• 検索結果がありません。

95

の 矛 盾 し た 点 か ら 、 本 書 は 日 中 合 作 の 教 科 書 で あ ろ う と い う こ と が 証 明 で き る 。

96

け た り す る と 、 全 て の 音 を 表 記 で き る )」110と 言 及 し て い る 。 当 時 の 中 国 の 社 会 で は 、 英 語 知 識 は 日 本 語 と 比 べ か な り 積 み 重 ね が あ り 、 ま た 普 及 し て い る た め 、 日 本 語 の 仮 名 を 「 字 母 」 と 呼 ぶ こ と が 、 よ り 中 国 人 に 受 け 入 れ や す い こ と を 考 え た の で あ ろ う 。 日 本 人 が 作 成 し た 日 本 語 教 科 書 、 例 え ば 『 東 文 易 解 』(1903) で も 同 じ 呼 び 方 が 見 ら れ る 。 一 方 、中 国 人 に よ る 教 科 書 に も か か わ ら ず 、初 期 の『 東 語 正 規 』(1900)

や 本 書 の 出 版 時 期 と 近 い 『 日 本 語 言 文 字 指 南 』(1902) で は 、「 仮 名 」 と い う 言 葉 を 使 用 し て い る 。 こ れ も 著 者 及 び 社 会 環 境 の 日 本 語 に 対 す る 認 識 に は 限 り が あ っ た た め と 見 ら れ る 。 続 い て 、 著 者 は こ れ ま で の 日 本 語 教 学 の 「 入 門 即 教 以 複 雜 之 語 言 ( 入 門 の 段 階 で 複 雑 な 言 葉 を 教 え る )」 を 批 判 し 、「 学 外 国 語 言 、 与 童 子 之 学 話 相 等 ( 外 国 語 を 学 ぶ こ と は 、子 供 が 言 葉 を 覚 え る こ と と 同 様 で あ る )」と い う 順 を 追 っ て 一 歩 一 歩 進 め る 教 授 法 を 提 唱 し て い る 。

五 十 音 図 の 図 表 は 『 東 文 易 解 』 の 構 図 を 模 倣 し 、 初 版 の 簡 易 発 音 口 腔 図 及 び 発 音 の 説 明 は 、 い ず れ も 『 東 文 易 解 』 と 同 じ で あ る 。 但 し 、 図 表 に 日 本 語 の 発 音 に よ り 近 い 中 国 語 の 漢 字 で 表 記 す る 以 外 、 ロ ー マ 字 の 読 み 方 も 明 記 さ れ て い る111。『 東 語 完 璧 』 は 伊 呂 波 の 図 表 を 取 り 入 れ て お ら ず 、 五 十 音 図 の 形 式 を 音 声 表 と し て い る 。 音 声 教 学 に お い て 、初 版 と 重 版 の 内 容 は 大 体 同 じ で あ る が 、明 治 38 年 の 重 版 は 日 本 語 教 科 書 と し て 初 め て 口 腔 縦 断 面 図 を 付 け て お り 、 現 代 の 外 国 語 教 科 書 の 図 と ほ ぼ 同 じ で あ る 。 ま た 、 重 版 で は 日 本 語 の 読 み 方 を 表 す 中 国 語 の 漢 字 に 対 し て 微 調 整 が 施 さ れ 、例 え ば 、「 ソ 」の 中 国 語 漢 字 の 読 み 方 を 初 版 の 「 索 」 か ら 「 素 、 鎖 」 に 変 更 し て い る 。 更 に 、 母 音 と 子 音 の 説 明 が 加 え ら れ 、「 犹 漢 字 之 有 反 韵 切 韵( 漢 字 の 半 切 に 如 く )」、「 母 韵 」 を 母 音 、「 父 韵 」を 子 音 と し て い る 。そ れ に 伴 い 、初 版 図 表 の 左 側 各 行 の 注 釈 は 、例 え ば 、「 ア 韵 長 呼 則 各 音 皆 為 ア( ア の 長 音 は 各 音 が 皆 ア で あ る )」112の 説 明 は 、 重 版 に は 「 各 音 長 呼 皆 為 母 韵 ( 各 音 の 長 音 は 皆

1 1 0 こ の 文 は 『 東 文 易 解 』 と ほ ぼ 同 じ で あ る が 、 仮 名 の 歴 史 と い ろ は 歌 に 言

及 し な い 。『 東 文 易 解 』 で の 文 は 「 日 東 之 字 母 、 其 數 四 十 有 八 、 而 或 加 之 符 號 、 或 數 母 結 合 、 則 天 下 之 聲 音 、 無 不 畢 具 」 で あ る 。

