乱流モデル
2.6 燃焼
2.6.1 燃焼シミュレーションの構成概要
燃焼のシミュレーションにおいては、ガソリンエンジンなので火炎伝播を主とした燃焼で予混合乱流燃焼 モデルが用いられるが、実際のエンジンにおいて極めて強い乱流燃焼の乱流火炎の様子が観察されてお り、火炎の先端部は極めて複雑なしわ構造を有していることがあり、サイクルごとのばらつきも大きくなるた めモデル化が難しいとされてきた。 しかしながらガス流動、混合気の当量比分布、確実な点火等、サイク ルごとの変動があらかじめ予想されている各要素についても、エンジン仕様を決めるための方向性確認に CFD 解析を活用していることや、実機での燃焼結果を計測して平均化処理しているものと比較すること を考慮すると、ECFM-3Z モデル(2.9) と点火用の AKTIM モデル(2.12)を組み合わせて使用することによ り、燃焼シミュレーションが十分活用できると判断した。 ECFM-3Z モデル(2.9)は、乱流火炎面は局所 的には、層流火炎面で成り立ち乱流火炎速度を火炎の総面積と層流火炎速度の積として表現する Flamelet の概念と、しわを定量値として輸送方程式を解く Coherent Flamelet Model を基本に 改良されたもので、混合燃料成分の燃焼プロセスもモデル化できる。 なお、AKTIM モデル(2.12)を組み 合わせて補正することにより、点火の高電圧スパークによって生成されたプラズマの影響を考慮した処理と なっている。
2.6.2 燃焼熱流体解析計算領域の形状と使用した初期条件と境界条件
燃焼については、点火栓近傍で 2 倍規模(1/8)の解像度のメッシュを設定し誤差を抑えているが、
その他の領域については、その他の解析同様のメッシュ解像度となっている。 ガス流動と乱流モデル/壁 関数モデルは上記同様、点火/火炎伝播計算モデルとクランク角指定で有効となり、点火時期を変化 させながら、標準のリスタート機能で燃焼計算を実行させている。 マッピングリスタート機能を用いるとメッ シュ解像度を高くして、ガス流動/混合気形成の計算の続きとして燃焼計算も可能であり一連の処理 において利便性が高い。 また、乱流、噴霧、点火、燃焼の各計算モデルは、計算開始時に設定したも のが組み合わせた状態で起動し計算が実行される仕組みのため、計算途中で計算の条件変更はでき ないが、点火と火炎伝播モデル計算に用いるタイミング情報は変更して計算処理できる。
60
2.6.3 点火と燃焼の計算モデル
本研究では着火・燃焼モデルに ECFM-3Z モデルを用いていることを先の項にて述べた。 ECFM-3Z
( 3 -Zones Extended Coherent Flame Model ) は 、 そ の CFM ( Coherent Flame Model)の改良版である。 CFM モデルは燃焼の化学反応が既燃ガスと未燃ガスの境界面である火炎 面で起こると仮定したもので乱流火炎面をしわ状の層流火炎面として扱う考え方であり、乱流火炎の局 所燃料消費速度を局所層流燃焼速度と火炎面密度(単位体積当たりの火炎表面積)との積と考え たモデルである。 しかるに局所層流燃焼速度は、局所の筒内圧力、筒内温度、空気過剰率の関数に よって求めることができると考えて、火炎面密度はその輸送方程式を解くことにより求める。(2.7) 改良前 の ECFM(Extended Coherent Flame Model)は予混合燃焼では多くの実測結果とよく一致 していることが報告されている(2.7)が、筒内直噴ガソリンエンジンでかつ燃料成分が単一でない場合の複 雑なケースでは、混合状態がかかわる燃焼のシミュレーションに改良の余地があった。 そこで、上記 ECFM-3Z モデルでは、燃料噴射後にすべての解析計算するセルを3つの領域 ①純燃料非混合領 域、 ②空気(残留ガス含む)の非混合領域、③燃料と空気の混合領域のいずれかの領域に分けた うえで、さらにそれぞれの領域に対し着火・燃焼の有無に応じ、既燃ガスと未燃ガスの2つの領域に分け、
