• 検索結果がありません。

III. 信用リスク - 内部格付手法

7. リスクの定量化

(i) 推計に対する全般的要件 構造および意図

446. このセクションでは、PD、LGDおよびEADの自行推計値に適用する広範な基準を検 討する。一般に、内部格付手法を利用する銀行は、事業法人向け、ソブリン向けおよび 銀行向けエクスポージャーについては各債務者の内部格付区分に対応するPD、88またリ テール向けエクスポージャーについては各プールに対応するPDを、推定しなくてはなら ない。

88 特定の株式エクスポージャーおよびSLサブポートフォリオに該当する特定のエクスポージャーについ ては、PDの自行推計値の算出を銀行に求めることはない。

447. PD の推計値は、リテール向けエクスポージャーを除いて(以下参照)、各格付 区分に属する債務者についての 1 年間のデフォルト実績率の長期平均である必要がある。

PD の推計に焦点を当てた要件は、パラグラフ 461~467 に記載する。先進的内部格付手 法を用いる銀行は、そのファシリティ(またはリテール向けのファシリティのプール)

毎に、適切な LGD 値(パラグラフ 468 から 473 で定義されるもの)を推計しなくてはな らない。先進的内部格付手法による銀行は、また、パラグラフ 474 および 475 で定義さ れ る よ う に 、 フ ァ シ リ テ ィ そ れ ぞ れ に つ い て デ フ ォ ル ト 額 で ウ ェ イ ト 付 け し た

(default-weighted)適切な長期平均 EAD 値を推計しなくてはならない。EAD の推計の 要件は、パラグラフ 474~479 に記載する。事業法人向け、ソブリン向けおよび銀行向け エクスポージャーについて、上記に記された EAD または LGD の自行推計値に関する要件 を満たしていない銀行は、監督当局によるこれらのパラメーターの推計値を使用しなく てはならない。これらの推計値の利用の要件は、パラグラフ 506~524 に記載する。

448. PD、LGD および EAD の行内推計値は、あらゆる関連する重要で利用可能なデータ、

情報および手法をすべて織り込まなければならない。銀行は行内データおよび外部デー タ(プールされたデータ(pooled data)を含む)を利用してもよい。行内データおよび 外部データを使用する場合、銀行はその推計値が長期的な実績値を表していることを示 さなくてはならない。

449. 推計値は、実績値および実証的な証拠による裏付けを必要とし、主観的または判 断による(judgmental)考察だけに基づいてはならない。観測期間中の貸出実務および 回収プロセスの変更はどのようなものであっても、考慮に入れなくてはならない。銀行 による推計値は、利用可能になった時点で、技術的進歩、新規データおよびその他の情 報の意味するところを直ちに反映しなくてはならない。銀行は 1 年に 1 回またはそれ以 上の頻度で、その推計値を検証しなくてはならない。

450. 推計に用いるデータによって代表されるエクスポージャーの母集団、およびデー タが算定された時の貸出基準およびその他の重要な特性は、銀行のエクスポージャー全 体のそれとよく整合し、もしくは、少なくとも比較可能であるべきである。銀行は、デ ータの基礎となっている経済的条件または市場条件が現在または予見し得る将来の条件 に関連するものであることを示さなくてはならない。LGD および EAD の推計については、

銀行はパラグラフ 468~479 を考慮しなくてはならない。サンプル中のエクスポージャー の件数および定量化に用いるデータ期間は、推計の正確性および堅固性(robustness)

に対する信頼を銀行に与えるものでなくてはならない。推計手法は、サンプル以外のデ ータによるテスト(out-of-sample tests)で良好な成績を収めなければならない。

451. 一般に、PD、LGD および EAD の推計値は、予測不能な誤差を含む可能性がある。

過度の楽観論を排除するため、銀行は、保守的な観点から誤差が生じる可能性のある範 囲に関連した幅を設定し、推計値に付け加えなくてはならない。手法およびデータが満 足なものではなく、誤差の幅が大きいと見られる場合には、保守的な観点から幅を大き 目にとらなくてはならない。監督当局は、この枠組の実施前に収集したデータについて は、データの要件基準の適用に関して何らかの柔軟性を認めてもよい。しかし、その場 合、銀行は、そのような柔軟性を認めないデータを採用した場合とほぼ同等となるよう に、適切な調整を施したことを監督当局に示さなくてはならない。本枠組の実施以後に 収集したデータは、異なる記載をしていない限り、最低基準を満たさなくてはならない。

(ⅱ) デフォルトの定義(Definition of default)

452. デフォルトとは、特定の債務者について以下の 2 つの事由のいずれか、もしくは 両者が起こった場合に発生が認められる。

当該債務者について担保権(保有している場合)を実行(realising security)

するといった行動による、銀行のリコース権の行使なし(without recourse)に は、銀行グループに対して債務を完全に返済する見込みがない(that the obligor is unlikely to pay its credit obligations to the banking group)、と銀行 が判断している。

当該債務者が、銀行グループに対し、重要な信用債務について 90 日超の延滞を 来たしている (The obligor is past due more than 90 days on any material credit obligation to the banking group)。89 当座貸越(Overdrafts)につ いては、顧客が通知された(an advised limit)限度額を超過した、または現時 点の貸越額より低い限度額が通知された場合に延滞と判断されることとなる。