1 1 1 本 書 で 表 記 し た ロ ー マ 字 は 、 a、 i の 上 に u の 下 に 各 二 つ の 点 が あ り 、 e

の 上 に「 v」マ ー ク が あ る 。重 版 で は 、a の 上 と u の 下 に 一 つ の 点 と な り 、i、

e、 o の 上 に 「 v」 マ ー ク が あ る 。

1 1 2 新 智 社 編 ( 1905)『( 実 用 ) 東 語 完 璧 』、 新 智 社 、 第 41 頁 。

97

母 音 で あ る )」113に 変 わ っ て い る 。 こ れ は 、 重 版 す る ま で に 、 著 者 が 日 本 語 の 発 音 に 対 し て 、 母 音 の 概 念 を 明 確 に し た こ と を 垣 間 見 る こ と が で き る 。 発 音 口 腔 図 が よ り 厳 密 に な り 、 発 音 方 法 に 対 す る 説 明 も よ り 詳 し く な り 、 現 代 日 本 語 教 科 書 の 発 音 解 と 殆 ど 変 わ り が な い 。 例 え ば 、 ナ 行 に 対 す る 説 明 は 次 の と お り で あ る 。

初 版 先 如 上 圖 挺 舌 頭 密 接 上 齦 、 開 鼻 孔 、 次 与 如 側 圖 變 口 形 共 發 音114

重 版 如 上 圖 挺 舌 頭 密 接 上 齦 、開 通 鼻 孔 而 可 如 各 同 列 母 韵 圖 變 其 口 形 而 發 音 、 就 中 發 二 音 時 、 密 接 前 部 舌 面 于 中 部 硬 口 盖 、 開 通 鼻 孔 可 如 イ 圖 變 其 口 形 而 急 發 音115

転 音 と は 日 本 語 の 「 ハ 行 転 呼 」 を 意 味 し 、 即 ち 「 ハ ヒ フ ヘ ホ 之 五 音 転 化 于 ワ イ ウ エ オ ( ハ ヒ フ ヘ ホ か ら ワ イ ウ エ オ へ の 音 変 化 )」 を 指 す 。 各 図 表 の 下 に 、 発 音 練 習 用 の 単 語 が 挙 げ ら れ 、 い ず れ も 名 詞 で あ り 、 片 仮 名 と 中 国 語 漢 字 の 音 で 表 記 し 、 一 部 の 例 に は 中 国 語 の 意 味 も 書 か れ て い る 。 最 終 章 は 数 字 と な り 、 一 か ら 十 ま で 、 百 、 千 、 万 及 び 億 は ど の 数 字 に も 常 用 数 量 詞 の 例 が 添 え ら れ 、 一 部 の 例 に は 中 国 語 の 意 味 も 付 け ら れ て い る 。 ま た 、 約 2 ペ ー ジ 分 の 日 本 語 と 中 国 語 の 相 互 翻 訳 練 習 も 設 け ら れ て い る 。

日 本 で 日 本 語 を 学 習 す る と 、 そ の 言 語 環 境 の 中 に 身 を 置 き 、 模 倣 や 練 習 を 通 し て 容 易 に 正 確 な 発 音 を 把 握 で き る た め 、 音 声 教 学 に は 細 部 に 気 を 配 る こ と は な い で あ ろ う 。 一 方 、 中 国 で 学 習 す る と 、 学 習 者 の 発 音 方 法 を 規 範 と す る た め 、 完 全 且 つ 詳 細 な 音 声 教 育 内 容 が 必 要 と な っ て く る 。こ の 点 に お い て 、『 東 語 完 璧 』は 共 著 の 利 点 を 発 揮 し 、学 習 者 に 迅 速 か つ 正 確 に 日 本 語 の 発 音 を 習 得 さ せ る こ と が で き る 。

② 、 第 二 編 は 主 に 文 法 の 内 容 で あ る 。 初 版 で は 「 説 話 法 標 準 」 と 名 付 け ら れ 、「 授 受 、命 令 、請 求 要 望 、有 無 、我 想 、言 語 異 時 法 」の 六 章 か ら 構 成 さ れ 、全 部 で 二 十 一 課 と な っ て い る 。一 方 、重 版 で は 、「 言 語 組

