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動的回転運動のための姿勢検討

ドキュメント内 錦織, 慎治 (ページ 100-108)

第 4 章 脚式ローバの移動形態

4.4 胴体の回転を伴う新しい移動形態の提案

4.4.2 動的回転運動

4.4.2.1 動的回転運動のための姿勢検討

-IC:ローバの胴体中心を通りSy軸に平行な軸まわりの慣性モーメント

議論の簡単化のため,第 1 リンクは胴体に含めて考えることとする(l10).Fig.4.37 に示すよう

にLeg 1とLeg 4を右側支持脚,Leg 2とLeg 3を左側支持脚とする.脚の動きは進行方向(Sx軸方

向)に関して左右対称とし,本稿では右脚についてのみ考える.

なお,斜面を下る場合は,動的な回転では勢い余って,回転後の挙動が制御不能に陥る可能性が 高いので,4 本の脚を天体表面につねに接触させた状態で行う準静的回転運動のほうが望ましい.

よって,ここでは上り斜面(0  90 [deg])を想定する.

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-2,3 6,7 6,7

2,3 5,8

(c) Touchdown 6,7

1,4 1,4

5,8 5,8 1,4

(a) Kick

(b) Rotation 2,3

Fig.4.36 The dynamic rotational motion.

Sx

0 Sz

h

d c

plane parallel to ground surface enter of

the body

93 -(a) Side view

(b) Top view

Fig.4.37 Parameters describing the rover’s attitude.

[A] 操作力楕円体 [76] を考慮した回転姿勢の検討

回転後に前脚に移行する脚(以降,前脚と表現する)は天体表面への接触の際の衝撃力に耐える 必要がある.一方,天体表面を蹴り出す後脚は,回転を引き起こすのに十分なモーメントをつくる 力を発揮できなければならない.ここでは操作力楕円体(Manipulating Force Ellipsoid; MFE)を用い て,動的回転運動を安全に行うための姿勢について検討する.MFEは,3.2.4.2節の可操作性楕円体 と同様に,マニピュレータの運動学的性能を評価するのに用いられる指標である.

脚に用いる3つの関節の性能がすべて同じとき,脚先がつくり出すことのできる力0fT

2 2 2

1 2 3 1

    (4-37)

で正規化できる.このとき,3.2.3節のヤコビ行列0Jを用いて Back leg

(Leg 2, 3)

Forward leg (Leg 1, 4)

0

terrain surface

0 ,0

vC

Sx

Sy

2 6 1 5

traveling direction

3 7 8

4

   

0fT T 0J T 0J f0 T 1 (4-38)

が成り立つため, の集合は楕円体 MFEを形成することがわかる.MFE の形状を用いて,次の ような評価パラメータを定義する.

0

fT

     

,max 0 2 0 2 0

31 32 33

1 Fz

J J J

   2

3

(4-39)

ただし,0Jijはヤコビ行列の第i行第j列成分(i j, 1 ~ )である. は天体表面の法線方向か ら脚にかかる力の最大許容値を表している.

,max

Fz

後脚に対しては,力そのものよりも,その力が前脚支持点まわりにつくり出す回転モーメントが 重要である.よって,次のような評価パラメータも定義しておく.

,max ,max

DR z

TFd (4-40)

ただし, はd Sx-Sz平面内における前脚支持点と後脚支持点の距離である. は,天体表面に 対して後脚を垂直に蹴り出して動的回転運動を始めるときに,後脚が前脚支持点まわりにつくり出 すことができる回転モーメントの最大値を表している.ここでは,天体表面で滑ることなく蹴り出 しが行えるよう,後脚は天体表面に対して垂直に蹴り出すことを仮定している.

