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2-(1) 資源としての育児言説―育児雑誌調査から―
本章以下では、1970年代以降に興隆した商業育児雑誌(1)のうち、代表的かつ発行部数の多い6誌に焦 点を当て、育児雑誌上の言説がどのように変容したのかについて検討していこう。
具体的な分析に入る前に、本章以下で用いるデータの収集過程(調査概要)についてふれておきたい。雑 誌言説調査・インタビュー調査の概要は以下のとおりである。
育児雑誌調査の概要
①調査時期 2000年12月初旬~2003年11月初旬/2006年10月初旬~2007年5月初旬
②調査場所 国立国会図書館・石川財団法人立お茶の水図書館
③調査対象 『ベビーエイジ』(婦人生活社)・『プチタンファン』(婦人生活社)・『ひよこクラブ』(ベ ネッセ・コーポレーション)・『こっこクラブ』(ベネッセ・コーポレーション)・『わた しの赤ちゃん』(主婦の友社)・『Como』(主婦の友社) 創刊年から2005年(それ以前に 廃刊のものは廃刊時まで)までに発行された分すべてに目を通し、記事を収集。『ベビ ーエイジ』のみインテンシヴに調査を行い、特集記事の内容分析を実施。また、特集 記事一覧を作成(巻末資料1を参照)。
インタビュー調査の概要
①調査時期 2000年12月~2001年2月初旬
②調査場所 東京都福生市/豊島区/新宿区/葛飾区
③調査対象者 の選定方法お よび調査方法
機縁法〔雪だるま式サンプリング〕最初の対象者からその友人へ、または子育てサー クルの仲間へと、機縁をつてとして調査対象者に連絡および接触。
④調査対象者 の属性
子育て中の女性20代~30代(専業主婦5名) 子育て中の男性30~40代(父親5名) 育 児雑誌編集者6名(ベネッセ・コーポレーション:女性5名・婦人生活社男性:1名) 育児雑誌ライター(女性:1名)
*本インタビュー調査は、共同研究『育児知識・言説に関する理論的・実証的研究』(早稲田大学教育社会学研究会 2003、
研究代表:柴野昌山)の一環として実施されたものである。インタビューは筆者を含む他のメンバー(3名)と共同で実施 した。
育児雑誌の利用状況と雑誌メディアの特性
育児言説を伝達するメディアには口伝えによるものからインターネットに至るまで多様な形態が存 在するが、なかでも「育児雑誌」は育児言説の主要なメディアのひとつである。2000年度に限ってみ ても、公称発行部数10万部を超える育児雑誌は29誌が市場に出回っている(メディア・リサーチ・
センター編、2001)。
主たる育児エージェントである若い母親による育児関連メディアの接触状況、つまり、母親たちが どのようなメディアから子育てについての情報を得ているのかについてみてみると、「テレビの育児 番組」が14.9%、「新聞の育児欄」が16.6%、「育児書」が30.2%であるのに対し、「育児雑誌」は48.7%
となっており、母親たちの育児雑誌の利用・接触度は、他のメディアと比してかなり高いことがわか っている(村松 2001、113頁)。
同様に、以下の表2-(1)-1は、早稲田大学教育社会学研究会が1999年に行なった調査から得ら れたデータをもとに作成したものである。本データは「育児知識・情報を得るのに役立ったものは何 か」を、母親に対して尋ねたものである。本データから読み取れるように、母親による育児雑誌の接 触度・利用度は、テレビ・新聞・育児書などのメディアと比して群を抜いて高く、また、他の人的ネ ットワークのうちでも親・親戚に次いで育児知識・情報を得るのに役立っている。育児雑誌という手
軽でパーソナルな情報・知識媒体が、弱体化した地域コミュニティにおける子育てネットワークの代 替物として機能していることがうかがえる。
表2-(1)-1 育児知識・情報を得るのに役立ったもの
順位
媒体 第1位 第2位 第3位 計
