第 9 章 剛体の運動 129
10.2 エネルギーの保存則と仕事
曲線は温度を下げると極値を もつようになる.これは相転 移(たとえば水蒸気と水の間 の)が起こっていることを表 している.
図10.2 ファン・デル・ワールスの状態方程式.温度が高いとき(I)では極値をも たないが,温度を低くすると(II)極値をもつようになる.この場合,圧力と体積は 実際には点線のように変化する(点線はそれより上の面積と下の面積が等しいよう に引いたものである).この場合,圧力が一定で体積が不連続に変化していること になるので,水蒸気から水への相転移のようなものが起きている.
10.2 エネルギーの保存則と仕事
エネルギーの保存則 気体に熱を加えると体積が変化し,外部に仕事を することが可能になる.逆に外部から正の仕事をされると,気体の温度は 上昇する.この関係は熱力学的エネルギーの保存則で以下のように表すこ とができる.
∆Q= ∆U+ ∆fW = ∆U+P∆V (10.21)
∆Qは外から加えた熱量,∆Uは気体の内部エネルギーの変化,∆fW = +高校までは,この内部エ ネルギーは運動エネルギー に限っていたが,これは理想 気体にしか適用できない.よ り一般には,系を構成してい る粒子の力学的エネルギーで ある.
P∆V は外に向かって行った仕事である.この熱力学的なエネルギーの保存
+∆Wを外部からされた仕 事と定義するやり方も多い.
この場合,∆Q= ∆U−∆W とする.
則を熱力学の第1法則とよぶ.
等温過程での仕事 熱力学の第1法則(式(10.21))を使うためには,仕 事を計算できるようになると便利である.
体積が変化することでまわりの気体を押しのけ,仕事が行われる.よっ て定積変化では仕事は行われない.
定積過程での仕事fW = 0 (10.22) 圧力が一定の過程(定圧変化)の場合,過程の前後の体積をそれぞれV1, V2
とすると,
定圧過程での仕事Wf=P(V2−V1) (10.23)
図10.3 定圧過程,および等温過程での仕事
一方,等温過程での仕事はやや難しい.等温過程では状態方程式から P×V が一定である.逆にいうと,PもV も変化する(図10.3).このと き,仕事は
Wf=∑
P∆V =∑ nRT
V ∆V (10.24)
となる.微小量の和を積分に直すと Wf=
∫ V2
V1
nRT
V dV =nRT
∫ V2
V1
dV
V (10.25)
となる.
ここで積分
∫ dx
x について考える.そのためにまず,対数関数の微分,
dlogx dx
を求めてみよう.logx=y,逆にx=eyを使うと,
dlogx dx = dy
dx dlogx
dy = 1
dx/dy ×1 = 1 ey = 1
x (10.26)
よって,
dlogx dx = 1
x (10.27)
である.積分は微分の逆であるので,
∫ 1
x = logx+定数 (10.28)
が導かれる.これより
∫ V2
V1
dV
V = [logV]VV2
1 = log (V2
V1 )
(10.29) となるので,等温過程の仕事は
等温過程の仕事=nRTlog (V2
V1
)
(10.30) となる.
10.2 エネルギーの保存則と仕事 149 断熱過程 等温過程では,内部エネルギーは変化しない.
∆U等温過程= 0 (10.31)
内部エネルギーは温度のみの関数だからである.このとき,エネルギーの 保存則(10.21)より,加えた熱量Qと外にした仕事fWは等しい.よって,
式(10.30)より
Q等温過程=nRTlog (V2
V1
)
(10.32) となる.
シリンダーに気体をつめて,ピストンをゆっくりと引き,気体の体積を V1からV2に変化させる.シリンダー(容器)が熱を非常によく通す場合,
またはピストンを非常にゆっくり引く場合,気体の温度は容器のまわりと 同じ温度に保たれる.しかし,容器の熱伝導はあまりよくなく,また,ピス トンをゆっくり動かすことは実用的でない場合が多い.よって実際には気 体の温度は変わってしまう.温度がどれくらい変わってしまうかを考えるた めに,容器は熱を全く通さない状況を考えよう.これは断熱過程とよぶ.
断熱過程は,Q断熱過程 = 0を要請する.エネルギーの保存則(10.21) より,
∆U+P∆V = 0 (10.33)
となる.一方,単原子分子の理想気体の場合,式(10.15)から, + ∆(P V) = (P +
∆P)(V + ∆V) − P V = P∆V+ ∆P V+ ∆P∆Vと なる.この最後の項は微小量 の掛け合わせなので無視する.
∆U≒∆ (3P V
2 )
= 3
2P∆V + 3
2∆P V (10.34) である.この2つの式から,
0 = 5
2P∆V + 3 2∆P V
∆P V =−5 3P∆V
∴ ∆P P =−5
3
∆V
V (10.35)
となる.
この式の意味は,体積をr(1)の割合だけ変えると,圧力は5r/3の割 合,小さくなるということである.等温過程の場合,体積を増やすと,同 じ割合だけ圧力は減った.よって断熱過程の場合,圧力の減りがより大きい ことがわかる(図10.4).これは等温過程の場合,圧力があまり減らないよ うに容器の外から熱量を補給していたのに対して,断熱過程の場合,この 補給がないからである.
