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既存の教科書・指導法の問題点

ドキュメント内 学位授与機関 同志社大学 (ページ 59-63)

第 3 章 初級英語学習者への文産出指導に関する先行研究

3.5 現行の学校教育の問題点

3.5.1 既存の教科書・指導法の問題点

語学習者にとって非常に有効な指導法であると期待できる。12

次に、意味順指導法の学習効果に関して述べると、埼玉県宮代町立前原中学校の奥住桂教 諭は、意味順指導法を中学校のクラスで実践し、その結果、多くの生徒が意味の通じる英文 を産出できるようになり、また、学力試験における無解答率が大幅に減少した。この成果に より、奥住氏は英語教育の優れた研究を表彰する「第14回大野政巳英語教育賞」で最優秀賞 を受賞している。また、Jojima, Oyabu & Jinnouchi(2018)は、佐賀県の中学生のクラスに対 して、意味順指導法を実施した。ここでは、意味順指導法に関連するドリルやテーマ作文を 中心にした授業が行われた。テーマ作文においては、それぞれの生徒が最初に何も見ずに産 出した英文を、意味順、すなわち、「誰が」、「する・です」、「誰」・「何」、「どこ」、「いつ」の 順番を参照しながら自己修正するように促している。その結果、どの学年においても、語句 整序問題で構成されているプリテストに対して、同じ整序問題で構成されているポストテス トの正解が増加し、また、ポストテストでは、無回答が 0 になった。2014 年入学の生徒は、

全国テスト(NRTテスト)において、4技能すべてで平均を上回ることができた。

以上より、意味順指導法は、特に、初級英語学習者の文産出の促進や動機づけの向上を可 能にする指導法と考えられ、梅原・冨永(2014)が指摘しているように、主題卓越構造からの 転移も克服できる可能性がある。意味順というフレームワークを常に学習者に提示しておく ことで、日本語との語順の違いなどについて、実際の授業実践において、文法用語を極力使 用せずに、より明示的に指導することが可能になると期待される。本論文の第 7 章では、こ の意味順指導法を活用した日英語の違いの気づきを促すための指導法を提案し、初級英語学 習者である大学生が日本語からの転移を克服できるかどうかについて、授業実践をとおして 検証する。

れた誤りが提案された(2.1.2参照)。本論文では、日本語と英語の構造の違いによる言語間の 誤りは、教授者の誤った説明、教科書をはじめとする教材や提示上の不備、文脈を無視した 操作ドリルなどによってより誘発されやすくなっているという主張を行う。そこで、まず、

英語の主語が中学校の英語の教科書でどのように導入されているのかに関して、梅原・冨永

(2014)や小山(2015)などを参照しながら検討する。

中学英語の代表的な検定教科書である New Horizon English Course INew Crown English

Series New Edition Iにおいて、主語という用語は頻繁に用いられているが、主語自体が何かに

関する説明はなく、また、代名詞の説明などでは、主格の代名詞のことを日本語では「~は」

や「~が」と表すという趣旨の説明がなされている。加えて、これらの検定教科書に登場す る例文を見ると、下記の(79)や(80)のとおり、ほとんどの英文の主語を日本語訳で「~

は」と記されている。

(79) Jenny was a guide dog two years ago.(ジェニーは2年前盲導犬でした。)(New Horizon English Course II, p.4)

(80) Amy played tennis last Sunday.(エイミーは先週の日曜日テニスをしました。)(New Crown English Series New Edition II, p.6)

高等学校の検定教科書に目を向けると、MY WAY English Communication Iでは、主語とは「動 作をする人(=動作主)を表す語(「~は」、「~が」)」(MY WAY English Communication I, p.8)

と説明されており、主語の形態的な側面に加えて、意味的な側面について説明はされている が、中学校・高等学校の検定教科書では、一貫して「主語は『は』や『が』がマークする名詞 句である」という形態的な側面が強調されている。また、述語と呼応する主語の文法的な側 面については、少なくとも検定教科書の中ではほとんど強調されていない。したがって、検 定教科書においては、英語における文法上の主格が強調されず、日本語の「は」がマークす る談話上の主題の働きが大きい。

一方で、国語教育の中で主語がどのように扱われてきたのかにおいて、「中学校学習指導要 領(平成29年告示)解説国語編」などによると、主語と述語の照応関係に注意して読み書き を行うことと強調されており、日本語学の知見では、主語は文中で必ずしも要請される要素 ではないと考えられる一方で、「学習指導要領」では、日本語において主語が存在することは 当然という見方が強い。また、中学校の国語の検定教科書の1つである『新編新しい国語1』

では、主語を「誰が」「何が」にあたる部分とする一方で、「は」・「も」などが後続するもので もあるという説明がされており、「は」は「が」が文脈に応じて交替したことも触れられてい ない。また、高橋(2005)は、日本語学習者用の文法書などにおいても、主語は「~は」や

「~が」などの形で作られると説明している。よって、国語・英語の授業ともに、「は」につ いては、提題助詞というよりも、主語をマークする助詞であると指導されており、提題助詞 としての「は」がどの格助詞が交替したかを考慮する機会はほとんどないのが実状である。

次に、英語の検定教科書でbe動詞や一般動詞がどのように取り扱われているかを概観する。

まず、New Horizon English Course Iでは、(81)~(83)が指し示しているとおり、be動詞は 日本語における「です」にあたると導入されており、巻末では、進行形を作ることができる 助動詞とも紹介されている。

(81) 基本文:I am Sakura.

