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III. 信用リスク - 内部格付手法

1. エクスポージャーの分類

215. 内部格付手法では、銀行は以下に定める定義に従い、バンキング勘定のエクスポ ージャーを内在するリスク特性の差異によって資産の大区分に分類しなくてはならない。

資産区分は、(a)事業法人、(b)ソブリン、(c)銀行、(d)リテールおよび(e)株式である。

事業法人の資産区分には、スペシャライズド・レンディングの 5 つの下位区分を別に定 める。リテールの資産区分には、3 つの下位区分を別に定める。事業法人向けおよびリ テール向けの資産区分については、一定の条件を満たした場合には、購入売掛債権につ いても別の取扱いを適用することができる。

216. この方式によるエクスポージャーの分類は、確立されている銀行実務と概ね整合 している。しかしながら銀行によっては内部のリスク管理やリスク計測システムにおい て異なる定義を用いていることもありうる。銀行のビジネスやリスクの管理方法につい て変更を求めることは当委員会の意図するところではないが、銀行は最低所要自己資本 を算出するうえで、それぞれのエクスポージャーを適切に取り扱うことが求められる。

銀行は、エクスポージャーを異なる資産区分に分類する方法が適切であり、かつ継続的 であることを監督当局に対して実証しなくてはならない。

217. 内部格付手法における証券化エクスポージャーの取扱いについては、セクション

Ⅳを参照のこと。

(i) 事業法人向けエクスポージャーの定義

218. 一 般 的 に 、 事 業 法 人 向 け エ ク ス ポ ー ジ ャ ー は 、 事 業 会 社 、 合 名 ・ 合 資 会 社

(partnership)、個人事業主(proprietorship)等の債務(debt obligation)と定義 される。銀行は、パラグラフ 273 で定義する中小企業(SME)エクスポージャーを別個の ものとして扱うことが認められている。

219. 事業法人の資産区分には、5 つのスペシャライズド・レンディング(SL)の下位 区分を設ける。これらの貸付金は、法的形態、経済的実態において、次の特徴を全て有 している。

通常の場合、当該エクスポージャーは、有形資産に関する資金調達や運営を行う ために特別に設立された会社(多くの場合、特別目的事業体(SPE))向けのも のである。

借入会社は、借入資金で取得した資産から得られる収入以外、重要な資産や業務 をほとんど、または全く持たないことから、独自の債務返済能力をほとんど、ま たは全く有しない。

借入条件において、貸手に対して当該資産および、それから生じる収入に対する 相当程度の支配力が与えられる。

これらの要因の結果として、当該債務の主要な返済原資は、独立した一般的な商 業活動の能力ではなく、当該資産から生じる収入である。

220. スペシャライズド・レンディングの 5 つの下位分類とは、プロジェクト・ファイ ナンス、オブジェクト・ファイナンス、コモディティ・ファイナンス、商業用不動産貸 出(IPRE)、高ボラティリティの商業用不動産貸出(HVCRE)である。これらの各下位区 分は、以下に定義する。

プロジェクト・ファイナンス

221. プロジェクト・ファイナンス(PF)とは、貸手が主として単一のプロジェクトか ら生じる収入を、返済原資およびエクスポージャーの担保と見る融資手法である。この タイプの融資は通常、発電所、化学処理プラント、鉱山、交通インフラ、環境関連、通 信インフラ等の大規模、複雑かつ巨額の費用を要する設備向けである。プロジェクト・

ファイナンスは、新規の主要施設建設の融資や、既存施設に対する改良を伴う、あるい は伴わないリファイナンスという形態を取り得る。

222. これらの取引において、貸し手が受け取る資金の全て、あるいは大半は、通常、

発電所が売却する電力等、当該設備の生産物に対する契約によって得られる資金から支 払われる。通常、借手は、当該設備の建設、所有、運営以外の業務を行うことを認めら れていない SPE である。このため返済は、主としてプロジェクトからのキャッシュ・フ ローとプロジェクト資産の担保価値に依存する。一方その融資の返済を、十分に安定し 分散された信用力の高いエンドユーザーが負う契約に主として依存する場合には、その 融資は当該エンドユーザーに対する担保付エクスポージャーであると見なされる。

オブジェクト・ファイナンス

223. オブジェクト・ファイナンス(OF)とは、物的資産(例:船舶、航空機、人工衛 星、鉄道車両、およびそれら一群(fleets))の取得資金を融資する手法であり、その エクスポージャーの返済は、融資で取得し、かつ貸手に担保として差し入れられている か、あるいは譲渡された特定の資産が生むキャッシュ・フローに依存するものをいう。

