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III. 信用リスク - 内部格付手法

3. 格付システムのデザイン

394. 「格付システム」は、信用リスクの評価、内部格付の付与、デフォルトや損失に 関する推定値の計量化を支援する、手法・プロセス・コントロール・データ収集、そし て IT システムのすべてから構成される。

86 銀行は、一定の株式エクスポージャーおよびSLサブエクスポージャーに含まれる一定のエクスポージャ ーに関しては、PDの自行推計値を算定することが要求されない。

395. それぞれの資産クラスの中で、銀行は、複数の格付手法/システムを利用しても よい。例えば、銀行は、特定の産業または市場セグメント(例えば、ミドルマーケット や大企業)に応じた格付システムを用いてもよい。もし銀行が複数のシステムを用いる 場合、ある債務者を 1 つのシステムに割り当てる理由を文書化するとともに、債務者の リスクレベルを最も良く反映するような方法で運用しなければならない。銀行は、所要 自己資本を最小化するために、不適切な仕方で各格付システムに債務者を割り当てては ならない(つまり、格付システムの選択によるチェリー・ピッキング)。銀行は、導入 当初およびその後も継続的に、内部格付手法で用いられる各システムが最低要件を遵守 していることを証明しなければならない。

(i) 格付の切り口(Rating dimensions)

事業法人、ソブリン、および銀行向けエクスポージャーの基準

396. 適格となる内部格付手法の格付システムは、(ⅰ)債務者のデフォルト・リスク、

(ⅱ)取引に固有の要素、の 2 つの別個の異なる切り口(dimension)を有していなければ ならない。

397. 第一の切り口(dimension)は、債務者のデフォルト・リスクに対するものでな ければならない。同じ債務者に対する別個のエクスポージャーに対しては、個々の特定 の取引の性質にかかわりなく、同じ債務者格付が割り当てられなければならない。これ には 2 つの例外がある。第一に、カントリー・(移転)リスク(country transfer risk)

の場合、当該ファシリティが現地通貨建てあるいは外国通貨建てであるかに応じて、銀 行は異なる債務者格付を割り当ててもよい。第二は、ファシリティに関連する保証が、

調整後の債務者区分に反映されているかもしれないような場合である。いずれのケース でも、同一の債務者の異なるエクスポージャーが、異なる格付を持つ結果となりうる。 銀 行は、そのクレジット・ポリシーにおいて、個々の格付区分が意味するリスクのレベル の観点から、債務者格付の格付区分の相互の関係を明記しなければならない。信用度合 いが 1 つの格付区分から次の格付区分に引き下げられる場合、認識され、測定されたリ スクは増大しなければならない。そのポリシーは、その格付区分に割り当てられた債務 者の典型的なデフォルト確率の記述、および信用リスクのレベルを識別するために用い られる基準、の両方の観点から、各格付区分のリスクを明記しなければならない。

398. 第二の切り口(dimension)は、担保・請求権の優先順位・商品タイプ等の、取 引に特有の要素を反映したものでなければならない。基礎的内部格付手法採用銀行にと っては、この要件は、債務者の要素と取引特有の要素の双方を反映した案件の切り口

(facility dimension)を設定することによって充足することができる。例えば、債務 者の強さ(PD)および損失の重大度(LGD)への考慮を織り込んだ EL を反映した格付の 切り口は、適格なものとなろう。同様に、LGD のみを反映した格付システムは適格なも のとなろう。格付の切り口が期待損失を反映しているものの、LGD が別個に計量されて いない場合には、監督当局設定の LGD を利用しなければならない。

399. 先 進 的 内 部 格 付 手 法 を 採 用 す る 銀 行 の 場 合 、 フ ァ シ リ テ ィ 格 付 ( facility ratings)は、LGD のみを反映したものでなければならない。これらの格付は、LGD に影 響を与える可能性のある、担保種類・商品・業種・目的といったファクターのいずれか、

あるいはすべて(必ずしもこれらに限定されない)を反映させることができる。債務者 の特性は、LGD の予測となりうる限りにおいて、LGD 格付の基準の中に含めてもよい。ポ ートフォリオのセグメントを跨るファシリティの区分(facility grades)に影響を与え

るファクターの変更は、それが推定の適合性および正確性を改善させるという点におい て監督当局を満足させることができる場合においてのみ、行ってもよい。

400. SL のサブポートフォリオについて監督当局設定のスロッティング・クライテリ アを用いる銀行は、そのエクスポージャーについては、2 つの切り口という上記の要件 が免除される。SL における債務者/取引に係る属性の相互依存性を勘案し、債務者の強 さ(PD)と損失の重大度(LGD)を考慮した EL を反映する単一の格付の切り口を導入す ることで、本項の適格要件を満たしてもよい。この例外規定は、SL のサブポートフォリ オに対して、一般的な事業法人向けの基礎的・先進的内部格付手法を用いる銀行には適 用されない。

リテール・エクスポージャーの基準

401. リテール・エクスポージャーに関する格付システムは、債務者リスクと取引リス クの双方に着目し、関連するすべての債務者特性と取引特性を捕捉していなければなら ない。銀行は内部格付手法における「リテール」の定義に当てはまるエクスポージャー を、特定のプールに割り当てなければならない。銀行は、このプロセスによって、有意 なリスクの分類と、十分に均質的なエクスポージャーのグルーピングが行われており、

