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本 書 の 書 型 は 20×12.2cm で 、 石 版 印 刷 で あ る 。 東 京 都 立 日 比 谷 図 書 館 蔵 実 藤 文 庫 に よ れ ば 、二 巻 一 冊 本 と 二 巻 二 冊 の 二 種 類 の 本 が あ り 、 文 字 の 組 み 方 や 、 丁 数 が 異 な る が 、 内 容 は 全 く 同 じ で あ る 。 二 冊 本 の 中 に 、誤 植 は 二 カ 所 が あ る 。一 つ は 目 録 で 、本 編 内 容 の 順 番 に よ れ ば 、

「 服 飾 門 」 は 「 宮 室 門 」 の 後 ろ に 置 く べ き で あ る 。 も う 一 つ は 、 下 巻 第 33 ペ ー ジ の 左 側 の 内 容 と 第 32 ペ ー ジ の 右 側 と が 全 く 同 じ で あ る 。 一 冊 本 に は こ れ ら の 誤 植 は な い 。

扉 に 「 光 緒 乙 未 年 (1895 年 )」 と 書 い て あ り 、 序 言 は 同 じ 年 ( 光 緒 二 十 一 年 )に 書 か れ て い る た め 、本 書 の 印 行 年 は 1895 年 で あ る 。東 文 館 が 1897 年 に 日 本 語 学 科 を 設 立 し て 以 来 、1900 年 ま で の 三 年 間 に 、 中 国 人 に よ っ て 編 纂 さ れ た 日 本 語 教 科 書 は こ の 『 東 語 入 門 』 の み で あ る 。

著 者 は 陳 天 麒 、字 は 念 祖 で あ り 、海 塩 即 ち 浙 江 省 銭 塘 道 の 出 身 で あ る39。 彼 の 生 涯 に つ い て は 未 詳 で あ る が 、 王 韜 が 序 言 を 担 当 す る こ と か ら 、 彼 は 知 識 人 と し て 名 高 い と 推 測 で き る 。 陳 天 麒 の 父 は 陳 明 遠 で あ る 。『 遊 歴 日 本 図 経 』第 十 八 、中 国 使 臣 表 に よ れ ば 、陳 明 遠 は 第 三 代 駐 日 公 使 徐 承 祖 と 第 四 代 駐 日 公 使 黎 庶 昌 の 参 賛 官 と し て 来 日 し 、 公 使 の 任 期 は 三 年 で 、 合 わ せ て 日 本 に 六 年 間 滞 在 し た こ と に な る 。

序 言 は 王 韜 と 著 者 自 序 の 二 つ が あ る 。両 方 と も 光 緒 二 十 一 年 乙 未 閏 月 と 書 か れ て い る 。 王 韜 は 陳 明 遠 の 友 人 で 、 陳 明 遠 が 赴 任 し た 時 期 、 陳 天 麒 は 父 に 連 れ ら れ 、 日 本 に い た こ と が 分 か る 。 陳 天 麒 が 日 本 語 を 身 に つ け た こ と も 明 ら か に さ れ て い る 。

念 祖 茂 才、我 友 喆 甫 觀 察 長 嗣 也 … … 前 者 觀 察 參 贊 日 東、念 祖 航 海 隨 任 、 趨 庭 授 学 之 暇 、 兼 通 東 西 語 言 文 字40

( 念 祖 は 秀 才 で あ り 、我 が 友 観 察 使 陳 明 遠 の 長 男 で あ る … …

3 9 陳 天 麒 編 訳 ( 1895)『 東 語 入 門 』 自 序 「 海 塩 陳 天 麒 自 識 」 よ り 、 陳 氏 石 印 版 。

4 0 陳 天 麒 編 訳 ( 1895)『 東 語 入 門 』 王 序 、 陳 氏 石 印 版 。

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前 者 の 観 察 使 は 参 賛 官 と し て 念 祖 を 連 れ て 日 本 に 赴 任 し た 。父 の 指 導 で 学 習 す る 暇 に 、 日 本 語 と 西 洋 言 語 を 身 に つ け た )

王 韜 が 序 言 で 日 本 語 に 対 し て 「 方 言 」 と 「 区 区 之 東 語 」41の 呼 び 方 を し て い る こ と か ら 見 る と 、 本 人 は 日 本 語 を 重 視 し て い な か っ た こ と が 推 測 で き る 。 更 に 当 時 の 日 本 語 学 習 状 況 は 西 洋 言 語 に 比 べ 、 ま だ 距 離 が あ り 、 教 科 書 の 数 も 遥 か に 差 が あ る 。

效 英 法 方 言 著 書 者 獨 夥、而 於 東 語 缺 如、使 学 者 无 从 入 門、未 免 遺 憾42

( 英 語・フ ラ ン ス 語 の 著 書 を 模 倣 す る 著 者 が 多 い が 、日 本 語 は ま だ な い 。学 習 者 は 入 門 す る 手 が か り が な く 、残 念 な こ と で あ る )

