第3章 環境ビジネスの分野ごとのプログラムマネジメント・モデル
2. 分野ごとの事例
2.2.3. 企業におけるグリーン IT の推進
企業として地球環境保全への自主的取組を経営戦略の一要素として位置づけ、積極的に 推進することで社会的責任を果たし、企業そのものの持続的成長につなげていこうとする 環境経営と呼ぶ考えがある。企業が行う経済活動は、環境に与える負荷が非常に高いもの であるため、社会の持続可能な発展のために、まず「自社の CO2 排出量削減」、「自社 以外のCO2削減への貢献」そして「自社および自社商品/サービスのCO2排出量公開」の 大きく3つの分類をバランスよく進めていくことが企業としてできること、やるべきこと であると考える。
(1) 自社のCO2排出量削減
既にほとんどの企業が昼休みの電気消灯やカラープリントの抑制など経費削減号令の もと取り組んでいる状況であるが、更に削減効果が望める省エネ設備の積極的導入がある。
LED照明の採用や最新の空調設備、ECO プリンターなどの業務機器等、省エネ設備を積 極的に導入することである。
そのうえで重要なのは「業務効率の向上」である。設備を省エネ型に変えるだけでなく、
省エネ機器を使用しつつも、同じ使用エネルギーでも多くの業務や生産ができるようにす ることで企業としての生産効率を向上させることである。勤務時間の短縮や在宅勤務の採 用、短期間開発や拠点集約などもひとつの取り組みとしてあげられる。
(2) 自社以外のCO2排出量削減への貢献
自社以外のCO2排出量削減への貢献方法として第一に「CO2削減に貢献する商品/サー ビスの提供」、第二に「排出権購入」があげられる。
グリーン ITの中核となる活動とは「CO2削減に貢献する商品/サービスの提供」と考え る。これは他の企業や一般消費者が省エネ商品やサービスを使用することにより、最も高 いCO2削減効果が期待できる。根本的にITは、業務の効率化やコスト削減を推進するた めに導入することが目的であり、どのような IT システムでも、導入自体が環境効果を持 つと言えるが、現在においては単にコスト面の効率化だけではなく、環境面、特に CO2 排出量への貢献度合いも考慮した商品/サービス開発・提供が必要となってきた。
前述のグリーン IT イニシアティブ構想によると本格的な情報通信技術の普及により情 報量の増大(情報爆発)が発生。それを支えるための IT 機器が急激に増加し消費電力の 5倍増が発生すると伝えた。その中でもサーバやストレージ(記憶装置)など大型の IT 機器の集約が進むデータセンター自体の省エネは避けて通れない課題となっている。
例えば、約 45 万台のサーバを保有する Google は、データセンターの消費電力だけで
10億kWh/年(日本の年間発電量の約1/1000)を超えると推計される。また、IBMの保
有するデータセンターは72万㎡(東京ドーム 55個相当)にも及び世界最大規模であり、
データセンターの総消費電力を 40%削減することを目指し、年間 10 億ドルを投じる
Project Big Greenを開始。IBM自身のデータセンターも50億kWh/年以上削減すると
言われている。
データセンターの省エネなどに取り組んでいる業界団体Green Gridの調査によると、
空調装置・電力設備・照明装置・監視装置などの電力も含めたデータセンター全体の消費 電力をそこで管理されるサーバなどの IT 機器の消費電力で割った指数である PUE
(Power Usage Effective)に関して、北米などの多くのデータセンターは3.0以上と報告 している(図表 3-19参照)。
図表 3-19 データセンターの電力利用効率を示す指数
理論上、最も電力利用効率のよいデータセンターはPUE=1.0 となる。その場合、デー タセンター全体の消費電力のすべてをそこで管理される IT 機器によって消費される状態 であり、全く無駄がなく理想値である。PUE=2.0の場合は、データセンターで消費した電 力の半分がIT機器で消費されたことになる。PUE値が1.0に近づくほどIT機器以外の電 力消費の割合が小さいということであり、エネルギー効率という点で最も優れたデータセ ンターといえる。
日本においてもデータセンターのエネルギー効率をPUE で示すケースが増えており既 に日本IBMの「幕張データセンター」ではPUE=1.8以下を、日立製作所の「横浜データ センター」では PUE=1.6 以下とすることを明らかにしており、直流での給電や水冷装置 にも対応し最先端の省エネ技術を取り入れ電力の消費効率を高める活動をしている(図表 3-20参照)。
現在最もPUE値の低いデータセンターはGoogleが所有するデータセンターといわれて
おり PUE=1.2 を達成し稼働している。推察ではあるが、データセンターは空調(冷却)
装置を使用せず、安価な夜間電力のみで省コストを意識した運用がなされており、昼間は データセンター自体をシャットダウンするなど地球規模のデータセンター配置によるダイ ナミックな運用をしていると言われている。
PUE=データセンター全体の消費電力/IT機器による消費電力
