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初級学習者向けの文産出指導としての意味順指導法

ドキュメント内 学位授与機関 同志社大学 (ページ 56-59)

第 3 章 初級英語学習者への文産出指導に関する先行研究

3.4 初級学習者向けの文産出指導としての意味順指導法

前節では、日本語と英語を対照させながらの学習を可能にするために、英語の基本的な語 順を身につける必要性を主張した。従来、語順の指導は、5 文型を用いた指導が代表的であ り、現行の「学習指導要領」においても、5文型に基づく文構造の指導が反映されている。た だし、大津(2012)や大岩(2019)が指摘するように、5文型自体が完全な英文のモデルとな りえていないことや主語や補語、目的語などの文法用語が学習者の理解を阻害したり、教員 の説明を難しくしたりするなど、5 文型を用いた指導にはさまざまな問題点があることにも 留意しておく必要がある。

こういった状況を踏まえて、初級英語学習者に対して、英語の語順をより理解しやすいよ うに導入するための指導法として、田地野(1995・1999・2008)・Tajino(2018)は、学習者が 意味のまとまりの順序で語句を並べるように指導する「意味順指導法」を提案した。田地野

(1995・1999・2008)・Tajino(2018)は、Pinker(1994)やHasan(1988)などを参照し、英 語の語順が「誰が(Who)」、「する・です(Does (Is))」、「誰・何(Who(m) / What (How))」、「ど こ(Where)」、「いつ(When)」という意味のまとまりで構成されていることを学習者に意識 づけさせようと試みている。意味順指導法では、(76)を図3のような枠を用いて、学習者が 正しい英文を産出できるように誘導している。11

(76) 昨日、その大きな犬が公園で私を追いかけた。

誰が する・です 誰・何 どこ いつ

(その大きな犬が) (追いかけた) (私を) (公園で) (昨日)

The big dog chased me in the park yesterday

図3 意味順指導法の例(田地野(2014)を参考に作成)

意味順指導法をとおして文産出を行う際は、まず、主語を決定し、「誰が」の枠内にその要 素をあてはめる。(76)においては、「その大きな犬」が主語になるので、「誰が」の枠内に‘The

big dog’をあてはめる。その後、「昨日」、「公園で」、「私を」、「追いかけた」を表す英語を該当

する「する・です」、「誰・何」、「場所」、「時間」の枠内にはめることで完成する。

動詞の位置にあたる「する・です」は、「です」のタイプの場合、図4のように、主語と後 続の要素がイコールの関係になることを示しており、be 動詞があてはまる(田地野 2014)。

図4では、「私」=「学生」の関係が成り立っている。

誰が する・です 誰・何 どこ いつ

(私は) (です) (学生)

I am a student

図4 動詞の位置が「です」になる場合(田地野(2014)を参考に作成)

なお、「です」の枠内にbe動詞があてはまるという仕組みは、中学英語の検定教科書のbe 動詞の説明に準拠していると思われる。田地野(2014)によると、動詞の位置が「する」のタ イプの場合、図 5 のように、主語と動詞の後ろの要素のイコールの関係は成立せず、一般動 詞やその進行形などが枠内にあてはまる。

11 田地野(1995・1999・2008)・Tajino(2018)の他にも、意味を重視した指導を行い、高い教育 効果をあげている田尻(1997)や中嶋(1999)、小松(2012)なども、意味順指導法と同様の指導 法を実践しているが、本論文では、意味順指導法の代表として、田地野(1995・1999・2008)・Tajino

(2018)を挙げている。

誰が する・です 誰・何 どこ いつ

(私は) (勉強する) (英語を) (学校で) (毎日)

I study English at school every day

図5 動詞の位置が「です」になる場合(田地野(2014)を参考に作成)

また、疑問文を作るときに用いるdoや接続詞などを主語の前に置くために、田地野(2014)

では、「誰が」の枠の前に「玉手箱」を設けている。(Tajino(2018)では、玉手箱をαと名づ けている。)(77)や(78)を英語で表現する際、図6・図7のとおりになる。(78)に関して は、2段にすることによって、複文や重文も意味順指導法のスキームの中で表現することが可 能である。本論文では、単文の表現を中心に扱うため、詳細は省くものとする。

なお、動作の手段や道具に関して、田地野(2012b)は、「どのように(して)」という枠を オプションで設けるとしているが、その配置の自由度が高いため、具体的にどこに置くにつ いての言及できないとしている。

(77) 彼女は音楽が好きですか?

玉手箱 誰が する・です 誰・何 どこ いつ

Does she like music

図6 (77)を意味順で整理した場合(田地野(2014)を参考に作成)

(78) 子どもだったとき、私は毎日野球をした。

玉手箱 誰が する・です 誰・何 どこ いつ

When I was a child

I played baseball every day

図7 (78)を意味順で整理した場合(田地野(2014)を参考に作成)

田地野(2012a)や大岩(2019)は、意味順指導法の利点として、主語や目的語、補語とい った文法用語を使わずに指導できる点を挙げており、文法用語を十分に理解できていない初 級英語学習者に対しても、特に有効な指導と主張しており、5文型を用いた指導の補助的な役 割も期待できると示唆している。

また、意味順指導法では、主語の位置を「誰が」という枠を設定しているため、日本語では 表現されないことがある動作主を学習者が補完できる可能性がある。梅原・冨永(2014)も、

動作主に注目させることで、主題卓越構造からの転移を克服できると提案し、人を動作主主 語にとる文だけ身につくまで練習する必要性を主張しているので、意味順指導法は、初級英

語学習者にとって非常に有効な指導法であると期待できる。12

次に、意味順指導法の学習効果に関して述べると、埼玉県宮代町立前原中学校の奥住桂教 諭は、意味順指導法を中学校のクラスで実践し、その結果、多くの生徒が意味の通じる英文 を産出できるようになり、また、学力試験における無解答率が大幅に減少した。この成果に より、奥住氏は英語教育の優れた研究を表彰する「第14回大野政巳英語教育賞」で最優秀賞 を受賞している。また、Jojima, Oyabu & Jinnouchi(2018)は、佐賀県の中学生のクラスに対 して、意味順指導法を実施した。ここでは、意味順指導法に関連するドリルやテーマ作文を 中心にした授業が行われた。テーマ作文においては、それぞれの生徒が最初に何も見ずに産 出した英文を、意味順、すなわち、「誰が」、「する・です」、「誰」・「何」、「どこ」、「いつ」の 順番を参照しながら自己修正するように促している。その結果、どの学年においても、語句 整序問題で構成されているプリテストに対して、同じ整序問題で構成されているポストテス トの正解が増加し、また、ポストテストでは、無回答が 0 になった。2014 年入学の生徒は、

全国テスト(NRTテスト)において、4技能すべてで平均を上回ることができた。

以上より、意味順指導法は、特に、初級英語学習者の文産出の促進や動機づけの向上を可 能にする指導法と考えられ、梅原・冨永(2014)が指摘しているように、主題卓越構造からの 転移も克服できる可能性がある。意味順というフレームワークを常に学習者に提示しておく ことで、日本語との語順の違いなどについて、実際の授業実践において、文法用語を極力使 用せずに、より明示的に指導することが可能になると期待される。本論文の第 7 章では、こ の意味順指導法を活用した日英語の違いの気づきを促すための指導法を提案し、初級英語学 習者である大学生が日本語からの転移を克服できるかどうかについて、授業実践をとおして 検証する。

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