プールレベルで正確かつ一貫性のある損失特性の推定が可能となっていることを、証明 しなければならない。

402. 各プールに対して、銀行は、PD・LGD・EAD の推定を行わなければならない。複 数のプールが、同一の PD・LGD・EAD の推定値を共有してもよい。少なくとも、銀行は、

プールに対してエクスポージャーを割り当てるプロセスにおいて、以下のリスク要因

(risk driver)を考慮に入れるべきである。

債務者のリスク特性(例えば、債務者のタイプ、年齢/職業等の属性による区分)

取引のリスク特性。これには、商品種別、および/あるいは、担保種別(例えば、

LTV(loan to value)値、シーズニング(seasoning)、保証、そして優先順位

(seniority)(第一順位対第二順位担保権(first vs. second lien))を含む。

銀行は、クロス担保条項(cross-collateral)が存在する場合には、明示的に対 処しなければならない。

エクスポージャーの延滞状況:銀行は延滞が発生しているローンとそうでないロ ーンを別個に識別することが期待される。

(ⅱ) 格付の構造(Rating structure)

事業法人、ソブリン、銀行向けエクスポージャーの基準

403. 銀 行 は 、 債 務 者 格 付 ( borrower-rating ) お よ び フ ァ シ リ テ ィ 格 付

(facility-rating)の両者の区分について、格付区分毎のエクスポージャーの分布が極 端に集中することがなく、意味のある配分が行われるようにしなければならない。

404. 銀行は、非デフォルト債務者(non-defaulted borrowers)について少なくとも 7 つ、またデフォルト債務者(those that have defaulted)について少なくとも 1 つの 債務者等級を設けなければならない。特定の市場セグメントに焦点をあてて貸出活動を 行っている銀行は、この最低の格付区分数の設定により、この要件を充足することがで きる。監督当局は、多様なクレジット・クオリティを有する債務者への貸出を行ってい る銀行に対しては、債務者格付区分数を増やすよう要求してもよい。

405. 債務者格付(borrower grade)は、具体的かつ明確な(specified and distinct)

格付基準に基づき、そこから PD 推定値が導出される債務者リスクの評価と定義される。

この債務者格付の定義には、その格付区分に割り当てられた債務者に典型的なデフォル ト・リスクの記載、および、信用リスクの水準を識別するのに用いられる基準を、とも に含めなければならない。また、アルファベットや数字で表わされた等級に付加される

「+」ないし「-」の調整記号は、それらの調整記号の付与に関する格付の説明および 基準が完備されており、かつ、これらの調整された格付区分に対する PD を別に計測して いる場合にのみ、独立した格付区分として適格となる。

406. 特定の市場セグメントおよび特定の範囲のデフォルト・リスクに集中した貸出ポ ートフォリオを有する銀行は、特定の格付区分について債務者が必要以上に集中しない ように、その範囲のなかで十分な債務者格付区分数を用意しなければならない。1 つの 格 付 区 分 あ る い は 複 数 の 格 付 区 分 ( a single grade or grades ) へ の 重 大 な 集 中

(significant concentrations)は、その格付区分が十分に狭い範囲の PD バンドをカバ ーするものであること、および、その格付区分に割り当てられるすべての債務者のデフ ォルト・リスクはその PD バンド内に収まるものであることの説得的な経験的根拠をもっ て援護されるものでなければならない。

407. LGD 算定のために先進的内部格付手法を用いている銀行の場合、ファシリティの 区分(facility grades)に関しては最低区分数を特段設定しない。広い範囲の様々な LGD を持つ案件が、1 つのファシリティの区分に集中することのないように、銀行は十分 な数のファシリティの区分を有していなければならない。ファシリティの区分を定義す るうえで用いられる基準は、経験的根拠によって裏付けられなければならない。

408. SL 資産クラスに対する監督当局設定のスロッティング・クライテリアを用いる 銀行は、少なくとも、非デフォルト債権には 4 つの格付区分、デフォルト債権には 1 つ の格付区分を有していなければならない。SL エクスポージャーが、事業法人向けの基礎 的内部格付手法、先進的内部格付手法に適格となるための要件は、一般的な事業法人向 けのエクスポージャーに対するものと同じである。

リテール・エクスポージャーに関する基準

409. 区別された各プールに対して、銀行は、そのプールに対する損失特性の定量的尺 度(PD、LGD、EAD)を算出することができなければならない。内部格付手法を適用する にあたり、区分の水準は、特定のプールにおけるエクスポージャーの数が、プールレベ ルでの意味のある損失特性の計量化および検証を可能とするために十分な程度のもので なければならない。プール全体にわたって、意味のある、債務者分布およびエクスポー ジャー分布を有していなければならない。1 つのプールには、銀行のリテール・エクス ポージャーを不必要に集中してはならない。

(ⅲ) 格付基準(Rating criteria)

410. 銀行は、具体的な格付の定義、および、エクスポージャーを格付システムにおけ る区分に配分する具体的なプロセスおよび基準を有していなければならない。格付の定 義および基準は、合理性があり、意味のあるリスクの識別をもたらすものである必要が ある。

• 格付区分の説明および基準は十分に詳細であり、同様のリスクを有する債務者お よびファシリティに対しては、一貫して同じ格付区分に配分することを可能とす