第 9 章 剛体の運動 129
11.4 熱力学関数
11.4 熱力学関数 171
熱力学関数 内部エネルギーの変化と与えられた熱量,外部にした仕事 の関係はエネルギーの保存則より,
∆U =Q−P∆V (11.49)
である.エントロピーの表式(11.22)Q=T∆Sより
∆U =T∆S−P∆V (11.50)
Uの変化を見るためには,エントロピーの変化を見なければいけないとい う,実際には困難なことをこの式は主張している.そこで,
F =U−T S (11.51)
を定義する.これはヘルムホルツの自由エネルギーとよばれている.この 微小変化は
∆(T S) = (T + ∆T)(S +
∆S)−T S = T ×∆S +
∆T ×S+ ∆T∆S≒T ×
∆S+ ∆T×Sを用いた.
∆F = ∆(U−T S)
= ∆U−∆(T S)
≒T∆S−P∆V −T∆S−S∆T
=−P∆V −S∆T (11.52)
となり,体積と温度の微小変化で表される.
体積でなく,圧力を変数としたものが扱いやすい場合がある.それには,
H =U+P V (11.53)
を考えればよい.Hはエンタルピーとよばれる.エンタルピーの微小変化は
∆H = ∆(U+P V)
= ∆U−∆(P V)
≒T∆S−P∆V +P∆V +V∆P
=T∆S+V∆P (11.54)
である.
同様にヘルムホルツの自由エネルギーFにP V を加えたものをギブスの 自由エネルギーとよび,Gで表す.
G=F+P V =U−T S+P V (11.55)
∆G= ∆(F+P V)
≒−P∆V −S∆T +P∆V +V∆P
=−S∆T+V∆P (11.56)
ギブスの自由エネルギーの微小変化は温度と圧力の変化で表される.
ここで導入した4つの熱力学関数を表にまとめておく.
11.4 熱力学関数 173
記号 定義 微小変化 変数の組
U T∆S−P∆V (S, V)
F U−T S −S∆T−P∆V (T, V) G U−T S+P V −S∆T+V∆P (T, P) H U+P V T∆S+V∆P (S, P)
自由エネルギーの性質 F, Gになぜ自由エネルギーという名前がついて いるのであろうか.
まず,熱源Tに接している状態Aと状態Bを考える.このとき,クラウ ジウスの不等式の応用(11.47)から,
T(S(B)−S(A))≥Q (11.57)
が導かれる.内部エネルギーの変化はU(B)−U(A)である.エネルギーの 保存則Q=U(B)−U(A) +Wfより,
T(S(B)−S(A))≥U(B)−U(A) +Wf (11.58) となる.これより,
F(A)−F(B)≥Wf (11.59)
となる.つまり,一定温度の熱源に接しながら状態Aから状態Bに移って +ここではAは状態Aを指 定する変数の組,VA, TAの 意味とする.
仕事をしたとき,ヘルムホルツの自由エネルギーが減ったとする.その減 り分は仕事の上限値を与えているのである.すなわち,系が一定熱源に接 しているとき,仕事として自由に取り出せるエネルギーを表しているのが,
Fである.
孤立系で外部に仕事をしない場合はWf= 0となる.すると
F(A)≥F(B) (11.60)
となるので,状態Bの自由エネルギーは状態A以下である.温度Tの熱源 にずっと接していると,自由エネルギーは必ず下がり,最小値をとって安定 するのである.よって,熱平衡状態ではヘルムホルツの自由エネルギーが 最小となっているのである.
圧力一定で仕事をしている場合,
F(A)−F(B)≥Wf=P(V(B)−V(A)) (11.61) である.
F(A) +P V(A)≥F(B) +P V(B) ∴ G(A)≥G(B) (11.62) となっている.よって圧力と温度が一定の環境に放置して置くと,ギブスの 自由エネルギーがどんどん小さくなり,最小値に落ち着く.
マクスウェルの関係式 表11.4のたとえば,内部エネルギーUの微小変 化を考えよう.すると,
∆U =T∆S−P∆V (11.63)
であるから,V を固定し,Sで偏微分すると,
(∂U
∂S )
V
=T (11.64)
この温度は(S, V)の関数である.温度をさらにV で偏微分すると ( ∂2U
∂V ∂S )
= (∂T
∂V )
S
(11.65) となる.一方,Sを固定し,UをV で偏微分すると,
(∂U
∂V )
S
=−P (11.66)
である.Pも(S, V)の関数なので,これをさらにSで偏微分すると ( ∂2U
∂S∂V )
=− (∂P
∂S )
V
(11.67) ところで偏微分は順序によらない.よって,
(∂T
∂V )
S
=− (∂P
∂S )
V
(11.68) が導ける.
同様に∆F,∆G,∆Hから,
(∂S
∂V )
T
= (∂P
∂T )
V
(11.69) (∂S
∂P )
T
=− (∂V
∂T )
P
(11.70) (∂V
∂S )
P
= (∂T
∂P )
S
(11.71) が得られる.これらはマクスウェルの関係式とよばれる.
たとえば,温度一定での内部エネルギーの体積変化,(∂U/∂V)T を求め たいとする.このとき,
(∂U
∂V )
T
=T ( ∂S
∂V )
T
−P (11.72)
となるが,
(∂S
∂V )
T
は簡単には測定できない.そこで式(11.69)を用いて,
(∂U
∂V )
T
=T (∂P
∂T )
V
−P (11.73)
とするのである.体積一定での圧力の温度依存性なら簡単に測定できる.
