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(図1)。

このシミュレーションでは衛星として 3 機(準天頂衛星 軌道)+ 1 機(静止軌道,静止位置は東経 120 度)を用い

た。

GPS

信号の地上モニタ局としては,

MSAS

8

局を含 め

25

局の配置を採用した。

MSAS

8

局以外の仮想的に 設置した地上モニタ局の具体的な場所は図

1(a)

の黄色の 点で示されるとおりであり,韓国,ベトナム,タイ,シン ガポール,フィリピン,インドネシアなど

12

ヶ国に

17

局設置するものとした。運用モードとしては

APV-I

(垂直 誘導付き進入)を想定し,水平方向

95%

精度

16m

,垂直 方向

95%

精度

20m

を達成できる時間率をアベイラビリテ ィとした。電離圏は「静穏」と「擾乱」(赤道異常)の状 態を対象とした。

電離圏が静穏状態の時の結果から,

0

次フィット方式よ り平面フィット方式を用いたときの方がアベイラビリテ ィは良いことが分かった。

電離圏が擾乱状態(具体的には赤道異常)にあるときで,

1(a)

は平面フィット方式,図

1(b)

は0次フィット方式を 用いた場合の結果である。この図

1

では, 「赤色」で示さ れた地域はアベイラビリティが

90%

以下, 「うすい青色」

で示された地域はアベイラビリティ

99.0%

99.9%

, 「濃い 青色」はアベイラビリティが

99.9%

以上に相当し,この「濃 い青色」は

APV-I

が達成できている地域に対応している。

この図

1(a)

(b)

の結果から,電離圏が擾乱状態にあるとき は0次フィット方式を用いた場合の方が良好なアベイラ ビリティが得られることが分かる。電離圏が静穏状態の時 は「平面フィット方式」,擾乱状態の時は「0次フィット 方式」を用いる適応0次フィット方式の結果が図

1(c)

であ る。図

1

では図

1(c)

が最も良いアベイラビリティを与える が,アジア地域全体で

APV-I

を満足する結果ではない。

3.3

新しい電離圏遅延量推定方式

前節の結果から,アジア地域でのアベイラビリティ向上 のためには,電離圏遅延量推定方式をさらに改良する必要 があることが分かる。そこで,補強メッセージとして放送 される垂直方向電離圏遅延量が,どの方向に見える衛星に 対する観測量に基づいて推定されたかという情報も補強 メッセージの中に含めることにした。これは電離圏におい て電子密度は一様ではないということを考慮したことに 相当する。この新しい電離圏遅延量推定方式を,沖永良部 島にいると仮定した利用者に対して評価したところ図

2

のような結果となり,

3.2

項で用いた方式よりも電離圏遅 延量推定性能が向上し,水平方向測位精度は

40%

程度改善 されることが分かった。

図 1(a) 平面フィット方式

図1 アジア地域でのアベイラビリティ分布

:電離圏擾乱状態 図 1(b) 0 次フィット方式

図 1(c) 適応 0 次フィット方式

水平方向測位誤差(m)

時刻(時,UTC)

図2 水平方向測位誤差:沖永良部島 : 2011/12/23

・:従来の推定方式

・:新しい推定方式

また,この方式の評価を

JAXA(

宇宙航空研究開発機構

)

と共同でシンガポールにて実施した。具体的には,車輌に,

GPS

・準天頂衛星対応の受信機を搭載し,シンガポール市 街地で走行時にデータを取得した。実験データ評価におい て,

GPS

単独測位結果と,

L1-SAIF

信号の

GPS

補強メッ セージを適用した場合の測位結果を比較し,

GPS

補強メッ セージの効果を確認できた

(

3)

。この図

3

で,黄緑色の プロットは

GPS

単独測位結果,赤いプロットは

L1-SAIF

信号利用時の測位結果であり,座標軸は車両の出発地点か らの移動距離を示している。

3

で黄緑色のプロットと赤いプロットがずれている ということが,

L1-SAIF

信号の補完・補強機能の効果を示 す。また,東西方向+

20m

,南北方向-

230m

付近は実験 車両が往復した場所に相当し,この付近で黄緑色のプロッ トは

1

本の線であるが赤いプロットは

2

本の線に分かれて いるということは,

L1-SAIF

信号利用時には往復時の異な る車線の通過を認識できたことを示す。

3.4

オーストラリアでの

L1-SAIF

信号受信実験

公募型研究制度を利用して,オーストラリア・ニューサ ウスウェールズ大学

Rizos

教授とともに,オーストラリア のシドニーとメルボルンにて,平成

26

9

月~

11

月の

3

ヶ月間,連続して

L1-SAIF

信号を受信し,信号強度,受 信状況,信号遅延量の変化を観測した。図

4

は信号強度お よび準天頂衛星の衛星仰角の時間変化の観測例である。こ の図で時刻

9:00

頃のデータ欠落は低衛星仰角が原因であ

り,時刻

6:00

14:30

頃のデータ欠落は受信アンテナ近く

の樹木による信号遮蔽が原因である。この受信実験により

L1-SAIF

信号がオーストラリアでも利用可能であること

が確認できた。

4. おわりに

この研究で実施したのは,

(1)

平面フィット方式および

0

次フィット方式を適用したときのアジア地域でのアベイ ラビリティの評価,

(2)

電離圏遅延量推定方式の新規提案 とその方式を用いたときの日本近辺での測位精度評価,

(3)

新規提案方式について,シンガポールで車輌にて取得 した実観測データによる測位精度評価,である。

今後は,アジア地域での評価を継続する計画である。

謝辞 シンガポールでの評価にあたり,

JAXA

との共同研 究で三菱重工

(

)

が取得したデータを利用させていただ いたことに感謝いたします。

掲載文献

1)

