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III. 信用リスク - 内部格付手法

4. リスク格付制度の運用 (i) 格付の対象範囲

422. 事業法人、ソブリンおよび銀行向けエクスポージャーについては、各債務者およ び認識される保証人には全て格付を付与し、エクスポージャーには 1 件ずつ与信承認プ ロセスの一環として案件格付を与えなくてはならない。同様に、リテール向けエクスポ

ージャーについても、エクスポージャーは 1 件ずつ、与信承認プロセスの一環として、

いずれかのプールに割り当てられなければならない。

423. 銀行がエクスポージャーをもつ独立した法人には、1 つずつ別々に格付を付与し なくてはならない。同一グループに属する個別法人の扱いに関して、同一グループに属 する個別企業の全部または一部に同一格付を付与できる、またはできない状況を含めて、

銀行は監督当局に受け入れられる方針を備えていなくてはならない。

(ⅱ) 格付手続の完全性(Integrity of rating process)

事業法人、ソブリンおよび銀行向けエクスポージャーに対する基準

424. 格付の付与およびその定期的な見直しは、当該信用供与によって直接利益を受け ることがない立場にある者が行うか、または、その承諾を得なくてはならない。格付付 与手続の独立性は、監督当局が種々の実務慣行を慎重に審査した上で達成され得る。こ れらの運用上の手続は、文書化して銀行の手続集に収録し、銀行の方針に組み込まなけ れ ば な ら な い 。 信 用 供 与 の 方 針 ( credit policies) お よ び 引 受 手 続 ( underwriting procedures)も、格付プロセスの独立性を強化し、促進するものでなくてはならない。

425. 債務者とファシリティの格付は、1 年に少なくとも 1 回、見直さなくてはならな い。特定の種類の信用エクスポージャー、ことにリスクの高い債務者または問題債権は、

さらに頻繁に見直さなければならない。また、銀行は、債務者またはファシリティにつ いて重要な情報が判明した場合、新しい格付を付与しなくてはならない。

426. 銀行は、債務者の財務状態ならびに LGD および EAD に影響するファシリティの状 況(担保の状態など)に関する重要な情報を収集し、更新する有効なプロセスを有して いなければならない。銀行は、情報を受領した後、直ちに債務者の格付を適時に更新す る手続を有している必要がある。

リテール向けエクスポージャーに関する基準

427. 銀行は、少なくとも年 1 回、各リスクプールの損失特性および延滞状況を見直さな くてはならない。銀行はまた、各エクスポージャーを適切なプールに確実に割り当て続ける ための手段として、各プール内の債務者それぞれの状況を検証しなくてはならない。この要 件は、プールのエクスポージャーの代表となるサンプルを検証することで満たしてもよい。

(ⅲ) オーバーライド(書き換え:Overrides)

428. 専門家による判断に基づき格付を行う場合、どのような状況の場合には銀行のオフ ィサーが格付プロセスの結果を書き換えてよいか、誰が、どのようにして、どの程度までそ のような書き換えを利用してよいかを含めて、銀行は明確に規定しなくてはならない。モデ ル・ベースの格付では、銀行は、人間の判断によってモデルによる格付を書き換え、出てき たデータを対象外としたり、インプットデータを変更したケースを監視するガイドラインお よび手続を備えなくてはならない。これらのガイドラインには、これらの書き換えの承認の 責任者を記載しなくてはならない。銀行は書き換えを識別し、それらの結果を別途追跡しな くてはならない。

(ⅳ) データの維持管理(Data maintenance)

429. 銀行内部の信用リスクの計測および管理プロセスを有効なものとし、本文書に記 載するその他の要件を銀行が充足し、監督当局への報告の基礎とするため、銀行は主要

な債務者およびファシリティの特性に関するデータを収集し、保存しなくてはならない。

例えば内部格付制度を精緻化してポートフォリオを細分化する場合のように、債務者お よびファシリティの格付への割当を事後的に再配分するに十分な程度に、これらのデー タは詳細なものとすべきである。また、銀行はこのフレームワークの「第三の柱」で要 求される内部格付に関する様々な観点のデータを収集し保存しなくてはならない。

事業法人、ソブリンおよび銀行向けエクスポージャーについて

430. 銀行は、債務者および認識された保証人に内部格付を付与した時からの格付、当 該格付付与日、当該格付の付与に用いた方法および主要データ、当該格付責任者または モデルを含めて、債務者および保証人に関する格付履歴を維持管理しなくてはならない。

デフォルトとなった債務者およびファシリティを特定したデータ、デフォルトが発生し た時期およびその状況を保存しなくてはならない。また、銀行は債務者格付システムの 予測能力を把握するために、格付および格付遷移に関連する PD データおよび実績デフォ ルト率データを保存しなくてはならない。

