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準静的回転運動

ドキュメント内 錦織, 慎治 (ページ 92-100)

第 4 章 脚式ローバの移動形態

4.4 胴体の回転を伴う新しい移動形態の提案

4.4.1 準静的回転運動

Fig.4.25 Schematic model [93] of the leg of a stick insect.

(a) Attitude 1 (b) Attitude 2 (c) Attitude 3 Fig.4.26 Three-dimensional images of the walking attitudes.

-的安定性が大きくなる.さらに,この回転運動は,移動対象面を蹴ったり,非支持脚を振り下ろす 勢いといった動的な効果を使わずに達成するものとして,本研究では準静的な回転運動と呼ぶこと にする.Fig.4.28に等方脚配置型ローバの準静的回転運動の概略図を示す.

Fig.4.29 に準静的回転運動の一例として,実験機でデモンストレーションを行った様子を示す.

ただし,デモンストレーションの大まかな流れは次のとおりである.

STEP 0: 基本姿勢をとる(支持脚の脚先がすべて第2関節直下にある状態).

STEP 1: 非支持脚(Fig.3.5のLeg 5 ~ 8に相当)を回転後の移動対象面への接触に対応できるよ

うな姿勢にセットする.

STEP 2: 進行方向に対して前方にある2本の支持脚(Fig.3.5のLeg 1とLeg 4に相当)のみを

動かして胴体を進行方向に傾ける.このとき,前脚で踏ん張って胴体を支えるような格 好になる.

STEP 3: 進行方向に対して後方にある2本の支持脚(Fig.3.5のLeg 2とLeg 3に相当)を同時

に伸ばす.これにより胴体がさらに傾けられる.

STEP 4: 胴体の傾きが進行し,重心の移動対象面への垂直投影点が前脚2本の支持点位置を結

ぶ直線を横切ると,後脚であったLeg 2とLeg 3が離れてそれまで非支持脚であったLeg

5とLeg 8が新たに移動対象面に接触する.

STEP 5: 回転後の姿勢を調整し,再び基本姿勢をとる.

traveling direction

Fig.4.27 Locomotion of a rimless wheel.

Fig.4.28 The quasi-static rotational motion.

84

-traveling direction

(a) STEP 0 ~ STEP 1 (b) STEP 2 + STEP 3 (c) STEP 3

(d) STEP 4 (e) STEP 5 (f) STEP 0 Fig.4.29 Demonstration of the quasi-static rotational motion.

h

85

-(a) Side view (b) Top view Fig.4.30 Parameters describing the rover’s attitude.

本研究で扱うローバは運動の自由度が大きいため,準静的回転運動を達成するための脚の動かし 方の種類は膨大になる.その中から本節では,惑星探査ローバに求められる資質の1つであるエネ ルギ効率のよさに着目して,準静的回転運動のためのエネルギ効率のよい脚の動かし方について検

Sx

Sy

1 3 2

4

traveling direction 6

5 7

8 Backward leg

Forward leg

horizontal plane

Sz

Sx center of the

body 7, 8

5, 6

Bz

Bx 1, 2 3, 4

討する.議論にあたり,Fig.4.30に示すような座標系SSx-Sy-Sz)および胴体ピッチ角を設 定する.ただし,2つの座標系SとBの間には

   

0, 0,

T

B S

yh

 

r R r (4-27)

の関係がある.Sx方向を進行方向として,Fig.4.30に示すような姿勢のとき,Leg 1とLeg 2を前

脚,Leg 3とLeg 4を後脚と定義する.胴体から見て脚の取り付け位置は進行方向に対して左右対称

であるから,ここでは右脚にあたるLeg 4(前脚)とLeg 3(後脚)についてのみ調べる.また,ロ ーバの重心位置は胴体中心に一致していると仮定する.

4.3.3節では,胴体姿勢の変化がない歩行運動について,特定の胴体姿勢のエネルギ効率を議論し

たが,準静的回転では胴体姿勢がつねに変化する.そこで,ここでは胴体の姿勢とエネルギ効率の 関係について詳しく調べる.

モータの消費電力は,モータにかかるトルクの2乗に比例するので,式(3-41)により計算され るトルクをもとにしたエネルギ効率を評価するための指標として,以下のものを定義する.

2 2

1 2 3

Pi    2 (4-28)

この値はモータのLeg iの消費電力に比例するので,Piを小さくするような姿勢をエネルギ効率の よい姿勢と判断する.なお,脚先は天体表面となめらかに接触するものとして,式(3-41)におい て0nT0を想定する.