453. 返済される見込みがないことの指標と考えられる要素には次のものが含まれる。

銀行が当該信用債務を、未収利息不計上の状態(non-accrued status)に区分す ること。

銀行が当該エクスポージャーを引き受けた後に、重大と認められる信用度の低 下 に 起 因 す る 直 接 償 却 ( charge-off) も し く は 個 別 引 当 ( account-specific provision)を行うこと。90

銀行がその信用債務に関する重大な経済的損失を伴う信用債務の売却を行うこ と。

銀行が、事業不振に起因する当該信用債務見直し(distressed restructuring)

に同意しており、これが、元本、利息、または(場合によっては)手数料の重大 な減免(material forgiveness)、繰り延べ(postponement)によって債務の減 少につながると考えられていること。91

銀行グループへの信用債務に関して、銀行が当該債務者の破産の申請もしくは 類似の手段(filed for the obligor’s bankruptcy or a similar order)を講 じていること。

89 リテールおよびPSEのエクスポージャーに対して、監督当局は、当該国の条件に照らして適切と判断し た場合には、異なる金融商品毎に延滞日数として「90 日」の代わりに「180 日」までの日数を設定する ことができる。ある加盟国では、当該国の状況に照らして適切と判断した場合には、銀行の事業法人に 対するエクスポージャーについても 180 日までの日数を用いている。この措置は 5 年間の移行期間に適 用される。

90 価格変動リスクに備えて株式エクスポージャーに対して個別引当金を積み立てるものの、それはデフォ ルトを示唆するわけではないとする国もある。

91 PD/LGD法により計測する保有株式の場合には、株式自体の事業不振に起因する当該リストラクチャリ ング(distressed restructuring)を含む。

• 債務者が銀行グループへの信用債務の返済の停止、もしくは遅延につながるよ う な 破 産 申 請 や 類 似 の 資 産 保 全 手 段 を 講 じ よ う ( placed in bankruptcy or similar protection)としている、または講じていること。

454. 各国の監督当局は、これらの諸要素をどう実施しモニターしなければならないか について適切な指導を行うことになろう。

455. リテール向けエクスポージャーについては、デフォルトの定義は、債務者レベル ではなくて、個別のファシリティレベルで適用する。そのため、債務者がある債務でデ フォルトとなっても、それは、当該銀行グループに対するその他のあらゆる債務をデフ ォルトとして扱うことを銀行に求めるものではない。

456. 銀行は、この参照定義に準拠して、内部格付手法によるエクスポージャーのクラ ス別に(on IRB exposure classes)実際のデフォルトを記録しなくてはならない。銀行 は PD ならびに(該当があれば)LGD および EAD の推計にもこの参照定義を使用しなけれ ばならない。これらの推計値を得るために、銀行は、パラグラフ 462 の要件に従うこと を条件として、この定義とは整合しない利用可能な外部データを用いてもよい。ただし、

この場合、銀行は参照定義とほぼ同等となるように、データに適切な調整を加えたこと を監督当局に示さなくてはならない。この枠組の実施までに使用した内部データについ ても同じ条件が適用される。この枠組の実施日以降に、このような推計に用いられる内 部データ(銀行業界でプールしたデータを含む、including that pooled by banks)は、

参照定義と整合しなくてはならない。

457. かつてデフォルト状態にあったエクスポージャーであるが、もはや参照定義を適 用するに及ばないものと銀行が判断する場合、当該銀行は、デフォルトが発生していな いファシリティとして、債務者格付を付与し、その LGD 推計を行わなくてはならない。

参照定義がその後適用される場合には、2 回目のデフォルトが発生したものとみなす。

(ⅲ) 延滞日数の見直し(Re-ageing)

458. 銀行は延滞日数の計算、特に貸出債権の延滞日数の見直し、および、債務返済の 猶予、繰り延べ、契約内容の更改、見直しを認めることについて、明確かつ明文化され た方針を有していなければならない。最低でも、延滞日数の見直しの方針は、 (a)承認 の権限および報告に関する要件(approval authorities and reporting requirements)、

(b) 延滞日数の見直しが可能となる最低の貸出期間( minimum age of a facility before it is eligible for re-ageing)、(c) 延滞日数の見直しが可能な延滞レベル(delinquency levels of facilities that are eligible for re-ageing)、(d)貸出債権毎の延滞日数 見直しの回数の上限(maximum number of re-ageings per facility)、および(e)債務 者の返済能力の再評価(a reassessment of the borrower’s capacity to repay)、を 含まなければならない。これらの方針は長期にわたり一貫性をもって適用されなければ ならず、またユーステスト(use test)に耐えるものでなければならない(即ち、銀行 が、延滞日数を見直した貸出について、デフォルト定義上の延滞日数(the past-due cut off point)を超過した他の延滞債権と同様の方法で取り扱っている場合、内部格付手法 においては、このエクスポージャーはデフォルトとして記録されなければならない)。

各国監督当局は、その管轄法域において、監督対象の銀行に対して、延滞日数の見直し に関するより具体的な条件を設定してもよい。