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 本章では,前節までに社会認識教育の基本的なあり方と地域認識教育 の課題を明らかにした。ここで,それぞれについて次のように確認して おきたい。まず社会認識教育の基本的なあり方とは,すべての子どもが 基礎的知識を習得することができるようにした上で,個々に「自ら学ぶ 意欲や思考力,判断力,表現力など」を生かし,基礎的知識をもとに基 本的知識としての社会認識を組み立てることができるようにすることで ある。また,地域認識教育の課題は,地域への認識を社会科学の法則に 関する科学的な認識として育てることである。そこで本節では,これら のことを受けて,前節で取り上げたいくつかの民間教育研究団体の社会 認識教育論,地域認識教育論とも関連させつつ,地域認識を包含する社 会認識を育成するために本研究で重視したい手法を含めて,本研究にお

ける地域認識教育の立場を明らかにする。

1。 社会認識の育成のために

 社会認識の育成とは,社会諸科学の学問的成果を教育的に加工し1),

それを子どもが認識できるようにすることであると考える。それは,そ のようにすること自体が社会科の目的であると考えるからである。その 上で,どのようにすれば子どもがそれを組み立てやすいかということを 常に意識する必要があると考える。なぜなら,子どもが認識していく内 容がいくら社会諸科学の学問的成果に立脚するものであろうとも,それ

1)教育的に加工するということは,社会諸科学の学問的成果を子どもの認識レベルに調整することである。

例えば,教育内容の設定,教材の開発・選定,授業展開や教育評価の構想などがこれにあたる。

が教師の一方的な伝授形式によるものであるならば,それは子どもにと って認識することが困難なものになると考えるからである。したがって,

子どもが社会認識を組み立 てやすいようにするためには,子どもの立場

(「どうして〜になっているのかな」 「これは〜だからだろう」 「なる ほど,そういうわけか」といった疑問,予想,納得など)を考慮すると ともに,そのための手法を単元構成や学習過程に組み入れることが重要 であると考える。

 そこで,ここでは子どもが認識する内容は社会諸科学の成果に立脚す るものであることを前提とする七教協と教科研1)の中から,子どもの立 場を重視していると考えられる社会認識教育論を3つ取り上げ2),それ らについて検討する。そして,それをもとに,社会認識を育成するため に,本研究で重視したいと考えることを述べることにする。

(1)山本典人の「独立単元」

①「独立単元」の主張とその方法

 歴史学習における「独立単元」とは,それを提起した山本によれば,

「教科書叙述どおりに順々に教えるのでなく,子どもが学習意欲(疑問

・驚き・興味・関心など)を喚起されるよう教材を構築しなおす」こと によって,一つ一つの単元を独立させてつくったものである3)。この提

1) すでに述べたように,歴教協は,歴史教育は歴史学の成果に立脚して系統的に行うべきであることを主 張し,また,教科研は, 「社会科は社会についての科学的認識を子どもに育てることを第一の基本的謀題  とする」ことをテーゼとしている。その点で,両者は子どもが認識する内容を社会諸科学の成果に立脚す

るものであることを前提にしていると言ってよいと考える。なお,ここで取り上げる教科研の社会認識教 育とは,後述するように,教科研から独立した人々によるものも含む。

2) ここで取り上げる3つの荏会認識教育論とは,山本典人の「独立単元」,久津見宣子の「ものをつくる 授業」と藤岡信勝の「直接経験」論,安井俊夫の「共感」論と藤岡信勝の「分析」論である。この3つを 取り上げるのは,社会認識を育成する手法として意義深いものであると考えるからである。

3) 山本典入『小学生の歴史教室(下)一明治維新から現代まで一』 あゆみ出版 1985年 P.220

起の背景には,次のような山本の反省(自身の実践の反省)とそれに立 脚した問題意識がある。すなわち, 「わたしの科学的系統的歴史教育1)

は,実は教科書通史と大差なかったかもしれない。その結果は,教科書 の膨大な量をこなしきれず,表面なでまわし,暗記の強制,近・現代史 くい残し,あげくの果てには歴史ぎらいの子どもをつくってきた」2)と いう反省と, 「歴史学の成果に学びながらも,歴史教育の立場から,子 どもがわかるかどうかという観点から検討しなおして教材を再構成する,

つまり自主編成する必要がある」 (傍点は原文)3)という問題意識であ る。そして, 「子どもの顔をみるゆとりもなく突走る注入的通史学習で は,たとえ科学的歴史といえども子どもの歴史認識を正しく育てること はできない」4)と断言するところの問題意識である。この山本の見解は,

