第三章 <帝国>の首都における東アジアと東アジア系を取り巻くダイナミクス
3 状況の変化:局地的な人口比率の増加
第 2 の要因として,アジアからの「FOB」人口(本項目で関連のあるのはこの中でも特 に若年層)の流入が増加したこと,同時にハート・セラー移民法後のアメリカ生まれのアジ ア系 2 世が増加した時期が重なり,この二つのグループは就学期間が重なったというデモ グラフィックな側面について論ずる.
人口の局地的な増加の,局地的というのは,アジア系は特に米国の西海岸に流れたという ことで,さらに西海岸の中でも特定の地域,または就学年齢の人々は特定の学校に集中した という意味である.彼らの多くは若年層であれば韓流に多かれ少なかれ影響を受けている だろうアジアからの学生層で,単純に数の上でもその存在感は大きくなっている.AZN世 代(この用語は後述するが,2016年時点で30歳前後を指す)からすぐ下のK-Pop世代(こ れについても後述を参照)への移行が起きるうえで,韓流が主流,あるいは人気がすでに出 ている東アジアからの人々が,中でも若年層が草の根レベルのポップカルチャーのアンバ サダーとでも呼びたくなるような役割を担った(項目7-2で詳述).彼らの流入ボリューム の推移を確認したい.近年のアジアから西海岸への移住民の流入を下図に示した.韓国出身 の人口が一番多かったようだが,それが中国からの流入が追い付いている.韓国は近年の国 内の発展が充分に進んだことで日本と同様に国外流出の量が頭打ちになっており,今後は 減少すると想像される.もちろん中国も経済的には発展しているのだが,もともとの本国の 桁違いの人口量からしてロサンジェルスへの流入は増加の一途である.
1979年,鄧小平時代に国交を正常化した米中は,改革・開放政策も影響し,法整備後の 1985年以降,人材の中国から米国への移動も急増した.クリントン政権以降,「知識経済」
に重点をおきかえるアメリカは,高度スキル人材の国外からの移住を優遇し,結果,中国か らの流入は留学を経由して,卒業後に高度技術を要する就労ビザ取得をし,その後,永住権 に切り替えるケースが多い.戴二彪(2005)によると,一時,中国側は頭脳流出を懸念した が,結局は頭脳流出しても米国内での中国系の高度スキル人材の活躍は中国にも経済的に 利するところが多いという判断から規制をかけず,今でも多くの留学生が中国から米国へ と流れている.米中の政治経済的背景をうけてのものである.
本項で重要な点は中韓ともに2000年から2010年の間に増加したことである.
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(2000年および2010年の米国国勢調査,2011-2014年のAmerican Community Survey の推定値発表から筆者作成.)
それでも上図の人口からみれば中国本土から以外はさしたる増加にはみえないだろうが,
本稿の対象である若年層にとって,学校は第一の社会的つながりを持つ場である.下図は米 国全体になってしまうが,外国人学生(International Students)の数である.9.11の時期 に少しだけ低迷したが,その後もうなぎ上りだ.
(Institute of International Education, 2016, "International Student Enrollment Trends, 1948/49-2015/16." Open Doors Report on International Educational Exchange.(2017年 3月6日取得,http://www.iie.org/opendoors)からグラフは筆者作成.)
0 20000 40000 60000 80000 100000 120000 140000 160000 180000
2000 2010 2011 2012 2013 2014
図 1 . LA 郡 外国生まれ東アジア人口 ACS と米国国勢調査より
China, excluding Hong Kong and Taiwan
Hong Kong
Taiwan
Japan
Korea
0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000
1948 1951 1954 1957 1960 1963 1966 1969 1972 1975 1978 1981 1984 1987 1990 1993 1996 1999 2002 2005 2008 2011 2014
図 2 .全米外国人学生数 1948-2015 年まで
(Opendoors調べ)
外国人学生数
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次の表とその下の表の数値の食い違いは著しいが,最初のものはInternational Student 枠でのカウントであり,その次の表の数値はInternational Students 本人とその扶養家族 も含まれているため大きくなっている.なお,合衆国全体の数字である.中国と韓国からの 米国の教育機関への流入は群を抜いて多い.※インドも多いが,韓流の影響が少ない.
