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1903 年 に 、泰 東 同 文 書 局 は 既 に『 東 文 易 解 』と『 東 語 初 階 』と い う 二 冊 の 日 本 語 教 科 書 を 出 版 し た101。当 時 、中 国 人 が 執 筆 し た 教 科 書 は 、 呉 啓 孫 の 『 和 文 釈 例 』(1902)、 王 鴻 年 の 『 日 本 語 言 文 字 指 南 』(1902) 及 び 郭 祖 培 と 熊 金 寿 共 著 の 『 日 語 独 習 書 』 が 挙 げ ら れ る 。 ま た 、1903 年 に 丁 福 同 が 翻 訳 し た 初 め て の 漢 訳 日 本 語 文 典『 中 等 文 典 訳 釈 』、及 び 最 初 の 辞 書 の 性 質 を 持 つ『 新 編 日 本 語 言 集 全 漢 訳 日 本 新 辞 典 合 璧 』 も 出 版 さ れ た 。こ の 点 か ら 見 る と 、1903 年 は 中 国 人 に よ る 日 本 語 教 科 書 の 分 野 に お い て 、 重 要 な 節 目 の 年 だ と 言 え る 。 こ の 年 に は 、 発 音 、 文 法 、 単 語 、 会 話 な ど の 内 容 が 完 備 さ れ た 、 水 準 の 高 く 、 応 用 ・ 実 践 を 重 視 す る 分 厚 い 教 科 書 も 刊 行 さ れ た 。 現 代 日 本 語 教 科 書 の 作 成 方 法 と 近 い 、『 東 語 完 璧 』 で あ る 。

実 籐 恵 秀 氏 が リ ス ト ア ッ プ し た 清 末 の 日 本 語 教 科 書 目 録102に は 、

『 東 語 完 璧 』が 収 録 さ れ 。ま た 、本 書 の 巻 末 に は『 日 本 東 京 遊 学 指 南 』 と い う 付 録 が 付 け ら れ て い る 。 こ の 『 指 南 』 は 当 時 在 日 留 学 生 の 学 習 や 生 活 な ど の 面 に 触 れ 、 広 範 囲 に わ た っ て い る 。 よ っ て 、 こ の 本 が 当

1 0 0 本 書 の 文 法 内 容 に 関 し て は 、 第 四 章 に 書 い て あ る 。

1 0 1 『 支 那 交 際 往 来 公 牘 』( 1902) も 泰 東 同 文 書 局 に よ り 出 版 さ れ た が 、 両

国 の 往 来 公 文 の み 収 録 し た か ら 、 日 本 語 教 科 書 と は 言 え な い 。

1 0 2 実 藤 恵 秀 ( 1970)『 増 補 中 国 人 日 本 留 学 史 』、 く ろ し お 出 版 社 、 第 62-64

頁 、 編 纂 者 と 出 版 元 は 全 て 「 上 海 作 新 社 」 と 書 い て あ る 。『 東 語 完 璧 』 の 奥 付 に は「 新 智 社 」の 名 を 載 せ て い る が 、こ れ は 実 藤 恵 秀 氏 の ミ ス で あ ろ う 。

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時 留 学 生 の 中 で 広 く 流 布 し た こ と を 垣 間 見 る こ と が で き る 。 福 井 久 蔵 氏 は 『 増 訂 日 本 文 法 史 』 で 本 書 に つ い て 言 及 し 、 そ の 内 容 の 簡 単 な 紹 介 及 び 評 価 を 行 っ て い る103。同 じ 時 期 に お け る 多 く の 日 本 語 教 科 書 の 中 で 、 こ の 本 の 重 要 性 も 垣 間 見 る こ と が で き よ う 。

