第2章 環境ビジネスと P2M
3. 環境ビジネスへの P2M プログラムマネジメント適用
3.1. ミッション
P2Mではプログラムやプロジェクトのミッションをなによりも大事にしている。プログ ラムにおけるミッションとは、プログラムのオーナーやその他の主たるステークホルダー が期待する、プログラムが達成すべき使命の全体像である。
P2Mは価値創造を基本コンセプトとしており、単体プロジェクトであろうとプログラム であろうと、いかなる価値を創造するのか(どのような高い付加価値やイノベーションを 実現するのか)という局面からスタートしなければならないと説いている。
そこでは、伝統的なプロジェクトマネジメントの概念における、所与の品質・納期・予 算(QDC)を達成するための共通項的なプロセスの着実な実行を重視する“How to make”
を超えて、“What to make”の世界を直視したマネジメントアプローチが要求される。
プログラムにおけるミッションは、図表 2-9 に示すように国家レベル(社会レベル)、
産業レベルそして各組織体(企業など)のレベルにおいて各々導かれる。
図表 2-9 ミッションのレベルを例示する
この例は極めて典型的、かつ簡素化したミッション階層であるが、環境ビジネスを考え る上でまずヒントとなろう。
民間プログラムやプロジェクトでは、一般的にはミッションは下記要件を含む1ページ 程度の記述とする。
ミッションのレベル ミッション 戦略的目的
国のミッションレベルI 9 独立国家の主権を確立する 9 政治リーダシップを維持する 9 経済成長を達成する
9 国のサステナブルな発展を確保する 9 国民の生活水準を向上する 9 国の文化で世界に貢献する
独立国家として生存し発展する
国のミッションレベルII
「経済成長を達成する」
9 経済成長戦略を策定し実行する 9 国の発展を牽引する産業分野を特定する 9 チャンピオン企業群を想定し、重点的な育成を行う 9 最もバランスが取れた経済政策を採る
国の成長を担う成長戦略を策定し、コア 戦 略に応じて企業群を特定し、育成する
企業のミッションレベル 9 勝ち組企業となる 9 顧客満足の高い企業となる 9 イノベイティブな企業となる 9 良きグローバル企業市民である
特色ある、競争差異性のある企業として固 有の戦略を有する
事業部のレベル 9 企業戦略に基づき新製品・サービス を連続的に投入し 企業価値を増大する
9 現下の世界課題である持続可能な発展にビジ ネス側 から貢献する
存続、成長、持続的発展への貢献を行う
• 「α」という新事業を創出する。これにより、事業主Aは「・・・・・」という経済価 値(企業存続・成長・マーケットシェア・企業ブランド)を得ることができ、また、自 社事業の拡大や産業や地域振興には「・・・・」といった知的資産価値や調和価値での 貢献をもたらす。
• 新事業は具体的には、
9 (インプット:連携パートナー)→事業主(事業プロセス)→(アウトプット:
顧客)の上下流関係の連携で、
9 ・・・の技術、ノウハウ、資金源を活用し、
9 ・・・の市場メカニズム(仕組み)を構築し、
9 ・・・市場優位性を発揮する為にxx年xx月までに上市する。
9 ・・・新事業に取り掛かるのは、詳細構想化と実現可能性検討(フィジビリティ ー・スタディー)の結果、市場化可能性(具体的基準は)、技術的裏付け(社 内技術・社外技術の利用可能性は)、資金見通し(具体的なファイナンス手段 は)の基準を満たした際とし、基準を満たさない際には撤退、あるいは事業規 模を縮小する。
ミッション設定のこの原則を踏まえつつも、パッケージ型インフラ輸出や環境ビジネス 輸出には公益がからんでくるので、少々異なるミッション設定が必要である。
現下の環境関連の課題は、かつての“環境保全”という概念から一歩進んで、サステナ ビリティや更に進んでは生物多様性(Biodiversity)利用の観点から捉えることが適切で ある。
サステナビリティ(日本語では「持続可能性」と訳される)とは、人間活動、特に文明 の利器を用いた活動が、将来にわたって持続できるかどうかを表す概念である。とくに、
開発と環境や資源の保存が適切に調和されて次世代に伝承できるかどうかが中心課題で、
