第 6章 企業再生と繰越欠損金の税務 .…
第 1節 欠損金の繰越控除制度の概要 Ⅲ
企業会計上、欠損金 とは、資本金 と資本剰余金 の合計額 に対す る純資産の不足額、すな わ ちマイナスの利益剰余金 の金額 を意味す る127。 企業会計 においては、資本 は資本金 と剰 余金 とに分 け られ る。 さらに剰余金 は、その発生源 か ら資本取引か ら生 じた資本乗1余金 と 損益 取 引か ら生 じた利益剰余金 の
2つ
に分 け られ る (資本 と利益 の区分 の原則)。 利 益剰 余金 は、会社 内に留保 されている利益 をいい、過年度 に稼得 した分 と当期 に稼得 した 当期 純利 益 が含 まれ る。これ は、会社が会社法 の規定 に従 つて積立が強制 され てい る 「利益準 備 金」 と法律 の規制 を受 けることな く会社 の判断で設定 され る 「任意積 立金」 とそれ以外 の 「繰越利益剰余金」か らな る 「その他利益剰余金」 とに分類 され る。企業会計 においては、 当期純利益が計上 され た場合 は損益勘定か ら繰越利益剰余金勘定 に振替 え られ る。 しか し、当期純損失が計上 され た場合 には過年度か らの繰越利益剰余金 と相殺 され 、相殺 しきれ なかった損失額 は繰越損失 となる。 ただ し貸借対照表 では 「繰越 利益剰余金」 の借方 (マイナ ス
)残
高 として扱 い、 この項 目名 のまま純資産の部か ら減算 す る形 で表示す る。繰越損失 の処理 には、まず任意積 立金 、その他資本剰余金 、続 いて利 益準備金 お よび資本準備金 の順 に取 り崩 して補填す ることが望ま しく、それで もなお補填 で きない場合 には、将来 の純利益で補填す るかまたは減資手続 を実施 して資本金 の減少額 で補填す ることにな る128。この よ うに、企業会計 においては、継続企業 を前提 として、便宜的に期 間を区切 つて期 間損益計算 を行 い、 当期 の純損失が発生 した ときには 自動的 に繰越利益剰余金 と相殺 され るこ とにな る。
2.税
法 に お け る 欠 損 金 概 念 と欠 損 金 の 繰 越 控 除 制 度 の 本 質・ 意 義法人税法上 、所得金額 は、定款等 で定める会計期 間に応 じて事業年度 を定め、その各事 業年度 において一般 に公 正妥 当 と認 め られ る会計処理 の基準 に従 つて計算 され た収益お よ び費用 を出発点 とし、確 定 した決算 に基づいて税法の規定 によ り調整 され た益金の額か ら 損金 の額 を控 除 した金額 とされてい る (法人税法第
21条
、第22条
)。 そ の場合 、各事業 年度 の課税所得 を計算す る上で、 当該事業年度 の損金 の額 が当該事業年度 の益金 の額 を超127 安藤英義 。新 田忠誓 。伊藤邦雄 。廣本敏郎編集代表 央経済社 、
2007年 )381頁
。128 桜井久勝『 財務会計講義 (第
16版
)』 (中央経済社 、『会計学大辞典
(第5版
)』 (中2015年)285頁
。‐69‐
える部分の金額 は、欠損金額 として取 り扱 われ ることとなる (法人税法第
2条 19号
)。 つ ま り、「欠損金」とは、各事業年度 の所得計算 において課税所得がマイナスである場合 の当 該 マイナス額 を意味す ることにな る。そ して、上記の課税所得 の計算上で生 じた欠損金額 は、当事業年度後 に繰 り越 して、そ の事業年度後の各事業年度 の所得 の金額 か ら控除す ることが認 め られている129。 この仕組 みが、欠損金 の繰越控除制度 である (法人税法第
57条
)。 さらには、欠損金 の繰越控除制 度 に関連す るもの と して、 当該事業年度 において生 じた欠損金額 を当事業年度以前 の事業 年度 の所得金額 と通算 し、その通算 され た金額 に対応す る税額 の還付 を行 う欠損金額 の繰 戻還付制度 もあ る130。この よ うな欠損金 の繰越控除制度が採用 され たのは、租税負担 の公平の観 点か ら問題が 生ず るためである。 そ もそ も法人税 は期間税 であ り、事業年度 ご とに区切 つて課税所得 を 計算 し、他 の事業年度 に影響 させ ない ことを原則 (事業年度独 立 の原則
)と
してい る131。しか し、事業年度独 立の原則 を厳格 に適用 して しま うと、複数 の年度 を通 じてみれ ば同額 の所得 が発生 してい る場合 に も、ある事業年度 に所得 の金額、別 の事業年度 に欠損金額が 発 生 した法人 は、平均的 に所得 を獲得 した法人 よ りも、租税負担 が重 くな る。例 えば、 当 事業年度 に
100の
所得 を計上 し、翌事業年度 において 100の所得 を計上 した企業 と、当事 業年度 に200の
欠損 が生 じ、翌事業年度 に400の
所得 を計上 した企業がある とす る。両者 を2事
業年度 で比較す る と、どち らも所得 は200と な るが、各事業年度 の課税所得お よび 欠損金額 は異なってい るため、後者 の方が法人税 の納税額が多 く算定 され ることとな る。したが って、企業の租税負担 を調整 し所得 の金額 と欠損金額 とを平準化す る措置 を設 ける こ とが、所得変動 に関 して中立的で公平な課税 につなが るこ とか ら、欠損金の繰越控除制 度 は大 きな意義 がある132。 一方 で、欠損金 の繰越控除制度適用 の要件が、法人税法第
57条
で規定 され てい るよ うに青色 申告書 を提 出 した法人 となってい ることか ら、青色 申告 の特
成道秀雄『税務会計―法人税の理論 と応用―』(第一法規、
2015年 )272頁
。金子『租税法 (第
21版
)』 (弘文堂、2016年 )389頁
。武田昌輔 「欠損金額の繰越 し制度の理論 と実務 (総説)」『 日税研論集』第
59巻
(2009年 11月)45頁
。131 柳裕治編著『税務会計論 (改訂版)』 (創成社、
2015年 )176頁
。『会社税務釈義 (平成
26年
度Digital版)第 6巻
』(第一法規、2015年
5月)3303
頁。武田隆二教授は、課税所得は各事業年度を単位 として算定され、他の事業年度に影 響 させないことを、課税年度独立の原則 と述べている。武田隆二『法人税法精説 (平成
17年
版)』 (森山書店、2005年 )983頁
。132 岡村忠生『法人税法講義 (第
3版
)』 (成文堂、2007年 )436頁
。 9 義ム0‐70‐
典 と しての地位 にある とい う見解 もあるが、 当該制度 の本質 を検討す る限 り、む しろ当然 の規定である と考 え られ る133。
この よ うに、事業年度 は課税所得 を計算す る上で便宜的に区切 られてい ることか ら、経 済活動 の波動 に よって、ある事業年度 には所得 が生 じ、ある事業年度 には欠損金が生ず る とい う状態 が現 出す る場合、欠損金 を無視 して期 間所得 の課税 だ けをすれ ば、企業開始か ら終 了までの総体所得 を超 えるものが課税ベー スに取 り込 まれ ることにな り、租税負担の 公 平 とい う観点か らは妥 当ではない134。 したが って、欠損金 の繰越控除制度 は租税負担 の 指標 た る所得測定の合理的調整 として必要な措置であ り、当然 に認 め られ る制度である。
その意味では、調整 の対象 となる期 間は無制限 とす るのが企業会計 。税法上 も妥 当である と考 えることもできる。