第1章 環境ビジネスの現状と動向
3. 環境ビジネスの課題
3.1. 環境ビジネスの構造
環境ビジネスの課題について、第3.1節では構造の視点から述べ、第3.2節ではビジネ スモデルとして述べる。いずれの節についても、詳細を次の第2章で述べており、それら の関係を示すことで、理解いただくように配慮している。
環境ビジネスの構造について、地球環境のあるべき姿から考察を行う。
例えば、地球環境のあるべき姿を次の4つで定義することができる。
① 温室効果ガス排出量が大幅に削減され、
② 資源循環サイクルが地球的規模で構築されており、
③ 生態系への損傷が修復可能な範囲であるほどに小さく
④ 先進国と開発途上国とが合意する持続的開発のサイクルが確立している地球
環境ビジネスの構造は、「全ての人間活動(ステークホルダー)が、4 つの尺度に従っ ているかどうかを検証しながら(シナリオ)、経済活動を行う(アクティビティ)ことが
基本(ミッション)である」となる。ここで取り上げる、ミッション、シナリオ、および ステークホルダーを体系化したものがP2Mである(第2章第3節参照)。
更に一例として「水ビジネス」について、具体的に記述してみると、
① 国際河川の上流・下流の国々が、その河川の利用について共通の認識と制度を有し、
② それに従って河川水が、取水、浄化、利用、再浄化、排出されており、
③ 水量、水質情報が常に監視・把握・交流されていて、
④ 事故等で有害物質が流出した場合でも、即座に緊急対策が施される。
という「あるべき姿」を実現するために、必要な取水設備、上水道設備、利用・再利用設 備、下水道設備、水量・水質の計測・監視設備、料金管理設備等(個別プロジェクト)か らなる大規模プログラムが策定され(ミッション)、関係する国家間等(ステークホルダ ー)で合意された手法と内容で必要な技術と資金が公開で調達され、結成された国際コン ソーシアム(ステークホルダー)の下で建設工事が進行する(アクティビティ)、完成後 は、再び、合意された管理システムの下で、運営されていく(アクティビティ)、という ような形で描くことができる。
環境ビジネスは個々の問題によって異なるものの、多くは以下の特徴を持っており、プ ログラムとして捉えられるものである(P2M標準ガイドブックP.79図表3-2-1参照)。
多義性(多目的性):
• ステークホルダーが多い(日本国政府中央、関係省庁、金融機関、特別目的組織、関 係企業、国際金融機関、国際組織、実施国政府、実施国参加企業、実施国国民など)
• 事業内容が単独で閉じた形で実施されることは少なく、関連を持っているため(例え ば、浄水処理設備建設には、そこで使用するエネルギー問題や発生する汚泥(固体廃 棄物)の処分問題などが関係する)、それらを考慮した、総合的なソリューションが 要求される。
拡張性:
• ソリューションの境界をどこにおくか、が難しい(水道だけか、下水道だけか、それ らを統合した流域管理システムか。あるいは複数の小規模設備か、大規模設備か)
• 技術進歩を今後、一の時点で取り入れるか、の見通しが求められる(たとえば上水道 では、鉛の水道管→塩ビ管、凝集沈殿・砂ろ過システム→膜処理システムなど、我が 国も変遷があった)
複雑性:
• ステークホルダーの責任範囲や利益関係などの処理、関係する法律が国ごとに異なる
など。
上述の、多義性、拡張性、および複雑性を特徴とする環境ビジネスの構造に対して、資 源事業、プラント建設、および地球環境研究などの類型と構造・モデルの分類などから、
整理を行うことができる(詳細はP2M標準ガイドブックP.77図表3-1-1(プログラムの類 型と事例)参照)。構造・モデルの分類については、第2章第2節に述べられている。
構造として、「オペレーション型」プログラムの最初からプログラムのコンセプトがス テークホルダー間で共有されていると捉えても、現実的には、第6章第3節で述べるよう な知的財産に係る法律・制度の新たな構築問題や、建設後の長期間の運営中に開発された 新技術を採用してさらなる効率化や省エネ化を図る問題など、将来を見通しにくい内容も 内包しているため、「創出型や変革型プログラム」の側面も有していると考えて、柔軟に 検討することが重要となる。
また、詳細な検討の例として、構造をワークプロセスの4つのフェーズで考えると次の 通りである。