親・親戚 407
(40.1%)
201 (19.8%)
104 (10.2%)
712 (70.1%)
育児雑誌 121
(11.9%)
175 (17.2%)
145 (14.3%)
441 (43.4%)
近隣の人から 109
(10.7%)
151 (14.9%)
110 (10.8%)
370 (36.5%) 医者・保健婦から 54
(5.3%) 124
(12.2%) 119
(11.7%) 297
(29.3%)
テレビ・ラジオ 23
(2.3%) 75
(7.4%) 165
(16.3%) 263
(25.9%)
育児書 100
(9.9%)
77 (7.6%)
79 (7.8%)
256 (25.2%) 親戚や知人の子どもを
世話した経験
74 (7.3%)
101 (10.0%)
77 (7.6%)
252 (24.8%) 母親学級・幼児教室 53
(5.2%)
48 (4.7%)
49 (4.8%)
150 (14.8%)
家庭科の授業 0
(0.0%) 2
(0.2%) 1
(0.1%) 3
(0.3%)
インターネット 0
(0.0%) 1
(0.1%) 1
(0.1%) 2
(0.2%)
特にない 8
(0.8%)
14 (1.4%)
76 (7.5%)
98 (9.7%)
その他 66
(6.5%) 46
(4.5%) 89
(8.8%) 201
(19.8%)
計 1,015
(100%) 1,015
(100%) 1,015
(100%)
*柴野ほか1999、天童2002をもとに作成。本データは早稲田大学教育社会学研究会によって1997~98年に
かけて実施された調査に拠る。なお、同調査は、首都圏の幼稚園八ヶ所の園児の父母1623組に調査票を配布したもので、有効回答数は、
母親1023票/父親984票。回答者の属性は、平均年齢は母親34.5歳/父親37.4歳、平均子ども数は2.1人、専業主婦の母親とサラリ ーマンの父親からなる夫婦が約6割以上、核家族が全体の八割以上を占有。
商業育児雑誌に提示される育児情報・知識は、育児資源のひとつでもある。育児知識は、①育児行 為に直接的に投入される財や時間、②サポート・ネットワークとしての人的資源、③情報・知識など 育児にかかわる文化的資源の三つに大別することができるが(柴野ほか 1999)、育児雑誌は、育児に関 する情報・資源を豊富に盛り込み、かつて存在した近隣・親族を中心とした、育児知識・情報ネット ワークの代替物としての役割を担っている(天童 1997)。
では、育児雑誌は、メディアとしてどのような特性をもっているのだろうか。雑誌メディアの特性 としては、①詳報性、②一覧性とインデックス性、③可搬性、④随意性、⑤廉価性、⑥綴じてある形 態ゆえの情報内容の秘密性、⑦セグメント化・専門情報性、⑧ターゲットの明確さ、⑨適度な定期発 行サイクル、⑩ビジュアル性、⑪保存性をあげることができる(諸橋1993、16頁)。こうした特性は、
後にみるように育児雑誌にも同様にみられるものである。
このような雑誌メディアの特性とあいまって、子どもの世話やしつけについての情報・知識を育児 雑誌から求めようする育児エージェント層が広範囲に形成され、いまや、育児雑誌は育児言説を育児 エージェントに広く伝達するための主要な装置のひとつとなっている。
分析対象育児雑誌の概要
育児雑誌にはどのようなタイプのものがあるのだろうか。育児雑誌は、①妊娠期の親を対象とした もの(『マタニティ』『バルーン』『たまごクラブ』など)、②(妊娠期も含む)0歳児以上の子どもを持つ
親を対象としたもの(『ベビーエイジ』『わたしの赤ちゃん』『ひよこクラブ』など)、③1歳前後から幼 稚園・保育園入園前の子どもを持つ親を対象としたもの(『プチタンファン』『たまひよこっこクラブ』、
④子ども自身の読み物的要素が高いもの、あるいは、衣服やおもちゃなどモノの紹介を目的にしてい るもの(『miki HOUSE Love』など)、以上四類型に大別することができる。
