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日本語の主題卓越型構造からの転移

ドキュメント内 学位授与機関 同志社大学 (ページ 46-50)

第 2 章 日本語の主題卓越型構造の転移に関する先行研究

2.3 日本語の主題卓越型構造からの転移

一方で、英語の場合、田地野(2008)によると、英語を固定語順言語(a fixed-word order language)

であるとし、語の順序に意味があり、語順が変われば文の意味も変わるということを強調し た。下記の例の場合、「食べた」主体と「食べられた」対象が、語順によって、(55a)と(55b)

の間で変わってしまう。したがって、英語は語順に厳格な言語であり、意味を決定するのも 語順であるということに異論を唱える余地はない。

(55) a.The man ate the apple.(その男がそのリンゴを食べた。)

b.The apple ate the man.(そのリンゴがその男を食べた。)(田地野2008:9)

ここまで見てきたように、日本語は、「主題+解説」が基盤であり、主題優先の傾向が非常 に強いため、主格の働きが弱かったり、基本語順が変形させられたりすることがしばしば観 察される。一方で、Masuoka(2017)が指摘したとおり、英語の場合、主題よりも主語が優先 される言語であり、語順が厳格であるため、「主語+述語」の基盤になっている言語である。

Schachter & Rutherford(1979)をはじめ多くの研究者が、日本人初級英語学習者は、日本語の

「主題+解説」の構造と英語の「主語+述語」の構造を同一のものと認識した結果、英語で の文産出を行う際、そのまま「主題+解説」の表現形式を持ちこむことができると判断して いるということを指摘している。次節では、このような日英語の違いが日本人学習者の英語 の習得にどのような影響を与えていくのかに関してより具体的に検討する。

韓国語などの主題卓越型言語の母語話者のグループとアラビア語・ペルシャ語・スペイン語 などの主題の働きが弱い言語の母語話者のグループから構成されており、調査の結果、2つの 非母語話者のグループの発話に大きな違いは見られなかった。また、非母語話者の中間言語 は、母語話者の発話と比べると、主題構造の特徴が顕著に見られ、母語と英語の構造の違い が習得に影響を与えることはないと結論づけられている。

一方、1980年代では、すでに母語が言語習得において一定の影響を持つと再認識されてお り、その結果、主題卓越型か主語卓越型かという構造の違いは習得に影響を与えるという指 摘がなされるようになった。Huebner(1983)は、ミャオ語を母語とする英語学習者は、初級 の段階において、英語の主語を主題のように扱うという調査から議論を展開している。また、

Rutherford(1983)が主題卓越型言語を母語とする英語学習者と主語卓越型言語を母語とする 英語学習者の中間言語を比較したところ、主題卓越型言語を母語とする英語学習者は、主題 構造の影響を受けたと思われる英語を過剰生成することが導かれている。

主題卓越型言語の母語話者が主語卓越型言語を習得する際に、母語の影響の有無を論じる うえで、Cook(2003)が提案した言語間影響を考慮することが重要であると思われる。つま り、2種類の言語が相互に影響を与えている可能性を検討する必要がある。Jin(1994)は、英 語母語話者が中国語を習得するとき、主語の過剰生成や二重主語文における誤りが見られる と報告した。よって、英語母語話者は、習熟度が低い段階では、主題構造の文を習得できず、

主語卓越型言語が母語の学習者は主題卓越型言語を学習する際、母語の構造が転移する可能 性があることを示唆し、同様の主張はYuan(1995)なども行っている。

Jin(1994)やYuan(1995)の研究がなされる以前は、主語卓越型言語の英語を学習する際

に、学習者の母語が主題卓越型であるか、あるいは、主語卓越型であるかという観点からの 研究しかなされておらず、主語卓越型言語の母語話者が主題卓越型言語を習得する際にどの ような影響を与えるのかについて検討されることはなかった。したがって、主語卓越型言語 の構造が主題卓越型言語の習得に影響を与えることを指摘されたことで、主語卓越型言語と 主題卓越型言語が相互に影響を与えており、どちらか一方のタイプの言語の母語話者がもう 一方のタイプの言語を習得する際に困難が伴うことが導かれた。

次に、日本人英語学習者への日本語の主題卓越型構造の影響に関する研究を見ていく。前 節で述べたように、日本語の主題卓越型特徴が主語卓越型言語の英語の習得に影響を与える 可能性について最初に指摘を行ったのは、Schacter & Rutherford(1979)である。Schacter &

Rutherford(1979)によると、英語と比較した際の主題卓越型言語としての日本語の固有な特 徴は、主題が文頭に現れること、空主語が認められること、二重主語文が存在することの3つ を挙げている。

次に、Sasaki(1990)は、異なる習熟度の日本人英語学習者に対して、与えられた絵の内容

を英語で説明させるライティングのテストをとおして産出される存在を表す英文を習熟度ご とに比較し、主題構造からの転移に関して調査した。その結果、習熟度が高くなるほど、主 題構造に依存したと思われる英文が見られなくなり、英語の主語構造を習得したと主張した。

このことは、Corder(1978)やOdlin(2003)による習熟度が低い学習者ほど自身の母語の知 識に依存する(2.1.4参照)という指摘と一致しており、実際、Sasaki(1990)は、習熟度の低