① フェーズI(構想)での留意点は、環境ビジネスは先進国企業にとってはビジネスチャ ンスであるが、途上国(実施国)にとっては、国のインフラという根幹を他国に委ね ることになり、経済的判断以上に人間として、あるいは政治的な判断が求められる場 面が出てくることが予想される。実際に、国内の水道水全てをマレーシアから輸入し てきたシンガポールが、突然の水道料金の引き上げ通告を契機として、下水を高度処 理して上水に混合するなどの、新しい水システムの構築に向けて猛然たるアクティビ ティを進めている事例などは、安易な解答を許さない事例と言える。
② フェーズ II(設計)では、ステークホルダー間の利害調節が大きな課題となる。国際 調達や、知的財産権保護にも配慮した設計が求められる。また、建設後の補修、交換 がしやすい構造の採用やリサイクルなど運営・管理をも見通した設計が必要である。
③ フェーズIII(構築)では、指揮系統とスケジュール管理が重要なポイントである。大 変多くの職種の作業が同時進行で進むため、それらの「取り合い」部分の調整がカギ となるのは、環境ビジネス関連設備以外の建設工事等と変わらない。
④ フェーズIV(終結)段階で重要なのは、運転担当者へのスムーズな引き渡しである。
インフラ設備が乏しい国での建設であるから、当然、運転技術者も少ない。そのため、
日本での同種設備の研修などを早くから行うなどの人材育成策を並行して進めておく 必要がある。
4つのフェーズの検討は、P2M標準ガイドブック P.60図表2-2-8を参考としている。
環境ビジネスのプログラムマネジメントのプロセスについては、第2章第3節に詳細を述 べている。
環境ビジネスのインフラ輸出に係る部分では、日本と異なり世界では民営である場合に 注意が必要である。世界では、成熟した産業(技術)分野から民営化されることが政治の 基本となっており、先進諸国に続き日本でも、その流れにあることはこの間の製鉄、鉄道、
電信電話、航空、郵便等事業の動向にもはっきりと表れている。環境関連では現在、上下 水道設備運営、ごみ処理等固体廃棄物処理事業が民営化議論の渦中にある。
以上について、水ビジネスを例にとって見てみる。日本では歴史的にプロジェクトの構 想・計画を自治体が担当し、製造・建設を民間が担当し、そして完成後の運営を再び自治 体が担当するという独特の事業形態をとっている。しかし、世界では図表 1-21 に示され るように、「水メジャー」と言われる企業は、上下水道などのインフラ施設の建設・運営 を一括して契約していることが事業展開の常態となっている。現実に図表 1-22 に示され るように、「水メジャー」の代表企業ヴェオリア社は、上下水道などのインフラ施設の建 設・運営を一括して受注・契約して実績を拡大している。
図表 1-21 世界の水ビジネス市場における上下水道の運営形態と民間の業務範囲
(平成22年度版環境・循環型社会形成・生物多様性白書より) [21]
図表 1-22 ヴェオリア社の上下水道受託例 [22]
図表 1-21、図表 1-22は、第1節、第2節でみてきたように、これから本格的な海外展 開を図ろうとしている水ビジネスの産業構造が、日本特有の官民の役割分担が障壁となっ ているという、環境インフラの海外展開にあたっての問題点を典型的に示しているものと いえる。
そして、さらにそれらの各指標項目を現在世界的に優位に立っている「水メジャー」と 優劣を比較してみたものが図表 1-23 である。この表で、日本が「劣る」とされている部 分を早急に回復し、「強み」を伸ばす方策を戦略の基本とすることが、第一の課題と考え られている。
図表 1-23 水ビジネスにおける指標項目ごとに見た「水メジャー」と我が国企業との 優劣比較 [23]
3.2. 環境ビジネスのビジネスモデル
環境ビジネス分野における日本の「強み」と「弱み」を捉え、ビジネスモデルを浮き彫 りにすると次の通りである。
<日本の強み>
(1) 水俣病をはじめとする多くの公害を経験し、環境問題の重大さを国民が良く認識し ている。
(2) ほとんどすべての産業分野が、世界の高い技術水準を持ち、その複合に際しての不 足が少ない。
(3) 要素技術(製品)の品質が極めて高く、複合システムであっても高い性能と長期間 の運転が可能となる。
(4) 顧客の要求に対し、真剣に対応する姿勢が強く、省エネ・省資源など技術や製品に 対する改善意欲が高い。
<日本の弱み>
(1) 「縦割り行政」の下での事業に安住し、分野横断的事業遂行の経験に乏しい。
(2) 豊富な国内需要に安住し、海外市場での競争経験に乏しい分野が多い。
(3) 産官が合同で実施する海外プロジェクトの取りまとめ経験が少ない。