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当 時 、貿 易 交 流 が ま す ま す 盛 ん に な っ て き た た め 、言 語 力 の 不 足 が 指 摘 さ れ る よ う に な っ た 。 し か し 日 本 語 を 学 習 す る 手 が か り が な か っ た こ と で 、 本 書 が 編 纂 さ れ た と 考 え ら れ る 。

近 以 日 人 通 商 蘇 杭、兩 郡 效 日 東 方 言 者 頗 衆、念 祖 乃 出 其 所 知 、 成 東 語 入 門 一 書 、 為 問 道 之 津 梁 、 舌 人 之 木 鐸 、 俾 貿 易 場 中 通 問 答 者 作 先 路 之 導 焉44

( 最 近 蘇 州 と 杭 州 に お い て 日 本 人 が 通 商 し て お り 、両 都 市 で 日 本 語 を 学 習 す る 人 が 増 え て い る 。念 祖 は 自 分 の 知 識 を 活 用 し 、『 東 語 入 門 』と 言 う 本 を 作 成 し た 。こ の 本 は 学 習 す る 方 法 を 教 え 、通 事 を 指 導 す る 。貿 易 す る 際 、通 訳 者 に と っ て 道 を 開 く も の で あ る )

し か し 、1895 年 は ち ょ う ど 日 清 戦 争 に 中 国 が 敗 戦 し た 年 で あ り 、 当 時 、 李 鴻 章 が 日 本 政 府 と 『 日 清 講 和 条 約 』45を 締 結 す る た め 来 日 し

4 1 同 上 。

4 2 同 上 。

4 3 筆 者 訳 で あ る 。 以 下 同 様 。

4 4 陳 天 麒 編 訳 ( 1895)『 東 語 入 門 』 王 序 、 陳 氏 石 印 版 。

4 5 一 般 的 に は 「 馬 関 条 約 」 と 呼 ば れ る 。

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た 。4 月 17 日 条 約 は 締 結 さ れ た 。こ の よ う な 環 境 で 、本 書 の 序 言 の 通 り 、 同 年 7 月46『 東 語 入 門 』 が 出 版 さ れ た 。 社 会 的 な 影 響 は 未 詳 で あ る が 、 当 時 唯 一 の 日 本 語 教 科 書 と し て47、 王 韜 は 外 国 の 事 情 を 習 い 、 中 国 が 強 く な る こ と を 期 待 し た の は 確 か で あ ろ う 。 し か し 、 こ の 認 識 は 王 韜 自 身 の も の か 、 陳 天 麒 か ら 教 わ っ た も の か が 考 証 で き な い 。 し か し 、 本 書 を 編 纂 す る 出 発 点 は や は り 貿 易 で あ り 、 外 国 事 情 を 習 う こ と も 商 業 上 の 配 慮 に 基 づ い て お り 、 外 国 の 体 制 や 知 識 を 習 う こ と と は 限 ら な か っ た 。

明 洋 務 諳 外 情 、 本 末 兼 賅 、 中 西 畢 貫 … … 於 国 家 得 著 富 強 之 実 效 、 此 其 亟 也48

( 洋 務 と 外 国 の 事 情 を 理 解 し 、 本 末 備 え 、 中 国 と 西 洋 の こ と を 了 解 す る … … こ れ は 国 の 富 強 に 役 に 立 つ 事 で あ り 、差 し 迫 っ た 必 要 で あ る )

も ち ろ ん 、李 鴻 章 を 代 表 と す る 洋 務 運 動 の 失 敗 に よ り 、洋 務 運 動 の

「 中 体 西 用 」 論 の 限 界 性 が 見 え る よ う に な り 、 人 々 は 日 本 に 目 を 向 け る よ う に な る 。

陳 天 麒 の 自 序 で 、当 時 の 日 本 語 学 習 状 況 に も 触 れ 、貿 易 交 流 と 言 う 目 的 で 本 書 を 編 纂 し た こ と が 分 か る 。

我 華 人 之 攻 讀 英 法 諸 文 者 日 甚 一 日、惟 研 究 東 学 者 寥 寥、蓋 亦 苦 於 未 得 其 門 耳 … … 兩 国 近 又 修 睦、增 開 商 市、東 人 之 來 我 華 者 愈 多 、 貿 易 日 盛 、 易 啓 猜 嫌49

( 我 ら 中 国 人 は 英 語・フ ラ ン ス 語 を 学 習 す る 人 は 益 々 増 加 し て い る が 、日 本 語 を 研 究 す る 者 は 少 な い 。そ れ は 方 法 が わ か ら な い か ら で あ る … … 近 年 両 国 は 友 好 状 態 に あ り 、商 売 市 場 は 開 か れ 中

4 6 自 序 に 「 光 緒 二 十 一 年 歳 次 乙 未 閏 五 月 」 と 記 さ れ て い る 。 西 暦 の 7 月 で あ る 。

4 7 実 藤 惠 秀 ( 1942)「 中 国 人 の 日 本 與 研 究 」 国 語 文 化 講 座 6『 国 語 進 出 篇 』 朝 日 新 聞 社 、 第 274 頁 。

