第3章 「関ヶ原の戦い」の授業分析とその改善
第1節 授業の実施状況と授業記録
本節では,まず授業実施時の学校や子どもの全般的な状況を述べると ともに,単元の各時間の授業の実施日を示す。次に,授業分析を行う際 の基礎資料となる授業の諸情報をどのように収集したかということと,
授業記録をどのように記述したかということを述べ,実際に作成した授 業記録を資料編に示す。
1. 授業の実施状況
授業は,筆者の在勤校である岐阜県不破郡関ヶ原町立関ヶ原南小学校 の第6学年1組をお借りして,1997(平成9)年4月9日から5月8日ま で行った。この時期は,学校としては年度当初の多忙な時期であった。
特に6年生においては,最上級生してのあり方を指導していく重要な時
期であり,また,5月の中旬に控えた修学旅行に向けての指導や取り組 みをしていく時期でもあった。したがって,筆者が行おうとする授業実 践は,特に学年の先生方に迷惑をかけることになる部分があった。しか
し,了解と協力を得てその機会をいただくことができた。
第1時半行う前日の4月8日には,対象学級の子どもと対面する場を 約20分学級担任に設けていただき,自己紹介をした後に実践単元専用の 学習ノートを配り,単元の学習内容や学習の進め方を簡単に説明した。
また,子どもとの距離を少しでも縮めることができるようにすることを 意図して,時折冗談をまじえて話したり,以前から好感をもっているこ とやいっしょに勉強できることを嬉しく思っていることなどを話した。
授業を始めてからは,休み時間に子どもといっしょに遊ぶなどして交 流を深め,その効果が学習の方にも波及するように努めた。
なお,単元の授業の実施日やその日の欠席者数等は, 【表3−1−1】
に示したとおりである。
【表3−1−1】 授業の実施状況 実施期間 1997(平成9)年4月9日(水)〜5月8日(木)
授業時数 15時間(総括テスト1時間とその返却及び回復指導1時間を含む)
実施学級 岐阜県不破郡関ヶ原町底数ヶ原南小学校第6学年1組(26名 男子12名・女子14名)
単元名 「わたしたちの町の歴史探検一関ヶ原の戦い一」
時 学習活動・内容 月/日(曜)校時 欠席 時 学習活動・内容 月/日(曜)校時 欠席 1 歴史を伝えるもの探し 4/9(水) 4 0 10 発表①(西軍の計画) 4/24(木) 3 0 2〜5 史跡の見学 4/14(月)1〜4 0 11 発表②(戦いの進展) 4/28(月) 3 1 6 課題作り・課題選択 4/16(水) 4 0 12 発表⑧(当時の住民) 4/30(水) 3 3 4/17(木) 1 0 13 パンフレット作り 5/1(木) 1 4
・調べ学習 E資料作り E発表練習
4/21(月) 3 0 14 総括テスト 5/7(水) 4 0 4/23(水) 4 0 15 テスト返却・回復指導 5/8(木) 1 0
2.授業記録
(1)授業の情報の収集
授業記録の作成に際し,後から授業を再現し,記録を残していくこと ができるようにするために,授業の様々な情報(授業中の教師及び子ど もの発言・行動・表情など,授業後の子どもの反応)を,次の2つの方 法を用いて収集した。
1つは,映像記録用機材としてビデオカメラを,音声記録用機材とし て携帯用カセットテープレコーダーを使用したことである。ビデオカメ
ラは,授業の場所や形態によって次のように使い分けた。教室で一斉授 業を行う場合は教室に2台を固定して使用し,1台は教室の後方から教 師の様子や板書事項を,もう1台は教室の窓側の斜め前方から子どもの 様子を発言者を中心に記録したD。また,教室外で授業を行う場合(第
2次の見学,第4次の調べ学習や資料作り等)は1台を移動して使用し,
主に教師の指導言やそれに対する子どもの様子を記録した。一方の携帯 用カセットテープレコーダーは,主に教師の指導言を録音するために常 時1台使用した2)。このようにして,. 業の進行に即して教師の教授活 動(発問,指示,説明,板書,その他の行動)やそのときの表情,それ
に対する子どもの反応(挙手,発表,その他の行動,表情など)を映像 記録や音声記録として残していくことができるようにした。
もう1回忌,授業で使用したノート(教師作成の本単元専用のもの)
D 窓側に固定したのは,逆光を避けるためである。佐藤は,そのように設置することが好ましいことを指 摘するとともに,佐藤自身は,「この位置で,発言者を中心にまわりの子どもの様子を含めた子どもの動 きの映像を全体の二分の一程度,教師の動きをとらえた映像を全体の三分の一程度,その残りを教室全体 の動きと特徴的な子どもの動きをとらえた映像で構成することを基本として撮影している」と述べている。
