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ドキュメント内 ポリウレタン系形状記憶ポリマーの開発 (ページ 110-124)

     螂 図11.11身体障害者用スプーンと      フォークのハンドル

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図11.12形状記憶フィルム

図11.13形状記憶ストロー

第12章血管を傷つけない点滴用血管内留置針の開

12.ユ緒言

 医学の進歩、治療技術の向上により、不治と言われる病は非常に少なくなった。しかし 一方では、現在でもごく基本的な治療行為中に患者が苦しむ姿をしばしば目にするのも事 実である。難病に対する治療の研究は重要な課題であるが、一方で治療中の患者の苦痛を いかに和らげるかも重要であろう。病院、診療所等の医療施設において行われる薬液の長 時間にわたる注入に用いられる点滴にはこれまで金属針が主に用いられてきた。しかし金 属針は留置中に血管を傷つける恐れがあり、痛みや違和感を低減し、患者に肉体的、精神 的苦痛を与えない点滴用留置針が求められている。現在は、樹脂製の留置針も見られるが、

問題を解決するには至っていない。これらの観点に立ち、留置後体温により柔らかく変化 することで、血管を傷つけない、体にやさしい点滴用血管内留置針を開発した(図12.1)。

本報では、この新型血管内留置針の特徴と有用性について紹介する。

12.2留置針の現状と問題点

 現在、点滴用留置針は、エイズ、肝炎等の病気の感染防止および使用時の取り扱い等の 利便性から1回使用のディスポーザブル針が多量に使用されており、主として金属製の針 が使用されている。薬液を長時間かけて注入する場合、点滴中(留置中)に患者が身体を 動かすことがあり、従来の金属製の針では硬く、先端が尖っているために、血管を傷つけ たり、血管を破って内出血を起こす恐れがある。特に老人および小児に対する長時間の点 滴の場合には危険を伴う。したがって、点滴中に患者が身体を動かしても血管を傷つけな いソフトな留置針の出現が望まれていた。これらの問題を解決するべき、エチレンテトラ フルオロエチレン共重合体(ETFE)やポリプロピレン、あるいはポリウレタンで構成され る血管内留置針が広く使用されるようになった。しかし、これらの留置針は金属針に比べ て柔らかくなってはいるが、未だ問題を解決するには至っていない。すなわち、チューブ の硬さに起因する引き連れによる違和感や痛み等、患者が苦痛を強いられているのが現状

である。

12.3新型血管内留置針の特徴

 12.3.1構造

 新型点滴用血管内留置針は新鞘状の二重針であり、芯となる針刺し可能な内針と、鞘と なる長時間の留置可能な外針から構成されている(図12.2)。そのうち、内針は尖鋭な刃先 を持つステンレス鋼製の針であり、血管に針刺しする働きを担っている。また、外針は新 素材 形状記憶樹脂 製のプラスチックチューブであり、体温で柔らかく変化する特徴を 有している。内針と外針は、芯鞘状に重なり合った状態で∬11管に針刺しした後、内針を引

き抜いて除去することで、 形状記憶樹脂 製のプラスチックチューブからなる外針のみが 血管内に安全に長時間留置されることになる。外針は内針が引き抜かれた後、点滴セット

とつながれ、薬液の注入に使用される。表1に本留置針の設定サイズを示した。

 12.3.2特性

 外針のプラスチックチューブは三菱重工㈱製のポリウレタン系 形状記憶樹脂 により 構成されている。図12.3はこの樹脂の動的熱機械特性を表したものである(1211)。この樹脂 の最大の特徴は、樹脂の軟化温度であるガラス転移温度(丁躬)を一30〜60℃の範囲で自由に 設定できることにある。われわれは、体内で使用される血管内留置針の挙動が体温下、常 温下ともに最も好ましいT、を見い出し、材料樹脂に設定した。これにより、本留置針は常 温では硬く、体温では柔らかくなる特性を有する。すなわち、 形状記憶樹脂 製の外針は 硬くて尖鋭な刃先を持つステンレス鋼製の内針と密着して重なり合っており、針刺しの際 にはその形状で血管内に円滑に挿入される。このとき、外針が柔らかいと先端がめくれる 恐れがあり、抵抗が大きく患者に痛みを与えることになる。常温で十分硬い本留置針は、