図表 3-20 PUE(Power Usage Effectiveness)
(出典)日経BPホームページより
このようなPUEを一つの指標としたデータセンターの構築はIT業界全体に広がってお り、2012 年 1 月稼働開始予定の日本ユニシス「クラウドコンピューティング・データセ ンター」(福井県小浜市)では、再生可能エネルギーの活用や最新の空調設備機器等の採 用によって更なるPUE値の達成を目指して現在新規構築中だ(図表 3-21参照)。
図表 3-21 日本ユニシス小浜データセンター完成予想図
(出典)日本ユニシスホームページより
次に「排出権購入」である。排出権購入としてカーボンオフセット・クリーン開発メカ ニズム・排出権取引という言葉が定義されており、その関係を次に説明する。
Wikipediaによると、まずカーボンオフセット(Carbon offset)とは、人間の経済活動
や生活などを通して「ある場所」で排出された二酸化炭素などの温室効果ガスを、植林・
森林保護・クリーンエネルギー事業などによって「他の場所」で直接的、間接的に吸収し ようとする考え方や活動の総称とある。
次にクリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism、略称:CDM)とは、
先進国が開発途上国において技術・資金等の支援を行い、温室効果ガス排出量の削減また は吸収量を増加する事業を実施した結果、削減できた排出量の一定量を支援元の国の温室 効果ガス排出量の削減分の一部に充当することができる制度である。
最後に排出権取引(Emissions Trading、略称:ET)とは、国家や企業ごとに温室効果 ガスの排出枠(キャップ)を定め、排出枠が余った国や企業と、排出枠を超えて排出して しまった国や企業との間で取引(トレード)する制度である。
要するにこの3つの考え方は同一で、中小企業への技術支援や発展途上国での削減によ り発行される排出権を購入することである。これは直接的な削減ではないが、地球規模で 考えれば日本でも海外でも CO2 は同じであり、環境負荷軽減としてその効力は低下しな い。しかもCO2排出量削減に至るまでの日本におけるコストは476 ドル/tに対し、発展 途上国のCO2削減コストは3ドル/tという指標が存在する。効率的にCO2排出量削減を
狙うための有効な策であることがわかる。
(3) 自社および自社商品/サービスのCO2排出量公開
企業として自社のCO2排出量や自社商品/サービスのCO2排出量を外部公開することに よって環境対応意識向上を狙うことが可能だ。それには商品やサービスのライフサイクル でのCO2排出量公開(カーボンフットプリント)やCSR報告書等の利用による公開とい う策がある。
カーボンフットプリント(Carbon Footprint of Product、略称:CFP)とは、商品やサ ービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体で排出される 温室効果ガスの排出量をCO2量に換算し、図表 3-22に示すマークなどを使って分かりや すく表示する仕組みである。このマークは本来目には見えない CO2 を「量り」をモチー フにデザインしたものだそうだ。
CFPの導入により、消費者は、同じ製品やサービスのCFPを比較することで、製品の もつ機能的価値に加え環境負荷の少ないものを選択することができるようになる。また製 品の製造販売やサービス提供事業者は、自らの地球温暖化防止対策の取り組みを消費者に アピールすることができるようになる。英国では、すでにいくつかの日用品(菓子や飲料、
衣類など)にCFPがつけられている。日本でも「低炭素社会・日本を目指して」(2008/06/09 福田総理スピーチ)の中で「CO2排出量の見える化」の具体例として政府がカーボンフッ トプリントを推進することが示され、これを受けて経済産業省が関係省庁の連携のもと、
カーボンフットプリント制度試行に向けた様々な取り組みが開始された。そして 2009 年 10 月に「カーボンフットプリント制度試行事業」の第 1 号として、国内大手スーパーで CFPを貼付したうるち米(ジャポニカ米)、菜種油、衣料用粉末洗剤の3商品の販売が開 始された。
更に CFP の必要性については、特に環境への影響が大きいと思われる自動車を例に説 明すると理解が深まる。それは生産段階のCO2排出量と使用時のCO2排出量の双方加え て自動車のライフサイクル全体での CO2 排出量算出を行わなければ正しく環境負荷に対 する評価を行うことはできないからだ。図表 3-23 に示すように、製品のライフサイクル 全体で環境負荷の評価を行うことで、事業者単位を超えた CO2 削減が可能となり、社会 全体での CO2 削減の最適化につながることを目指している。現在既に消費者もエコプロ ダクツへの関心が高くなっており、企業としても低価格のみでなく低CO2商品や低CO2 サービスを市場へ投入する必要性を高めることが可能となる。このような相乗効果を目指 し、海外などの原料調達先を含めたグローバル規模での低炭素化社会の実現を目指すこと ができるのがCFPの意義といえる。