(稲垣忠彦・佐藤学『授業研究入門』 岩波書店 1996年 p.126) 本実践では,ビデオカメラを2 台使用しているため,佐藤が言うような被写体の振り分けはせず,2台のビデオカメラでそれぞれ何を撮 影するか決めた。
2) 結果的に多くの子どもの発言も記録することができたので,授業記録を作成する際に活用した。
やプリント類(見学メモ,調べ学習用ワークシート,パンフレット)を 三時の終了後にその都度集め,個々の子どもの学習の様子や足跡,自己 評価を中心に記録して個人情報として蓄積していったことである。そう することによって,個に対応することができるようにするとともに,授 業記録の作成や授業分析に活用することができるようにした。
(2)授業記録の記述の仕方
このようにして収集した授業の情報をもとに授業記録を作成するにあ たって,その記述の仕方を次のようにした。それは,基本的には教師の 指導言(発問・指示・説明)とそれに対する子どもの反応(発言)を記 録する,いわゆる「T−C型授業記録」の方法を用いたことである。し かし, 「T−C型授業記録」については,様々な問題点が指摘されてい る。例えば,藤岡は,一般に教師と子どもの発語行為のみが記述され,
発語内行為や発語媒介行為までは記述されないといった問題点を指摘す るとともに,客観的事実としての発語行為だけでなく,発語内行為や発 語媒介行為も記述することによって,その時・その場の教師や子ども6 状況を,記録者の解釈を交えて記録することを強調している1)。
1) 藤岡信勝「授業記録をどう書くか」r授業づくりネットワーク』Nα9・Nα10学事出版 1989年 ここで藤岡は, 「教師はr暑いね①』と言って,窓をあけるよう指示し②,学生に窓をあけさせた③。」と記 録された場合,①を「発語行為」,②を「発語内行為」,③を「発語媒介行為」としている。(Nα9 pp.100−102)
また,T−C型授業記録の授業記録観には,「楽観主義」(「テープレコーダーから聞き取れる言葉(日本語)
を忠実に文字におきかえれば,授業は記録できる」という観念)と「禁欲主義」(言葉を発すること以外の教 師の行為は記録する必要はない」という観念)があり,そのような授業記録観によって作成されたT−C型 授業記録は, 「時代おくれのエセ科学主義の亡霊にすぎない」と指摘している。(Nα10pp.98−105)
これとは別に佐藤は,「T−C型授業記録」が普及していることについて,「授業の過程を,客観的に対象 化し統制可能な要素に分解し科学的に分析して技術的に統制する誘惑が込められている」と指摘し,「反省 的実践」を志向する「授業の探究=実践的認識論」を求める研究においては,rT−C型授業記録」は,限界と 弊害:が大きいことを述べている。(稲垣忠彦・佐藤学r授業研究入門』 岩波書店 1996年 pp.132−133)
なお,「9反省的実践』を志向する『授業の探究=実践的認識論』を求める研究」とは,佐藤によれば, 「教 室における個別具体的な子どもの学びを探究したり,一人ひと.りの教師の実践の意味を探究したり,一つ ひとつの授業の特徴を解明しようとしたり,教室の出来事の意味を探ろうとしたり,教師に求められる実 践的な認識のあり方を獲得しようとする」研究である。 (同上書 pp.l18−120)
そこで,このような問題点を考慮に入れて,以下に示す7点に注意し て授業記録を作成することにした。
○「T」・「C」に通し番号をつけるとともに, 「C」にはわかる限 り個人名(姓と名から1文字ずつ)をつける。
○「T」の中で,学習指導案に示した発問・指示・説明と対応するも のを明示する。
○個人やグループへの指導,助言を情報のある限り記す。
○発言以外の行動や発言の中に出てくる指示語が指すものを記す。
○板書事項を授業の流れに応じてその都度記す。
○学習指導案に示した学習活動・内容ごとに項目を設けて記す。 (た だし,学習指導案に示したことを行わなかった場合を除く)
○上記の項目ごとに指導の意図や感想など,コメントを記す。
(3)授業記録の実際
以上のことを踏まえて,学習指導案と同様に第13時までの授業記録を 作成した1)。なお,授業記録に用いた凡例は次のとおりである。
T:教師の発言や行動(この中で二Tlは,学習指導案に示した発問 ・指示・説明と対応する)
C:子どもの発言や行動(〈 〉は子どもの個人名)
( ):教師・子どもの行動及び指示語の説明
『(板) 』:板書事項 点付き数:字:主な学習活動・内容
[二]・本時の目標
:コメント1) 作成した授業記録は,巻末に資料として収載している。