国連の「環境と開発に関する世界委員会:WCED = World Commission on Environment and Development」)の報告書“Our Common Future”(邦題『地球の未来を守るため に』)はサステナブルな開発を「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今 日の世代のニーズを満たすような開発」と定義している。またサステナブルな開発が行わ れ持続可能性を持った社会を「持続可能な社会」と呼んでいる。
サステナビリティの課題には、直接的なテーマ(本来の課題)と関連テーマとして、下 記がある。
直接テーマ
• 水産資源の持続可能性
• 化石資源の持続可能性
• 廃棄物処理の持続可能性 関連テーマ
• 持続可能な開発
• 環境問題
• 有機農業
• 人口爆発
• エネルギー問題
• 低炭素社会
• 健康と持続可能性のライフスタイル(LOHAS) (Wikipedia, 2010)
以上のいずれのテーマも環境ビジネスに結びつき、ミッション設定にあたっては公共側 とジネス側の両方のミッションとして綜合されるべきである(公共側:低炭素社会の実現、
エコ・スマートコミュニティの構築、国際協力によるプログラムの実現、ビジネス側:当 社のXX技術の活用・本格規模での実証、エコ・スマートコミュニティのビジネスモデル 確立、等々)。
環境ビジネスのプロジェクトあるいはプログラムのいずれのミッションも、企業がこれ まで実施してきた典型的なプロジェクトやプログラムのミッションと若干趣旨が異なる。
つまり、通常の企業のプロジェクトあるいはプログラムのミッションであると、上記の 図表 2-9のレベル3に記したミッションに大なり小なり属するものであろう。つまり、「勝 ち組企業」、「競争差異性」、「顧客満足企業」、「イノベーション」などのキーワード が入った表現のミッションとなる。
一方、環境関連プロジェクトであると、プロジェクトの組成上次のようなファクターが 強く影響する:
• 一国政府、地方政府、公的機関・企業がオーナーとなることが多く、政治的な公約や 政府・自治体の理念実現の一環としてのプロジェクトやプログラムとなる。
• プロジェクトのホスト国(現地国)、日本(本邦)のいずれか、あるいは両方の公的 資金が投入されることが多い。
• 地域コミュニティの生態系に影響を及ぼすことが多々ある。
• 発展途上の技術を活用し、プロジェクトを通じて検証を行いながらプロジェクトを完 成するケースが多々ある。
このような事から、ミッションは、公益優先の表現、あるいは公益と民間企業(または 民間企業連合)の企業価値創造ビジョンが組み合わされた表現となる。
例えば、政府の新経済成長戦略の先行実施例として多々引用されている日本・インド戦 略パートナーシップを代表するデリー・ムンバイ産業大動脈構想(Delhi - Mumbai
Industrial Corridor Program)における旗艦プロジェクトとして日本の企業グループ4連
合がインドで取り組み中であり、近い将来に実プログラムとして実現が期待される「エコ・
スマート都市」のミッションを想定すると次のようになる。
ちなみにこのエコ・スマート都市計画の上位構想プログラムである、日印政府が共同で 推進するDelhi – Mumbai Industrial Corridor Program のミッション(インド政府作成)
は次の通りである。
インドxxx州において、日本の最先端技術を動員し、
• 21世紀型最先端都市機能(あるべき姿)
• 徹底して環境低負荷、低炭素
• 最大限の資源再生・再利用
• ITを活用した多元最適化都市機能
を実現する都市を造築し、次世代都市運営モデルを世界に先駆けて確立すること。以て 21世紀テクノ日本の地位を確立する。
デリー・ムンバイ産業大動脈構想は、インド経済規模の約半分を担い、輸出額の二分の一 を扱う、今後のインド経済成長の牽引車たるデリー州を起点とする西部6州において、
• 5年以内に当該6州において産業創出額3倍
• 5年以内に当該6州からの輸出額4倍
• 5年以内に当該6州における就労機会2倍
を実現するために、インド経済各セクターを糾合し、産業とインフラストラクチャーの最 適補完関係を追及して世界クラスの産業大動脈ゾーンを形成することを使命とする。
本構想プログラムはインド政府と日本政府が共同で推進する両国戦略パートナーシップ 実施の一環であり、インド側が推進主体とプログラムマネジャーを務め、日本側は戦略的 制度融資と民間企業の直接投資促進を担当する。