では、どのような類型の雑誌がどれくらい規模で発行されてきたのだろうか。試みに2000年にお ける各誌の発行部数をみてみると、①の類型に属する『マタニティ』約12 万部、『バルーン』約10 万部、『たまごクラブ』約45万部、②の類型に属する『ベビーエイジ』約16万部、『わたしの赤ちゃ ん』約14万部、『ひよこクラブ』約32万部となっており、②の類型に属する育児雑誌に対する需要 が最も高いことがわかる。すでに述べたように、本論の問題関心は育児エージェントと子どもの「主 体化」にあるが、①の類型に属する育児雑誌は、その対象となるのが妊娠期の母親と新生児が中心と なっているために、しつけや子どもと向き合う母親の問題などに関する記事は少ない。そこで、本論 では、①の類型に属する育児雑誌は分析対象から除外し、②の類型に属する『ベビーエイジ』(婦人生 活社)・『わたしの赤ちゃん』(主婦の友社)・『ひよこクラブ』(ベネッセ・コーポレーション)の3 誌に、
③の類型に属する『プチタンファン』(婦人生活社)・『Como』(主婦の友社)・『たまひよこっこクラブ』
(ベネッセ・コーポレーション)の三誌を加えた全6誌を分析対象とする。
次に、本章で分析対象とする育児雑誌6誌の発行部数の変遷についてみてみよう。以下の図2-(1)-2 は、主な育児雑誌の発行部数の推移をみたものである。
2- (1) -2 主 要 育 児 雑 誌 発 行 部 数 の 年 次 推 移
1 9 7 9 - 2 0 0 5 年
0 5 10 15 20 25 30 35
1979 1981
1983 1985
1987 1989
1991 1993
1995 1997
1999 2001
2003 2005
*メディア・リサーチ・センター編・発行『雑誌新聞総かたろぐ』1979-2005年度版 をもとに作成。発行部数は各出版社の公称発行部数。なお、雑誌別発行部数は 1979年以降より確認が可能であるため、本グラフでは同年が起点となっている。
単 位(
万 部)
ベビーエイジ プチタンファン わたしの赤ちゃん
Como ひよこクラブ たまひよこっこクラブ
1969年10月の『ベビーエイジ』の創刊以後、市場としての有望性を見込んで各社が育児雑誌業界 に参入し、20世紀末にかけて商業育児雑誌はその興隆期を迎える(高橋 2004b)。「0歳児から1歳前 後の子どもの親向けの育児雑誌」では『ベビーエイジ』(婦人生活社)『わたしの赤ちゃん』(主婦の友 社)の二誌が、「1~3歳児をもつ母親向けの育児雑誌」では『プチタンファン』(婦人生活社)が老舗的 存在として育児雑誌市場をリードし、1990年代前半にはこの系列の雑誌として新しいスタイルを提示 する『Como』が登場する。
90 年代以降の育児雑誌市場における勢力地図を大きく塗り替えたのは、『ひよこクラブ』(1993 年 創刊)である。『ひよこクラブ』創刊から五年後の 1998 年における各誌の発行部数をみてみると、最 盛期には32万部であった『ベビーエイジ』が17.5万部へ、同様に『わたしの赤ちゃん』が32万部 から17万部へ、それまで育児雑誌市場をリードしてきた各誌が軒並み発行部数を減らし、2000年代
に入ってからは、老舗的育児雑誌が相次いで姿を消した(『わたしの赤ちゃん』2002年5月に休刊、
また、『ベビーエイジ』『プチタンファン』は2003年休刊)。
これに対し、『ひよこクラブ』は創刊から4年後の97年に早くもピークを迎え、発行部数34万部 を数え、以後平均して30万部台の安定した発行部数で推移している。
また『ひよこクラブ』誌の姉妹誌で「1~3歳児をもつ母親向けの育児雑誌」である『たまひよこっ こクラブ』は、創刊時に27万部であったが、98年以降は20万部台で安定した推移をみせて現在に いたっている。こうした動きと反比例し、『たまひよこっこクラブ』創刊から5 年間の期間( 1996~ 2001年)には、同類型の育児雑誌『プチタンファン』が15万部から14.5万部へ、『Como』にいたっ ては、21.3 万部から15 万部へと発行部数を減らしている。
