The Forever Book サイバネティクスの重要項目の一つは、フォン・ノイマンによる、最 も小さな自己複製可能な機械がどのようなものであるかを解明する試み である(彼はこの研究を論文には書かなかったが)。大規模な自己複製可 能な機械はたくさんある。すべての生物はそうだ。しかし、自分自身を 複製することができる最小のものは何か? その一連の探求から、彼の独 創的なオートマトンという発想が出てきた。そして最終的には多くの人 工生命の研究が生まれた。最近、生物学者は同じ質問をし始めた。考え られる最小の生物は何か? 生命はどこまで小さくなれるか? この一連 の考察から、地球外生物学者および生物の起源の研究者たちは、自己複 製する RNA の最小単位の実験をしている。その量は地球上で自然に見 られるものよりずっと小さい。
私は、文明(テクニウム(訳注:文明としての技術))が生命の一形態、
自己複製する構造だと思っている。文明の「遺伝子」を凝縮した最小の 種子は何か、ということを考え始めた。その種子を展開して元に戻すと、
また別の種子を作ることができるようになる。すなわち、テクニウムが 生存するのに必要な最小の種子は何か? それは再生産年齢にまで成長 し、自分自身が一人前の文明となり、自分の子孫を、つまり、もう一つの 複製可能な種子を生むことができる種子でなければならない。
第 17 章 永遠の本
この種子とは、知識で満たされた(もしかすると道具も含まれる)図 書館であろうと思われる。今の多くの図書館は、人類の文化や技術につ いて私たちが知っていることをたくさん収容している。それを再生産す る方法も少しは持っている。しかし、ここで言う図書館は、文化の自己 複製に不可欠なあらゆる知識を所蔵していなければならない。ここで理 解しておくべき重要なことは、この種子としての図書館は、人間が知っ ていることすべてについての万能図書館ではない。そうではなくて、そ のままでは複製不可能なもの、しかも、展開すると人間が知っているこ とを再生できるものを収容する種子である。
種子は、いろいろなことに役に立つ。次の季節の再生に使えるし、あ るいは、ある種類のものを休眠状態で保存したり、長い中断のあとで再 開したりできる。他の事業の食物(入力)でもある。樫の木はドングリ に凝縮するし、鯨は受精卵に凝縮する。したがって、文明を図書館のよ うなものに凝縮できると私は考えている。このような種子を展開するた めには、環境と時間が必要である。(鯨の場合は母鯨が、樫の木の場合は 森と土が必要だ。)だから、生物は種子だけに凝縮するというわけではな いが、それでも種子であれば扱いやすい。
また、確証はないが、私は二種類以上の種子があると思っている。複 雑なテクニウムを凝縮して封入するのは、蛋白質を折りたたむのと同様 に、その方法は一つだけではなさそうだ。移植、再発見、あるいは単な る更新によって、文明の何らかの側面を持続させるような、さまざまな 種子(図書館)を想像することができる。あるものは他よりも大きいか もしれない。ブートストラップする文明に必要不可欠な考え方や知識を 収容している最小の図書館は何か? 最小の図書館は、実際には情報だけ を収容しているはずだ。正しい情報があれば、どんな道具でも必要に応
じて作ることができるからである。
テクニウムの種子は、ブートストラップする仕掛けでなければならな い。基礎的な情報は、さらに多くの知識を解明する道具を作るための指 針を提供する。その知識を使って、順繰りに他の指図を理解する。それ を使ってさらに多くの道具と理解を得る。以下、無限に続く。
明らかにそのような図書館は、いろいろな情報の中でもとくに、本で満 たされた図書館を作る方法を伝達しなければならないだろう。本で満た された図書館は、いろいろな意味で文明の最も重要な部分だからである。
こうして自己複製可能な永遠の図書館ができる。では、自己複製可能な 永遠の図書館で、最小なのはどのようなものか? デジタル技術をもって すれば、いつか、その図書館は現在の本よりも小さくなるだろう。そし て、そこには主として情報を収容しているから、自己複製可能な図書館 とは、自己複製可能な本であると考えることができる。すなわち、「永遠 の本」である。
私は、一つの実験として、この「永遠の本」を作るために何が必要かを 考えているところだ。
