第 7章 企業再生方法に対する税法的分析・検討 .…
第 1節 債務免除益等の課税根拠の検討 .…
第 7章 企 業再 生方法 に対す る税法的分析・ 検 討
ある141。 当該 「別段 の定 め」があるもの以外 については、公正処理基準 に よる収益の額 を 前提 としてい るこ とか ら、法人税法 において も包括的所得概念 を採用 してい ることが分か る142。 この概念 は、純資産増加説 とも呼ばれ 「反復的 。継続的 に生 じる利得 のみな らず キ ャ ピタル・ ゲイ ン (資産 の値上益
)や
受贈益等 の一時的 。偶発的 。恩恵的利得 も含 めて課 税対象 は包括的 に定義 され るべ きである」143と す る ものであ り、金銭 の形態 を とってい る か、その他 の経済的利益 の形態 を とつてい るかの別 な く、益金 を構成す る こととな る144。債務免 除がな され た場合 、負債が減 るこ とか ら純資産 は増加す る。つ ま り、純資産増加 説 に よれ ば、借入 時 においては、資産 と負債 が同時 に増加す るこ とか ら所得 は生 じないが、
返済が免 除 されれ ば借入時 に資産 に計上 した額 と免 除 され る負債 の帳簿価額 の差額 は益金 と解す るこ とができる。 また、債務免 除益 は経済的利益 を享受 してい ることか ら見て も、
益金 を構成す る と解 され る145。
2.債
務 の 株 式 化 に お け る債 務 免 除 益 課 税 の 根 拠DESに
おいては、平成18年
度税制改正前においては、会計処理に準拠 して法人税法上 も課税 を行 つていたため、会計上、券面額説を採用す るか評価額説 を採用す るかによって 課税所得が異なつていた。平成18年
度税制改正により、出資 された債権 を時価評価す る こととな り、時価が額面 よりも下落 している場合は債務免除益が生 じ課税 され ることとな った。上述 したよ うに、法人税法第22条 2項
においては、益金に算入す る金額を資本等 取引以外のものに係 る当該事業年度の収益の額 としてお り、税法上は資本等取引と損益取 引を厳格 に区分 し課税す ることが示 されている。 この資本等取引 とは、①資本金等の額の141 中村利 雄『 法人税 の課 税所 得計算 (改訂版
)そ
の基 本原理 と税務調整 』(ぎょ うせ い 、1990年 )21頁
。142 成道秀雄・松嶋隆弘・坂田純一編著『 法人税法の理論 と実務』(第一法規、2014 年
)76頁
。143 中里実 。弘中聡浩・渕圭吾・伊藤剛志 。吉村政穂『租税法規概説』(有斐閣、2011 年
)84頁
。144 金子宏『 租税法 (第
21版
)』 (弘文堂、2016年 )311頁
。145 債務免除益は法人税法第
22条 2項
の 「その他の取引」に該当 し、間接的な受贈益 と もいえる債権者か ら債務 を免除 された場合の経済的利益 として益金の額 に算入 され る。『 会社税務釈義 (平成
26年
度 Digital版)第 1巻
』(第一法規、2015年
5月)1429
頁。)。 (成道秀雄『税務会計―法人税の理論 と応用 ―』(第一法規、
2015年 )145頁
。柳 裕治 「第3章
法人税法」岸 田貞夫・矢内一好 。柳裕治・吉村典久『 基礎か ら学ぶ現代 税法 (第2版
)』 (財経詳報社、2015年
)145‐146頁
。)75‐
増加 または減少 を生ず る取 引、②法人 が行 う利益 または剰 余金 の分配お よび残余財産 の分 配 または引渡 しをい う(法人税法第
22条 5項
)。 資本金等 の額 の増加 また は減少 を生ず る 取 引は、法人 の純資産 の増加 をもた らすが、それ は法人 と株 主等 との間で生 じた取 引に伴 う持分 そ の ものの増減 であるこ とか ら、益金お よび損金 の範 囲か らは除外 され てい る146。また、利益 または剰余金 の分配 に関 して も、会社法 。会計上 において算定 され た利益計算 の結果 を もとに当該利益 を分配す るのであ り、また、税法上 は株 主に利益 を還元す る前の 所得 を課税対象 と してい るこ とか らも、益金 お よび損金 の範 囲か らは除外 され てい るので ある147。 この よ うに資本等取引 と損益取引を厳格 に区分 し課税す ることを要請 してい るが、
DESか
ら債務免 除益が生 じ課税 され る といつた解釈 は妥 当であろ うか。つ ま り、法人税法 第22条 2項
においては、DESと
い った取引は、会社法上は現物 出資 とした1つ