等温過程ではP V =一定 であった.断熱過程で成り立っている ∆P
P =
−5 3
∆V
V はどのような関係式を意味しているのであろうか? そのために,
式(10.27)を微小変化∆xに対しての対数関数の変化に書き直し,
∆ logx
∆x ≒ 1
x (10.36)
と記そう.これより,式(10.35)は,
∆ logP = −5
3∆ logV
∆ (
logP+ 5 3 logV
)
= 0
∆ (
log(P V5/3) )
= 0
(10.37)
よって,
∴P V5/3=一定(断熱過程) (10.38) となる.先ほどは体積の変化の割合が小さいときに,圧力の変化の割合は 5/3倍になると述べたが,この式は任意の体積変化に使える.
図10.4 等温過程(I)と断熱過程(II)
上の導出は単原子理想気体に対してなされた.分子を構成する原子数が 増えると
P Vγ =一定 (10.39)
となる.γの値は,気体が単原子分子か,2原子分子か,3原子分子かなど によってかわる.後述の定圧熱容量,定積熱容量を使うと
γ=CP/CV (10.40)
となることがわかる.
例題10.1 断熱過程での圧力の変化
単原子分子理想気体を考える.断熱過程で体積が1.1倍となるとき,圧 力は何パーセント減少するか.また体積が2倍変化するとき,圧力は どうなるか.
10.2 エネルギーの保存則と仕事 151 膨張する前の体積をV0,圧力をP0,膨張後の体積をV1,圧力をP1とする.
P0V05/3 =P1V15/3 → P1=P0×
„V0
V1
«5/3
よって体積が1.1倍になると,圧力は1.1−5/3≒0.853倍,体積が2倍になると,
2−5/3≒0.315倍になる.
例題10.2 2原子分子の場合
式(10.37)は単原子理想気体で成り立つ式,3
2P V =U(式10.14)から 導かれた.2原子分子理想気体では,U = 5
2nRT(式(10.16))より,
5
2P V =U (10.41)
となる.このとき,断熱過程でのPとV の関係式が
P V7/5=一定 (2原子分子) (10.42) となることを示せ.
式(10.41)の微小変化を取ると,式(10.34)と同じように,
∆U≒∆
„5P V 2
«
= 5
2P∆V + 5
2∆P V = ∆U 断熱過程の場合,∆U =−P∆V が成立しているので,
7
2P∆V + 5
2∆P V = 0 である.これより,
∆ logP =−7 5∆ logV
∆
„
logP+ 7 5 logV
«
= 0
∆“
log(P V7/5”
= 0 を得る.よって
P V7/5=一定 である.
定積熱容量と定圧熱容量 今までは,主に体積を変化させるための仕事 や熱量を求め,また圧力の変化を議論してきた.今度は,気体を暖める際 に必要な熱量,つまり比熱を求めておこう.比熱Cは
∆Q=C×∆Tまたは,C= ∆Q
∆T (10.43)
で定義される.問題は,∆Qが,系をどのように変化させたかによって大き く変わってしまうことである.たとえば,体積一定で温度を上げたとする と,エネルギーの保存則から
∆Q= ∆U+P∆V = ∆U (10.44)
となり,比熱は
CV = ∆U
∆T (10.45)
と書ける.この比熱を定積熱容量とよぶ.単原子分子の場合,U = 3nRT /2 だったので,CV = 3nR/2であった.一方,2原子分子の場合,U = 5nR/2 である.モル数で規格化したものを定積モル比熱とよび,小文字のcで表す.
一方,圧力を一定として変化させた場合,エネルギーの保存則から
∆Q= ∆U+P∆V (10.46)
となる.Pは一定なので,P∆V = ∆(P V)である.このことと状態方程式 を組み合わせると,
P∆V = ∆(P V) = ∆(nRT) =nR∆T (10.47) が導かれるので,
∆Q= ∆U+nR∆T = (CV +nR)∆T (10.48) よって
CP = ∆Q
∆T =CV +nR (10.49)
CPを定圧熱容量とよぶ.理想気体に関するCPとCV のこの関係式は,マ イヤーの関係式とよばれている.
+マイヤーの関係式は高温
ほどよく成り立つ. 定圧熱容量を1モルあたりに直したものが,定圧モル比熱である.モル 比熱で言うと
cP =cV +R (10.50)
となる.
例題10.3 3原子分子の定積モル比熱,定圧モル比熱
ある気体を断熱圧縮したところ,
P V1.29=一定
となった.この気体はどのような分子からなっていると推定されるか.
式(10.39),(10.40)より,単原子気体,2原子分子気体,3原子分子気体にお けるγの値は,理想気体ではそれぞれ,5/3(≒1.667),7/5(= 1.4),9/7≒1.286 となる.実測値からこの気体を構成する分子は,3原子分子だと推定される.
例題10.4 部屋を暖める
高さ2 m ,広さ20 m2 の部屋の温度を1度あげるには,何J必要か.
体積40m3,1モルは22×10−3m3 .よって,部屋の中には1800モルの気 体.これらは酸素,窒素などの2原子分子なので定積比熱は5R/2.よって,
5R
2 ×1800 = 3.7×104J.
10.3 熱機関と効率 153