最初の段階では、この本は、その本自身を作る方法などを教えてくれ る。よく考えてみると、私のこのプロジェクトは、実際には一連の本であ ることに気がついた。版を重ねるごとに基本理念に沿って改善していっ て、最終版には文明再生産キットを収録する。すなわち、それ自身を永 遠に複製し続けることができる本になる。
その一連の版がどのようなものであるかを示しておく。
第 1 版は、レーザープリンターで印刷した本で、そこには紙を作る方 法、活版印刷の方法、製本の方法などに関する既存の説明書の一部を転 載する。つまり、その本と同じような別の本を作る方法について全般的
第 17 章 永遠の本
な情報を収録している。(この段階を今、私は実施しているところだ。)
それは概念としては役に立つが、実用になるかどうかはわかならい。紙 やインクを作ることはそんなに難しくないが、活字を作るのは難しい。
第 2 版は、レーザープリンターで印刷した本で、前と同様に一から本 を作る方法を収録しているが、この情報は現代的かつ人工的になってい て、このプロジェクトのために本を何冊か手で作って実証する。第 2 版 を使えば、元の本とは別の本を作ることができる。
第 3 版は、すべてこの単純な方法による完全手作りの本である。その 中には、その本と同じような別の本を作る方法に関する情報が書いてあ る。手作りの紙というページには、そのページと同じものを作る方法が 書いてある。インクに関する章は、そこに示した方法で作ったインクで 印刷してある。その他も同様。これが本当に永遠の本だ。
次の段階では、「永遠の本」を拡張して、「永遠の図書館」らしいものに していく。
第 4 版は、DVD またはその同等物である。手作りの本を作る方法から 始まって、DVD(または同等物)を作る方法を教えてくれる。シリコン、
アルミニウム、石油、銅などの素材を使って DVD を再現するために必 要な知識全部を DVD に収録できるのかどうか、私は正確には知らない。
必要な DVD はすべて倉庫の棚に入っていることにしてもよいのかもし れない。
この考えを拡張していけば、DVD、ハードディスク、計算機ネットワー ク、ウェブなどの図書館に到達する。そこには、知識を収録するハード ウェアとソフトウェアの図書館を複製するために必要な知識が、すべて 収録されている。この図書館は本質的には、文明再生産キット、すなわ ち、文明における基本的技能を保存するための自己複製可能な知識であ
る。それは非常に大きいものだろう。極端に言えば、今日、地球上にあ る本や文書をすべて集めたメタ図書館を考えれば、それは永遠の図書館 である。たしかに、私たちの知識は、それを再現する方法についての情 報を含んでいる。
しかし、重要なところは、一つの情報源に最小限の知識を詰め込むこ とだ。今の私たちと同様な文明をどこかで再出発させるために必要な最 小量の知識である。テクニウムを再出発させるのに、たとえば 3 世代の 時間をかけるとすれば、必要な最小量の知識はどのようなものか? ある いは、1 世代では?
技術や文明の定義は人によって異なる。したがって、この種子に至る ためにはいろいろな取り組み方がある。これが楽しいところだ。それは バックアップをとるようなものである。異なる要求は異なる戦略を生む。
ある人たちは、自己複製可能な図書館という「種子」について、手早く再 出発できること、たとえば 10 年でできる手軽なお始めパックをねらっ ている。もしかしたら、宇宙船のお手軽パックも求められているのかも しれない。あるいは、非常に深くしかしゆっくりと開く種子、つまり十 分な育成が必要だが、非常に堅固なテクニウムを生み出すような文明の 種子を求めているのかもしれない。あるいは、強い方向性を持った文明 を生み出す永遠の種子があるかもしれない。たとえば、宗教を容認する 文明、宗教を回避する文明、あるいは女性の概念を変える文明など。そ の他に、2 種類の種子が考えられる。野生版の種子は、母親がいなくて も、あるいは土壌がなくても、荒れ地でも発芽することができるという ハルマゲドン後の種子である。養育の世話をしなくても文明を再出発さ せることができる。これは、完全に自己完結していて、放置に耐えうる ものでなければならない。もう一つの種子は、発芽した後、他の永遠の