,max

TDR

動的回転運動は後脚の蹴り出しという単純動作によって移動が達成できるため,歩行や準静的回 転運動に比べて脚制御が簡略化できる.ここで,回転の前後で脚の踏み替えを行う必要のない連続 的な動的回転運動を実現できれば,脚制御のさらなる簡略化が可能となる.これを実現するために は,回転の前後で支持脚と天体表面の幾何学的関係が保たれなければならない.よって,Fig.4.37 に示すように,すべての脚が同じ構成をもち,Sx-Sz平面内においてローバの胴体中心に対して対 称的に脚を配置する必要がある.ゆえに,SxThである必要があり,このとき ,

となる.結果的に,蹴り出しの際のローバの初期姿勢を決めるパラメータは,胴体の初期ピッチ角 度

2

dh045 [deg]

0,胴体の左右方向における脚の支持点位置 ,天体表面からの胴体の高さ という3つにな る.

S

yT h

はじめに, を固定したときに,h SyTと0が式(4-39),(4-40)の評価パラメータに与える影響 を調べる.Fig.4.38SyTと0の値による と の変化を濃淡図で示したものである.ここ では議論の簡単化のため, と

,m

Fz

1.5 h

ax TDR,max 2 3

l l RRとしている.図中において赤いバツ印で覆われた領 域は,4.4.1節の準静的回転運動においても述べた「実現不可能な支持点」に接触するような姿勢を 表している.破線は特異姿勢をとるパラメータの組み合わせである.特異姿勢においては,天体表 面に垂直な方向にのみ脚先速度を実現させることができないので,このような姿勢は避けるべきで ある.Fz,maxTDR,maxの値がともに大きな姿勢が望ましいので,Fig.4.38より0 0 ,SyTRとす るとよいことがわかる.

次に, のとき, が評価パラメータに与える影響を調べる.Fig.4.39 は とhの値によ る と の変化を濃淡図で示したものである.ここでも

0 0

  

,max

TDR

h SyT

,max

Fz l2 l3 Rとしている.赤いバツ印 と破線が表すものは Fig.4.38 と同様である.この図より, の値によらず,h 0yTRが妥当な姿勢 であることがわかる.

一方,妥当な の値はこの図からだけでは判断できない.なぜなら, はhが大きいときに 大きくなるが, はhが小さいときに大きくなるという,正反対の傾向を示しているからである.

そこで次節において,蹴り出し後の回転の安定性などから妥当な の値を決定する方法について述 べる.

h

,m

Fz

,max

TDR ax

h

[B] 蹴り出し後の回転の安定性評価

蹴り出した後脚と天体表面との間の力のやりとりは複雑な過程となるため,これを正確に捉える ことは困難である.よって,ここでは後脚による天体表面の蹴り出しの後,ローバ全体が浮き上が

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-ることなく前脚を支点とした回転運動がすみやかに始まるものとし,回転運動中のローバの安定性 を評価することによって,安定した動的回転運動を行うための妥当なhの値を調べる.回転運動中 のローバに働く外力は,重力,前脚‐天体表面間の摩擦力,回転によって生じる遠心力の3つであ る.これらのバランスにより,動的回転運動中にローバが天体表面で滑ったり,天体表面からロー バ全体が浮き上がってしまう可能性がある.進行方向と逆方向に滑ってしまうと移動効率が悪くな るし,浮き上がってしまうと天体表面への接触の際に衝撃力が大きくなることが懸念される.斜面 を上る場合,回転開始の瞬間が最も速度が大きいため,遠心力が大きくなって安定性が崩れやすい.

よって,回転の安定性は回転開始の瞬間のみ考慮すれば十分である.

力学的エネルギ保存則より,

 

 

2

0 0

1 1 sin

2IF MgLF    (4-41)

のとき,回転が達成できる.式(4-41)の右辺は回転を引き起こすのに必要な最小エネルギを表し ている.またIFは,前脚支持点を通り,Sy軸に平行な軸まわりの慣性モーメントで

2

F C F

IIML (4-42)

である.式(4-41)とvC,0LF0であることから,胴体中心の回転初速度vC,0

 

 

3

0

,0 ,

2 F 1 sin

C

F

v MgL

I

 

 

 vC rot (4-43)

でなければ回転できない.また,前脚が天体表面で滑らないための条件は,胴体に働く遠心力・重 力と,前脚‐天体表面間に働く摩擦力の関係から

 

,0 ,

0

cos sin cos

F

C C slip

v gL   

  v (4-44)

が導出される.さらに,回転の際の支点となる前脚が天体表面から浮き上がらないための条件も同 様にして

,0 ,

0

cos sin

F C

v gL

  vC sep

0 0

(4-45)

と導出される.