『 東 語 完 璧 』 は 新 智 社 編 集 局 が 編 集 し 、 上 海 新 智 社 に よ っ て 出 版 さ れ た 。 凡 例 の 、 編 集 者 に よ る 「 大 清 光 緒 二 十 九 年 四 月 」 の 署 名 時 間 に よ れ ば 、こ の 本 の 初 版 は 1903 年( 清 光 緒 29 年 、明 治 36 年 )に 版 行 さ れ た こ と が 推 測 で き る 。そ の 後 、1905 年( 明 治 38 年 )及 び 1906 年( 明 治 39 年 )に 重 版 さ れ た 。重 版 時 の 名 は『 実 用 東 語 完 璧:一 名 日 語 自 得 』 と な っ て い る 。 筆 者 は こ の 三 つ 目 の 版 本 の み 所 有 し て い る 。 関 西 大 学 図 書 館 に は 初 版 及 び 明 治 38 年 版 が 所 蔵 さ れ て お り 、 一 方 明 治 39 年 版 は 国 会 図 書 館 の デ ジ タ ル 版 に て 閲 覧 で き る 。

こ の 三 つ の 版 本 は と も に 清 国 全 権 公 使 矢 野 文 雄 に よ る 「 登 高 自 畀 」 と い う 題 言 及 び 「 龍 溪 」 と い う 署 名 が 付 さ れ て お り 、 ま た 印 が 三 つ 捺 さ れ て い る 。 初 版 の 題 言 は 新 智 社 の 双 竜 マ ー ク の 後 に 印 刷 さ れ 、2 種 の 重 版 は い ず れ も そ の 前 に 置 か れ る 。 ま た 、 初 版 で は 序 言 の 前 に カ ラ ー の「 日 本 富 士 山 之 図 」が 付 さ れ て お り 、重 版 で は 絵 は 取 り 消 さ れ た 。 初 版 及 び 重 版 の 序 言 と 凡 例 の 内 容 は ま っ た く 同 じ で あ る 。

矢 野 文 雄 に よ る 題 言 と 、 日 本 台 湾 協 会 学 校 の 中 国 語 教 授 で あ る 馬 紹 蘭 に よ っ て 1902 年 に ( 光 緒 28 年 ) 執 筆 さ れ た 序 言 、 凡 例 及 び 巻 末 の 東 京 留 学 指 南 を 含 め て 、 初 版 は 618 頁 、2 つ の 重 版 は 616 頁 と な っ て い る 。 本 の サ イ ズ は と も に 縦 23cm、 横 15cm で あ る 。

本 書 は 著 者 に 関 す る 情 報 に つ い て 言 及 し て い な い が 、 馬 紹 蘭 の 序 言 に は「悉 出 自 華 日 諸 名 手 編 訂( 全 て 日 中 の 名 人 に よ り 編 集 さ れ た )」と 書 か れ 、 そ こ で 本 書 は 日 中 共 同 で 作 成 し た も の と 推 測 で き る 。 更 に 、 内 容 及 び 付 録 の 遊 学 指 南 を み て み る と 、 主 な 執 筆 者 は お そ ら く 在 日 留 学 生 で あ ろ う と 考 え ら れ る 。 序 言 の 文 脈 か ら 、 馬 紹 蘭 は 日 本 語 を 勉 強 す る た め こ の 本 を 手 に 入 れ た と い う 経 緯 が 分 か る 。 そ の た め 、 馬 氏 は 賛 辞 を 惜 し ま ず 、 こ の 本 は 知 識 人 達 が 貿 易 な ど に 使 用 す る の に 適 し 、 ま た 一 般 民 衆 も こ の 本 を 通 じ て 日 本 語 を 学 習 す る こ と も で き る と 賞 賛 し て い る 。

1 0 3 福 井 久 藏 ( 1934)『 増 訂 日 本 文 法 史 』、 成 美 堂 書 店 、 第 349 頁 。

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( 前 略 ) 得 暇 時 欲 習 東 語 、 坊 本 雖 多 而 盡 善 盡 美 者 鮮 現 。 茲 于 友 人 得 獲 此 集 、 悉 出 自 華 日 諸 名 手 編 訂 、 由 一 貫 以 及 千 仭 進 退 周 旋 、 無 美 不 備 、 洵 可 謂 便 於 士 大 夫 以 逮 商 旅 、 且 于 古 人 善 於 辭 令 之 旨 、 庶 幾 近 焉 、 吾 人 能 奉 之 圭 臬 乎 。