1 1 3 上 掲 、 第 41 頁 。

1 1 4 上 掲 、 第 38 頁 。

1 1 5 上 掲 、 第 40 頁 。

98

織 法 標 準 」と い う 名 前 に 変 わ り 、「 授 受 、請 求 要 望 、命 令 、定 辞 、有 無 、 想 、 要 、 愛 、 言 語 異 時 法 」 の 九 章 か ら 構 成 さ れ 、 計 二 十 課 と な っ て い る 。「 日 用 倫 常 及 進 退 周 旋擬、可 為 話 法 之 標 準 者 而 掲 出 之( 日 常 の 徳 目 か ら 立 ち 居 振 る 舞 い 、 交 際 ま で の 内 容 が 織 り 込 ま れ 、 標 準 的 な 話 し 言 葉 を 使 用 し て い る )」116の 内 容 で あ る 。 重 版 で は 、 初 版 の 単 語 の 例 、 例 文 及 び そ の 後 の 練 習 内 容 を 大 幅 に 変 更 し 、 内 容 の 順 番 も 有 る 程 度 変 更 は あ る が 、 解 説 は 大 体 同 じ で あ る117。 第 二 編 に 関 し て 、 初 版 及 び 重 版 の 各 章 の タ イ ト ル を ま と め た と こ ろ 、 次 の よ う に な っ た 。

表 3-2 『 東 語 完 璧 』 各 章 題 名 の 変 更

章 の タ イ ト ル 課 目 タ イ ト ル

初 版 重 版 初 版 重 版

第 一 章

受 授 受 授 第 一

給 爾 、 請 給 我 給 我 、 給 你

第 二

給 爾、請 給 我、給 他 前 課 應 用

第 三

給 爾 這 個 、 給 爾 那 個、請 給 我 這 個、請 給 我 那 個

這 個 、 那 個

第 四

借 給 我、借 給 爾、還 給 我 、 還 給 爾

交 給 、 借 給 、 還 給 第 二

命 令 請 求 、 願 望

第 一

看 、 聽 、 拿 、 擺 買 給、賣 給、送 給 、 教 給、換 給、遞 給 、 看 看

第 二

出 、 收 、 坐 、 站 借 、 換 、 拿 、 折 、 我

第 三

擱 、 寫 、 念

第 四 找 、 借 、 來 、 去

1 1 6 新 智 社 編 ( 1903)『 東 語 完 璧 』、 新 智 社 、 凡 例 。

1 1 7 例 文 及 び 例 語 の 変 化 は 一 々 挙 げ な く 、 解 説 順 が 変 わ る と こ ろ も 省 略 さ せ

る 。

99

第 三 章

請 求 、 要 願

命 令 第 一

教、買、賣、得、換 聽 、 念 、 開 、 看 、 洗 、 試 、 問 、 想

第 二

前 課 變 用 走 、 來 、 坐 、 去 、 等

第 三

前 課 變 用

第 四

前 課 變 用

第 五

前 課 變 用

第 六

前 課 變 用

第 七

知 道 了 、 不 願 意

第 八

要 、 願 意 第 四

有 無 定 辭 第 一

有 、 沒 有 是 不 是

第 二

前 前 課 應 用

第 五 章

我 想 有 無 第 一

有 、 沒 有

第 二

前 課 應 用

第 三

前 課 應 用

第 四

前 課 應 用

第 五

前 課 應 用

第 六 言 語 想 第 一 一 定 我 想

100

章 異 時

第 二

不 定 前 課 應 用

第 七 章

要 第 八

愛 第 九

言 語 異 時 法

本 書 の 会 話 に 関 す る 内 容 は 、一 問 一 答 の 形 で 作 成 さ れ て い る 。初 版 は 五 章 に 分 か れ 、 全 部 で 十 一 課 と な っ て い る 。 そ れ に 対 し て 、 重 版 で は 九 章 と な り 、 課 を 設 け て い な い 。

初 版 の 内 容 は 誰 、場 所 、時 令「 多 喒 、什 麼 時 候 、年 、月 、日 、時 」、

数 量「 個 、錢 、年 、歳 等 、套 、人 、管 、枝 、張 、本 等 」、何「 什 麼 、怎 麼 樣 、 什 麼 樣 子 、 什 麼 東 西 、 什 麼 、 做 什 麼 、 做 什 麼 了 、 要 做 什 麼 、 為 什 麼 」 か ら な っ て い る 。 そ れ に 対 し て 、 重 版 の 内 容 は 誰 、 場 所 、 何 、 時 令 、 前 章 の 応 用 、 数 量 、 雑 辞 三 章 か ら 構 成 さ れ て い る 。 本 篇 で は 、 人 物 、場 所 、時 間 な ど の 日 常 的 な 問 答 に つ い て 系 統 的 に 紹 介 し て い る 。 日 本 語 と 中 国 語 を 照 ら し 合 わ せ 、 課 の 最 後 に は 簡 単 な 中 国 語 か ら 日 本 語 へ 或 い は 日 本 語 か ら 中 国 語 へ の 翻 訳 練 習 が 設 け ら れ 、 初 版 と 重 版 の 練 習 問 題 は 若 干 異 な っ て い る 。 初 版 で は 、 会 話 の 前 に 新 出 単 語 を リ ス ト ア ッ プ し 、簡 単 な 文 法 に 触 れ た の は 第 一 章 の 一 箇 所 だ け で 、「 カ 是 虚 字 。 疑 問 之 辞 也。与 漢 文 乎哉 耶 之 字 同 ( カ は 虚 字 で 、 疑 問 詞 で あ る 。 中 国 語 の 乎 、哉 及 び 耶 と 同 じ で あ る )」と い う 説 明 で あ る 。し か し 、重 版 で は 会 話 内 容 の み と な っ て い る 。