Iは「私は」、amは「です」にあたる。(New Horizon English Course I, p.14)

(82) 「~は…です」というときのam, are, isの形と語形に注意しましょう。(New Horizon

English Course I, p.26)

(83) am 動 ①…です、…である ②(…に)いる 助 [進行形を作る](New Horizon English

Course I, p.120)

小山(2016)によると、日本人学習者は母語である日本語を用いて外国語を理解しようと 試みるため、このような導入・説明によって、学習者はbe動詞を「意味がないもの」である と見なしてしまい、be動詞の習得が難しいとされる。

また、一般動詞の導入に関しては、同じくNew Horizon English Course Iにおいて、次の(84)

のような説明がなされている。

(84) likeは「…を好む」、playは「…をする」という意味の動詞である。

(New Horizon English Course I, pp.28)

ここでは、(84)で導入されている‘like’に着目する。教科書では「…を好む」と説明されて いるが、「…が好きだ」という意味でも知られている語である。しかしながら、「~が」が英語 の主語にあたるという説明は、先述の検定教科書の説明に基づくと、(85a)~(85c)のよう な誤りが引き起こしてしまう可能性がある。(85a)~(85c)の例では、「野球が」の部分が英 語では主語にならないケースである。

(85) a.(好きなスポーツを聞かれて、)野球が好きだ。

b.*Baseball likes.

c.I like baseball.

中学英語で導入される動詞の中では、日本語で表現される場合、形容詞や形容動詞に分類 される語が存在する。そして、「欲しい」のような形容詞や「好きだ」や「必要だ」のような 形容動詞が述語にくる場合、述語に従属する補足語は格助詞「が」を伴う。

益岡・田窪(1992)によると、動詞が従属する補足語に後続する「が」は動作の主体を示 し、形容詞や形容動詞が従属する補足語に後続する「が」は状態の対象を示す。形容詞や形 容動詞が英語の動詞で表現する場合、以下の(86a)~(86b)や(87a)~(87c)が示すとお

り、その補足語は英語の語順では目的語の位置にこなければならない。なお、(87c)に関して は、日本語の形容動詞が、英語では形容詞として表現されているため、「パスポートが」の部 分が英語においても主語として表現される。

(86) a.新しいノートが欲しい。

b.I want a new notebook.

(87) a.外国ではパスポートが必要だ。

b.We need a passport in a foreign country.

c.A passport is necessary in a foreign country.

このように、ほとんどの格助詞は複数の意味を示し、英語で表現する場合、どのような意 味役割を担うのかを考慮する必要がある。しかしながら、中学英語の検定教科書において、

「~は」や「~が」は主語を表し、「~を」や「~に」は目的語を表すなどのような画一的な 指導がなされているため、初級学習者が英語で表現しようとする日本語がどのような意味を 示しているのかをわからなくさせてしまう恐れがある。

以上より、英語・国語のどちらの検定教科書でも、主題などをはじめとした日本語の特徴 については全く扱われていない。よって、日本語の「は」については、主題標識というより も、主語をマークする助詞と見なされている。しかし、前節で述べたように、「は」がマーク する名詞句は主題であって、必ずしも主語とは限らないため、これらの検定教科書の記述は、

学習者が「主語=『は』がマークする名詞句」という誤解を与える恐れがある。13

最後に、日英語の違いが中学校・高等学校の授業などでどのように扱われているかについ て言及する。「学習指導要領」などで、日英語の違いについての気づきを促すことが強調され ているが、中学校の検定教科書において明示的に取り上げられておらず、高等学校の検定教 科書では、図 8 が示すように、日本語と英語の語順における鏡像関係について説明されてい るが、ここでも主題と主語がほぼ同一のものとして取り上げられており、主題の概念や日英 語の構造の違いなどの説明がなされていない。

彼女 は 毎日 走る

彼女は She

走る runs

毎日 every day.

S V 修飾語

花子 は ボール を けった

花子は Hanako

~をけった kicked

ボール a ball.

S V O

図8 英語と日本語の語順に関する説明(MY WAY English Communication I, p.31)

13 ここまで一貫して主張してきたように、主語・主題といった文法用語(概念)を初期の学習者 が明確に理解することは難しいことは理解できるため、「~は」が主語にあたるという説明の仕方 が全面的に悪いとは主張することはできない。ただ、本質とかけ離れた導入の内容で生じそうな 誤解を中学校2年次以降で特に修正しないことは大いに問題であると考える。

ドキュメント内 学位授与機関 同志社大学 (ページ 59-63)