1960年代末の『ベビーエイジ』創刊を契機として、他社の育児雑誌が軒を連ねてきた80年代前半 までを育児雑誌市場興隆の第一段階とするならば、90年代型の『ひよこクラブ』の登場は、育児雑誌 市場に第二の興隆段階をもたらしたといえよう。この転換は、いわば育児雑誌の世代交代というべき 性格をそなえており、90年代型の育児雑誌には「徹底した読者参加の姿勢」「本音の共有空間」「高い ファッション性」といった特徴がある。
とりわけ『Como』誌は、その表紙に「いつまでもキレイなママ」って言われたい」(2004年10月 号)・「今年ももっともっと!「きれいなママ」を応援します!」(2005 年1月号)と銘打ち、「キレイ なママ」って言わせてしまおう!」(1999年8月号)・「まだあきらめない!もう気後れしない!ママ はもっとキレイになれる!」(2000年4月号)・「髪の色を変えてキレイな私を発見!」(2001年5月 号)といった特集記事が組まれている。同誌は、子育てだけに追われるのではなく、子育てをしながら も同時にひとりの人間として、また、魅力的な女性として心身ともに磨きをかけ、自己実現を図って いく、「育児だけではない私」という新しい母親像(=想像上の主体)を描き出している点で、従来型の 育児という営みに特化された育児雑誌とは一線を画している。
主要育児雑誌の基本コンセプトと読者層
育児雑誌はどのようなコンセプトをもち、また、その読者層はどのような社会的属性を有している のであろうか。本論の分析対象育児雑誌6誌についてみてみよう(表2-(1)-3)。
婦人生活社編『ベビーエイジ』読者層の社会的カテゴリー別比率は、専業主婦:86%、常勤:8%、
自営業:4%、パート・フリー:1%(本データは2002年以降公表)(メディア・リサーチ・センター編 2002、307頁)、年齢別比率は、最も古い84年度データでは、20~24歳:10.1%、25~29歳:61.
3%、最新の2001年度データでは、20~24歳:22.2%、25~29歳:48.9%、30~34歳:24.4%(前 掲同書 1984、187頁/2001、322頁)である。同社編の『プチタンファン』では、25~29歳:33.4%、
30~34歳:47.2%、35~39歳:13.4%といった年齢層の母親が主たる読者層を構成しており(メディ ア・リサーチ・センター編、2001)、同誌が対象とする子どもの年齢が上昇していることもあって、『ベ ビーエイジ』誌よりも若干、年齢層が高めである。
主婦の友社編『わたしの赤ちゃん』の社会的カテゴリー別比率は、最も古い1979年および最新の 1997年度データ(本誌は、97年度以降の公表なし)では、ともに主婦:85%、常勤:15%(前掲同書1979、
143頁/1997、272頁)、年齢別比率は、最も古い79年度データでは、24歳まで:25%、25~29歳:
65%、30歳以上:10%、最新の97年度データでは、24歳まで:25%、25~29歳:65%である(前 掲同書 1997、272頁)。同社編の『Como』は『わたしの赤ちゃん』誌と世代交代を果たした、ファ ッション性の高い育児雑誌であり、1~2人の子どもがいる25~35歳の母親(メディア・リサーチ・セ ンター編、2000)が読者層の中心を構成している。記事内容をみる限りでは、小学校就学段階以降の6
~8 歳位の子どもをもつ母親ぐらいまでが読者層であり、読者の年齢層の幅は『わたしの赤ちゃん』
誌よりもやや広い。
また、ベネッセ・コーポレーション編の『ひよこクラブ』の読者層データは公開されていないが、
同誌の編集者によれば、「学歴は関係なく、基本的には若い世代で、平均年齢は28歳ぐらい」の「専