初 版 に お け る 多 く の 方 言 の 使 い 方 は 重 版 で は 削 除 さ れ 、例 え ば「 多 喒 」、「 嘎 嘎 儿 」118な ど で あ る 。 ま た 、「 ワ 」 が 全 て 「 ハ 」 に 直 さ れ 、

1 1 8 新 智 社 編 ( 1903)『 東 語 完 璧 』、 新 智 社 、 第 140 頁 、「 コ マ 」 の 釈 義 の 一

つ で あ る 。

101

著 者 が 時 代 と 共 に 進 歩 し て い っ た 表 れ で あ ろ う 。 そ の 上 、 日 本 語 も 初 版 よ り 更 に 口 語 的 に な り 、 語 彙 も 口 語 体 の 単 語 や 読 み 方 を 選 出 し 、 多 く の 例 文 は 以 下 の よ う に 、「 デ 御 座 イ マ ス 」或 い は「 デ ア リ マ ス 」を 使 う の で は な く 、「 デ ス 形 」 を 使 用 し て い る 。

初 版 今 天 是 几 儿 了 今 日コ ン ニ チワ 、 何 日 デ 、 ア リ マ ス カ 今 天 是 初 五 今 日キ ョ ーワ 、 五 日 デ ア リ マ ス119 重 版 今 儿 是 几 時 了 今 日キ ョ ーハ 何 日 デ ス カ

今 天 是 初 二 今 日キ ョ ーハ 二 日 デ ス120

重 版 で は 、 本 篇 の 引 用 し た 会 話 内 容 は 第 四 篇 と 重 複 し た 所 が あ っ た が 、 初 版 に 比 べ 、 か な り 時 代 性 の あ る こ と を 取 り 扱 わ れ た 。 例 え ば 、 第 一 章 で は 、「 来 的 是 女 学 生 、 来 タ ノ ハ 女 学 生 デ ス 」121と い う 内 容 が 加 え ら れ 、 当 時 の 社 会 に お け る 女 性 教 育 の 普 及 を 表 し て い る 。 初 版 で は よ く 中 国 の 人 名 と 地 名 が 使 わ れ て い た が 、 重 版 で は ほ と ん ど 日 本 の 人 名 と 地 名 に 変 わ っ て い る 。 著 者 は 、 日 本 に 渡 る 中 国 人 の た め に 一 定 の 調 整 を 行 っ た と 考 え ら れ る 。 例 え ば 、 同 じ く 第 二 章 場 所 に つ い て の 内 容 だ が 、 初 版 と 重 版 の 人 名 及 び 地 名 は 次 の よ う に 変 更 さ れ て い る 。

初 版 我 的 家 在 南 京 私 ノ 家 ワ 、 南 京 ニ 在 リ マ ス 我 在 北 京 城 里 住 私 ワ 、 北 京 城 内 ニ 住 居 マ ス

光 景 是 汪 兄 家 的 儿 子 罷 汪 サ ン ノ 、 家 ノ 児 デ 、 ア リ マ ス 上 海 是 近 的 上 海 ガ 、 近 ク ア リ マ ス122

重 版 我 打 算 上 横 濱 逛 一 趟 去 横 浜 へ 遊 ニ 行 ク ツ モ リ デ 御 座 イ マ ス

拉 到 新 橋 去 新 橋 へ(迄)引 イ テ 行 キ ナ サ イ

我 要 上 小 石 川 去 往 哪 条 道 小 石 川 へ 行 キ タ イ デ ス ガ ド チ ラ ヘ 行 ッ タ ラ 宜 ウ 御 座 イ マ ス カ

内 山 兄 上 那 儿 去 了 呢 内 山 サ ン ハ 何 処 へ 行 キ マ シ タ カ

1 1 9 上 掲 、 第 154 頁 。

1 2 0 新 智 社 編 ( 1905)『( 実 用 ) 東 語 完 璧 』、 新 智 社 、 第 163-164 頁 。

1 2 1 上 掲 、 第 153 頁 。

1 2 2 新 智 社 編 ( 1903)『 東 語 完 璧 』、 新 智 社 、 第 146 頁 。

関連したドキュメント