431. 先進的内部格付手法を用いる銀行は、各ファシリティに関連する LGD および EAD 推計値データの完全な履歴、推計値を計算するにあたり用いた主要なデータ、当該格付 責任者またはモデルを、収集・保存しなくてはならない。銀行はまた、デフォルトとな ったファシリティに関する LGD および EAD の推計値および実績値データも収集しなくて はならない。保証またはクレジット・デリバティブの信用リスク削減効果を LGD に反映 させる銀行は、保証またはクレジット・デリバティブの効果を評価する前と後のベース で、ファシリティの LGD データを保存しなくてはならない。デフォルトとなった各エク スポージャーの損失および回収に係る構成要素の情報として、例えば、回収額、回収手 段(例、担保、清算代わり金、保証)、回収に要した時間、管理費などの情報を保存し なくてはならない。

432. 監督当局の推定値を利用する基礎的内部格付手法による銀行は、関連データ(基 礎的内部格付手法による事業法人向けエクスポージャーの損失および回収の実績データ、

SL エクスポージャーについて監督当局のスロッティング・クライテリアを用いる銀行の 実際の損失データ)を保存するように奨励される。

リテール向けエクスポージャー

433. 銀行は、直接またはモデルの利用を通じて用いた債務者および取引リスクの特性 に関するデータ、および延滞データを含めて、エクスポージャーをプールに割り当てる プロセスで用いたデータを保存しなくてはならない。銀行はまた、エクスポージャーの プールに関連する PD、LGD、EAD の推計値に関するデータを保存しなくてはならない。デ フォルトが発生したエクスポージャーについては、銀行は、デフォルトとなる前の年に エクスポージャーが割り振られていたプールのデータ、および LGD および EAD の実績値 データを保存しなくてはならない。

(v) 自己資本充実度を評価するストレス・テスト

434. 内部格付手法採用銀行は、自己資本充実度を評価するために使用する適切なスト レス・テストの手続を持たなければならない。ストレス・テストは、銀行の信用エクス ポージャーに好ましくない効果を与えるイベントの発生または経済状況の将来変化を特 定することや、このような好ましくない変化に耐える銀行の能力の評価を含まなければ

ならない。使用できるシナリオの例としては、(ⅰ)経済または産業の後退、(ⅱ)市場 リスク上のイベント、(ⅲ)流動性の状況が含まれる。

435. 上記の一般的なテストに加えて、銀行は、ある特定の状況下において内部格付手 法による所要自己資本が受ける影響を評価するために、信用リスクのストレス・テスト を実施しなければならない。採用されるテストは銀行による選択ではあるが、監督当局 による検証の対象となる。また、採用されるテストは十分意味があり合理的にみて保守 的でなければならない。個別銀行は、このストレス・テストの要件を満たすため、状況 に応じて異なった手法を開発することができる。この目的のため、銀行にワースト・ケ ース・シナリオを想定することを求めることを目標とはしていない。ただし、ここでい う銀行のストレス・テストは、少なくとも、穏やかな景気後退シナリオの効果は考慮す べきである。ここでは「連続 2 四半期ゼロ成長が続く場合(two consecutive quarters of zero growth)」を想定して、銀行の PD・LGD・EAD への影響を、当該銀行の国際分散を

(保守的に)考慮して評価することを一例として挙げる。

435(ⅰ) ダブル・デフォルトの枠組を利用している銀行はストレス・テストの枠組の一 環として、プロテクション提供者の信用力が悪化した場合の影響、特にプロテクション 提供者が格付変更によって適格基準を外れた場合の影響を考慮しなければならない。銀 行は、債務者とプロテクション提供者の双方ではなくいずれかがデフォルトに陥った場 合の影響と、そのデフォルト時に結果として生じるリスクおよび所要自己資本の増加に ついても考慮しなければならない。

436. どのような方法を使用したとしても、銀行は、以下の情報ソースを考慮に入れな ければならない。第一に、銀行自身のデータから、エクスポージャーのうち少なくとも いくつかについては格付推移を推計すべきである。第二に、銀行は、信用環境の比較的 小さな劣化がその格付に与える影響に関する情報を考慮するべきである。これは、比較 的大きな劣化やストレス環境が与える可能性がある影響についての情報を与えることと なる。第三に、銀行は外部格付の格付推移の証拠(evidence)を評価すべきである。こ れは銀行が自行の格付区分(its bucket)を、外部格付(rating categories)に大まか にマッチさせることを含む。

437. 各国監督当局は、その法域における状況を念頭に置いたうえで、この目的のため に利用されるテストはどのようにデザインすべきか、ガイダンスを発行することを望む かもしれない。銀行が既に内部格付においてストレスを勘案する手法を用いている場合、

この枠組のこのセクションで述べる内部格付手法により計算された所要自己資本とスト レス・テストの結果には差がないかもしれない。銀行がいくつかの市場で事業を行って いる場合、それらの市場の全てでこのようなストレス・テストを行う必要はない。しか し、銀行は総エクスポージャーの大半を含むようなポートフォリオに対しストレス・テ ストを行うべきである。