このようにマクスウェルの関係式は熱力学量の測定に役立つ.
11.4 熱力学関数 175 演習問題11
A 1. 温度が異なる物体の接触
同じ物体を用意し,片方を温度T,もう片方を温度T0(> T)にする.
2つを接触させると温度は(T+T0)/2となる.このとき,接触前と 後でエントロピーはどのように変化したか.
2. T-S面で描いたカルノーサイクル
(a) カルノーサイクルをP-V 面でなく,温度とエントロピーSを 使って,T-S面で表すとどのようになるか.
(b) 曲線で囲まれた面積は何を表すか.
3. マクスウェルの関係式
式(11.69), (11.70), (11.71)を導け.
12 クーロンの法則
本章から電磁気学の基本を学んでいく.電磁気現象は,静電気,電流,磁 気,電磁誘導,電磁波と多岐にわたる.この章では,最も簡単な静電気の 法則について学ぶ.
12.1 クーロンの法則と電場
静電気 ギリシア時代から,静電気は知られていた.乾燥した日にセー ターが静電気をもち,パチパチ音を立てるのは,みな覚えがあるだろう.静 電気は精密電気製品の大敵でもある.PCのメモリ増設をするためメモリを 購入すると,静電気を逃がす帯がついてくる場合がある.静電気をもったま まメモリ増設をすると,基盤やメモリが壊れるからである.帯がついてこ ない場合でも,メモリにさわる前にかならず金属にさわって静電気を逃が すようにと注意書きが入っていることがある.この静電気とはなにものか?
まず電気を帯びている状態を帯電と呼ぼう.これは,物質に電荷がたまっ ている状態である.すると電荷とは何かという質問がわく.電荷は,質量と 同様,物質を構成している電子や陽子の基本的な性質の1つである.原子 は,陽子,中性子,電子から構成されるが,このうち陽子はプラスの電荷 をもち,電子はマイナスの電荷をもつことが知られている.陽子の電荷と
電子の電荷の絶対値は等しい.その値は + 陽子,中性子,電子の質 量はばらばらであるが,電荷 の絶対値は厳密に等しい.
e= 1.60217646×10−19C (12.1) である.eは素電荷とよばれる.Cは電荷の単位,クーロンである.この
素電荷を使うと,陽子の電荷は+e,電子の電荷は−eと表される.電荷は + 陽 子 ,中 性 子 は 2e/3 の電荷 をもったuクォーク と,−e/3の電荷をもったdク ォークからなっている.たと えば,陽子はuudの組み合わ せ,中性子はuddの組み合わ せからなっている.一方,電 子はそれ自身が基本粒子で ある.
消滅したり,生成されたりはしない.あらゆる自然現象において,電荷の保 存則が成立していることが確かめられている.
陽子と電子の電荷の絶対値は厳密に等しいので,原子は中性である.原 子,分子が集まって物質となるので通常の物質は電気的に中性である.し かしそれらをこすり合わせると,電子の一部が移動し,帯電することがあ る.たとえば,毛皮,セーターでガラス,プラスティックをこすると,これ らは帯電する.
クーロンの法則 たまっている電荷の量を電気量とよび,Qと表す.電 気量は陽子の数から電子の数を引き,それに素電荷を掛けたものである.し かし素電荷の値があまりに小さく,電子と陽子の数は膨大なため,通常,Q は連続変数とみなす.この電気量を用いて,帯電した粒子,物質(まとめて 物体と呼ぼう)の間に働く力を記述するのが,クーロンの法則
F =kQ1Q2
r2 (12.2)
である.ここでQ1, Q2は2つの物体の電気量,rは物体間の距離である.
2つの物体は大きさが無視できるとしている.こうした大きさが無視できる 大きさが無視できるとは,正
確には物体の大きさに比べ て,距離がはるかに大きいと いう意味である.
電荷を点電荷とよぶ.
k= 8.987742438×109N m2/C2 (12.3) であり,これはクーロン定数とよばれる.クーロン定数は真空の誘電率0
+誘電率については第14章 と 参照
k= 1
4π0 (12.4)
という関係がある.
0= 8.854187817×10−12C2/N/m2 (12.5) + 0の値はややこしいが, である.
これは実は光速をcとして,
107
4πc2[s2C2/kg/m3]となっ ている.107/4πという係数 は,自然法則から導かれると いうよりも,単位系により決 まっている.この選び方は国 際単位系(SI単位系)による ものである.
クーロンの法則が万有引力((7.9)式)に似ていることに注意しよう.万 有引力における質量が電荷になり,万有引力定数がクーロン定数になった だけで,距離依存性は同じである.違いは,電荷には正負があることであ る.これによりクーロン力は引力になったり斥力になったりするが,万有引 力は常に引力である.
力は方向をもったベクトル量である.クーロン力も万有引力と同様,物 体間を結ぶ直線上にそっている(図12.1).これを式で表すと,
FQ1 = 1 4π0
Q1Q2
r123 r12= 1 4π0
Q1Q2
r212 rˆ12 FQ2 =− 1
4π0 Q1Q2
r312 r12=− 1 4π0
Q1Q2
r212 ˆr12
(12.6)
である.FQ1はQ1に働く力,FQ2はQ2に働く力である.また,r12は Q2からQ1に向かうベクトルで,
r12=r1−r2, ˆr12= r12 r12
(12.7) である.ˆr12はQ2からQ1に向かう単位ベクトルである.