最大6つの領域を対象に、それぞれの領域での化学種について輸送方程式を解くことで、複雑な混合 過程を含んだ燃焼の予測精度が改善された。(2.8-2.12)
ECFM-3Z モデルの基本論理
単位体積あたりの平均的化学燃焼速度として 燃料消費速度
ω ̅
uFu を 式(12)で定義する。ω ̅
uFu= ρ ̅
uY ̅
uFuS̅
lΣ [kg/m
3s] (12)
ρ
̅u :未燃域ガス密度 [kg/m3] Y̅uFu :未燃域燃料質量分率 [-]
S̅l : 層流燃焼速度 [m/s]
Σ :単位体積あたりの層流火炎面積 [m2/m3]
火炎面積密度 Σ (FSD : Flame Surface Density)の輸送方程式(13)を解く形で
∂Σ
∂t
+
∂𝑢̃𝑖𝛴∂x𝑥𝑗
=
∂∂𝑥𝑗
(
𝜇𝑆c
𝜕(𝛴𝜌̅)
𝜕𝑥𝑗
) + (𝑃1 + 𝑃2 + 𝑃3) Σ-Ext+ 𝑃
𝑘(13)
61 P1= α ki :乱流による火炎の伸長効果
P2=
2 3
∂𝑢 ̃
𝑖∂𝑥
𝑗 :火炎の熱膨張と曲率による効果 P3= 2
3 S ̅
L(1−𝐶̃) 𝛴
𝐶𝛴
2 :平均流拡張による火炎の生成Ext= β S̅
L 𝛴21−𝐶̃ :燃料消費による火炎の消滅 (消散項)
𝑃 𝑘
:点火自着火による火炎の生成S̅
L : 層流燃焼速度 [m/s]2.6.4 燃焼シミュレーション結果
燃焼シミュレーションを CFD 解析にて実施し、エンジン熱性能改善方策を分析するにあたり、燃焼圧 力の比較を実機と行った。 図 2-5 に CFD 解析による燃焼圧力波形と実機による燃焼圧力計測の結 果比較を示す。 最大燃焼圧発生時期で実機に比べ波形の鮮鋭性が下がる傾向にあるが、圧力上昇 と下降の傾向はよく合致していることがわかる。
Fig.2-5 Cylinder Combustion Pressure CFD simulation vs Actual
62
続いて、燃焼期間について CFD シミュレーション結果と実機での計測データの比較を行った。 図 2-6 に CFD シミュレーションと実機計測の燃焼期間比較を示す。初期燃焼期間(IG-MB10%)は略同 等ながら、主燃焼期間(MB10-90%)は点火時期が進角した状態で 1°CA 程度に誤差が拡大し た。 これは、シミュレーションが流体解析として RANS を用いており、サイクルごとのばらつきが発生する場 の燃焼期間計測データとは誤差が拡大することがあるためと推察される。
Fig.2-6 Combustion time period CFD Analysis vs Actual Engine
すなわち混合気場のサイクルごとの不安定さは予測できない為、比較的安定した感度特性を示すもの の、実機でのデータ計測やサイクル変動分について、安定した領域で相関を確認し、入力情報の判断を 行うのが良いと考えられる。 しかしながら、初期燃焼の予測において、火炎伝播速度に関し点火遅れ
(火炎核形成から火炎伝播モデルへの移行)と乱れ強さの感度(火炎面密度Σの乱れ強さに対する 感度)を調整因子として持つため実機と近い状態で予測することが可能と考えられ、設計仕様のコンセ プト探査の目的では十分シミュレーション間で示される感度から仕様の選択が可能だと判断できた。
一方、主燃焼の特に後半燃焼期間の予測の誤差が発生する現象については、気化燃料あるいは、一 度液膜形成し再蒸発するプロセスを持つ場合、筒内の混合気の分布特性にサイクルごとの変動要因を 含むことから、層流火炎伝播速度の筒内不均一性が正確に反映できないことが影響していると考えられ る。 特に点火時期を進角した場合の燃焼の分散 COV(Covariance)が不安定になるときに誤差 が拡大する傾向は実機での計測と合致している。
63