第 7 章 万有引力と惑星 93
7.2 角運動量
角運動量 作用・反作用の法則にしたがって相互作用する物体の運動量 の総和は常に不変であった.これが運動量の保存則である.万有引力で相 互作用する場合も,作用・反作用の法則にしたがうので,運動量の総和も
7.2 角運動量 101 一定である.さらに万有引力は
F =f(r)r, f(r) =−GmM
r3 (7.22)
という,常にrと平行で,大きさは方向にはよらず,rにのみよっている.
このような場合,力は球対称の形になるので,中心力とよばれる.
力が中心力である場合,特別な保存法則が成立する.それを角運動量保 存則という.これは
L=rp⊥ (7.23)
で定義される.ここでp⊥は図7.5に示すように,運動量ベクトルpの動径 方向rに垂直な成分(つまり回転方向にそった成分)である.
運動量mvが運動の「いきおい」を示すように,角運動量も回転の「いき おい」を表す.角運動量の定義から,同じ運動量をもっていても,中心から の距離が遠いほど,その「いきおい」は大きい.一般に,動径距離を掛け た量は「モーメント」とよばれる.その意味で,角運動量は「回転の運動 量モーメント」である.
運動量がベクトルmvで表されたように,角運動量は
L=r×p (7.24)
と定義される.ここに×はベクトル積とよばれるものである.これについ ては以下で説明する.
図7.5 角運動量の定義
ベクトル積 ベクトルどうしの積の作り方には2通りある.その1つは すでに述べたスカラー積(内積)で,
A·B=ABcosθ=AxBx+AyBy+AzBz (7.25)
で定義されるものである.一方,ここで新しく定義するのはベクトル積(外 積)というもので,以下のように計算結果はベクトルとなる(図7.6).
A×B=ベクトル
大きさ:ABsinθ
方向:A,Bの作る面と垂直
方向:AからBに右ねじを回して進む向き
(7.26)
この定義から外積の大きさは,ベクトルAとベクトルBの作る平行四辺形 の面積だとわかる.A//Bの場合,2つのなす角度は0なので,
A×B=0 (7.27)
である.よって,同じものどうしの外積も0である.
A×A=0 (7.28)
図7.6 ベクトル積(外積)の定義.AからBの方向に右ねじを回して進む向き.
もしくは,右手の人差し指をA,中指をBとしたとき,それらと垂直にした親指 の向き.
また,外積の場合,かけ算の順序も大切である.
A×B=−B×A (7.29)
x軸,y軸,z軸上の単位ベクトル(大きさ1のベクトル)をそれぞれex, ey,ezとすると,
ex×ey = ez(=−ey×ex) ey×ez = ex(=−ez×ey) ez×ex = ey(=−ex×ez)
(7.30)
となる.任意のベクトルA,Bを単位ベクトルで表すと,
A = Axex+Ayey+Azez
B = Bxex+Byey+Bzez (7.31) となるので,単位ベクトルの外積の関係(7.30)から
A×B= (AyBz−AzBy, AzBx−AxBz, AxBy−AyBx) (7.32)
7.2 角運動量 103 となることが確かめられる.
ベクトル積を用いて,角運動量ベクトルを定義したが,力のモーメント Nもベクトル積を用いて表現できる.すなわち,
N =r×F (7.33)
てこのつり合いの条件はこの力のモーメントの合計が0である.
角運動量の保存則 一般の惑星運動で,角運動量は,ケプラーの第2法 則に表れる「単位時間に掃く面積」に相当する(図7.7).この面積は,角 度が小さいとき,ほぼ三角形の面積に等しいので,
単位時間に掃く面積S= 1
2rv⊥ (7.34)
となる.ここにv⊥は惑星の速度vの動径方向に垂直な成分である.
一方,角運動量は
L=rp⊥=mrv⊥ (7.35)
となるので,
S∝L (7.36)
がわかる.すなわち,ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)は,角 運動量が一定であることを示している.
図7.7 惑星運動の掃く面積
ニュートンの運動方程式を用いて,角運動量の保存則を示すのは簡単で ある.
md2r
dt2 =F (7.37)
において,両辺,rとのベクトル積をつくる.
mr× d2r
dt2 =r×F (7.38)
左辺のF は中心力,すなわちF//rである.よって右辺のr×F は0で あり,
mr× d2r
dt2 =0 (7.39)
となる.一方,L=r×pを時間で微分すると dL
dt = dr
dt ×p+r× dp
dt =r× dp
dt (7.40)
である.ここでdr/dt=v,v//pを用いた.よって式(7.39)の左辺はdL/dt となり,
dL
dt =0 (7.41)
もしくは,
L=一定 (7.42)
となる.これは角運動量の保存則に他ならない.