( 暇 な と き 日 本 語 を 学 習 す る つ も り が あ り 、世 間 に は 多 数 の 教 科 書 が あ る が 、 名 実 を 尽 く す も の が め っ た に 現 れ な い 。 友 人 を 通 し て 本 書 を 手 に 入 れ た が 、 全 て 日 中 の 名 人 に よ り 編 集 さ れ 、 内 容 は 完 備 で あ る 。 士 大 夫 に は 商 業 及 び 旅 行 に お い て 有 用 で あ り 、 ま た 古 人 の 言 葉 遣 い を 重 視 す る と い う 主 旨 に 従 っ て お り 、 庶 民 も 習 得 で き よ う 、 我 々 は こ の 本 を 模 範 と し て 奉 ず る こ と が で き る の で あ る 。)

于 江 戸 四 一 閣 光 緒 二 十 八 年 癸 卯 清 和 月 燕 京 馬 紹 蘭 序104 凡 例 の 第 一 段 落 の 内 容 に よ る と 、 本 書 を 編 纂 す る 時 期 は 、 ち ょ う ど

「 日 清 比 隣 、 漸 形 親 密 、 往 来 甚 多 、 貿 易 繁 昌 ( 日 清 は 近 隣 で 親 し く な り 、 交 流 が 増 え 貿 易 も 繁 栄 に な る )」 た め 、「 華 人 東 渡 遊 学 及 營 商 者 接 踵 而 至 ( 日 本 に 渡 っ て 遊 学 し た り 商 売 を 営 ん だ り す る 中 国 人 は 次 か ら 次 へ と や っ て く る )」、「 以 通 曉 日 語 為 急 務( 日 本 語 に 通 ず る こ と は 急 務 で あ る )」と い う 時 期 に 当 た る 。馬 紹 介 蘭 も 序 言 お い て 特 に「 便 于 士 大 夫 以 逮 商 旅 ( 士 大 夫 に は 商 業 と 旅 行 に お い て 有 用 で あ る )」 と 言 及 し 、 当 時 の 日 本 語 学 習 は 依 然 と し て 主 に 貿 易 の た め の も の で あ る こ と が わ か る 。 し か し 、 日 本 へ の 渡 航 目 的 の 多 様 化 に 伴 い 、 教 科 書 の 種 類 の 多 様 化 も 求 め ら れ る よ う に な っ た 。 し か し 、 そ の な か で 、 中 国 の 国 情 を 知 ら な い 日 本 人 に よ る 教 科 書 も あ れ ば 、習 得 の ス ピ ー ド に 重 点 を 置 き 、 質 を 軽 ん ず る 中 国 人 に よ る 速 成 教 科 書 も あ り 、 そ の 質 に ば ら つ き が あ っ た 。ま た 、「 坊 本 雖 多 而 尽 善 尽 美 者 鮮 顯( 世 間 に は 多 数 の 教 科 書 が あ り 、名 実 を 尽 く す も の が め っ た に 現 れ な い )」、「 均 属 杜 撰 謬 誤 処 不 堪 枚 舉( ほ と ん ど が 杜 撰 な も の で 、誤 り は 枚 挙 に い と ま が な い )」と い っ た 事 情 も あ っ た の で 、「 于 商 務 、 遊 学 、 遊 歷 、 考 察 ( 商 売 、 遊 学 、 旅 行 、

1 0 4 新 智 社 編 ( 1903)『 東 語 完 璧 』、 新 智 社 、 序 言 。

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視 察 に お い て )」105様 々 な 目 的 で 使 わ れ る 日 本 語 教 科 書 が 必 要 で あ り 、 本 書 は 当 時 の 日 本 語 教 科 書 の 需 要 に 応 え て い る 。