, C rot

vvC slip, の大小関係は次の(a-1),(b-1)のように場合分けできる.

(a-1) 2ML2F

1 sin 0

cos0IF のとき,0    9 でつねにvC rot,vC slip,

(b-1) 2ML2F

1 sin 0

cos0IF 0のとき,0  1vC rot,vC slip, ,  1vC rot,vC slip,

また,vC rot,vC sep, の大小関係は(a-2),(b-2)のように場合分けできる.

(a-2) 2ML2F

1 sin 0

sin0IF 0のとき,0    90 でつねにvC rot,vC sep,

(b-2) 2ML2F

1 sin 0

sin0IF 0のとき,0  2vC rot,vC sep, ,  2vC rot,vC sep,

さらに,vC sep,vC slip, の大小関係は(a-3),(b-3)のように場合分けできる.

(a-3) tan01のとき vC sep,vC slip,

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-(b-3) tan01のとき,0  3vC sep,vC slip, ,  3vC sep,vC slip, ただし,

1 1 1 1

1 2 2

1 1 1

cos C tan B

A B A

      

(4-46)

0 1

0 2 0 2

1 1

2 ,

2 , 2

F T

F T T

A I Mh x

B I M x C M x

  



  

 (4-47)

1 2 1

2 2 2

2 2 2

cos C tan B2

A B A

       (4-48)

2 2

0

2 2

2 ,

2 , 2

F

T F

A I Mh

B Mh x C ML

  



 

 2 (4-49)

1 0

3

0

sin cos

tan sin

  0

 

  

 

  (4-50)

である. かつ が成り立つときにローバは安定的な回転を引き起こ すことができるが,上述の大小関係式から,ローバの形状,質量,姿勢および静止摩擦係数の関係 によって,安定的な回転の可能性が判別され,これを達成可能な最大傾斜角

, ,0 ,

C rot C C slip

vvv vC rot,vC,0vC sep,

maxが1または2に決 定されることがわかる.なお,式(4-46)および式(4-48)はそれぞれ, ,

, v ,slip

Crot C

vvC r,otvC sep,

について解くことによって得られる.式(4-46)~(4-49)より,maxの候補である1,2そ のものは重力に影響されないことがわかる.ただし,式(4-43)からわかるように,maxを得るの に必要な は重力に依存することに注意されたい.結局,前述の場合分けにおいて,(b-1)かつ(b-2) が成り立つ場合にのみ,安定的な回転が行えることになるが,これらの関係式から,次のような傾 向がわかる.

,0

vC

・0が90に近い(前脚支持点が胴体に近い)ほど安定回転の可能性が高くなる ・ICが大きいほど安定回転の可能性が高くなる

以上の議論では後脚による天体表面の蹴り出しの瞬間は考えず,その後の回転運動についてのみ考 慮したが, を大きくすると必要な蹴り出しの力が大きくなるので,蹴り出しの瞬間に,すでに ローバ全体が天体表面から浮き上がってしまう危険がある.特に,重力が小さな環境ほどその可能 性が高い.よって,できるだけ小さな で大きな

,0

vC

,0

vCmaxが得られるような姿勢をとることが望まし い.

[A]で述べたとおり,連続的な回転ができるように045とすると,

0  1vC rot,vC slip,vC sep,

1 2

    でvC slip,vC rot,vC sep,

が成り立つ.これは,が1を超えると,回転達成のためには前脚が天体表面で滑ることを許容し なければならないことを表している.したがって,安定的な動的回転運動が可能な天体表面の最大 傾斜角はmax 1となる.また,安定的な回転が可能な(max  0 となる)最低静止摩擦係数は

 

2

0 min

2 F 1 sin cos

F

ML I

 0

  (4-51)

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