天体表面は水平面とする.いくつかの姿勢角について,それぞれの姿勢において接触可能領域 内の各点に接触したときにとるPiの値の大小を表した図を,前脚と後脚それぞれについて Fig.4.31 およびFig.4.32に示す.ただし,l2  l3 Rh1.5Rとしている.数値の大小は白黒の濃淡によっ て表してあり,黒色の度合いが大きな領域はPiの値が小さなエネルギ効率のよい支持点である.図 中,赤く表示されているのは,第3関節が支持点よりも低い位置になる姿勢である.このような姿 勢は,支持点が岩の上などにあるなど天体表面に高低差がある場合には支障なく実現できるかもし れないが,天体表面が平面的に広がっているところに接触する際には,途中のリンク部分が天体表 面より下に潜り込むような事態になる.ここでは,天体表面は平面が続いているものとし,赤く記 された支持点を「実現不可能な支持点」と定義する.これらのグラフによると,胴体のピッチ角 が大きくなるにつれて,実現可能な支持点領域が急激に狭まり,この領域の中で,エネルギ効率の よい支持点領域は胴体に対して後方(Sx方向)にシフトしていく.さらに,このような支持点領 域はSxTSyT を満たし,h1.5Rのときには SyTRとなることがグラフからわかる.このとき,

Fig.4.33に示すように,前脚は第2関節と第3関節の回転軸が重力方向に直交し,支持点と第2リ

ンク中点を結ぶ直線が重力方向とほぼ一致するような姿勢をとっている.このことから,胴体のピ ッチ角に応じて,上述のような前脚姿勢になるように胴体と前脚支持点の位置関係を変えていくこ とによって,前脚の消費電力が小さくできることがわかる.

一方,Fig.4.32 より後脚の場合は,ピッチ角の増加とともに接触可能領域は狭まるものの,Piの 値が小さな領域はほとんど変化していない.

以上の解析結果より,胴体のピッチ角 と前脚の支持点位置SxT f, が次の関係式を満たすような 姿勢を,準静的回転運動のための1周期中のエネルギ効率のよい姿勢とすることができる.ただし,

準静的回転運動は 0 [deg]の状態から開始し,0  45 [deg]とする.

2 1 ,

1sin 1 2

S T f S

T

x

    y  

(4-29)

ここで前脚の支持点位置は,天体表面に対する胴体の1周期の開始時からの移動量をDとして,

,

S S

T f T

xyD (4-30)

86

-を満たすように前脚を制御する.1 周期で0 D SyT である.一方,後脚の支持点位置は前脚の

87 -45 [deg]

支持点位置との相対距離を保ちつつ,  で天体表面から離れるように,

,

S S

T b T

x   yD (4-31)

を満たすように後脚を制御する.

0  45 [deg],45  90 [deg]となる区間をそれぞれ第1周期,第2周期と呼ぶことにすれば,

第 2 周期では,さきほどの動きと前後逆転させ時間的に逆行する動きを行う.つまり,

2

S S

T T

y  D y として,

, 3

S S

T f T

xyD (4-32)

,

S S

T b T

xyD (4-33)

とする.以後,ローバと天体表面が同様の幾何学的関係を示すように脚運動を繰り返すことで胴体 を推進していく.

Larger Smaller

-0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2

-0.2 -0.1 0.0 0.1

0x

T

0 y T

-0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2

-0.2 -0.1 0.0

1.0 1.00.1

0x

T

0 y T

(a) 0   (b)   15

-0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2

-0.2 -0.1 0.0 0.1

0x

T

0 y T

-0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2

-0.2 -0.1 0.0 0.1

0x

T

0 y T

(c) 30   (d)  45

Fig.4.31 Required power of a forward leg for the different pitch angles and foot positions.

S y / R S y / R0.0 0.0

-1.0 -1.0

-2.0 -2.0

-2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0

/

Sx R Sx R/

1.0 1.0

S y / R S / R0.0

-1.0

-2.0

y

0.0

-1.0

-2.0

-2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0

/

Sx R Sx R/

-0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2 -0.2

-0.1 0.0 0.1

0x

T

0 y T

-0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2

-0.2 -0.1 0.0 0.1

0x

T

0 y T

Larger Smaller

1.0 1.0

S y / R

-1.0 0.0

S y / R

-1.0 0.0

-2.0 -2.0

-2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0

Sx R/ Sx R/

(a) 0   (b)   15

-0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2

-0.2 -0.1 0.0 0.1

0x

T

0 y T

-0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2

-0.2 -0.1 0.0 0.1

0x

T

0 y T

1.0 1.0

S y / R

-1.0 0.0

S y / R

-1.0 0.0

-2.0 -2.0

-2.0 -1.0

88

-(c) 30   (d)  45

Fig.4.32 Required power of a backward leg for the different pitch angles and foot positions.

