなくてはならない。四半期毎の潜在損失を推定するバリュー・アット・リスク

(VaR)モデルを構築する際には、金融機関は、四半期のデータをそのまま用い てもよいし、または、実証データに依拠した適切な分析方法を用いて、それより 短い期間のデータを四半期相当データに引き直して使用してもよい。このような 調整は、十分に検討され綿密に文書化された思考プロセスと分析によって適用さ れなくてはならない。総じて、調整措置は、保守的かつ時系列的に一貫して行わ れなくてはならない。さらに、限られたデータしかない場合、または技術的な限 界があるために、どのような手法の 1 つを使おうとも推定値が不確実な質を持っ たものとなる場合には、銀行は過剰な楽観を避けるため保守性のための適切なマ ージンを見積もらなくてはならない。

(c) VaR モデルとしては、特定のタイプ(例、分散・共分散法、ヒストリカル・シミ ュレーション法、モンテカルロ法)は指定されない。しかしながら、用いるモデ ルは、当該金融機関の保有株式ポートフォリオの一般市場リスクと個別リスクの 双方を含め、株式からの収益に関する重要なリスクをすべて適切に把握できなく てはならない。内部モデルは、過去の相場変動を適切に説明し、潜在的な銘柄集 中の大きさとその構成変化をともに把握し、不利な市場環境にも耐えるものでな くてはならない。推定に用いたデータに代表されているリスク・エクスポージャ ーの母集団は、銀行の保有株式エクスポージャーとよくマッチするか、少なくと も同等のものでなくてはならない。

(d) 銀行はバンキング勘定で保有する株式について、最低限の所要自己資本額を決定 するため、ヒストリカル・シナリオ分析(historical scenario analysis)のよ うなモデル技法を利用してもよい。そのようなモデルの利用は、当該機関がその 技法とその結果を、(a)に述べた損失の信頼区間(%)の形式で定量化できるこ とを監督当局に説明することを前提とする。

(e) 金融機関は、自社の株式ポートフォリオのリスク特性と複雑性に見合った適切な 内部モデルを利用しなくてはならない。著しく非線形的な価格変動をもたらす性 質を有する商品(例として、株式デリバティブ、転換社債)を多く保有する金融 機関は、そのような商品に関連するリスクが適切に把握できるように設計した内 部モデルを用いなくてはならない。

(f) 監 督 当 局 に よ る 検 証 を 条 件 と し て 、 株 式 ポ ー ト フ ォ リ オ の 相 関 ( equity portfolio correlations)は、銀行の内部リスク測定法に統合することができる。

明示的な相関(explicit correlations)(例として、分散・共分散、VaR モデ ルの利用)の使用は、十分な文書化を行うとともに、実証分析によって裏付けな くてはならない。監督当局は、モデルの文書化および推定技法の検証の段階で、

暗示的な相関(implicit correlation)を前提にすることが適切か評価するであ ろう。

(g) 代理変数、市場インデックス、リスク要因に対する個別ポジションのマッピング は、妥当であり、直感的に理解でき、かつ理念的に健全であるべきである。マッ ピング技法とプロセスは、全て文書化され、特定の保有株式の状況に対して適切 であることを、理論的かつ実証データを以って示されたものであるべきである。

保 有 株 式 の 収 益 率 の 変 動 を 推 計 す る う え で 、 専 門 的 判 断 ( professional

judgement)と定量的技法とを組み合わせる場合には、専門的判断において、他 方の技法では考慮しなかった関連情報を考慮に入れなくてはならない。

(h) ファクター・モデル(factor models)を用いる場合には、金融機関の保有株式 の特性によって、シングル・ファクター・モデル、またはマルチ・ファクター・

モデルのいずれを用いてもよい。銀行は、その株式ポートフォリオに内在するリ スクを当該ファクターが把握することを確保することが期待される。リスクファ クターは、銀行が大きなポジションを有する適切な各株式市場の特性(例として、

公開株式、非公開株式、時価総額、業界区分またはその下位区分、運用上の特徴)

に対応しているべきである。銀行はファクターを選択する裁量権をもっているが、

一般市場リスクおよび個別リスク双方をカバーする能力を含め、実証分析によっ てそれらのファクターの適切性を示さなくてはならない。

(i) 株式投資の収益率に関するボラティリティの推計値は、入手可能な関連データ、

情報、手法を組み込んでいなくてはならない。銀行は、内部データまたは外部か らのデータ(プール・データを含む)を審査したうえで、それぞれを単独で用い てもよい。定量化に用いたサンプルのリスク・エクスポージャー数およびデータ 期間は、銀行による推計値の正確性と堅固性に信頼を与えるうえで十分なもので なくてはならない。金融機関は、収益率のボラティリティを推定するにあたり、

サンプリング・バイアス(訳注:標本抽出における偏り)とサバイバーシップ・

バイアス(訳注:存続バイアス、即ちデータが存続銘柄等に偏ること)の双方の 可能性を抑制するために、適切な措置を取るべきである。

(j) 厳格かつ包括的なストレス・テストのプログラムが存在していなければならない

(must be in place)。銀行は、公開株式および非公開株式双方において、内部 モデルおよび推計手順を、ボラティリティの計算も含め、所定の原ポジションに おける最悪のケースの損失を反映した仮想シナリオまたはヒストリカル・シナリ オのいずれかに従わせることが期待されている。少なくとも、内部モデル手法で 想定される信頼水準を超えて発生するテール事象の影響に関する情報を提供す るために、ストレス・テストを用いるべきである。

(ⅲ) リスクマネジメントのプロセスおよび統制(control)

528. バンキング勘定の保有株式を管理するために用いる銀行の総合的なリスク管理 の実務は、当委員会および各国監督当局が提示する現在作成中の健全な実務に関するガ イドライン(the evolving sound practice guidelines)に沿うものと期待されている。

自己資本計算上、内部モデルの開発と利用に関して、銀行は、自己資本比率を計算する うえで、モデルおよびモデルによる算定手順の完全性を確保するために、方針(policies)、

手続(procedures)、およびコントロール手段(controls)を備えていなくてはならな い。これらの方針、手続およびコントロール手段は、次のようなものを含むべきである。

(a) 内部モデルの、銀行全体の経営情報システム、および、バンキング勘定の株式ポ ートフォリオ管理システム、への完全統合。内部モデルは、(ⅰ)投資の確保すべ き最低利回り設定(establishing investment hurdle rates)および代替投資の 評価(evaluating alternative investments)、(ⅱ)株式ポートフォリオの運用 実績の測定・評価(リスク調整後の実績を含む)、(ⅲ) 保有株式に対する経 済的資本の配分および第二の柱で要求される総合的な自己資本の評価での利用 を含めて、銀行のリスク管理インフラと完全に統合するべきである。銀行は、例