この問題を解消するに十分な性能を備えている。一方、本留置針は血管内に挿入した後、

内針を引き抜き、血管内に留置され、体温で昇温されると柔らかくなる。したがって、血 管に沿った形状に変形しやすくなり、身体を動かしても血管を傷つけることが防止できる。

同時にT、領域での力学的Tanδ(正接損失)が、皮膚の持つそれと非常に類似しているため、

違和感がなく、苦痛を和らげることができる。また、本留置針の樹脂は抗血栓性に優れる セグメント化ポリウレタンであるため、血栓の付着を防止することもできる(,2・2)。図12.4 は体内に留置された後、柔らかく変化する様をイラストで示し、従来のETFE製留置針と比 較したものである。

12.4留置針の開発・製品化

 材料である形状記憶樹脂は三菱重工業㈱が製造し、三菱電線工業㈱でチューブ成形し、

さらに㈱ニッショーにて二次加工(アッセンブリ)して製晶化される。本開発品の体に優 しい血管内留置針は、国内に限らずあらゆる国々で広く求められており、世界中に潜在需 要があると考えられる。

 12.4.1チューブ成形技術の確立

 表12.2は留置針チューブに求められる特性の目標値を示したものである。木樹脂は非常 にユニークな特徴を有する反面、成形が困難である。すなわち、通常の押出条件下では、

平滑で均質、かつ二次加工性の良好なチューブを得ることは不可能である。また、寸法に ついても高度な精度が要求されるため、精密押出技術も必要となる。良好なチューブを得 るためには、特定の押出装置、方式、条件に限られ、またその最適押出条件範囲も狭いも のである。この成形技術の確立は本開発において最も重要なポイントとなった。また、良 好なチューブを得るためには、材料樹脂の改質が必要であり、種々の実験・検討を重ねて

これを達成した。

 12.4.2二次加工技術の確立

 成形されたチューブは、先端加工を施される。図12.5に示すようにチューブの先端をテ

一パ状に加工する。その後ハブ、ジョイントを汲みつけ最終製品となる。

 この工程において、良好に加工するためには成形チューブに多くのノウハウが必要にな り、この加工性の向上についても試作検討を行って解決した。

12.5留置針の性能

 12.5.1室温での硬さと体内での柔らかさ

 図12.6は常温から体温付近への留置針の硬さ変化を示したものである。比較対象とした 他社品は、いずれも現在使用されている樹脂製の留置針である。明らかに新型留置針は常 温で最も硬く挿入しやすく、体内で柔らかく違和感や痛みが少ないと言える。

 12.5.2めくれ

 留置針を血管に挿入する際、チューブが柔らかいと先端部分がめくれ、患者に痛みを与 える場合がある。図12.7はめくれやすさを指数で表し、他社是と比較したものである。測 定は重ね合わせた薬包紙に留置針を刺し、チューブ先端がめくれる枚数から指数を計算し た。常温での硬さが最も硬い新型留置針は、当然めくれにくい結果となった。

 12.5.3穿刺抵抗

 留置針を血管に突き刺す際、穿刺抵抗があると痛みを感じる。痛みの指標となる穿刺抵 抗については、厚さ1.5㎜のゴムに留置針を突き刺し、その際の抵抗値を測定した。結果

を図12.8に示す。他社品に比べ、最も穿刺抵抗値が低く、患者の痛みが低減されることが 予想される。

 12.5.4金属針との諸特性の相違

 表12.3に新型留置針の性能を、現在使用の金属製点滴用留置針と比較して標示する。

12.6安全性

 厚生省の認可を取得済である。(承認番号6B第501号)

12.7他への応用

 今回使用した樹脂のユニ』クな特徴を利用し、他の医療用チューブヘの展開を検討中で ある。例えば、中心静脈に高カロリーの輸液を注入するIVHカテーテル(Intrav㎝ous Hyperalimentati㎝)、あるいは鼻から挿入し、十二指腸に留置して栄養液を接種させるED カテーテル(Elemental Diet)等への応用が考えられる。

12.8緒言

 以上、本稿で紹介した新型留置針は、従来品と比べ患者への肉体的、精神的負担が低減 されると考えられる。瑚こ順天堂大学医学部における臨床試験では、非常に良好な結果を 収めている。さらに厚生省の認可も取得したことから、今後広く医療現場で使用されるこ

ととなろう。日々、苦しい闘病に専念されている患者の苦痛を少しでも低減できれば幸い

である。

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