明らかに通史学習を否定したものであり, 「独立単元」の歴史教育によ ってこそ子どもの歴史認識を正しく育てることができることを主張した ものといってよかろう。このことは,山本が「ひとつの単元に数時間を とる気構えでやらないと基礎的知識,つまり人物や事件,年代を覚えさ せるだけで,それらを通して自分の思考,表象をつくり,歴史を構造化 する基本的知識までにはいたらないと思います。独立単元はたんなる基 礎的知識にとどまらず,基本的知識にまでたかめうる単元構成であると

いえると思うのです」 (傍点は原文)5)と述べていることからも理解で きるものであり,ここに「独立単元」が主張する重要な部分があると考

D 山本が「科学的系統的歴史教育jを実践したのは,自身が回教協に属し,その基本的理念(歴史教育は 歴史科学の成果にもとづき,歴史を科学的・系統的・発展的に教えなければならない)に依拠していたか

らである。

2) 山本典人r小学生の歴史教室(下)一明治維新から現代まで一』 あゆみ出版 1985年 p.225 3) 山本典人「通史学習から独立単元へ」 『教育』Nα459 国土社 1985年 p.29

4) 山本典人「通史学習の克服をめざして一いまr独立単元』模索八一」 『社会科教育』Nα284 明治 図書 1986年 p.62

5) 前掲書3) p.31

える。すなわち, 「独立単元」は,基本的知識としての社会認識(歴史 認識)を育てることができるものであるということである。

 では,山本は「独立単元」をどんな方法を用いて,どのように設定し ているのであろうか。山本の「試み」1)に即してみてみたい。まず,そ の設定の方法は次のようなものである(以下,傍点は原文)。

・「石器・土器の時代」から「戦後」 (昭和時代)までを世の中・時代順に十

区分し縦軸に草・ド,.これを(イ)とする。

・歴史認識の基礎概念として「生産・階級・畢家:丁揆・学問・文化・民主主 義・植民地・戦争・平和:基地・世界」,社会集団として「農民・貴族・武 士・大名・労働者」,社会機能として「幕府・学校・憲法」の二十を歴史要 素として横軸に並べ,これを(ロ)とする。

・子どもたちはどのような歴史事象に興味や関心をもつかという子どもからの 視点,および遺跡や遺物など歴史を具体的かつ豊かにする地域からの視点を

もち,これを(ハ)とする。

 そして, 「この(イ)・(ロ)・(ハ)をドッキングさせて独立単元を模索 した」として, 【表1−3−1】 (次ページ)のようなマトリックスを描 いて主な内容を書き入れるとともに,24の単元を設定している。

②「独立単元」の問題点と「独立単元的な歴史学習」の提案

 すでに述べたように,山本は,子どもの歴史認識の育成を重視するが ゆえに「教科書叙述どおりに順々に教える」学習を否定している。しか し,このことは別な見方をすれば,歴史学習を始める単元や時代は任意 的なものであることになり,筆者はそこに2つの問題点があると考える。

1つは,歴史学習の導入単元の役割と教材に関わる問題であり,もう1 つは,子どもの認識に関わる問題である。

 まず,1つめの問題についてみてみよう。筆者は,導入単元の役割は,

1)山杢典人『小学生の歴史教室(下)一明治維新から現代まで一』 あゆみ出版 1985年 pp.225−229

【表1−3−1】 山本の「独立単元」の模索的設定(1985,山本)

歴史要素 概 念 社 会 社会機能

時代区分

石器・土器

時代 り作 り作

墓と寺の時

奈良時代

使

平安時代 く貴

ら族 しの

鎌倉時代

室町時代 はジ

どパ こン かグ 戦国時代

江戸時代 の農 の農

工民 工民

夫た 夫た

戦前の時代 日太 ま小

(敗戦前) 露平 る学

戦洋

鉄所 はじ

戦後の時代 る平 パパ

(敗戦後) 人和 イパ 小し

々を バマ 学い

イマ

〈設定された単元〉

1 大むかしの人々のくらし  2 米つくり  3 世界一大きい墓  4 奈良の都と 大仏つくり  5 貴族のくらし  6 源氏と平氏(鎌倉幕府)  7 土地に命をかけ る武士(元憲)  8 村・民話・盆おどり  9 ジパングはどこか   10 われこそ は全国統一を  11 島原の乱  12江戸の農民  13 新しい学問   14 黒船 15 文明開化・学問のススメ  16 自由民権  正7 日露戦争  18 朝鮮併合

19 八幡製鉄所(労働者)  20 15年戦争  21 平和な国づくり  22 安保条約と基 地  23 (パパママバイバイ)  24 いのちとくらしを守って

初めて歴史を学ぶ子どもが歴史に興味や関心をもつとともに,その後の 歴史学習に転移するような歴史を見る目1)の育成を図ることにあると考 える。また,そのために地域の歴史素材を教材化するべきであると考え

D 歴史を見る目とは,歴史の見方である。詳しくは,本節の第2項で述べる。