の資本取 引で あるか ら、税 法 において も1つの資本等取引 として捉 え債務免除益 といった益金 が生 じない とす るのか、それ とも私法上 は1つの取引ではあるが、本来 の内容 を分析 して、取 引の要素 ご とに課税 関係 を検討 してい くべ き とす るのか問題 とな る ところであ る。DESに
ついては、第3章
で論考 した よ うに、会社法上、券面額説お よび評価額説 といつ た2つ
の学説 が存在 してい る。 また、会社法 においては、株 主お よび債権者 の保護 を 目的 として分配 可能 な剰余金 の算定 を行 うため規定 されてお り、また、企業会計 においては、企 業 の経営 の成果 を判 断す るた め、適正 な期 間損益計算 を行 うこ とを 目的 としてい る148
(企業会計原則 第二、一 。第二、一)。 つ ま り、会社法 において券面額説 が有力である と解 してい る点 において、①券面額説 であれ ば、 当事者 間の意思 に反 しない こ と (資本 取 引 と して扱 われ る、債務免除益 といつた利益 は生 じない こと)、 ② 資本充実の原則 に反 しない こ と、③資本金額 の公示 の観 点か らも、資本金額 の増大が信用 の尺度 と解す る と誤解 を招 く 可能性 が評価額説 の場合 よ りも高 くな るが、債務超過会社 が減資 をす ることな く増 資 をす るこ とも許 され る し、
DESに
よ り資本金額 が増加 して も当該会社 の信用性 の評価 において146 人 ッ尾順一 「税法における資本等取引 と損益取引」『税理』第
49巻
第7号
(2006年5月
)27頁
。147 金子宏『租税法
第
21版
』(弘文堂、2016年 )317頁
。148 守永誠治 「企業会計 。会社法における繰越欠損金」『 日税研論集』第
59号 (2009年
11月)121頁
。会社法 。会計の 目的は、経営者・株主・債権者の間に存在す る利害対立 関係 の調整であ り、企業の活動および経済事象に関す る情報 を提供す ることである。(桜 井久勝『財務会計講義 (第16版
)』 (中央経済社、2015年 )13頁
。広瀬義州『財務会計(第
12版
)』 (中央経済社、2014年 )12頁
。等)76‐
特別 の問題 は生 じず 、その信用性 が保護 に値す るものか ど うか定かではない こと149、 ④弁 済期 の到来 してい る債権 の場合 、お よび債権 の価額が債権 に係 る債務者会社 にお ける負債 の帳簿価額 を超 えない場合 においては、検査役 の調査や弁護 士等 の証明 を不要 としてい る こ と (会社法第
207条 9項 5号
)、 ⑤ 実質的 に債務超過 で あ る場合 には、既存株 主の経済 的利 益 は損 なわれ ない こ と150等があげ られ る。一方、評価額説 の場合 においては、券 面額 説 に対す る資本充実 の原則 には反せず、債権者 の不利益 も生 じない。 この ことか ら、会社 法上 の 目的 か ら検討 して も、債権 の評価 について券面額説 か評価額説 かのいずれ を採用 し て も、大きな影響 を もた らす ものではない151。 一方 、税法 においては、租税負担 の公 平 を 確保 し、法人 の適正 な所得 を算 出す る必要がある。つま り、会社法等 の 目的か ら考察 され てい るDESの
取扱 い を法人税法上 の課税所得計算 に反映 させ る必要 はない と考 える。仮 に、会社法上 と同様 に
DESを
税 法上1つ
の資本等取引 と捉 える と、 当該取引か らは 益金 は生 じない。つ ま り、法人税法第22条 2項
・3項
で資本等取 引以外の取引に係 るもの において資本等取引か らは損益 は発生 しない とされ てい るか ら、益金や損金 を認識す る余 地 はない。しか し、その よ うな資本等取引であつて も、「別段 の定 め」がある場合 には、「別 段 の定 め」に よる規定が優先 され る152。 法人税法施行令第8条 1項 1号
においては、新株 の発行 の際 に増加す る資本金等 の額 について、払い込 まれた金銭 の額お よび給付 を受 けた 金銭以外 の資産 の価格 その他 の対価 の額 に相 当す る金額 となってお り、DESに
よ り出資 さ れ た 自己宛債権 の時価 とその額面額 との差額 が債務 の消滅益 として認識 され ることとなる が、当該差額 は資本等取引か ら発生 してお り益金 を構成 しない と解 され る。 しか し、法人 税法第59条