Fig.4.33 Efficient configuration of the forward legs for the quasi-static rotational motion.

gravity

Sy

By

Sz

0.0 1.0 2.0 -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0

/

Sx R Sx R/

0

0.1 0.2 -0.2

-0.1 0

0.1 0.2

0 0.1 0.2 0.3

0

y

0

x

0

z

0 0.1

0.2 -0.2 -0.1

0 0.1

0.2

0 0.1 0.2 0.3

0

y

0

x

0

z

89

-(a) 0   (b)   15

0 0.1

0.2 -0.2 -0.1

0 0.1

0.2

0 0.1 0.2 0.3

0

y

0

x

0

z

(c) 30   (d)  45

Fig.4.34 Geometry of the rover’s body and its forward legs in efficient quasi-static rotational motion.

すべての支持脚の消費電力の総和にあたる

4

1 i i

P P

(4-34)

を準静的回転運動の 1 周期(周期T)で計算し,

MgR

2で除して正規化した数値を時間履歴で表 したものをFig.4.35に示す.ただし,胴体と支持点の位置関係が変化していく過程で,各脚にはた らく力も変化する.この点も考慮に入れるため,トルク計算において,天体表面から各脚にはたら く力を次のように決めている.前脚および後脚の1本あたりにはたらく力をRfおよび と表すと,

ローバに作用する力のつりあいと重心(胴体中心)まわりのモーメントのつりあいより,

Rb

, ,

2 2

2 2

f b

S S

f T f b T b

R R Mg

R x R x

 



 0

 (4-35)

が成り立つ.これらを解くと,

0

0.1 0.2 -0.2

-0.1 0

0.1 0.2

0 0.1 0.2 0.3

0

y

0

x

0

z

S

z / R

S

x / R

S

y

3.0

2.0

1.0

2.0 -2.0 -1.0

1.0 2.0

1.0

S

y / R

0.0

3.0

S

z / R

2.0

1.0

S

x / R

S

y

2.0 -2.0 -1.0

1.0 2.0

S

y / R

0.0 1.0

3.0

S

z / R

S

x / R

S

y

2.0

1.0

2.0 -2.0 -1.0

1.0

2.0 1.0

2.0 3.0

S

z / R

S

y

2.0 -2.0 -1.0

1.0 S

y / R

0.0 2.0 S

y / R

0.0 1.0

S

x / R

1.0

,

, ,

2

S T b

f S S

T f T b

Mg x R

x x

 

 , ,

, ,

2

S T f

b S S

T f T b

Mg x R

x x

 

 (4-36)

となる.また,座標系Sと は 軸方向が一致しており,天体表面が水平面の場合,力の方向も これに平行である.トルク計算においては,天体表面が水平面であることを想定して,前脚には

,後脚には を用いた.

0 0f

z

0fT  0, 0, RfT T

0, 0, Rb

T

Fig.4.35 より,準静的回転運動において,胴体のピッチ角が増していくにつれて,前脚にかかる

力が増えていき,消費電力も大きくなっていくことがわかる.図には,1 周期の移動距離が同じ場 合の歩行についても同様の消費電力を計算した結果も載せているが,消費パワーの平均値は,姿勢 3-b で歩行する場合と準静的回転運動でほぼ等しく,それらの値は姿勢 1で歩行する場合よりも約

20 % 低減されている.

準静的回転運動は,つねに4脚の支持脚を天体表面上に接触させたままの状態で移動できるので,

3脚支持状態で胴体を推進する4足歩行の場合よりも支持多角形の面積が広くなる.これは静安定 性を高くできることを表している.この特長は,クレータの縁などの大きな傾斜をもつ領域を移動 する際に有用であると考えられる.また,歩行の1周期中には,振り上げた脚を天体表面に接触さ せる瞬間が4回あり,その都度,安全な足場であることを確認するためのセンシングが必要になる.

一方,準静的回転運動の場合,1 周期中に必要な足場のセンシングは,支持脚が入れ替わる際の 1 回のみであるから,センシングの手間が少なくなるという利点もある.ただし,胴体の姿勢はつね に変化し続けるので,移動しながらカメラで周辺の景色を観測したりなどには適さないため,環境 状況やミッション要求に応じて歩行と使い分けることが必要となる.

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

0.12 0.14 0.16 0.18 0.2 0.22 0.24 0.26

crawl gait (Attitude 1)

P / (MgR)2

crawl gait (Attitude 3-a)

Quasi-static rotational motion

crawl gait (Attitude 3-b)

Displacement of the body D / R

90

-Cycle of the locomotion, t / T

Fig.4.35 Comparison of the total joint power required for each locomotion.

ドキュメント内 錦織, 慎治 (ページ 92-100)