Rank Place of Origin 2013/14 2014/15 % of Total % Change
WORLD TOTAL 886,052 974,926 100 10
1 China 274,439 304,040 31.2 10.8
2 India 102,673 132,888 13.6 29.4
3 South Korea 68,047 63,710 6.5 -6.4
4 Saudi Arabia 53,919 59,945 6.1 11.2
5 Canada 28,304 27,240 2.8 -3.8
6 Brazil 13,286 23,675 2.4 78.2
7 Taiwan 21,266 20,993 2.2 -1.3
8 Japan 19,334 19,064 2 -1.4
9 Vietnam 16,579 18,722 1.9 12.9
10 Mexico 14,779 17,052 1.7 15.4
11 Iran 10,194 11,338 1.2 11.2
12 United Kingdom 10,191 10,743 1.1 5.4
13 Turkey 10,821 10,724 1.1 -0.9
14 Germany 10,160 10,193 1 0.3
15 Nigeria 7,921 9,494 1 19.9
16 Kuwait 7,288 9,034 0.9 24
17 France 8,302 8,743 0.9 5.3
18 Indonesia 7,920 8,188 0.8 3.4
19 Nepal 8,155 8,158 0.8 0
20 Hong Kong 8,104 8,012 0.8 -1.1
21 Venezuela 7,022 7,890 0.8 12.4
22 Malaysia 6,822 7,231 0.7 6
23 Thailand 7,341 7,217 0.7 -1.7
24 Colombia 7,083 7,169 0.7 1.2
25 Spain 5,350 6,143 0.6 14.8
表1. Institute of International Education, 2016, "Top 25 Places of Origin of International Students, 2013/14-2014/15." Open Doors Report on International Educational Exchange.
(2016年10月30日取得,http://www.iie.org/opendoors)から筆者作成.)
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さらに,下図はその出身別の人数の推移である.韓国からの流入ももちろん多いのだ が,中国からの流入は2000年代後半から天井知らずである.(本題とは関係ないが,ちな みに日本からの流入が下がっているのもこの時期からである.)
( 上 の 表 と 出 典 は 同 じ . ※NONIMMIGRANT ADMISSIONS (I-94 ONLY) BY SELECTED CATEGORY OF ADMISSION AND REGION AND COUNTRY OF CITIZENSHIP: FISCAL YEAR 2014-2005より筆者作成.)
外国生まれ以外の学生数との比率を見てみる.ランド研究所とならぶ(方向性は著しく異 なるが,著名だという意味で)米国の代表的なシンクタンクであるブルッキングス研究所の 報告(Ruiz 2016)によると,合衆国の西海岸のキャンパスでの外国生まれの学生数は,1000
人中で50~60人前後のようだ.それほど大きなインパクトを与えない数のように思えるが,
この数字は教育機関をまとめて均した数字である.もともとエスニックな移動はばらばら に離散することが珍しく,たいていは凝集性がみられる.また,西海岸,とくにロサンジェ ルスであればアメリカ生まれのアジア系が多く,やはり彼らもある程度の凝集性をもって 教育機関に所属する.それらを勘案すると学校によってはキャンパス上でのとりまとめた アジアからのInternational studentsはかなりの比率になる.
USC(University of Southern California)では2015年時点でInternational Students
が全体の23.8%で,その内の約70%が中国,インド,韓国,台湾などのアジアからである.
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UCLA(University of California LA校)では2015年時点,外国人学生15%中やはり75%
以上が東・東南アジアからである.LA郡に限らず西海岸の近隣の地域を入れるとUC Irvine では2015年時点で外国人学生約17%中,東・東南アジアからは約80%.他にもUC San
Diegoや少々遠いがUC Berkeleyではそれと同等かそれ以上の割合である.下に示した二
つのグラフは学部生の構成比の時間軸変化を示しているが,これから明確にわかることは,
2011-2012年頃から International students の比率が端的に増加している点である.下記 で示した二つのキャンパスに限らずUC系列ですべてその傾向になっている.そしてLAに 戻って短大であればSanta Monica College,高校でいえば先述のGranada Hills Charter
High School,あるいはFairfax High Schoolなどがその好例である.このような数字にみ
られるように,近年ではアジア系米国人の高等教育への進学率は非常に高く,同時にアジア からやってくる学生も一層その数を増しており,合わせて特に西海岸の特定の大学キャン パスでは人口割合をはるかに上回っている.