+ケプラーの第1法則,第3 法則は万有引力のような距離 の2乗に反比例する力のもと でしか成立しない.一方,第 2法則(角運動量の保存則)
はより一般的な中心力に対し て成立する.
角運動量の世界 いまからおよそ46億年前,太陽系には太陽も惑星も存 在しなかった.そこにあったのはちりやほこりのみであった.この名残はい までも宇宙から降ってくる.いわゆる「宇宙塵」というものである.大気中 に漂う微粒子はエアロゾルとよばれるが,これらはほとんどが地表で巻き 上げられた細かいほこり,産業活動に伴うほこりや煙であるが,中には地球 上で生成されたものとはことなる微粒子も含まれている.これが宇宙塵で ある.
宇宙塵は全体として,ゆっくり回転していた.つまり角運動量Lをもっ ていた.ちりの分布は所々に濃淡があったと考えられている(図7.8).こ うしたちりの間にはごく僅かながら,万有引力が働く.そこで宇宙塵の濃い 部分が他のちりを引きつけて,ますます濃くなっていく.特に回転の中心部 分は,宇宙塵の濃度が極めて高くなり,太陽が誕生する.太陽のもととなっ た宇宙塵は角運動量をもっていたので,太陽自身も角運動量をもつことに なる.これが太陽の自転となって表れる.
その他の宇宙塵の濃い部分は,やはり万有引力で他の宇宙塵を引きつけ,
惑星の誕生となる.このとき,宇宙塵の角運動量を引き継ぎ,惑星は自転,
公転を行う.このように太陽と惑星の角運動量の大きさと方向・向きは,合 計すると太陽・惑星誕生以前の宇宙塵の角運動量Lと等しい.
こうした誕生のいきさつを考えると,惑星の公転面がほぼ等しく,回転 方向も一致していることが理解できる.それにしても物理の法則が50億年 以上も成立し続けているというのは驚くしかない.
しかしもっと驚くべきことがある.広大な宇宙の運動が運動量,角運動 量の保存則にしたがっているだけでなく,ミクロな世界,すなわち原子や原 子核の世界でもこれらの法則が成り立っているのである.原子は中心に原 子核が存在し,そのまわりを電子が回転している.原子核の正の電気と電
7.2 角運動量 105
図7.8 原始の太陽系
子の負の電気が互いに中心力で引き合い,角運動量の保存則が成立してい る.すべての原子の角運動量が1方向にそろっているとき,物質全体は磁 性をもつ(図7.9).なぜなら,電子による微小な円電流がコイルとみなせ,
それらの集合はコイルをたくさん重ねた状態となるからである.これが永 久磁石のモデルである.
図7.9 一定方向にそろった原子の角運動量と磁石.
スピン フィギュアスケートの選手が,氷上で体をくるくる回すことを スピンという.選手は最初,腕を伸ばし回転を始めるが,腕を胸のところに 組んで縮めると,スピンの回転速度は急に速くなる(図7.10).図のように 腕の回転軸からの距離をrA, rBとおこう.図のAの場合は,腕の質量m が回転軸から遠くにあるのでrA> rBである.
さて,このときの速度,角速度をvA, ωA, vB, ωBとする.
vA=rAωA, vB =rBωB (7.43) である.角運動量はそれぞれ,mrAvA, mrBvBである.角運動量保存則か
図7.10 フィギュアスケートのスピン
ら,これらは等しい.上の関係を使うと,
mrAvA = mrBvB
mrA2ωA = mrB2ωB r2AωA = r2BωB
∴ ωB ωA
= r2A r2B
(7.44)
つまり,手を縮めると,回転速度(角速度)は大きくなることがわかる.
地球,その他の惑星,太陽は自転しており,何十億年もの間,スピンをし つづけている.一方,ミクロの世界でもスピンが存在する.すなわち,電 子や原子核,原子核をつくっているクォークも自転しているのである.特に 電子は大きさがないと思われているのに,スピンをもっているというのが 興味深い.これはいままで述べたことと矛盾している.角運動量は回転軸 +電子が大きさをもたない
ことは,実験的にもかなりの 精度で確認されている.
からの距離と速さの積なので,大きさがないものは速さ無限大で回転して いない限り,スピンはもてないからだ.ミクロの世界は古典力学と違う法則 が支配しているという典型的な例である.