初 期 の 日 本 語 教 科 書『 東 語 正 規 』(1900)等 の 内 容 か ら 、当 時 の 編 纂 者 た ち は 、 中 国 人 に 教 科 書 を 通 し て 系 統 的 に 日 本 語 の 知 識 を 学 習 し て ほ し い 、 と い う 願 い を こ め て い た こ と が 伺 え る 。 し か し な が ら 、 中 国 国 内 の 知 識 人 は 依 然 と し て 日 本 語 に 対 し て 「 中 日 同 文 」 と い う 日 本 語 認 識 を 捨 て ら れ ず 、 そ れ に 加 え 、 日 本 の 書 物 を 翻 訳 す る 需 要 の 増 加 に よ り 、 人 々 は 急 い で 日 本 語 を 習 得 し よ う と し 、 リ ー デ ィ ン グ の テ ク ニ ッ ク を 把 握 す る た め に 、 や む を 得 ず 手 っ 取 り 早 い 方 法 を 探 っ て 日 本 語 を 学 ば な け れ ば な ら な か っ た 。 そ れ 故 、 速 成 教 科 書 は 最 初 か ら ず っ と 一 席 を 占 め て い た 。 当 時 多 く の 種 類 の 日 本 語 教 科 書 が 出 版 さ れ た こ と に も か か わ ら ず 、本 書 の 凡 例 の み「 教 育 之 道 貴 乎 循 序 有 条 、由 浅 及 深 、 由 易 及 難( 教 育 の 方 法 は 順 を 追 っ て 一 歩 一 歩 進 め る こ と が 大 切 で あ り 、 浅 い 内 容 か ら 深 い 内 容 へ 、易 し い も の か ら 難 し い も の へ )」と い う こ と に 言 及 し て お り 、 内 容 か ら も 、 科 学 的 且 つ 系 統 的 な 外 国 語 教 授 法 を 通 し て 、 学 習 者 に 日 本 語 会 話 を 速 く 身 に つ け さ せ よ う と 努 め て い た こ と が わ か る 。

凡 例 で は 篇 ご と の 内 容 及 び 著 者 の 学 習 方 法 に 対 す る ア ド バ イ ス が 紹 介 さ れ て い る 。ま た 、本 書 は「 華 語 譯 日 語( 中 国 語 か ら 日 本 語 に 訳 す )」

と い う 本 で あ る こ と を 指 摘 し て い る 。 し か し 、 著 者 は 凡 例 及 び 本 文 の 中 で 、日 本 語 の 文 字 を 仮 名 と 呼 ば ず 、「 字 母 」と 表 現 し た こ と か ら 、日 本 語 認 識 に 限 界 が あ っ た と 考 え ら れ る 。し か し 、「 日 本 語 言 其 音 同 一 而 其 字 母 異 者 甚 多 、 亦 極 繁 雜 ( 日 本 語 は 発 音 が 同 じ で も 字 母 の 違 う も の が 多 く 、大 変 繁 雑 で あ る )」と い う 説 明 か ら 見 る と 、著 者 は 日 本 語 文 字 の 音 読 み と 訓 読 み の 相 違 に 気 付 い た こ と が 分 か り 、 ま た 「 前 年 日 本 政 府 諭 令 小 学 堂 嗣 後 一 定 應 用 字 母 概 从 簡 便 ( 一 昨 年 日 本 政 府 は 小 学 校 に 必 ず 字 母 を 使 用 し て 一 律 に 簡 便 に 教 え る こ と を 命 令 し た )」106と い う 内 容 が あ り 、 著 者 は 日 本 の 言 語 教 育 に 相 当 詳 し い こ と も 分 か る107。 こ

1 0 5 上 掲 、 凡 例 。

1 0 6 本 書 の 内 容 か ら 見 る と 、 こ こ で 言 及 し た 「 諭 令 」 は 明 治 33( 1900) 年 に

日 本 政 府 が 公 布 し た 「 小 学 校 令 施 行 規 則 」 で あ る こ と を 推 測 で き る 。

1 0 7 同 期 の 他 の 教 科 書 で 、 仮 名 に 関 す る 内 容 は 変 わ る と こ ろ が あ る が 、 政 府

の 法 令 に 言 及 す る も の は な い 。

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の 矛 盾 し た 点 か ら 、 本 書 は 日 中 合 作 の 教 科 書 で あ ろ う と い う こ と が 証 明 で き る 。

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