( ※ UC System Fall Enrollment at a Glance か ら 筆 者 作 成 , http://universityofcalifornia.edu/infocenter/fall-enrollment-glance).
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( ※ UC System Fall Enrollment at a Glance か ら 筆 者 作 成 , http://universityofcalifornia.edu/infocenter/fall-enrollment-glance).
AZN 時代から K-Pop 時代への移行がみられた時期と学生比率の変化が現れた時期は数
年間のずれがあるもののほぼ一致している.Sさん(後述のインタビューS-1より)は2004 年にAZNのピークがあり,つまり2005年以降に下降,K-Pop時代は2008-2009年に始ま ったと言う.S さんより 4 歳年上の K さんは AZN 時代が目立たなくなりはじめたのが
2004年で,K-Pop時代になったのが2007-2008年だと言っている.Kさんより数歳年上の
FungBro(後述)らは2005年にAZNが終わったと言っている.Jさんおよび,M
さん(M-2)は別の事柄について言っていて,東アジア系(「FOB」も2世以降も併せて)がマジョ
リティのアメリカ社会からの風当たりが良くなったのが2010年頃だとのこと.
アジアからの高校生の流入数は明確にはつかめなかったが,しかし,彼ら 1 世若年層が 影響を与えた対象となる Zhou & Bankston(2016)が言う New 2nd Generation Asian
Americansの人口増加は時期が一致する.Zhouらの言うこの層はハート・セラー移民法以
降にアジアから流入した人口のアメリカ生まれの子供たちで,けして貧しくはなく,また教 育熱心な両親をもっている.彼らは1980 年代,1990 代年で急増し,その後も増加中であ る(Zhou & Bankston 2016: 29-30),1995-2005年時点で最初の波は高校入学~大学卒業 直後くらいの年齢になっていた.このNew 2nd Generation Asian Americanたちが同時期 に増加したと思われる1世(と1.5世)たちと対立し,後に緩やかに結びつき,続く90年 代生まれたちは 2007 年~2010 年以降には高校や大学キャンパス内でもさらに増加した 1
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世(と1.5世)たちとも緩やかに結びついたと考えることは可能である.
ただ,一つ付け加えなければならないのは,UCLAにも70人ほど構成員(アジア系米国 人が大半で,韓国系米国人は一人か二人しかいないとのこと.)がいるK-Popファンクラブ はあるものの,一般的に言えば,K-Pop はそのキッチュさゆえに,UCLAなどに通うエリ ート層に対してはアジア系だろうが求心力は弱いだろう.
参 考 の た め ロ サ ン ジ ェ ル ス 郡 の ア ジ ア 系 総 数 の 割 合 を 挙 げ て お く .American Community Surveyの2014年の推定値(5年間)によるとアジア系総数で1,394,349人,
ロサンジェルス郡全体の人口が9,974,203人で,約14%で国全体6%の2.3倍以上である.
このアジア系の中にはアメリカ生まれも外国生まれも含まれる住人で,エスニシティには Asian Indian,Chinese(香港,台湾,マカオも含まれる),Filipino,Japanese,Korean,
Vietnamese,Other Asianが含まれる.ちなみに中国,日本,韓国だけに絞ると,740,114
人で7.4%である.それがさらにキャンパス内においては増大するため,その凝集性の高さ
は想像に難くない.
また,これも参考までにLA郡における東アジア系のアメリカ生まれと外国生まれの比率 を下図に示す.韓国と中国については外国生まれの人口の方が明らかに多く,彼らのアメリ カ生まれの Co-Ethnic 人口への影響はその数と比率によってもある程度まとまったもので あったことが予想できる.
(※American Community Survey, B05006: PLACE OF BIRTH FOR THE