4 8 同 上 。

4 9 陳 天 麒 編 訳 ( 1895)『 東 語 入 門 』 自 序 、 陳 氏 石 印 版 。

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国 に 来 る 日 本 人 の 人 数 も 増 え て い る 。貿 易 は 日 々 盛 ん に な り 、{ 言 葉 が 通 じ な い と } 誤 解 を 招 き や す い )

本 書 は 日 清 戦 争 の 失 敗 以 来 、最 初 の 中 国 人 に よ っ て 編 纂 さ れ た 日 本 語 教 科 書 で あ る 。 前 述 の よ う な 敗 戦 の 背 景 で 、 両 国 の 「 友 好 」 に 言 及 し て い る こ と に 関 し て は 、 序 言 か ら は は っ き り 記 さ れ て は い な い が 、 何 か 言 え な い 原 因 が あ っ た の で は な い か と 、 推 測 で き る 。

そ し て 、序 言 で 著 者 が 日 本 に 六 年 間 滞 在 し 、一 定 の 日 本 語 知 識 を 持 つ こ と が 分 か る 。

在 東 京 六 年 、 該 国 語 言 文 字 畧 能 會 通 一 二50

( 東 京 に 六 年 間 滞 在 し 、 当 国 の 言 語 文 字 に は 大 体 通 じ る )

『 東 語 簡 要 』 が 出 版 さ れ て か ら 11 年 経 つ に も か か わ ら ず 、 当 時 、 日 本 語 に 対 す る 認 識 は 「 中 日 同 文 」 の 認 識 が ま だ 主 流 で あ っ た 。 上 述 の 王 韜 の 評 価 も 偏 見 と は 言 え な い51。長 い 時 間 日 本 語 と 接 触 し た た め 、 著 者 は 日 本 語 に 対 す る 自 分 の 認 識 が 形 成 し 、 言 語 学 の 角 度 か ら 日 本 語 と 中 国 語 の 異 同 を 分 析 し た 。 こ れ は 以 前 の 教 科 書 よ り 進 歩 し た と こ ろ で あ る 。

陳 天 麒 は 序 言 で 仮 名 の 存 在 を 認 め 、四 十 八 の 字 母 が あ る と 表 明 し た 。 更 に 日 本 語 は 表 音 文 字 で あ り 、西 洋 言 語 の ア ル フ ァ ベ ッ ト と 似 て い る 。 一 方 、 中 国 語 は 表 意 文 字 で あ り 、 各 文 字 が 意 味 を 持 つ 。 日 本 語 と 中 国 語 は 全 く 違 う 文 字 で あ る と 判 断 し た 。 当 時 の 知 識 人 は 、 中 国 語 の 一 文 字 は 一 つ の 語 素 で あ る こ と を 意 識 し て い た 。 と こ ろ で 、 当 時 黃 遵 憲 の

『 日 本 国 志 』 が 既 に 出 版 さ れ 、 中 に は 日 本 語 文 字 に 関 す る 記 録 も あ っ た 。 本 書 を 編 纂 す る 際 、 陳 天 麒 が 『 日 本 国 志 』 を 参 考 し て い な い こ と が 推 測 で き る 。 例 え ば 黃 遵 憲 は 日 本 の 字 母 に 関 し て 「 土 音 只 有 四 十 七 音 」52と 指 摘 し て お り 、 本 書 の 四 十 八 字 母 と 一 致 し な い 。

5 0 同 上 。

5 1 西 洋 言 語 に 精 通 す る 王 韜 は 序 言 で 英 語 と フ ラ ン ス 語 に 対 し て も 「 方 言 」 と 呼 ん で い る 。

5 2 黃 遵 憲( 1887)『 日 本 国 志 』卷 三 十 三 学 術 志 、第 1417 頁 、『 黃 遵 憲 全 集 下 』

( 2005) に 収 録 さ れ 、 中 華 書 局 。

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日 本 字 與 語 同、四 十 八 字 母、一 字 一 音、聚 音 成 言、就 言 見 義 、 或 兩 三 字 成 一 言 、 或 五 六 字 成 一 義 、 間 有 七 八 字 至 十 數 字 者 、 頗 似 西 文 拼 字 之 法 、 以 視 我 国 之 毎 字 各 具 其 義 者 、 判 然 不 同 矣53

( 日 本 語 は 文 字 と 語 彙 が 同 じ で 、 四 十 八 字 母 あ り 、 一 つ の 字 母 は 一 つ の 発 音 を 持 ち 、各 発 音 を 集 め 語 彙 に な り 、語 彙 か ら 意 味 が わ か る 。二 三 文 字 で 一 つ の 語 彙 に な り 、或 い は 五 六 文 字 で 一 つ の 意 味 を 持 ち 、稀 に 七 八 文 字 至 る 十 数 文 字 の 場 合 も あ り 、西 洋 言 語 の ア ル フ ァ ベ ッ ト の 組 み 合 わ せ に 似 て い る 。 我 が 国 の 文 字 は 、 各 文 字 が 意 味 を 持 ち 、 全 く 違 う も の で あ る )

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