第 9 章 剛体の運動 129
11.2 エントロピー
が破れていたとする.すると低温熱源から仕事だけを取り出せる.取り出 した仕事で高温熱源を暖めてやれば(仕事が取り出せているので,こすっ て摩擦熱を発生させればよい),高温熱源に熱を与えることができる.結 局,低温熱源から高温熱源に外から仕事をしないで熱を移せることになり,
クラウジウスの原理に反する.よって,クラウジウスの原理が成り立てば,
トムソンの原理も正しい. +対偶命題の証明
逆にクラウジウスの原理が破れていたとすると,低温熱源から熱を取り 出し,高温熱源に熱を運べる.この運んだ熱量を使って,上の述べたカル ノーサイクルを動かし,仕事を外部に行う.高温熱源は熱量をもらい,同じ 熱量を使って仕事をしているので,同じ状態のままである.すると低温熱 源から熱を取り出し,これを仕事に変換できたことになる.これはトムソ ンの原理に反する.よって,トムソンの原理が成り立っていれば,クラウ ジウスの原理も成立している.以上より,2つの原理は同等であることがわ かった.
難しく述べたが,暖かいものと冷たいものを接触させると,熱は暖かい ものから冷たいものへ自然に移動すると主張しているのである.
永久機関 何もしていないのに動く永久機関は人類の夢であるが,あく まで夢でしかない.永久機関には2種類ある.第1種永久機関と第2種永 久機関である.
第1種永久機関はエネルギーの保存則を破ってしまうものであり,すぐ に見破れる.それに比べて,第2種永久機関は熱力学の第2法則を破って いるが,エネルギーの保存則は破っていないので,見破りにくい.
逆に前章で述べたエアコンが温度に低いところから高いところに熱を運 ぶのは,一見クラウジウスの原理に反しているようであるが,電力を使っ て仕事をしているので決してこの原理に反してはいない.
11.2 エントロピー
クラウジウスの不等式 あるサイクルCを考える.このサイクルは過程 1で温度T1の熱源からQ1の熱量をもらい,過程2で温度T2の熱源から Q2の熱量を受け取るとする.これを繰り返し,たとえば過程iでは温度Ti の熱源から熱量Qiを受け取るとする.サイクルが熱量を放出する場合は,
Qi<0とする(図11.3).
このとき,以下の不等式が成り立つ.
∑N i
Qi
Ti ≤0 (11.1)
これをクラウジウスの不等式とよぶ.等号はサイクルが可逆のときに成り
図11.3 いろいろな熱源と接触するサイクルC
立つ.
これを証明するには,温度T0の熱源(熱源T0と呼ぼう.熱源T1等も 同じ意味とする.)を考え,それとi番目の熱源を組み合わせたサイクル Ciを考える.この際,T0 > Tiが熱源Tiすべてに成り立っているとする.
+以下の議論はやや難しい ので,最初に勉強するときは とばして,
(クラウジウスの不等式が等式になる) = (サイクルが可逆) と覚えてしまってよい.
(T0> T1, T2,· · · , TN)サイクルCiは前章で述べたカルノーサイクルの例 だとする.熱源iはCにQiを供給しているので,それを補うようにCiか らQiをもらうとする.このとき,熱源T0はQ0iの熱をサイクルに与える.
カルノーサイクルの効率,式(10.72)より,
Q0i= T0
Ti Qi (11.2)
である.このとき,仕事
Wfi=Q0i−Qi= T0
Ti
Qi−Qi (11.3)
が外部に対して行われる.
一方,サイクルCが外部に対して行う仕事はエネルギーの保存則より,
Wf=∑
i
Qi (11.4)
である.
熱源T0を含めた系全体で見ると,熱量∑
i
Q0i を受け取って,それを fW+∑
i
fWiの仕事に変換したことになる.そこでもし外部に仕事ができて しまうと,トムソンの原理に反してしまう.よって
fW+∑
i
Wfi = ∑
i
T0
Ti
Qi≤0
∴∑
i
Qi
Ti ≤ 0
(11.5)
である.
11.2 エントロピー 165
図11.4 サイクルC, Ciを逆に動かしたもの.
サイクルが可逆の場合は,図11.4のように,これらのプロセスをすべて 逆にできる.この場合,外部からされた仕事の和はWf+∑
i
fWiであり,こ
れはエネルギーの保存則より温度T0の熱源に入る熱量∑
i
Q0iに等しい.
よって前と同様,
Wf+∑
i
Wfi=∑
i
Q0i (11.6)
が成り立つ.もし∑
i
Q0iが負だと,温度T0から熱を奪い取ることになる.
奪い取った熱はWf+∑
i
Wfiの外部からされた仕事となる.エネルギーの
保存則から,これは∑
i
Q0iに等しいので,外部からされた仕事は負,つま り外部に仕事をしたことになる.結局,温度T0の熱源から熱量を奪い,そ れをそのまま外に対する仕事にしたわけであり,トムソンの原理と矛盾す る.よって
∑
i
Q0i≥0 (11.7)
でなければならない.これより
∑
i
Qi
Ti ≥0 (11.8)
となる.
以上より,Cが可逆なサイクルの場合,
∑
i
Qi
Ti ≤0 かつ ∑
i
Qi
Ti ≥0 (11.9)
が成立していることになるので,
∑
i
Qi
Ti
= 0 (11.10)
である.
一般的なサイクルの熱効率 一般的なカルノーサイクルの効率はW /Qf で与えられる.これは
η= Q−Q0
Q = 1− Q0
Q (11.11)
となる.可逆サイクルの場合,クラウジウスの不等式は等式になるから Q
T = Q0
T0 (11.12)
である.よって
ηカルノー= 1− T0
T (11.13)
となる.特殊な例だと思っていた前章でのカルノーサイクルは実は一般的 な性質をもっているのである.
一方,不可逆なサイクルの場合,クラウジウスの不等式は Q
T + −Q0 T0 <0 T0
T − Q0 Q <0
∴ T0 T < Q0
Q (11.14)
なので,効率は η= Wf
Q = Q−Q0
Q = 1− Q0
Q <1− T0
T =ηカルノー (11.15) となる.
このようにどのようなサイクルもカルノーサイクルの効率(=可逆なサイ クルの効率)は超えられないのである.