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ポリウレタン系形状記憶ポリマーの変形特性

ドキュメント内 ポリウレタン系形状記憶ポリマーの開発 (ページ 31-38)

4.1緒言

 形状記憶合金G1・1)に比べて、形状記憶ポリマー(shaPe memory po!ymer,以下SMP)は軽く、

回復ひずみが大きく、成形性がよく、低コストであるなどの特徴を有している(.L2)〜(一…)。多 くのSMPでは、相転移温度が室温付近に設定されており、その上下の温度における材料の 機械的性質の違いにより、形状が固定されたり、一度固定された形状が元の形に戻ったり、

回復力が発生したりする。

 ポリウレタン系SMPでは、温度変化に伴う機械的性質の変化にガラス転移点下、を利用し ており、次のような特徴を有している(→.5川 6)。(1)T、の上下の温度における弾性係数や体積 膨張率などの機械的性質が大きく異なる。(2)射出・押出・ブローなどの成形法が使える。

(3)透明なので自由に着色できる。(4)T、が室温±50Kの間で自由に設定できる。(5)柔軟性 および抗血栓性に優れており、良好な生体適合性を有している(4・7)。(6)T、の上下の温度に おける薄膜での水蒸気透過性が著しく異なる。

 これらの特徴を有するために、ポリウレタン系SMPは産業分野、家庭生活関連分野、医 療分野などの広範囲での応用が期待されている。SMPの実用において重要になる課題の」つ

は、材料の応力一ひずみ二温度一時間の関係である。このために、著者らは材料の基本的 な変形特性を調べている←1.8)〜(川。その結果、T、の上下の温度で負荷した場合、形状回復性 および形状固定性が負荷温度により著しく異なることを確認した。したがって、SMP素子を 設計するため、およびSMP素子の信頼性を評価するためには、材料の変形特性の負荷温度 依存性を明確にしておくことが必要である。

 本研究では、高温での弾性係数が異なる2種類のポリウレタン系SMPについて、負荷過 程の温度がT、の上下で異なる負荷・除荷および加熱・冷却試験により、回復ひずみおよび 回復応力の負荷温度への依存性、加熱および冷却過程での温度変化に伴うひずみおよび応 力の挙動、さらにそれらの繰り返し特性を調べた。

4.2実験方法

4.2.1供試材および試験片

 供試材は、高温において弾性係数の大きいポリエステルポリオール系ポリウレタンおよ びそれの小さいポリエーテルポリオール系ポリウレタン[それぞれ三菱重工業㈱製のダイ アリィ㎜4510および4520であり、以下HE村およびLE材とするコの2種類のポリウレタ ン系SMPである。ガラス転移温度(力学転移の中間温度)T、は、両材料とも約318Kである。

試験片は一様形状(短冊形)の板材である。試験部の寸法は長さ25㎜、厚さ1㎜、幅5㎜

である。

4.2.2実験装置

 実験装置は、高温槽を取付けた引張試験機と温度制御装置とから構成されている(.L8)。試 験片の加熱および冷却は、雰囲気中にヒータで加熱した圧縮空気および液化炭酸ガスを吹 付けて行った。温度は試験片の近くに配置した外径O.1mmの熱電対により測定した。熱電 対の先端は、試験片と同じ材料で厚さ0.5mmの二つの板を貼り合わせた中に置いた。軸力 はロードセルで、試験部の伸びはクロスヘッドの変位によりそれぞれ測定した。

4.2.3実験手順

 実験における応力一ひずみ関係の模式図を図4.1に示す。始めに温度丁1で最大ひずみε、

まで引張る(0→M)。続いてε、を一定に保ったまま温度丁、まで冷却する(M→C)。T、で除荷 する(C→U)。無負荷で温度丁。まで加熱する(U→H)。無負荷で温度Tlに戻す(点H)。この 熱・力学過程を1サイクルとして、これを繰り返した。