においてDESか
ら生 じる債務消滅益 について期 限切れ欠損金 か ら控除す るこ とを規定 してい る当該条文が 「別段 の定 め」 に該 当 し、債務消滅益 を認識す る根拠 となる149 針塚遵 「東京地裁商事部 における現物出資等検査役選任事件の現状」『 商事法務』第
1590号
(2001年 3月)8頁
。150 明石一秀、弥永真生 「債務超過会社の債務 の株式化」『 企業法学』第
8巻
(2001 年)107頁
。151 針塚遵 「デ ッ ト・ エ クイテ ィ・ スワップ再論」『 商事法務』第
1632号
(2002年 6 月)18頁
。152 法人税法第
22条
第2項
の 「別段 の定 め」があるものを除 き とは、「法人税法23条
か ら法人税法26条
まで におい て当該事業年度 の益金 の額 に算入 しない こ と、 さらに、法 人税法63条
か ら法人税法65条
まで益金及び損金 の額 に算入す ることな どの特別規定 を 指す 」と してい る。武 田昌輔編『DHCコ
ンメンタール法人税法 (第2巻
)』 (第一法規 、2016年)1105頁
。77‐
見解 もあ る153。 しか し、 この見解 に よれ ば、法人税法第
59条
は、企業再生税制 の一環 と して会社更生法等 に基づ く開始決定等があつた場合 に行 われ るDESに
よ り生 じた債務消 滅益 を、青色欠損金 に優先 して期 限切れ欠損金 と相殺す るこ とを認 めた特別規 定であ り、また会社 更生法等適用時の欠損金 に関す る規定であ り、損金 に関す る 「別段 の定め」であ るこ とか ら、
DESに
対す る課税 の根拠 といい切れ ない と考 える。上記 の よ うに
DESを 1つ
の資本等取引 として捉 えた場合 において、現行法人税法では 課税 の根拠 を明確 に示 してい る とはいい難 い。税 法 においては、1つ
の取 引 として課税 関 係 を検討 した場合 、租税 の公 平 な負担 を害す る可能性 が あるた め、様 々な要素 が混在 した 取 引に関 しては要素 ご とに課税 関係 を検討すべ きであ る。 この解釈 か らす る と、DESは
、 債権 の現物 出資 を受 け入れ た時点では、一旦資産 に 自己宛債権 が計上 され 、その直後 に負 債 に計上 され てい る債務 と相殺 され る。 つ ま り、一旦 、 自己宛債権 と債務 が債務会社 に帰 属 し、その際 に受 け入れ た 自己宛債権 は、一般 的 に債務超過会社 がDESを
実施す る場合 が多い ことか ら債務会社 の回収可能性 については極 めて低 く実質的な価値 は下落 してい る 状態 で ある。受 け入れ た 自己宛債権 に関 しては、実際 に時価 で取得す るこ ととな る。通 常、資産 を受 け入れ た場合 においては、その移転時 の価格つ ま り当該 自己宛債権 でい う回収 可 能価額 で 当該受入資産 を認識すべ きであ る。 そ うす る と、実質的 には時価 と額 面額 の差額 部分 は債務 を免 除 した と同様 の結果 とな り、債務免 除益 が認識 され るこ ととな る。 当該債 務免 除益 は、法人税 法第
22条 2項
のその他 の取引に該 当 し、益金 を構成す る と考 え られ る。以上 で、検討 した よ うに
DESか
らは債務免除益が生 じ、益金 を構成す ることとなる。し か し、DESは
債務超過等 の財務 内容 が悪化 した企業 が実施す る場合 が多 く、会社 更生法等 の よ うな再生手続 を行 う前 に、早 めに債務超過 を解消す る といつた経営判断 を行 うこ とも あ るだ ろ う。 その よ うな企業 は、青色欠損金が多額 にあるケー スが多いが、企業の財務状 況 に よってはDES実
施 時 に生 じる債務免 除益 が青色欠損金 を超 える場合 もあ り、租税負 担 を生 じさせDESの
効果 を減少 させ る結果 も予想 で きる。 その よ うな企業 は、債務超過 解 消 のた めのDESを
有効 に活用 しよ うとす るが、債務免 除益 が計上 され るた め租税負担 が生 じるこ とか ら、租税 が企業の経済的活動お よび意思決定 に影響 を与 える結果 とな り、租税 の中立 の観 点か らは好 ま しくない。 もつ とも、企業の活動 は本来その 自由意思 に基づ 153 倉見延睦 「デ ット・エクイティ・スワップにおける課税問題 ―債務消滅益に対する
課税の検討を中心に
」『 立命館法政論集』第
9号
(2011年)106頁
。‐78‐