1) ひろげられた現在
ひろげられた現在というのは,発話時をふくんで,過去と未来の両方向に,
ある程度のながさでひろがっている期間のことである。
このはばがかぎりなくひろがると,現在という限定をつけることと矛盾する ので,そうしたものは,テンスから解放されたものとしてとらえて,ng 6章で のべる。けれども,実際には,それをわけきれないことがおおい。たとえば,
法律の文章は,時間の限定をうたず,一般的な時間を設定している。
(159)火炎びんを製造し,又は所持した者は,三年以下の徴役回は十万円以 下の罰金に処する。(火炎びんの使用等の処罰に関する法律第3条)
これは,時間が限定されず,テンスから解放されているが,つぎのようなも のならば,ひろげられた現在に限定されることになる。
(1鋤 現行の法律では,火炎びんをつくると,三年以下の徴役か十万円以下 の罰金に処せられる。
これがなぜ脱テンス化しないかというと,それはつぎのような,過去と対立 するからである。
(161) この法律ができるまでは,刑法にふれるばあいだけ刑に処せられた。
このちがいは,うえの例のようなばあいははっきりしているが,どちらかわ からないばあい中間的なものもおおい。つぎの例などがそうである。
(162)火炎びんをつくると下せられるよ。
この報告では,積極的に限定されているばあい,その述語のしめす属性のも ちぬしが時間的に限定されているばあいに,ここにいれた。
完成相半過僧形でひろげられた現在のことをあらわすものには,つぎの三つ のタイプがある。
i) ひろげられた現在においてくりかえされる動作
ii) ひろげられた現在において,一定の条件のもとに一一般的に成立する動作 iii) ひろげられた現在のあいだ持続する性質
このうち,i)とii)は,完成棺の基本的なアスペクト的意味をもっている が,iii)は,アスペクトから解放されている。 i>とii)は,せばめられた現
170 第IV部 完成彬非過去形のテンス
在において,その動作が成立するかどうかが問題にされない点で,ふつうの現
:在とことなる。それに対して,iii)は,せばめられた現在においてもその質的 な属性は成立している。その点では,ふつうの現在とおなじである。けれども,
完成網の現准は,ふつうは,前後へのひろがりをもっていない。その点でこれ は特殊である。けれども継続相の現在は,前後へのひろがりがあるのがふつう なので,これを継続根のテンス相当であるとして位置づければ,それほど特殊 ではない。なお,継続相のテンスの性格については,第VII部でのべる。
2) 葬連続のくりかえし
ひろげられた現在において,おなじ動作や変化が断続的に,くりかえし成立 することをあらわす。
(163> このごろは毎日八時間ぐらいけいこするわ。(真知87)
(IM) いつもこういつてあるのに,このひとは磨臼のようにあそびにくる。
(放浪194)
(1働 かれは,いつも,そのとき,じつにためらわずにいう。(旧石317)
(1鋤 おれはすきで,よくのぞきにくる。(帰郷137)
(167)あなたは,罰せられるたびによわくなります。(戒厳45)
これらがくりかえしをあらわすのはテンスの問題であって,アスペクトとし ては・完成梱の意味が実現していることは,第II部eg 4章第4節3)でのべた。
3> 一定の粂三のもとになIJたつ動作や変化
ひろげられた現在において,一定の条件があれば,いつも動作や変化がなり たつことをあらわすものである。
(1鋤 おれはあの男のはなしをきいていると,なんだかなみだがこぼれて くるような心もちになる。(末枯40>
(169) もともとわしはまずしい漁師の家にうまれ,かなしければなき,おか しければわらい,はらのたつことがあればひどくおこる……ごくふつ うの人間だ。(間革118)
(17e) さいきんは,ひとがあつまると,そのはなしをする。
第5章 ひろげられた現在 171 4>性質の拷続
述語が一定の質的な属性をさししめし,その属性のもちぬしであるものごと がひろげられた現在に存在するものであるばあいである。アスペクトからは解 放されている。
つぎのようなものは,動詞が語い的意味のレベルで質的な属性をあらわす。
(171) そうさ一その子がまたよくできやがるんだ,兄貴の子よりずっと できる。(野火38)
(172) あんたのえがおをみたかった・……わらったかおのほうが,あんたに はにあう。(約束9)
(173) 娩はちがいます! まことこの流れが世の中なら,流れにさかろう てでも生きてみとうございます。(娩と95>
(174)することがあまりに良心がなさすぎる。(暗夜71)
つぎのようなものは,動詞そのものは特殊でないが,このタイプの文にくみ こまれることによって,これになる。
(175) このごろ,またがればタバコをすう。
(176) この子はよくねむる。
以上,この節では,その属性のもちぬしが現在をまたぐ有限の期間のなかに 存在するので,これらの例をここにいれたのだが,もし,その有限の期間とい うことが表現のなかにはいっていないのだとすると,テンスから解放されてい ることになる。このことについては,今後の課題である。
172 第W部 宛成相非過去形のテンス