伊藤他: “

QZSS L1-SAIF

信号補完機能確認実験” ,第

57

回宇宙科学技術連合講演会

2O09 (

25.10) 2)

坂井他: “準天頂衛星

L1-SAIF

補強信号の

2

周波数対

応の試み” ,第

57

回宇宙科学技術連合講演会

2O10 (

25.10)

3)

坂 井 他 :“

Ionospheric Correction at the Southwestern Islands for the QZSS L1-SAIF

,B2-4, ION ITM, January 2014

4)

伊藤他: “

QZSS

を用いた

GNSS

補強サービスのアジア での利用” ,第

58

回宇宙科学技術連合講演会

1C13 (

26.11)

5)

坂井他: “準天頂衛星

L1-SAIF

信号の低緯度地域対応 の試み” ,第

58

回宇宙科学技術連合講演会

1C08 (

26.11)

6) Li, Y

他:“

Study on Expansion of GNSS Wide Area Augmentation Service to the Asia Region

(2015.3)

図4 オーストラリア受信実験結果(シドニー,2014/9/1) 図3 シンガポールでの測位結果

南北方向移動距離(m)

東西方向移動距離(m)

時刻(時,UTC)

信号強度(dBHz) 衛星仰角(度)

・:GPS のみ

・:L1-SAIF 利用

GBAS

を用いた新しい運航に関連した気象の影響に関する調査【調査】

担当領域 航法システム領域 担 当 者 ○吉原 貴之

研究期間 平成

25

年度~平成

26

年度

1.はじめに

GPS

衛星信号と地上からの補強信号を利用して航空機 を空港に安全に誘導する

GBAS

(地上型補強システム)の 導入と普及にあたっては,従来の

ILS

(計器着陸装置)に はない新しい運航方式の実現等,活用策が求められている。

GBAS

における複数進入経路の放送機能を活用すること で,後方乱気流回避や気象の影響を軽減する等,空港容量 を増大する新たな運航方式の実現が期待される。具体的に は,着陸時に先行機が進入経路上で生成した後方乱気流の 影響を後続機が受けないような進入経路を同時に放送し,

航空機側で選択して着陸することで安全性を確保しつつ,

管制間隔の短縮が期待される。また,

GNSS

航法システム の利点を活かしたより柔軟な飛行経路の提供によって気 象の影響を軽減する新たな運航方式の実現が期待される。

2.研究の概要

本研究では,

GBAS

が提供可能な機能を活用した新たな 運航方式の開発に向けて①

GBAS

を活用した後方乱気流 の回避策の実現可能性と要件を明らかにし,②ターミナル エリアにおける気象の影響を調査し,それを軽減する

GBAS

を活用した新しい運航コンセプトの構築と要件抽 出を目的としている。前者に関しては,国際動向の調査,

ドップラーライダーのデータ収集及び解析と過去データ を含めた評価を行い,実現可能性と要件を明らかにする。

また,後者については,風向風速の変化等,航空交通流を 乱す気象擾乱の影響軽減に必要となる気象予測情報の特 定と

GBAS

を活用した新たな運航方式を構築する。

3.研究成果

GBAS

を活用した後方乱気流回避策について,国際動向 を調査した結果,第一段階としては後方乱気流が風に流さ れる効果を利用する方策(米国における横風条件下での近 接平行滑走路の管制間隔短縮,英国における向かい風条件 下での時間に基づく管制間隔の導入等)や,航空機の型式 ごとに先行機と後続機の組み合わせを細分化して新たな 管制間隔を設定する

RECAT2

等から取組む必要性が示唆 された。なお,前者について日本では横風存在時の出発機 の管制間隔短縮や,向かい風条件下で

GBAS

による複数

経路の放送により大型機と小型機で着陸地点を変える方 式(

Displaced Threshold

)等が考えられる。なお,これら の実現のためには安全性評価とともに,空港設置ドップラ ーライダーによる気象条件のリアルタイム監視,着陸機に 応じて適切な管制間隔をレーダー画面に表示する管制官 支援ツール等が必須となる。また,安全性評価にはドップ ラーライダーによる気象条件と後方乱気流の残存率の関 係等のデータベースの構築が重要である。

ターミナルエリアで気象の影響を軽減する新しい運航 コンセプトの構築に関しては,羽田空港近辺を通過した激 しい豪雨の事例について気象擾乱と航空交通流の照合に より,予測情報の提供に要求される時間,空港容量等の定 量的検討を行った。また,

GBAS

による航法システム誤差 低減効果を活かす新たな運航コンセプトの構築として,ド ップラーライダー等の監視装置により強風が存在せず飛 行技術誤差(

FTE

)が増大しない気象条件下で旋回半径の 小さな飛行経路を提供する気象条件を限定した飛行方式 の設定を検討した。

4.まとめ

今後は,新しい後方乱気流管制方式の導入に関して横風 存在時の出発機の管制間隔短縮や

RECAT2

等,実現可能性 の検討を段階的に進めることとしたい。また,本研究で得 られたターミナルエリアにおける気象予測情報の要件に ついて,その利用効果をターミナルエリアに隣接する領域 を含めて定量的に評価していきたい。最後に,気象条件を 限定した飛行方式の設定については提案事例を作成し,そ の実現可能性と便益を定量的に検証していきたい。

掲載文献

(1) T. Yoshihara et al., “Collaborative research activities on time-variable approach procedures for wake vortex encounter avoidance”, WakeNet-Eourope Workshop, Bonneuil-sur-Marne, France, May 15 2013

(2)

吉原,

首都圏混雑空港周辺での突発的かつ局所的豪雨

発生時の航空交通流の影響調査

”,

信学技報

, vol.114, no.397, pp. 119-121, 2015

1