 試験条件としては、負荷温度丁1は338K(=T、斗20K)、318K(・T、)および298K(・丁認一20K)とし、

冷却温度丁、=288K(=T、一30K)、加熱温度Th・358K(・T、十40K)、ε而・50%とした。負荷過程のひず

み速度は50%/min、加熱および冷却速度は約8K/minとした。負荷する前、冷却した後およ び加熱した後には、定常状態を得るために各温度を5min保持した。

4.3実験結果および考察

 実験データの処理において、応力およびひずみは公称応力および公称ひずみで整理した。

4.3.1応力一ひずみ関係

 実験で得られた応力一ひずみ曲線を、数種の繰り返し数Nについて図4.2に示す。TI・338K および318Kの場合についてはN=10までの関係を示した。Tl=298Kの場合には、N≧3におい て試験片のつかみ部から破断したので、N=2までの関係を示した。

 図4.2から、Tlが高いほど、負荷過程での応力が小さいことがわかる。これは、SMPを構 成するソフトセグメント(非晶質部分)がT、以上の温度では小さな外力で容易に変形する ためである。また、Tユ〈T、では負荷時の応力が大きく、特にHE材は始めの弾性変形の終了点 近傍において応力のオーバシュートが現われる。このオーバシュートは、軟鋼の塑性変形 開始点での上降伏点やTiNi形状言己憶合金の超弾性域でのマルテンサイト変態開始点(4・I)で のオーバシュートと同様であり、応力の行き過ぎわ現れる。このオーバシュートは試験片 のくびれの発生に対応している。また、オーバシュート後の水平な降伏段は、試験片の細 くなったくびれ部の拡大に対応している。このくびれは、除荷後の無応力下での加熱によ り、ひずみ回復(図4.1の点U→点H)に伴って消滅する。

 次に、図4.2から、Tl≧T、の場合、全体的にNの増加とともに変形抵抗が大きくなること が認められる。すなわち、負荷時の応力一ひずみ曲線の傾きおよび降伏応力がNの増加と

ともに大きくなる。これは、変形の進行に伴いポリウレタンの分子配向あるいは配向によ る結晶化が生じることによるものと考えられる。特に、丁上・318Kの場合には、Nの増加とと もに応力一ひずみ曲線の形が著しく立ってくる。これは、次のように考えられる。T。〉T、で

は分子鎖のミクロブラウン運動が活発であり、変形抵抗が小さい。T1<丁目では分子鎖のミク ロブラウン運動が凍結されており、変形抵抗が大きい。TI・318K・T、の場合には、T、は遷移温 度であるので、外部からの負荷による分子鎖の配向は比較的生じやすいのに対して、配向

した分子鎖は元に戻り難い状態にある。このために、繰り返しにより、変形抵抗が著しく 大きくなるものと考えられる。特に、HE材では繰り返し数の増加に伴う降伏応力の上昇が

大きい。

 一方、図4.2から、いずれの場合にも、繰り返しに伴う応力一ひずみ曲線の形の変化は、

繰り返しの初期に大きく、Nが増すと小さくなることがわかる。また、いずれの場合にも、

T、での除荷で得られるひずみε、は約48%である。これはε、の96%であり、両材料の形状 固定性は非常に優れていることがわかる。無負荷のもとで加熱によりひずみはε、からε、

まで戻る。N・1における残留ひずみε。はいずれの場合にも約5%であり、ε、の約1/10であ る。換言すると、加熱によりε、の約90%が回復する。ε、pはNの増加とともに大きくなる。

繰り返しに伴うε、の増加割合はNの増加とともに小さくなる。

4.3.2回復ひずみ

 図1に示したように、無負荷のもとでの加熱過程において(点Uから点H)、ひずみはε、

からε、に回復する。この加熱過程におけるひずみと温度の関係を、数種の繰り返し数Nに ついて図4.3に示す。

 図4.3から、加熱過程におけるひずみ一温度曲線の傾きは、Tl=338Kの場合には緩やかで あり、T1=318Kおよび298Kの場合には大きいことがわかる。また、全体的にNが増すとと もに曲線は右側および上方に移動する。すなわち、回復温度が高温側に移行し、残留ひず みが増加する。これらの傾向は、繰り返し変形を受ける形状記憶合金において、Nの増加と