それらのキャッシュ・フローの主なものとしては、一つあるいは複数の第三者とのレン タルあるいはリース契約が挙げられる。一方、その融資が、特定の担保資産に過度に依 存することなく返済することが可能な財務状況および債務返済能力を持つ借手に対する ものである場合には、当該エクスポージャーは担保付の事業法人向けエクスポージャー として扱うべきである。

コモディティ・ファイナンス

224. コモディティ・ファイナンス(CF)とは、取引所で取引されるコモディティ(原 油、金属、穀物等)の支払準備金、在庫、売掛債権に充てるために組成される短期融資 で、エクスポージャーがコモディティの売却代金により返済されるものであり、借手が エクスポージャーを返済するための独自の能力を持たないものをいう。これには、借手 が他の事業活動を行っておらず、バランスシート上に他に重要な資産を有していない場 合が該当する。この与信の仕組みの性質は、借手の低い信用力を補うようにデザインさ れている。このエクスポージャーの格付は、債務者の信用力ではなく、その商品が持つ 換金可能性(self-liquidating nature)や取引を組成する貸手のスキルを反映している。

225. 当委員会は、このような融資が、他の、より多角的な事業法人向けの支払準備金、

在庫、売掛債権のための融資によるエクスポージャーと区別できると考えている。銀行 は、後者のタイプの債務者の信用度については、それらのより広範な継続的事業に基づ

いて格付を行うことができる。こうした場合、コモディティの価値は、主要な返済資金 源としての役割ではなく、リスク削減手段としての役割を果たす。

商業用不動産貸出

226. 商業用不動産貸出(IPRE)とは、不動産(例、賃貸用オフィスビル、小売店舗ス ペース、マンション、工場又は倉庫スペース、ホテル)への融資の一手法で、エクスポ ージャーの返済および回収が主として当該資産が生み出すキャッシュ・フローに依存し ているものをいう。これらのキャッシュ・フローの主な源泉は、通常、リース又はレン タル料または資産の売却代金である。債務者は通常、SPE、不動産の建設もしくは保有を 業とする会社、もしくは、不動産以外の収入源をもつ事業法人であるが、これに限らな い。IPRE を、その他の不動産を担保とする事業法人向けエクスポージャーから区別する 特性は、双方とも主として物件が生み出すキャッシュ・フローに依存しているものの、

エクスポージャーの返済の見込みとデフォルトが発生した場合の回収の見込みが強い正 の相関関係にある点である。

ボラティリティの高い商業用不動産関連貸出

227. ボラティリティの高い商業用不動産貸出(HVCRE)とは、他の SL の区分と比べて、

損失率のボラティリティがより大きい(すなわち、資産相関がより高い)商業用不動産 関連ファイナンスである。HVCRE には以下のものを含む。

各国監督当局により、ポートフォリオのデフォルト確率のボラティリティが高水 準であるという共通の特徴を有する類型に区分された不動産を担保とする商業 用不動産向けエクスポージャー。

各国の監督当局の管轄地域で、前記の類型に区分された資産に係る土地取得、開 発および建設(ADC)のいずれかの段階に対する融資。

前記の類型以外に対する ADC に対するローンで、エクスポージャー発生時におけ る返済原資が、借手が相当程度のリスクを引き受けている場合を除いて、将来に おける未確定の当該資産の売却や、返済原資が実質的には確定していないキャッ シュ・フロー(例:当該不動産が、そのタイプの商業用不動産に対する地域市場 での平均入居率に達していない)であるもの。商業用の ADC ローンは、借手の引 き受けている借入金の返済の確実性に基づいて HVCRE ローンの取扱いから除外 されている場合は、パラグラフ 277 で述べる SL エクスポージャーに対する追加 的な軽減措置の対象とならない。

228. 監 督 当 局 が 管 轄 法 域 に お い て 特 定 の 商 業 用 不 動 産 向 け エ ク ス ポ ー ジ ャ ー を HVCRE に分類することとした場合には、当該監督当局はその決定について公表しなけれ ばならない。他国の監督当局は、その監督下にある銀行が当該法域において同様の HVCRE 融資を行う場合には、同様の取扱いが適用されるようにする必要がある。

(ⅱ) ソブリン向けエクスポージャーの定義

229. この資産区分には、標準的手法においてソブリン向けとして取り扱われる取引先 に対するすべてのエクスポージャーが該当する。この中には、ソブリン(およびその中 央銀行)、標準的手法においてソブリンと認定される特定の PSE、標準的手法において 0%

のリスク・ウェイトの適用基準を満たす MDB、およびパラグラフ 56 に記載した組織が含 まれる。