い学習者は主題構造からの転移と思われる誤りが多数見られた、すなわち、初級レベルの学 習者が日本語の主題と英語における主語を同一と考えていると指摘している。

このように、転移が生じているということは、学習者が日本語における「主題+解説」の 構造と英語における「主語+述語」の構造を類似していると判断しているということである。

実際、Rutherford(1983)が日本人英語学習者の英作文を分析したところ、動詞の位置に関す る誤りは見られなかったと指摘した。このことは、日本語の基本語順がSOVであるのに対し て、英語の基本語順はSVOと大きく異なっているため、学習者が日本語と英語の基本語順は 違うものと判断できていることが起因していると考えられる。一方、Sasaki(1997)は、英語 を母語とする学習者は、習熟度が低いほど、助詞よりも提示された文の語順に影響を受け、

文中に来た語を目的語として捉える傾向があるという実験結果も報告している。

Rutherford(1983)の指摘に関連して、主語と動詞の位置に関する誤用について、Kuribara

(2004)は、日本人初級・中級英語学習者に対して、文法性判断テストを行ったところ、動詞 句の前に名詞が置かれている文に関してはどのような文であっても容認する傾向が強く、2種 類の名詞句が動詞の前に置かれている場合も容認する学習者が一定数いると指摘した。この ことは、少なくとも中級レベルまでの日英中間言語における動詞句の直前に置かれる名詞句 が、日本語の主語または主題と捉えていることを示唆しており、日本人英語学習者にとって、

英語の主語を習得するのが困難であると主張している。

また、梅原・冨永(2014)は、文法性判断テストを行った際、以下の(59)や(60)のよう に、動詞句の前に時を表す名詞句や場所を表す前置詞句が主語の位置にある非文は誤りであ ると判断できるものの、(61)や(62)のように、場所を表す名詞句が主語の位置にある非文 は容認してしまうことが導かれた。

(59) *Summer in Japan can enjoy fireworks festivals in many places.(梅原・冨永2014:109)

(60) *In Nagano can see a beautiful view of mountains.(梅原・冨永2014:109)

(61) *This hotel cannot use the Internet in the room.(梅原・冨永2014:109)

(62) *Unlike university, most high schools must wear a uniform.(梅原・冨永2014:109)

このことから、習熟度の低い学習者は、主語・述語の文文法的な一般的な規則よりも名詞 の数や冠詞、前置詞といった具体的な語と関連する規則の方に意識が向く傾向があると導か れている。また、この問題に関して、Harrington(1987)やAoki(2006)は、英語に比べると、

日本語の主語となりえる名詞句の制限が厳しく、人間や動物などの有生名詞であることが多 いため、多くの無生名詞が英語では主語になることが学習者の中でイメージ化できていない ことと関連していると示唆している。

ここまで論じてきた主語の位置における誤りの問題に加えて、Sasaki(1990)は、日本人英 語学習者がコピュラ(be動詞)を主題標識のマーカーとして用いていると先述の調査から示

唆しており、同様の指摘を築道(1996)やAoki(2006)なども行っている。なお、築道(1996)

では、学生に取り組ませたライティングの課題より誤用を紹介しており、Aoki(2006)では、

文法性判断テストをとおして、日本人学習者が次の(63)~(66)の英文を容認していると指 摘した。以下に示すとおり、日本人学習者はbe動詞を用いて、主題と解説の境界線を引こう と試みている。

(63) *Afternoon was a little bit study homework. (Aoki 2006:25)

(64) *This weekend was my friend came here. (Aoki 2006:25)

(65) *Tax is she spend 15%. (Aoki 2006:25)

(66) *Here is everything is very cheap. (Aoki 2006:25)

一方、このbe動詞の誤用に関しては、be動詞と提題助詞「は」を同一視しているとする指 摘に対して、Ionin & Wexler(2002)や遊佐(2008)は、生成文法の立場に基づき、学習者は be動詞を時制のマーカーとして用いているにすぎないと主張している。Ionin & Wexler(2002)

や遊佐(2008)によると、以下の(67)と(68)において、どちらも非文であるにもかかわら ず、(67)に比べて、(68)は観察される頻度が極めて少ないと指摘している。この現象を考慮 すると、‘go’のような一般動詞の活用を身につけられていない英語学習者は、be 動詞を時制 マーカーと見なしていると考えられる。

(67) *The lion is go down. (Ionin & Wexler 2002:110)

(68) *The lion is goes down. (Ionin & Wexler 2002:110)

また、Krashen(1977)、Ionin & Wexler(2002)や遊佐(2008)が指摘したとおり、be動詞 は学習者が最も早くに習得する項目であり、一般動詞の活用などを身につける前に、be動詞 の活用を習得するため、この時期にbe動詞を過剰に生成すると指摘されている。

本論文では、転移の問題について論じていくため、一旦、be 動詞の誤用という問題が、be 動詞が日本語の「は」に代わって主題標識として用いられていることによるという見解を支 持するが、時制マーカーとして用いられていることから生じている可能性もあるため、教育 を念頭に置いた場合、両方の種類の誤りを意識した指導法が必要になってくると考える。

隣接関係を表す名詞述語文、すなわち、述語が代用化されている日本語文に関する研究と して、前田(2000)は、137名の日本人初級英語学習者に対して、(69a)のような質問を日本 語で与え、答えとなりそうな(69b)と(69c)を両方英訳させるというテストを行った。

(69) a.動物は何が好きですか?

ドキュメント内 学位授与機関 同志社大学 (ページ 46-50)