ともにマルテンサイト変態温度が上昇し、非回復ひずみが増加する現象(一.12)と同じである。

 図4.3(a)のT1・338Kの場合、ひずみの回復は約310Kで開始し、330K〜340Kで完了する。

材料のT、は約318Kであるので、ひずみはT、の近傍において回復することになる。

 一方、図4.3(b)のT】・318Kの場合、ひずみの回復は約305Kで開始し、約315Kで完了す る。また、図4.3(c)のTl=298Kの場合には、ひずみの回復は約300Kで開始し、約310Kで 完了する。これらの理由は、次のように考えられる。示差走査熱量計(DSC)により測定し た両材料の中間点ガラス転移温度丁、(JIS K7121)は、試験開始前および終了後において 約300Kであった。負荷温度T1が低い場合には、負荷時の変形抵抗が大きく、除荷後には大

きな内部応力が生じる。この内部応力の作用とソフトセグメントのミクロブラウン運動に より、温度がT、、、に達すると、ひずみの回復が生じるものと考えられる。すなわち、T、が低 い場合には、T、、の近傍の温度でひずみは回復する。

 次に、回復ひずみの繰り返し数の増加に伴う挙動を検討する。ひずみ回復率R(N)を次式 で定義する。

     1、一1、(N)

 R(N)=      (4  1)

    1、一1、(N−1)

 ここで、ε、(N)はNサイクルに生じる残留ひずみである。図4.1に示すように、式(4.1)

の分母はNサイクルにおいて与えるひずみであり、分子は回復するひずみである。したが って、R(N)はNサイクルにおいて与えるひずみに対する回復するひずみの割合を表す。こ のR(N)とNとの関係を、T1:338Kと3!8Kの場合について図4.4に示す。図4.4からわかる ように、いずれの場合にもR(N)は第二サイクルで約95%になり、その後のサイクルでの変 化は小さく、約98%で飽和する。R(1)が特に小さいのは、最初の負荷で未完成な分子の結 合の切断および分子鎖内のすべりが生じるために、大きなε、が生じることによると考えら れる。N=1と2でのR(N)の変化量は、HE材のほうが大きい。以上のことから、両材料を実 用する場合には初期のトレーニングを施して使用すると、繰り返してほぼ一様な回復ひず みが得られることがわかる。

4.3.3回復応力

 図4.1に示したように、最大ひずみ一定下での冷却過程において(点Mから点C)、応力 はσ、からσ、に増加する。この冷却過程における応力と温度の関係を、数種の繰り返し数N について図4.5に示す。

 図4.5から認められる主な点は、次のとおりである。

 (1)TI=338Kおよび318Kの場合には、冷却過程において応力は約300Kから急激に増加す る。(2)T]=338Kおよび318Kの場合には、回復応力σ、は負荷応力σ、の約2倍である。σ、

≒2σ、の関係は材料およびNにはほとんど依存せず、いすの場合にも成立する。(3)T1二298K の場合には、応力の変化は小さい。(4)応カー温度曲線は、全体的にNの増加とともに上方 に移動する。冷却開始点の応力σ、が繰り返し数の増加に伴い増加するのは、繰り返し変形 を受けることにより材料の変形抵抗が大きくなることによる。

 冷却に伴う一定ひずみ下での応力の挙動は次のように考えられる。本材料では、一般の ポリマ】と同様に粘弾性挙動が現れる(小11)。一定ひずみ下での粘弾性特性としては応力緩和 がある。応力緩和は高温で顕著に現れる。この応力緩和については、次報で検討する。図 5(a)でTlの338Kの近傍の温度で応力が減少しているのは、この応力緩和による。冷却によ

り応力の増加する現象はこの応力緩和ではうまく説明できない。

 冷却による応力の増加は、熱収縮に伴う熱応力がその原因と考えられる。温度変化に伴 い発生する熱応力△σは、縦弾性係数をE、線思量係数をαとすると、温度変化△Tに関し

て、

 △σ=Eα△T…一・…(4. 2)

 である。EはT、以上の温度では非常に小さいので、△σは小さい。T、以下の温度ではE は大きいので、低温域では△σは大きくなる。初期無変形材料について求めた低温域でのE

とαの値を表4.1に示す。図4.5で見たとおり、応力は約300K(・T、、)以下の温度で増加する。

T、からT、までの温度変化△T=T,1、一丁、=(300−288)Kについて、表4.1のEとαの値を式(4.2)

に代入して△σを求める。こうして求めた△σは、HE材では約2.8MPa,LE材では約1.8MPa

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